Memory 魔法銃
「あの……ユーリさん……この魔法の……銃というのは……何に使うんですか?」
俺のノートを見ていたリーズが、不思議そうに首を傾げた。
魔法の銃。リーズの開いているページを見るに、描いてあるのはリボルバーだな。他にもいろいろ描いたはずだが。
「遠距離武器だよ」
「遠距離武器……ですか? 弓や魔法があれば……必要ないと思うのですが」
「そうでもないぞ。っていうか、魔法はともかく武器としては弓より上だ」
そうでなければ弓矢が駆逐されていないだろうからな。長篠の戦いも武田軍が勝っていたかもしれない。
関ヶ原の戦いでも使われたのは火縄銃だったはずだし、そのころにはもう銃対銃で弓矢はほとんど配備されてなかったんじゃないかな。
「そこに描いてあるのは拳銃だな。片手で持てるくらいの大きさで指先サイズの弾を打ち出すんだが、革鎧くらいなら貫通できる威力がある。それを十発前後連射できる。まあ、人の殺せる魔弾を予備動作無しで一秒に数発撃てるようなものだな」
「……えっ」
「さらに一回り大きくなると弾数が上がって数十発は連射し続けられる。そこからサイズを上げると鉄の板くらいなら貫通できるようになるし、細かくはなるしたぶん貫通まではいかないと思うけど数十発の弾を一度にばらまいたりもできる」
「……えっ?」
「更に狙撃用とかは、目視だけじゃ相手の表情も見えないくらいの距離から正確に真っ直ぐ頭を貫通できる。壁も撃ち抜けるかも」
「それは……たしかに弓より……」
俺もそんなに詳しいわけじゃないし、触れたのは子供の頃の水鉄砲とかエアガン程度で、実銃の知識自体は洋画で見たくらいしかないけど。それでもさすがにハンドガンとかサブマシンガンとかショットガンとかアサルトライフルとかスナイパーライフルとか、そういう区分の知識くらいはある。弓とかアーチェリーとかクロスボウになると、構造がわかるのに逆に知識として怪しすぎるのは自分でもよくわからないが。
「最大の特徴は、子供でも狙いをつけて人差し指を動かせば結果が出せるってことだろうな。弓と違ってほぼ直線に飛ぶからいろいろ考えなくて済むし、訓練も大して必要ない」
「ユーリさんの世界……どういう……」
俺の世界ねぇ。
少なくとも、銃関係は純粋に人殺しのためだろうな。害獣駆除はついでだろう。
たしか、「文明は戦争で発展する」とか言われてたな。世界大戦二回に冷戦一回に国家間戦争及び紛争は絶え間なく数え切れず。それ以前にも山程戦争戦争戦争。この世界の人に真面目に説明したら卒倒されるかも。
「ダイナマイトの話が有名か。鉱山の岩盤を吹き飛ばすために開発された爆薬なんだが、戦争でそのまま人を吹き飛ばすのに使われたりとか、似たようなものが自爆で人を巻き込むのに使われたりとか」
「ッ……」
リーズの表情が歪む。たしかに、聞いてて面白い話じゃない。当然、言ってて楽しい話でもない。
「さらにそれを銃というか、打ち出して飛ばせるようにもしてる。そこからさらに人間サイズくらいの筒に込めてそれごと長距離を飛ばしてぶつけられるようにしたりとか、もっとデカイのだと国と国の間で打ち合えるとか。いかに被害なく効率的に人を殺せるかってのは、まあこっちの世界のどこかでも考えてるやつはいるんだろうけど」
グレネードランチャーやロケットランチャー。ミサイルに大陸間弾道弾。どういう情熱をどれだけかけたんだろうな、本当に。
「すごい……ですね……ユーリさんの世界……」
「単に戦争しすぎなだけだと思うけどな」
ちなみにこれからだいぶ後。転生して再会してからしばらく後の話になるが、俺はこの時のリーズの内心を完全に読み違えていたのだと知って後悔することになる。
「でも……ユーリさん……まさかそれまで作る気じゃ」
「いや? あったらあったで役に立つのかも……んなわけないか。でも、予備知識として知っておくべきかなってのがあったんだよ」
「予備知識……ですか?」
そう。予備知識。
銃に関する情報が必要になるときがいつか来るかもしれないという危機感が俺にはある。外れては欲しいが。
「まあ、なんだ。ララからの話を聞くに、俺も裸で転移してきたわけじゃないみたいだからさ。そういうものを持ったままこの世界に放り出される奴が出てくる可能性もあるだろうなって」
「それは……ええ……可能性としては……ありえるかもしれませんね」
俺達だけが未知の武器を知っていてもどうしようもないのかもしれない。だが、下手に作ると技術流出を招く可能性もあるし、それこそ戦争の火種になりかねない。第二次世界大戦の発端は隣国への侵攻だったそうだが、第一次世界大戦の発端は暗殺だったらしいし。何が要因になるかわからない。
「すまん。こうやって口で話すだけにするべきだったかもな、明らかにこの世界には不要な技術と知識だ。危ないと思ったら破棄してくれ」
「はい……そう感じた時は……そうします」
リーズの目には決意があった。彼女なら、この情報を見極めて適切に扱ってくれるだろう。
だが同時に、その目の奥にはある種の悲壮な色もあった。この時の俺は、そのことにもまた気づいていなかった。




