Memory 神出鬼没の精霊姫
『エルー、見て見てユーリがいるよー』
どこかの街のベンチに座ってご飯を食べてたら、見知った顔が歩いてるのを火精霊が教えてくれた。
「あ、ほんとだユーリだ。久しぶりー」
「うん……? おう。久しぶり、エル」
あれ、わざわざ声かけたのに反応が薄いなぁ。っていうかなんか疲れた顔してる?
ユーリはそのままフラフラと歩いてきて、私の隣に腰を下ろした。久しぶりだからかみんな止まり木みたいにして休みだしちゃった。これが見えないのは残念かもね。
「どうかした?」
「ああ、すまん。予想外の再会で戸惑った」
予想外? うーん、そうかな。
示し合わせたわけでもないからそうなのかな。予想してたわけでもないのもそのとおりだし。
「なんとなくだけど、それだけじゃない気がするなぁ」
「鋭いなエル」
「でしょ? 何があったの?」
「ダンジョンスタンピードとか」
ダンジョンスタンピード。それはまた変なものに巻き込まれたね。
たしか、ダンジョン内の魔力が急激に高まったときに起きやすいんだっけ。人ががいっぱい死ぬとか。
「でもそんな話聞かなかったけど?」
「外までは溢れなかったからな。進化魔法使いっていうんだっけ。その子がサクッと片付けちまった」
へー。すごいねその子。
規模にもよるけど、一つのダンジョンの魔物を一気に殲滅するくらいの力が要るって言ってたと思う。
ユーリって割と自己評価が低いところがあるから、「力の差を見せつけられた」ってやつじゃないよね、たぶん。もっと頑張ろうって奮起する方だろうし。
「その子と喧嘩でもした?」
「いや。巣立ったというか依存関係を解消したというかなんというか」
よくわかんないなぁ。ともかく、行く道が別れたってことかな。
巣立ったなら喜ばしいことだけど、つまり、
「寂しいんだね」
「まあ、な。今生の別れとまでは行かないだろうが、しばらくは旅の共連れだったわけだし」
そっか。私は火精霊も水精霊も風精霊も土精霊もそばにいてくれるけど、ユーリは基本的に一人なんだ。
「しかしほんとに、エルとは変なところで別れて変なところで会うな」
「んー、そういう巡り合わせなのかな」
「巡り合わせね。神様とか精霊様の“お導き”みたいなのってあるのか?」
ユーリはどこかおかしそうに笑う。自嘲っぽいのは精神状態のせいかな。
「どうなんだろ。私はそういうの感じたことないし、みんなから教えてもらったことはないかなぁ」
『やったことないよー……』
『ありませんわね……』
『エルの行くところのほうが面白そうだし……』
『我らは寄り添う者に従うものであるしな……』
みんなの言うとおり、「どこ行こうか?」みたいな話はしたりするけど、基本的に主導権をとってもらうこともないし、お互いに命令じみたものもない。そう考えると精霊たちとの付き合いも不思議なものかも。
それにしても、みんな寝ちゃいそうにしてるなぁ。ユーリのそばってみんなにとってもそんなに居心地いいのかな?
「そっか。神様がいるのかすらわかんないしな。まあ、そんなのがあるならレヴとも楽に会えるよな」
「レヴかー。結局ユーリに引き合わせてもらった時だけだなぁ。あれから会えてない」
悠久の時を生きる女皇龍。まさか人の姿になってユーリの友達になってるなんてね。私も友達になれるとか。何があるかわかんないよ。
まあ、レヴはユーリのことをまだ友達じゃないって言ってたけど。でもそれってさ……まあいいか。
「いや。レヴに会えないって、ネレの家に行けば会えるだろ。もちろんいつでもいるわけじゃないだろうけど」
「あはは。それが難しいのはユーリが一番よく知ってるじゃない」
二〇〇年以上生きてきて、思ったところに行けたことなんてない。それだけ世界が広いってことなのか、ユーリが言ってた“方向音痴”ってやつなのか。意外な嬉しいこともたくさんあったから悪いことじゃないと思ってるし。
「まあ、ありがとな。ちょっと楽になったよ」
「いえいえ。年上のお姉さんに任せなさい」
「ははは。エルお姉さんって呼ぼうかこれから」
「うーん、そこはエルでいいや」
『なかよしー』
『いいことですわー』
『うんうんー』
『善哉善哉』
みんな笑ってる。やっぱりこうじゃないとね。
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ユーリが“遭難体質”って名付けた私のこの放浪の理由は、この時から十三年後に判明することになるわけだけど。これまで困ってなかったからこれからも困ることはないなんて考えてたんだよね。
ユーリが“転生”っていうのを考え始めて、実行しちゃうまでは。その場ではみんな納得してたけど、きっとどこかでやめてほしかったと思ってたと思う。
でも、この時になんとなく思ったのを覚えてる。私は会わなくちゃいけない時にユーリに会えるんじゃないかなって。
それが“お導き”ってやつなのかはわからないけどね。




