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 口を開いたのはリュカだった。そういえば彼は魔獣との戦いのあとから一言も口をきいていない気がする。

 ぼそりと呟いた、けれどその声は不思議と結慧たちのもとへまっすぐに届いた。

 

「この国は月神信仰なのでしょう?だったら配慮はすべきだわ」

 

 別の神を信仰していたとしても、その教えや、神同士が敵対していたとしても。人間の持つ信仰心は同じもの。自分の信じる神様が悪く言われていれば悲しいし怒りだって沸くだろう。きっとそれはどこの宗教でも同じこと。そして、宗教でなくても。

 

「でもあんたは最初からそうだった。太陽のことも、まるで月神はやってないみたいな言い方してた」

「そういえば貴女は太陽神様のお言葉を疑うような言葉ばかり言いますね」

「……誤解をしているようだから訂正するけれど」

 

 ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「私は、月神の味方をしたことは一度もないわ」

「でも、」

「太陽神の味方であったことも一度もない」

 

 どちらでもない。だって、判断がつかないから。

 

「今この世界で起こっていることは理解したわ。そしてそれをやったのが月神だと≪太陽神が言った≫という事も」

「だったら」

「月神がやったという証拠はどこにもないのよ」

「太陽が昇らなくなり、世界はずっと夜のまま。月神の力が強くなるばかりで、このままでは太陽神様のお力が弱まってしまう。これが月神以外の仕業にみえるのですか?」

「そうね。一方的に力をつけるのは月神でしょうね」

「そして、貴女は太陽神様のお言葉を疑っているようですが。太陽神様が嘘を言うその理由はなんです?」

「さあ?それは分からないわ」

「話にならない。貴女は、」

「けれど、人の心は確実に月神から遠ざかってしまうでしょう?」

「それは......」

 

 聖職者であるルイには分かるはず。人々の心が神から離れてしまうその危険性が。神の力というのは己の力のみあればいいというものではない。人の信心、畏敬の念、そういうものがあってこその神なのだから。

 

 だからこそ、この状況はおかしい。人々から太陽を奪い、魔獣を放ち。それをしたのが月神だというのならば、なぜもっと上手くやらないのか。これでは、月神は人々に恨まれ信仰を減らす一方になってしまうではないか。

 

「そんなもん、月神がバカだからに決まってるだろ」

 

 クラウドがばさりと切って捨てる。

 それを思考の放棄と言うのよ。

 

「でも。あんたが太陽神様の言葉を信じてないことは確かだ......あんた、本当は月神の手下なんじゃないの」

「は?」

 

 思わず間の抜けた声が喉から滑り落ちた。

 月神の?手下?

 

「その髪と目の色。そんな色、月神の関係者でしかないだろ」

 

 髪と目の色。この黒髪黒目が。月神の関係者?

 

「言われてみればそうだな。どうして今まで気づかなかったんだ」

 

 クラウドが大剣にカチャリと手を添える。それを冷めた瞳でチラリと見やる。怒りも呆れも通り越して、もはや馬鹿らしいとしか思えない。

 

「私は、太陽教会が召喚した聖女に巻き込まれて、彼女と同じ世界から来たのだけれど」

 

 それは貴方が一番よく知っているはずでは?とルイを見つめながらゆっくりと話す。馬鹿でも分かるように。

 

「ええ、...しかし、そうと見せかけて乱入してきたとすれば……けれど、」

 

 無理があると分かっているのだろうか、ルイが目をそらしながら呟く。いや、自分の召喚が失敗したと認めるのが嫌なだけかしら。

 そもそも、関係のない人間を巻き込んだ時点でそれは失敗というのに。

 

「陽菜ちゃん」

「はぁい」

 

 今まで会話に入ってこなかった…意味が分からず入ってこれなかったのかもしれないけれど。口を開かなかった陽菜に聞いてみる。

 

「私の髪と目の色、珍しいと思う?」

「ううん、普通かなぁ」

「私もそう思うわ」

 

 陽菜は素直で、正直だ。誰に対しても。

 

「私たちのいた世界の、特に私たちの国では。この髪と目の色が普通なのよ」

「、そんな......」

「国民の九割が多少の差違はあれこういう色合いよ」

「九割、とは......さすがに嘘では」

「染めてる人もいっぱいいるけどぉ、元々はだいたい黒髪だよねぇ」

 

 カラフルな髪色が普通のこの世界では、異常なことかもしれないけれど。向こうの世界はそもそも赤だの緑だのの髪色など存在しない。

 結慧も「髪も目も、ここまで真っ黒なのは珍しい」といわれるほどの黒ではあるが……差違の範囲内だし、言わなくてもいいだろう。珍しいだけで、まったくいないわけではないのだから。

 

「お分かりいただけたかしら?」




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