第二章
第2ラウンドスタートです
ここ数日、外は冷たい雨が降っている。
しとしと、と。
決して強くはないが、しっかりとした雨脚が、頼みもしないのに雨音となって毎日律儀に報告を続けてくる。庭を遮るガラスサッシはもちろん、障子もピッタリ閉めて、テレビから流れてくる芸能ニュースを興味もないのに、睨みつけるように見続ける私の姿は、例えば職場の同僚にはどんなふうに映るのだろうか。
「意外とミーハーですね」
なんて言いそうな後輩の女性の顔を思い浮かべるところまで想像し終わると、ほんの少しだけ体調不良を理由に仕事を休み続けている立場に不安がよぎる。突然、芸能ニュースを見ていることが虚しくなり、テレビから聞こえてくる芸能人のコメントが空々しく思えて、リモコンの電源ボタンを押した。
途端に静かになる部屋。
それなのに、不思議と外から聞こえる雨の音は先ほどと変わらぬ音量に思えた。雨音は変わらないのに、テレビの音だけがなくなってしまった部屋は、なんともいえない静音で満たされている。
こたつに前のめりに寄りかけていた体を後ろに倒し、そのままゴロリと床に転がす。畳の上に敷かれたキルト地のカーペットは、硬すぎず柔らかくもなく、所在ない私の体を淡々と受け止めてくれた。
小さな頃から見慣れている部屋の天井を見つめていると、浮かんでくるのはあの猫のことだった。
あの三毛猫の柔らかい毛並みや私を見つめる猫特有の黄色みがかった瞳、歩く途中を切り取ったような静止した姿と再び歩き出した姿までもがまざまざと脳裏に浮かぶ。しばらく静けさと雨の音に包まれたままぼんやりとしていた。
外は雨。
「家に閉じこもっているお前には、この音がどういうものに聞こえているというのだ」
今の私にとって、外から聞こえてくる雨の音というのは、そのように言われているのと同義に思えてならない。
篭りっきりの私ができることといえばテレビを見るともなしに見ているか、こうやってゴロゴロと寝転がっていることぐらいだし・・・。
そんな自問自答が延々とループするのを断ち切りたくて、仰向けていた体をゴロリと反転させて障子に手を伸ばした。あえて雨の降りしきる庭を眺めることで、雨音の無言のプレッシャーを断ち切りたかったのかもしれない。
実はこの小説は私の友人を思いながら書いています。その友人が第一章を書き終えたところで「続くといいな」と言ってくれました。元々続きは考えていましたが、友人が望まなければ書かずに終わるつもりでした。私の楽しみが、彼女の楽しみの一つになっているのであれば、こんなに嬉しくありがたいことはありません。