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「ユエちゃんが目を覚まさないんだ」
オシアスを前に、ウィルフリードは疲れた顔でそう言った。
あれから三日が経っている。
血塗れだった肩にはどうしてか傷口がなかった。治療の必要はなくなったけれど目を覚まさない理由は医者にも分からず入院したまま。
医者に分からなければ魔術師に。それがこの世界の常識だ。だからウィルフリードは一番信頼できるオシアスを、ユエの病室まで連れてきていた。
「今まで魔法を使っていなかった者が突然あれだけの魔法を使ったんだ。身体に相当な負担がかかったんだろう」
「あれだけ、って」
「ウィル、お前そこにいたんだろう」
突然迸った魔力の渦。竜巻のように全てを巻き上げて消し飛ばしてしまった白銀の光。
あれは、
「聖女様の魔法だって聞いたけど」
「あれが?冗談」
あの時。オシアスは自宅で寝ていたところを飛び起きた。突然の強大な、感じたことのない魔力。そのまま家を飛び出して向かった先で見たのはぽかりとなにもなくなった空間。
「その判断をした奴はよっぽど見る目がないか……そうだな、聖女の偉業にでもしたかったか」
ああ、とウィルフリードは納得した。
聖女の神業だと言っていたのがあの三人だったから。確かにあれだけの大放出、並大抵の人物ではできないだろう。熟練の魔術師でもできるかどうか。
だから聖女がと言われ全員が納得した。
「俺はあの時現場を見た、魔力の残滓も確認した。断言する。あれはこの子の魔力だよ」
「この前言ってた、大きな魔力を眼鏡で抑えてるっていうのはそういう事?」
「そう。しかも聞いた話によるとその時家の中には本人含め三人がいたんだろう?」
頷く。ユエと、聖女、それから犯人の三人。
「術者本人は除くとしても、あとの二人は無傷だった。ああ、鞄もだっけ。家が跡形もなく、床すら残らず消し飛んだのに、だ。これがどれだけ正確なコントロールが必要か分かるか?」
少なくとも、俺には無理だ。
オシアスが言う。界隈では天才魔術師と称されるオシアスが。ならばきっと、それは本当なのだ。
ならば、そんな本当に神業とも言える所業をやってのけたユエは。
「……なぁ、ウィル。――この子、誰なんだ」
「誰、って、」
「俺言ったよな、今まで感じたとこがない魔力だって。俺はな、こう見えても色々なものに会ってその魔力を見てるんだよ。人間はもちろん、魔物も、魔獣も……精霊も見たことがある。でも、この子の魔力はそのどれにも該当しない」
「……違う世界から来たから、は?」
「この子と同じ世界から来たっていう聖女は見た。あれは俺たち人間と同じだ。少し人より魔力が多くて加護を……ああ、そうか。その加護の力に似ているんだ」
「聖女についてる加護ってつまり」
「ウィル、もう一度聞く。――――この子は、誰?」




