Connect 平穏は気まぐれに身を隠す
セラが消えた。
レアとそんな話をしたのは、一日顔を見なかった日の翌日だった。
「部屋にもいないみたいなんです。一応、探知もかけたんですけど」
「あの時の意趣返し……のわけはないよな」
魔質進化のためにレアの誘拐を偽装した時。たしか、「デートでもしてるかと思ってたのに」って言われたっけ。
念の為、こっちでも探知をかけてみる。今なら王都をカバーするくらいの範囲は余裕で探れるが、さらに集中してもセラの魔力は見つけられない。学院外の隠蔽の気配は、位置的にフレイアとアカネちゃんだろうな。
王都の外にいるとなると厄介だ。魔力探知は足跡の追跡まではできない。探知範囲外に出てしまえば、居場所を探るのはほぼ運頼みになる。
外に出たなら記録もあるかもしれないが、パーティーメンバーだからと言って開示してもらえるかもわからないし。
「何かに巻き込まれたんでしょうか……」
「だとしても、セラがただで済ますとは思えないな」
たとえ拉致されたとしても、縛られたりする前に爆発の一個でも起こすだろう。それに、大人しく捕まっていてやるとも思えない。
突発的に何か頼まれたならオレ達にも話すだろうというのはこの状況だと希望的観測に過ぎない、なんて思いたくはないな。さすがに。
なら、自分の意志で出ていったのか。オレ達に話せない事情や理由で。
「家のことで手が回ったっていうのが最有力か。スタンピードの事もあるし、ギルドでの一件もあったからな」
「だと思います。セラから聞いてない事情なんて、それくらいしかないですから」
ここで更にツケが回ってくるのか。
それにしても、セラの家の事情はそんなに重いものなのか? だとしたらそれを暴くことになりかねないわけだが……いいのだろうか?
「じゃ、ないな」
助けは求められていない。
それがどうしたって言うんだ。本気で「来るな」って言われたら帰ればいいだけだな。それが本心かどうかくらい見定められなくて、仲間だとは言えない。
「セラの身元。一人、心当たりがいるにはいる。ダメ元で聞いてくる」
というか、心当たりのあるであろう人が、だが。
本当に、物事はよく出来ている。よく出来すぎているくらいだ。怖いくらいに。
「あ、それって」
レアも思い当たったようだな。
最近、セラが何者かについて口にした人がいる。
エルブレイズ殿下だ。
/
フレイアからリーデライト殿下へ。
リーデライト殿下からエルブレイズ殿下へ。
伝言のように連続して話を通してもらった。
人脈の大切さを再認識させられるな。面識があるとは言え、直接は無理だろうから。さらに、わざわざ時間を割いてくれることに対して何も返せる気がしない。
通されたのは、エルブレイズ殿下の執務室だった。王宮内ということで部屋自体に華美さはあるが、身の回りがさほど飾られていないのが印象的だ。
執務机の向こうで、エルブレイズ殿下は感心したような笑顔を浮かべていた。
「聞いたぞユリフィアス。学院を出ていくらしいな」
「はい。リーデライト殿下には申し訳ない事をしていると思います」
回りくどいことをやっている時間は惜しいが、礼儀は払わないとな。こちらが無理を押してお願いしている立場ではあるのだから。さすがに、この内心でまともに出来ている自信はないが。
「……なるほど。何か切羽詰まってるらしいな。なら、前言った手合わせの確約だけしてもらおうか」
「それはいずれ必ず」
「忘れるなよ? 証人もいるからな?」
「……うーん、忘れたことにした方がいいかもしれませんねえ」
悪手を打ったつもりはないが、リーデライト殿下から見ると変な提案を受け入れたように見えたのか。同席したフレイアも苦笑いを浮かべている。
手合わせくらいなら何が減るでもないけどな。勝ち方や負け方は考えないといけないから何度もは勘弁してもらいたいが。
「リードの目が怖いな。本題に入るか」
「気を使わせてしまって申し訳ありません」
あるいはこんな礼すら省けと言われかねないが、やはりそこは道理は通しておかないと。
「エルブレイズ殿下。ギルドでの試験の際にセラ……セラディア・アルセエットに見覚えがあると仰っていましたよね」
「ん? ああ、言ったなそんなこと。セラディアが否定したから気のせいだったんじゃないか?」
殿下は一瞬とぼけた顔をして、
「なんて言うわけ無いだろ。思い出したさ、ちゃんと」
ニヤリと笑った。やっぱり心当たりがあったのか。
ただ、オレの疑問に答えてくれたのはエルブレイズ殿下ではなかった。
「セラディアと言えば、シュベルトクラフトの第二皇女が同じ名前でしたね。彼女と何か関係があるんでしょうか?」




