剣の塔.2 かわい子ちゃんには旅をさせろ(サソリ付き)
アイスクリームよりアイスキャンディのほうが好きです。
酒場を出て十数分、俺は剣の塔の中にいた。
「火の精霊“キャトン”に命ずる、我に宿る魔法の力を体現させろ!火球!」
俺は目の前に現れた蜘蛛型のモンスター“ブルースパイダー”を燃やし、ドロップした宝箱を拾うと2階に続く階段を少し早足で駆け上がる。
振り向くとさっきまで襲ってきたブルースパイダーの群れは、階段の前から消えていたので俺は駆け足のペースを緩めた。
これもダンジョンの特徴だが、どうやらモンスターは階段を登ることが出来ないらしく、前に潜った布の迷宮でも躓いて階段に触れたホワイトゴブリンがドロップもせず消滅したのを目撃した。
「それにしても1階の武器は流石にショボいな剣ってあるけどこれもうナイフだろ」
俺は手元の【 初心の剣(粗悪品) 】にため息を付きながら巾着に収納した。
正直期待はしていなかったが、1階のドロップ品が街でも格安で売られている剣だったのには驚きを隠せなかった。確かにここのモンスターだけならまあまあ良い武器揃えれば簡単に倒せるから、加治屋に頼む必要も無い。
まさに加治屋泣かせのダンジョンだ。
そうこう考えていると2階の入り口に到着した。
「階段的に多分6階程度…、一桁ダンジョンか」
ダンジョンにはある程度強さの指数が存在し、1~5階はそこまで差が無く、コツさえ掴めば一気に攻略できるレベルだ。
しかし調子に乗って9階を終えて何の準備もせず10階に上がり命を落とした冒険者も少なからずいる。
「んー、ここもサクッと済ませて4階まで一気にいくか」
ここのモンスターのレベルを見ても3階までに強モンスターが出る可能性が少ない。
そう思った俺はモンスターに目もくれず次の階段を探し始めた。
「えーと、階段階段っと…ん?」
曲がり角から金属同士がぶつかる音が聞こえた。
これはと思い覗いてみると姉妹とおぼしき青髪の女性2人がブラウンスコーピオンと戦っていた。
どうやら先ほどの金属音は、姉と思われる女性の剣とブラウンスコーピオンの尻尾がぶつかった音らしく、ブラウンスコーピオンは女性が剣を振るうのを見切って、尻尾を盾の様に使い攻撃を防いでいた。
「ルー、初級回復はあと何回使そう?」
「多分だけど後4回、十分戦えるよリリアお姉ちゃん」
お、姉妹関係当たってた。そう思っているとリリアのほうがルーに対して震えた声で言う。
「そう…でもごめんね、どうやら先に剣がダメになったみたい」
剣を見ると所々ヒビが入り、後数回振ったら折れてしまいそうだった。
「ルー、あなただけでもここから出なさい、あなただけなら初級回復を使いながら進めば出口まで走って行けるでしょう」
「でもそれだとリリアお姉ちゃんが!」
「私のことは大丈、しまっ!」
彼女達の会話を無視してブラウンスコーピオンは尻尾の毒針を突き立てる。咄嗟に剣で弾くが、その拍子に剣が折れてしまう。ブラウンスコーピオンは、それを見逃さずに尻尾をリリアに向けて突き刺す!
が、しかし
「流石に、モンスターはかわい子ちゃんの会話も無視するかい」
俺は先程手に入れた初心の剣で尻尾を弾き、姉の方を抱えて妹の近くに寄せた。
「ルーちゃんだっけ?お姉さんに初級回復かけてあげてね」
「あ、あのお兄さんは?」
「ん?サクッと倒してくるよ」
ブラウンスコーピオンは先程の攻撃に腹を立てたのか大声を上げて威嚇してきた。
「うるせーなぁ、…あのなサソリくん、いくら強そうにしてても君2階モンスターだよね?」
言い終わると同時に俺は右の手のひらに魔力を込めた。
「見せてやるよ3桁越えの冒険者の魔法を」
ブラウンスコーピオンは怯みだしたかと思えば、逃げ出した。がもう遅い。
「火の神“リザリア”よ、我が魔力に共鳴し真紅の炎を体現せよ、燃え盛れ業火球!」
手から放たれた巨大な炎はブラウンスコーピオンを覆うと一気に爆発した。
当然そこにはブラウンスコーピオンは居らず、宝箱だけが残っていた。
「あなた一体?」
「リリアお姉ちゃん、私聞いたことがあります、金の長髪に闇より暗き漆黒のマント、そしてあの赤い右腕のガントレット、間違いないよもしかしてあの人って…」
「ふ、まあ気づくよな、そう俺こそあの名高いー
「「レッドスレイヤー(さん)!!」」
…ですよねー。
ルー「そう言えばお兄さんってお名前は?」
リリア「そう言えば聞いてなかったわ、教えて教えて!」
レッドスレイヤー「絶対ここではない!」