2-14
さて、翌日。
業務開始と同時に入れられた緊急ミーティング。参加者は部署の全メンバーと宰相ラルド。全員が揃った事を確認して、ウィルフリードは会議室のドアに鍵をかけた。
「皆忙しいのにごめんね。共有があります」
話し始めた彼の手元に置かれた、湯気の立ち上るカップ。参加者たちは皆首をかしげる。
一体なにごと?
「太陽の聖女様が禁術である”魅了”を使用している事が発覚しました」
ざわり、ウィルフリードの言葉に揺れる室内。けれど彼はそれを無視して言葉を続ける。
「魅了にかかると、彼女の事が好きになる。願いは全て叶えたいし、全ての事を許してしまう。言動を疑うことなどありえない。……心当たりあるよね?」
「そういえば……」
「これまでと今日とで聖女様の事をどう思うのか。気持ちに大きな差があると思うんだ」
動揺は止まることなく広がって、ぶわりと大きく膨らんでいく。皆一昨日までの行動を思い起こしては、確かに、と口にする。
ただ一人を除いて。
「馬鹿馬鹿しい。なんの根拠があって彼女を疑うんだ」
「ね、こんな感じで」
宰相ラルド。まだ魅了にかかっていることは、結慧がしっかり確認済み。だからウィルフリードは彼の言葉に耳を貸すことはない。見本として引き合いには出すけど。
「ユエちゃんが俺たちにかかった魅了を偶然だけど解いてくれたんだよ。ところで、彼女についても気持ちの変化があるはずだ。皆、一昨日までは彼女のことを理由もなく嫌っていたんじゃないかな」
「言われてみれば……」
「俺結構酷い事言ったよな!?ごめん!!」
全員に一斉に振り向かれ、結慧は椅子ごと少し後ろにひいた。口々に謝られては「いえ、気にしてませんので……」を繰り返す。みんな素直でびっくりする。
「聖女よりもこの女の方を信用するというのか」
「ほら、俺たちもこんな風だったんだよ……。そしてこれも感情操作だから、禁術に禁術を重ねている状態。ちなみに全部俺の知り合いの魔術師に確認済です」
ラルドの態度がどんどん信憑性を高めているようだ。普段はそんな人じゃないんだろうな、と皆の反応を見て思う。ラルドが信用されているから、ウィルフリードの言葉も疑われることがない。
「聖女様が振る舞ってくれたお茶あったでしょう?あれ、実はユエちゃんが淹れてくれたものだったんだ。それを飲んだから魅了が解けたんだって。……さて、ここにユエちゃんがさっき淹れてくれたお茶が一杯あります」
あとは、分かるね?
にっこりと笑ったウィルフリードに、部署の皆が立ち上がる。ガタリと音を立てた椅子。
ここの部署の人たち、こんなにノリが良かったのね。
「おい何を、」
「別にお茶を飲んでもらうだけですよ?」
「あの女が淹れたものなど飲めるか!」
「うわー!ラルド様、感じ悪いっスね!」
「僕たちもこうだったのかい?最低じゃないか」
じりじりと狭まる包囲網。追い詰められた獲物。仮にもこの国の宰相。そんな人物にこんな事して大丈夫なのかしら?
「それを飲まされたというお前たちの方があの女に操られているに決まっている!」
「そんな事言っちゃってマァ」
「見てらんねぇな、さっさとやろうぜ」
後ろから羽交い締めにされ、押さえつけられ。
こんなことをしても崩れることのない信頼関係があるからできるんだろう。
たぶん、きっと。そうなのよね?
「やめろ!お前たちただでは済まさんぞ!」
「はい、いいですよ。この結果次第でご自由に。さあ、ぐいっといきましょう!」
やたらいい笑顔のウィルフリードがカップをラルドへと近づけて……
(もう少し冷ましておけばよかったわ……)
まさかこんな展開になるとは。
結慧は心のなかでそっとラルドに手を合わせるのだった。




