Offstage おいかけてくるもの
ここ数日、超気まずい。発端を作ったのはユーリ君だとしても、そのユーリ君は一つも悪くないんだけど。
ていうか、悪いのは私だよねー。あとちょっとだけレア。距離を作ってるのは私たちだし。レアが何抱えてるのかはまだわかんないけど、そこはユーリ君がこう無理矢理気味にでもさ。レアならそれで大丈夫でしょ。
で、私の方はと言うとそれじゃあちょっと無理だね。水精霊の祝福のお姉様方にすら口が滑りかけもしなかったし、どうやっても私の覚悟がいる。
ユーリ君が拷問まで上手かったら別だけど。って、冗談じゃなくほんとに上手そうでやだなぁ。
と、能天気が過ぎた。それだけ学院での生活が楽しかったっていうのはある。心配されたように元の生活が悲惨だったわけじゃないけど。
それにしても色々あったよね。レアとユーリ君と出会って。魔法についていろいろ教えてもらって。魔物もいっぱい倒して。フレイアさんとも知り合わせてもらって。ここで魔質進化までさせてもらって。その後はスタンピードとかとんでもないイベントもあったけど。乗り越えられた。
そもそもの話、レアはユーリ君についていく気満々っていうか、離れること考えてない感じで、私もそうなるのかなぁって漠然と思ってたけどさ。改めてこれからのこと考えると、その決断にはちょっと短絡さがあったね。ユーリ君とレアに感謝はしてるし、できれば二人の関係がどうなるのかをそばで見ていたいけど。ってこれも不純だね。
だからこそもあって、嘘をついてる現状は裏切りなのかなって思う。昔、「貴女はなりたい自分になんてなれるわけがないし、なっていいわけがない」とは言われた。そんなことないって信じて、抗ってここにいるわけだけど。たぶん、今なら我を通せるくらいの強さはあると思うし。
「私は、セラディア・アルセエットになれたかな?」
星に尋ねるっていうのが私らしくないのはわかってる。それより何より今は夕方より前だから一番星すら見えてないし。この辺のズレが私らしいかな。
「いいえ。貴女は他の誰かにはなれません」
なんて自分で自分の考えにツッコんだりしてたから、答えが返るとは思わなかった。
魔力探知もそんな真面目にやってなかった。さすがに何人か通り過ぎてたなって気付くくらいには気を張ってたけどね。力試しの時のお礼参りがあるかもしれないから注意しろって言われてたから。
動揺を抑えながら改めて魔力探知すると、ちょっと離れた後ろに人が立ってた。
振り向くと、黒いフード付きのローブをかぶった人が。って、どこかで見た光景じゃんこれ。
「……あのさー、ユーリ君。それもういいって」
「何の話でしょうか?」
おや? あれ?
ちょっと待った。もっかいちゃんと魔力探知。
いや、ユーリ君なら偽装とかできるかもしれないけど。実際、前回はできてたし。ていうか、こんなこともうやる必要ないよね。
それを踏まえて相手のことを考えるけど……わからない。無属性? 魔力もそんなに強くなさそう?
少なくとも敵意は無いみたいだし、聞いたら答えてくれるかも。
「……誰?」
「名など不要でしょう」
言わないのね。私から名乗ればとか一瞬思ったけど、そんなことしても変わらなかったかな。
それにしてもこういう感じの物言い、ほんと昔はよく聞いてたような気がする。そのことばっかり考えてたからか、ユーリ君がやった時よりずっと強く私の深いところを掘り起こしてくる。
「……名乗れない、ってわけじゃないんだよね?」
「それもあります」
「……依頼主に迷惑がかかるから」
「はい」
嫌な予感がする。
くだらない逡巡なんかほっぽりだして、罪悪感とか不安でボロ泣きしようともさっさとレアやユーリ君に自分のことを話しておくべきだったって、酷く後悔する。
その後悔を加速するように、目の前の使者は“詰み”の言葉を告げる。
「国にお戻り下さいセラディア様。余談ですが、穏便な帰国が無理なら手段は問わずと言われています。できればご自分の意志で決めていただけると幸いです」




