第二章 〜再会〜
猫と私のやりとりがうまく表現できますよーに!
たとえ1mmたりともこたつから出ないようにしつつ障子に手を伸ばす、という横着をしているせいで、ギリギリ障子にかかった手指に大した力が入らない。要領の悪いままになんとか5〜6cmほどの隙間ができるくらい障子を動かすことに成功した。
そのまま自分の腕を顎の下に置いて庭を眺めることにする。
しとしとと飽きもせず降り続ける雨は常緑樹の葉を強かに打ちつけ、景石の色を変え、飛石の天端に水たまりを作っていく。少しも手を抜かないその様は、その音だけを聞いていた時の私の予想を完全に反した。雨というのは、音だけを聞いていると暗く、閉じ込められてしまうような存在だというのに、こうやって目で見てみると1つとして同じところに打ちつけるものがなく、変化と革新に満ちているのだ。
思えば、こんなにじっくりと雨を眺めたことがあっただろうか。今日はものすごい発見をした日なのかもしれない。憂鬱に感じていた雨の日が、突然、静かな期待に満ちた日に転じたのだから。そう思い始めると、なんだかワクワクしてきた。
そのまま雨が降ってくる空を見上げた時だった。視界の端になにかの気配がしたように思えた。そっと視線を移動させると、あの日のあの猫だった。今日は障子の隙間が狭いせいか、どうやら私の存在には気づいていないようだ。
猫はすました顔で周りを警戒するでもなく、まるで雨など降っていないかのようにするりと足を伸ばして歩いてくる。
このまま今回は私に気づかず通り過ぎるのかな、と思い、微動だにせず見つめていた。
少しでも動いたら、私がこっそり見ていることがバレるような気がしたからだ。順調に気づかれないままでいたのだが、さすがの動物の勘とでもいうのだろうか。障子の隙間の前に差し掛かった瞬間、彼女がハッとした様子でこちらを向いた。
ピタッと合わさる目と目。僅かだけれど、ピリッとした緊張感が電流のように走る。後で気づいたが、この時の私には雨の音も聞こえていなかったし、なんなら息をするのも止めていたかもしれない。とにかく永遠に思える一瞬というのを生まれて初めて体験した瞬間だった。
そうしてお互い何ともいえない状態で止まっていたのだが、今回も先に動いたのは彼女の方だった。彼女は前回同様、何事もなかったかのように再び歩き始めようとした。ただ、今回は私も負けじと動いた。体をガバッと起こして、目の前の障子を両手で勢いよく開け放ったのだ。
スパン!と小気味良い音がして、障子が全開になる。
猫は初めてビクッと体を大きくこわばらせながら、体勢を地面すれすれまで低くして、こちらの様子を伺ってきた。
なんとも言えない奇妙な光景だっただろう。
膝立ちで両腕を目一杯広げ、障子を開け放った状態で静止している私と、それを警戒心いっぱいの体勢で見つめている猫。
両者の間をガラスのサッシが隔ている。
再び訪れたどちらも動かない状態。しかし、今度こそ、先に動いたのは私だった。足を片方、膝立ちから動かした。しっかりと足の裏を縁側につけ、片膝立ちになったのだ。
猫はそれを攻撃の合図とでも思ったのだろうか。目にも止まらぬ速さで動いて残りの庭を横切ったかと思うと、サッと生垣の下をくぐって姿を消したのだった。
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