Memory 未知の剣
直剣。細剣。片刃剣。短剣。
槍。斧。槌。鉈。鎌。包丁。
ついでに、鍋もですか。
色々作ってきました。思索と試作はもちろん、手慰みも含めてです。
単純に鉄だけでなく、合金や魔物素材から何からいろいろ試したりもしました。成功あればもちろん失敗もあり。以前よりずっと充実した鍛冶の日々で、ユーリさんに使ってもらいたいと思う剣も何本も造り上げてきました。
でも、なんとなくですけどユーリさんは納得していない気がするんですよね。私だってもっともっと上へと思い続けているのは確かですけど。それに。
「ユーリさん、私の作った剣になにか不満があるのでは?」
「え? 不満? 全然無いけど?」
「嘘ですね」
最近なんとなくですが、お父さんが持っていたという資質が私にも芽生えてきたような気がします。
使い手に合わせた剣を見極める力。その剣が使い手に合っているかどうか。
その理由もわからないではないような気もしますけど、と、これはともかくとして。
どうしても、ユーリさんの動きが剣にあっていない気がするのです。
「不満というか、使ってみたいものはあるな」
「ほら、やっぱりあるじゃないですか」
それは不満とは言わないだろ、と言いながらユーリさんは困った顔で頭を掻きました。
別に、そこで躊躇うことはないと思うんですけど。そんな感情と、隠しきれない期待が視線に乗っていたと思います。ユーリさんは、どこか観念したように口を開きました。
「刀。日本刀」
「カタナ? ニホントウ?」
このときは当然、聞いたことも無かったです。
しばらく後にユーリさんが自分の出自を明かした時、やっと全部の不思議だったことが繋がったわけですが。
「そのニホントウって、どんな剣なんですか?」
「剣じゃなくて刀な。単純に説明すると、湾曲した片刃の細剣かな。それで斬と突に対応するっていう」
「カタナ……細身で打ち込むと折れませんか?」
「斬り合いもやってたみたいだし大丈夫、のはず」
なんだか不安な言い方ですね。少なくとも、使ったことは無いということでしょうか。
「積層鍛造の話をした時に刃文の話をしただろ。アレも本来は刀の腹に出る紋様の話なんだよ。波みたいなのが出るんだ」
「ハモン……聞きましたねそう言えば」
ぼんやりとイメージは浮かんできます。と言っても、現状では曲がってしまった細剣といった感じですが。
「あー、説明するより描いたほうが早いか。上手くいくかはわからんけど」
ユーリさんは紙とペンを持ってきて、頭を抱えながらそこに細長い棒のようなものを二本描いていきます。
たしかに、さっき言っていたような湾曲した片刃の細剣。けれど、剣ではないことを確かに感じさせるような。
ユーリさんはブツブツ何事かを言っていますがよくわかりません。ハク、サス、ナカゴ、ツバ、ツカ、サヤ。固有名詞ですかね?
完成図は、刀と鞘。それともう一枚、分解図や断面図を描いているようですがあまり手の進みは良くありません。
「……やっぱり流し見の知識じゃ駄目だな。命がけで剣を振るようなことになると知ってたらってのも変な仮定だけど」
「いえ、形状だけならこれでも。強度が出せるかはやってみないと分かりませんね。それにしても、不思議な形状ですね刀って」
「まあ、基本形がこれで装飾や長さも様々あったみたいだけどな。それこそ短剣サイズから、俺の身長と同じようなサイズのもあるらしいし。刃の向きが逆になってるやつとか、先だけ両刃になってるやつとかもあったんだったような」
「へぇ」
刀。ニホントウ。トウショウ。ああ、ユーリさんの国の武器なわけですね。
だったら、作るしかないでしょう。
「任せてください。必ず打ち上げてみせます」
「いや別にそんな気合を入れなくてもいいんだけどさ……」
「燃えてきました」
「お、おう」
ここから、私の長い長い鍛冶師兼刀匠としての道が始まったのでした。
たまに挫けそうにもなりましたけど、この時を後悔したことは一度もありません。身も蓋もなく結論を言ってしまえば、成功しましたからね。




