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2-21


 約束の十分前。中央広場に到着した。昨日買ったワンピースにカーディガン、店員さんにお勧めされたストール。

 大丈夫、店員さんが選んでくれたものだからこちらの世界の感覚でも変じゃないはず。今朝から何度も何度も確認したし。


 待ち合わせ場所の大噴水に目を向ける。まだ街に慣れていないだろうと、一番分かりやすい場所を選んでくれた。そこは待ち合わせスポットらしく、他にも人を待っているであろう人たちが結構いる。


「ユエちゃん」

「ウィルさん、こんにちは」

「こんにちは。迷わず来れた?」


 そこにはすでにウィルフリードが待っていた。

 細身のシャツとジャケット。シンプルだけれど裏地や袖口に差し色が入っている。それが上手いこと彼の柔らかな雰囲気と合わさって派手な印象はない。すっきりとして、けれど茶目っ気があって。それに加えて本人の顔のよさ。

 昨日服を買いに走って本当によかった。

 

「はい。でもお待たせしてしまってごめんなさい」

「いや、楽しみで早く来すぎちゃったんだ。待ってるのも楽しかったから大丈夫だよ」


 それに、とウィルフリードが続けた言葉。


「こういうのもデートっぽくていいね」


 顔を熱くさせるのには十分すぎて。それをどうにか誤魔化せないかと明後日の方を向く結慧は、ウィルフリードの顔も同じように赤くなっているのに気付かない。


「じゃあ行こうか。お腹空いてる?」

「はい」


 街を歩きながら、昼食を食べながら。ウィルフリードは少しずつティコの街のことを教えてくれる。

 大きな山の斜面にあるこの都市は、上からオフィス街、商店街、住宅街。横に西から一区、二区、三区、四区、五区。今二人がいる三区が真ん中、行政の中心もあって一番栄えているところ。

 ちなみに山の上半分は立ち入り禁止エリア。聖域なんだそうだ。ということは、そのすぐ下、街の頂点にある中央教会の大聖堂は遥拝所の役割もあるのだろうか。

 そんな大まかなところから、あそこのパン屋がおいしいとか、あっちのバーはぼったくりだとか。

 退屈する暇がないほど楽しい説明。自分のことを考えて話してくれているんだな、という気遣いに心が暖かくなっていく。同時に思うことがもうひとつ。


「ウィルさんは、この街が好きなんですね」

「そうだね。ずっとここで育ってきたし、役所で働こうと思ったのもこの街の役に立ちたいと思ったからなんだ」


 そうして笑うウィルフリードはキラキラして見えて、いいな、と素直に思える。


「そうなんですね。素敵なことだわ」

「君には……ごめん、突然こっちに来ちゃったんだよね。俺ばっかりこんな話しちゃって申し訳ない」

「いいえ、ウィルさんのお話は楽しいですよ」

「でもやっぱり寂しいよね、ご家族も心配してるだろうし」

「大丈夫ですよ。私は家族もいないですし」

「え、」

「あ、ここですね本屋さん」


 ウィルフリードには行きたい場所をあらかじめ聞かれていたため、大きい本屋を紹介して貰うことになっていた。希望通り、目の前にある本屋はすごく大きい。二階建てで、横幅もものすごく広い。これはわくわくしちゃうわね。


 何故か立ち止まっているウィルフリードを急かして店の中へ。ずらりと並んだ書架は背よりも高い。一面の本。


「どんな本を探してるの?」

「とりあえず宗教関係の本は何冊か欲しいな、と。あとは……旅行誌かしら。月の国の」


 さすが宗教が盛んな世界だけあって、それ系統の本は入り口近くにあった。目についたそちらに足を向ける。


「なんでまた旅行誌?」

「とにかく地理もなにも知らないので……。旅行誌なら地図も載っているし、その土地の特徴だとか名産なんかも載ってますから」

「なるほど、確かにそっちのほうが分かり易いね」


 目の前にはずらりと並んだ月信仰の本。初心者入門、みたいなのはないのかしら。生まれたときから信仰の中にいるから初心者もなにもないのか。だったら子供向けコーナーに行くべき?


「こういう本はオシアスに選んでもらったほうがいいかもね」

「うーん、そうですね……」

「今度、教えるって約束でしょ?その時に本も見繕って貰おうか」


 たくさんありすぎて選ぶことができなかった本は専門家に頼むことになった。オシアスは魔術師だけれど月信仰にも篤いらしい。

 旅行誌はウィルフリードが選んでくれたし、あとで解説もしてくれるらしい。楽しみ。

 あとは、


「魔道書を……」


 魔法のない世界から来たから、やっぱり魔法って気になるじゃない。憧れね。

 それを説明すれば、ウィルフリードは笑って初心者用の魔道書を選んでくれた。昔からあるベストセラー。十代前半の子が読むような本で、分かりやすいけれど理論なども詳しく載っている。聞けばウィルフリードもこれで魔法を学んだらしい。


 数冊の本を抱えてレジへ。財布を出そうとしてくれたウィルフリードに流石に断りを入れてきちんと自分で支払う。帰って読むのが今から楽しみだ。




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