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「結慧さんおはよぉ」
「おはよう陽菜ちゃん」
翌朝。結慧と陽菜はオフィス街の入り口で待ち合わせて一緒に役所へ向かった。
役所は街の頂上である聖堂から坂をおりてすぐのところにある。オフィス街の入り口から、ゆるい坂道をのぼっていく。
「どんなお仕事するんだろぉ、ドキドキ~」
「陽菜ちゃんは大学生でしょう?バイトはしてなかったの?」
「バイトは雑貨屋とかカフェとかぁ……いくつかやったことあるけどあんまり続かなくってぇ」
「そうなの」
そんな他愛もない会話をしていれば、役所はすぐだ。時計を確認する。約束の五分前。よし。
正面口で待っているようにといわれていたが、ラルドはまだ来ていないようだ。
出社する役人たちの邪魔にならないように隅によける。皆がチラチラとこちらを向いては中に入っていく。今日の陽菜は旅の途中で買ったのだろう、豪華なドレスワンピース。どう見ても仕事する服装ではない。対する結慧はこれも旅の途中で買った服。とてもシンプルで、どこにでもあるカットソーとスカート。どんな組み合わせなのかと二人を見て行く人が殆どだ。
目立っているのは理解しているが極力気にしないようにして流れる人を観察する。足早に入っていく人、背を丸めてため息をつきながら歩く人、同僚と話ながら行く人、難しい顔、楽しそうな顔、のんびり、せかせか……
会社員はどの世界も変わらないのね。
そんな中、人の流れに逆らってこちらへ歩いてくる男性がひとり。
年は三十歳くらいだろうか、明るめのふわふわした茶髪。清潔感のあるシャツは第一ボタンが外されているけれど、それが親しみやすさを生んでいるように見える。優しげな瞳がふわりと細められた。
「おはようございます。あなたが太陽の聖女様ですか?」
「はぁい、おはよぉございます!聖女の陽菜だよ」
「俺はウィルフリード・エンデです。ラルド様が多忙で来られないので代理に」
「ウィル…リ……ごめんなさぁい長い名前わかんなぁい」
「あはは、ウィルでいいですよ聖女様。そちらは?」
「ユエ・ソウマと申します。よろしくお願いいたします」
結慧は頭を下げながらも、とても驚いていた。
上目で見たかぎり、この人にも陽菜の触手が巻き付いている。だというのに、結慧の存在を無視せず名前を聞いてきた。今までは、とても敵意のこもった視線を向けられるか、無視されるかのどちらかだったから。
ということは、きっとこの人もラルド同様、陽菜への好意よりも職務を優先しているような人だろう。
(すごいわ)
仕事に真面目に取り組める人は素敵だと思う。そして、そんな風に全力で取り組める仕事に出会えたということにもいいな、と思う。
そんな人たちが、ここにはたくさんいるのだろうか。
「ラルド様から仕事内容についての説明はありましたか?」
「ううん、な~んにも」
「そっか。じゃあ説明……というほどでもないんだけど、うちの部署が人手不足すぎて。他国の聖女様にお願いするのもおかしな話なんだけどちょっとお手伝いをして頂きたいんです」
書類整理から役所内の諸業務、取り次ぎやスケジュール管理、人員整備、街の整備、祭りやイベントの計画や実行……
それはひとつの部署でやることなんだろうか。無理じゃない?それとも、各部署のとりまとめをしているということか。
ここだよ、といわれて入った部屋は。
うず高く積まれた書類に、本が飛び出した資料棚。転がった鉛筆、くしゃくしゃに丸められた紙屑。
(ああ、まわってないのね……)
室内の全員が忙しなく動きまわる、予想以上に激務の現場だった。




