第三十一章 力の示し方
長期休暇明けの準備を始めようとしたら、ギルドに呼び出された。
特に問題のある行為をした覚えはないし、姉さん達水精霊の祝福も同道しているからスタンピードのことかと思ったらまさにその通りだった。
「シムラクルムのギルドからマスター名義で感謝の手紙が届いている。ガーネットからも話は聞いたし、大変な状況の中よくやってくれた。加えて、ガーネットにもその謝辞をうける資格があるな」
ギルドの応接室にギルドマスターという最大限のもてなしと賛辞だったのだが、何故かマスターもその側に立つアカネちゃんも表情は良くなかった。
ギルドマスターとは法士爵を貰った直後に会っているから二度目だな。細身の中年男性だが、なかなかの魔力量だ。言動からもそう感じるが政治より武力に長けたタイプなのかもしれない。
「ランクの件はガーネットとも相談したが、両パーティーともAに上げていいくらいだろう。ただ、それが気に入らない職員も多くてなぁ。無色の羽根が活動を始めた頃からその類を黙らせられる実力は見えてたと思うんだが、今回のことで水精霊の祝福にまでケチをつけだす奴が出てきた」
「案外、そういう職員の方が後ろ盾が色々とありますからね……」
ほんとに苦労が多いな、アカネちゃん。
まあ、“そういう職員”共もギルドマスターやアカネちゃんを追い落としたいんだろうが、できない辺りはそっち側も別種の有能なんだろう。
「なんだかんだ、オレ達がさして実力をひけらかさずにここまで来てしまっていますからね」
「そうだっけ?」
ため息を吐いたオレに、セラが首を傾げる。レアも口にはしないが不思議そうな顔をしてるな。
力自体は出してきた。そこは間違いない。ただ、傍からはどう見えるかということだ。
「もちろんクエストはこなしてきたし、ランクを上げるだけのことはしたさ。それでも共闘したのは水精霊の祝福だけで、戦ってる姿を他の誰かに見られたこともほとんどないからな。難癖ならいくらでもつけられる」
「ハーシュエス……ユリフィアスの言うとおりだ。もちろん何回かやった大立ち回りを見てる奴もいるし、好意的に見てる冒険者もいる。雑用の評判も上々。だが、同じくらい悪評も流されてる」
それこそ大罪か。嫉妬。あと憤怒と傲慢辺り。けど、囚われてる当人はそれを正当な感情の発露だと思ってるんだろうなあ。
と言っても、オレが傲慢に見えてる本物の正義の人もいるのかもしれないけどな。そのつもりがなくても他人からどう見えてるのかわからないし、そっちのほうが正しいこともあり得る。
「うーん。別にユーくん悪いことなんてしてないよね」
「マァ、どーせ妬みだネ」
「そうでしょうね」
先輩方からの評価は悪くない。身内贔屓ってことでもないと信じたいな。
「解決法は簡単。そういう時。やることは一つ」
ティアさんが、無表情のまま親指を立てる。
サムズアップってこの世界にもあったのか。とかどうでもいいことを考えるのと同時に、
「みんなぶちのめせ。ユリフィアス」
とんでもない言葉が出た。それこそ悪評を後押ししないか?
「いや、いい案かもな」
「ええ」
と思ったのに、ギルド側も乗り気。それでいいのか。
「……私闘は禁止では?」
「試合形式にすれば問題ないだろ。それで“あの時”みたいなのをやって見せれば誰も文句は言わないはずだ」
「あの時、と言うと」
「もちろん、学院間新入生対抗戦だ」
やっぱりか。たぶん、求めてるのはセラやレアの試合じゃないな。オレがやったような一対多の戦闘か。
そんなオレの考えを読んだかのように、ギルドマスターはニヤリと笑う。
「対人戦の経験を積むいい機会だろ」
……なるほどな。
ギルドはこれまでオレ達が受けてきたクエストを把握している。魔物討伐や納品をこなしてきてはいたからこそ、対人戦闘の経験に乏しいことがわかったわけだ。
とは言え、オレ達の年齢でも対人戦闘の経験を積む機会なんてああいった試合や大会とか授業中を除けば悪人の討伐くらいしかないんだよな。
もっとも、管理された前者の場でさえ事故やそれを装った殺人からは逃れられないんだろうけど。
「たしかに、対人戦闘の経験はそれほどありませんね……」
「そうだね。いや、わかってるんだよ。ユーリ君が“そういうクエスト”を意図的に避けてたってこと」
オレの気遣いくらい、わからない二人じゃないか。
実は、これまでの移動中にも何度か襲われそうになったことはあった。退屈に飽きた振りをして誘引で魔物を呼び寄せたり、何気なく魔法を使って追い払ったりしていたが。
「……そうだな。普通の奴なら人殺しなんて積極的にやりたかないわな」
「基本的にグレーリスト行きですね、即」
ギルドでもそういう扱いなのか。
まあ、喜んで人を殺すやつは実際ヤバい部類だしな。この世界にも当然、快楽殺人者はいるんだろうけど。
「わたくしたちも、最初は偶発的にという感じでしたからね」
「そもそも、女のコだらけのパーティーでそういう橋は渡らないよネ」
「魔物とどう違うのかという気もするけど。ああいうのは」
「それでも、あまりしていい経験じゃないと思うよ」
そうだな。
ティアさんの言うとおり、野盗や犯罪者は“捕縛”も可能だがクエストとしては“討伐”という表現をされる。基本的には魔物と同じ分類だ。“駆除”でない分まだ配慮されてるのかもしれないけどな。
混沌にしたってどうにかできればいいんだが、アレは無理だと結論を出した。洗脳とかそういう域を超えている。言うなれば最終手段としての自爆を厭わない愉快犯の異次元から来た異常犯罪者みたいなもの、と言うと要素盛りすぎだな。だからこそ、奴らの魔力は黒と白……正気と狂気だの理性と害意だの正義と悪だの、背反するものが混ざりあったような色をしている。まだ他の結社の方がマシに思えるほどだ。
こっちはとりあえずどうでもいいか。庇護を外れたら遠からずその機会もあるとしても。
「ともかく、大々的に喧伝して相手を集めようぜ。で、全員まとめてぶちのめす。実力を示すのにこれ以上の方法はない」
前言撤回。腕力自慢じゃない。脳筋だ。
さて、どうするか。外野を黙らせるのにはいい手ではあるんだろうけどな。
「完全にユーリ君案件だけど、やってもいいかなって気はするかな」
「そうですね。きっと、それくらいできないとユーリくんにはついていけませんから」
魔物相手の少数対多はそれなりに経験した。戦争にでもならない限りはそれが人に置き換わりはしないが、経験としては必要だな。
それができなかったからって、見放すようなことはないんだけどな。
「二人が乗り気ならオレが断る理由もないけど」
いい加減、力をちゃんと測る必要もある。自分の事は当然として、二人にとっても本気になれないオレでは相手としては不十分だ。
判別したいのは相手の方だろうが、こちらも利用させてもらおうか。
「二人だけ? それって、わたしたちもですよね?」
「……ああ、そういうことになるのでしょうか」
「ア、不満持たれてるのはアタシたちもだっけ」
「な。え。聞いてない」
そうか、そう言ってたっけ。ひどい巻き込みだが。
まあ、二年でトップクラスにまで駆け上がったパーティーと同じところまで半年で飛び上がればおかしくも思われるし、駆け上がった方も疑念は持たれるか。
いや? それも変だな?
アカネちゃんの話だとパワーレベリングした奴もそこそこいるって話だったような。オレ達が特殊なわけでもないんだよな。ってことは、ほんとにただの嫉妬や嫌がらせか。
なんか急にやる気が湧いてきたな。
「七人なんて、相手が足るかな」
「うわっ、何か急にユーリ君がやる気になった?」
「よし。じゃあ。ユリフィアス一人で全員を」
「いえ、それは流石に……」
ティアさんの暴挙をレアがやんわりと止める。いやほんとに駄目だろオレだけがやっても。
「ともかく、相手は募っておくぞ。まあ、骨のあるやつなんて数人来るか来ないかくらいだろ。この七人なら問題ないと思うがな」
「頑張ってくださいね、皆さん」
一人頭何人になるかはわからないが、やれと言われるならやってやろうか。
/
オレ達が普段使っているのは王国のギルド本部なわけだが、郊外に演習場がある。今からやる試験もここで行うことになるし、参加したことはない講習会もここでやるらしい。半公的組織とはいえ流石に一等地をデカデカと専有するわけにはいかないし、周囲への余波の問題もあるからな。この立地は当然と言える。
だからこそというか、規模はかなりのものだ。ギルドが潰れても野球場として使えそうなくらいには。
「……野次馬だけだといいねぇ」
「……そんな感じじゃないですね」
中央を挟んで反対側には、一〇〇人を超えそうな数の騎士や魔法士や冒険者が集まっている。有象無象ももちろんいるが、手練もそれなりに混じっているな。
だが、たかだか一〇〇人だな。
「ユーくんが考えてること当てようか? 『スタンピードと比べれば驚異にもならない』、かな」
「概ね間違ってない。今の皆なら防壁を抜かれることもないと思う」
「信頼されてるのカナー」
「魔力探知を使えば同感。でも。相手と数によるとは思う」
「皆さん、思う存分やって構いませんよ。どちらが怪我をしてもわたくしが治しますから」
なんとなく、上級ダンジョンに行ったときのことを思い出す。あの頃から水精霊の祝福は上位ランクのパーティーだったが、それでもだいぶレベルアップしたことになるのか。
ここ最近はずっと同道していたが、それより前からオレの戦いを間近で見続けてきたレアとセラの二人とどれだけの差があるのかな。
「対抗戦の時のユーリ君が二十五人だっけ。でも今回それ以上来そうだよね」
「だとすると、わたしたち六人はそれぞれ十二人くらいでしょうか」
なかなかの戦力差だな。とは言え、それで勝てなかったからと言って実力が不足してるってことにはならないとは思うが。
というか、オレが三十人近くかそれ以上相手をするのは決定なんだな。
まあ。考えている敵の規模と比べれば、オレ一人でこれを相手にして勝てないようではそもそも話にならないのだが。
「……すまん。思ったより大袈裟なことになった」
そんな話をしていたら、ギルドマスターが頭を掻きながらやって来た。隣にはアカネちゃんもいる。
「見た感じ、『戦ってみたい』という考えの人もそれなりにいるようですけどね。幸か不幸かほとんどが数の暴力でしょうか」
アカネちゃんもアカネちゃんで苦笑を浮かべている。面倒だからなのか、無謀さに対してなのか。数の暴力は、それ以上の暴力には当然役に立たないからな。
ところで、戦うとしたらどういう形式になるんだ?
「でこれ、どう戦うの? 七対一〇〇?」
「基本的には上ランクと一対一なんだが、今回は希望者とだな。流石に人数は絞るが」
オレの疑問はセラが代わりに口にしてくれ、ギルドマスターが答えてくれる。
「あちらさんの期待値から言っても、当然ユリフィアスは最後だ。ハーシュエス姉がその前、水精霊の祝福三人を挟んでファイリーゼとアルセエットのどちらかが最初だな」
「んじゃ、先陣切ろうかな。対抗戦でもそうだったからね」
宣言しながらセラはぐるぐる腕を回す。となると、次がレアか。
「アタシもさっさと終わらせたいカナー」
「ワタシも」
「では、早い物勝ちでレリミアさん、ティアリスさん、わたくしですかね」
順番はこれで決定。
それにしても、一人ずつか。ランクには個人とパーティーのものがあるわけだからわからないでもないが、冒険者として必要なのは集団としての総合力な気がするんだけどな。
「それじゃあ、俺は順番を伝えてくる。ガーネットはここを頼む」
「わかりました」
ギルドマスターは、なんだかんだで対面的には中立を保たないといけないのだろう。
アカネちゃんは相手の山を見て、オレ達を見る。
「皆さんの実力なら問題ないですね。応援もいらないですか」
番狂わせさえ無ければ。
あとは、どんな戦い方をしてくるかかな。
というか、
「そもそもルール把握すらしてないような気がしますが」
なぜそれを誰も確認しないのか。
「そう言えばそうですね。えーと。基本的には殺してしまうのは駄目です。あとは、刃の付いた武器は駄目というくらいですかね」
「影響を受けるのは私とユーリ君だけだね」
対抗戦もそうだったが、明らかに魔法使いに不利な気がする。いや、手加減ができるのも実力の内ということなのだろうか。
防壁を張って完全防御、身体強化しつつ武器強化した大杖で接近戦。結局、こういう形式での手堅い方法は変わらないのか。
この提案はやめておくか。つまらないしな。っていうか、そもそもの実力も示せない。
「さて、と。ともかく一番手としてさっさと終わらせてこようか」
「セラ、いらないのか?」
木剣を取り出し、差し出す。
「おおう、忘れてた。ありがとね、ユーリ君」
「うーん。やっぱりズルさを感じてしまいますね……」
何が?
セラから細剣を受け取る。なんとなく魔力強化と探知をかけてみたが、特に傷みもなく当面は問題なさそうだな。それでもいつかはネレの打ってくれた剣を渡すことになるのだろうか。
さて、そのセラはどんな戦い方を見せるだろうな。
\
私の相手は十人。明らかに多勢に無勢ではあるけど、魔力探知の感じだとそうでもないね。むしろ、見くびられてるって感じ?
まあ、ユーリ君の側にいなかったら絶望してた状況だろうね。元々の生き方でもこんなのいつかあり得た状況なのかもしれないし、もしそうだったら諦めてたかな。
もしももっと早く出会えてたら私の歩く道も違ってたかな。ま、後悔はしてないし今は最高潮だけど。
「始めていいか?」
「どうぞいつでも」
審判をしてくれるギルマスさんに笑いかける。“不敵”って表現しちゃうようなのにはなってないとは思う。
「それでは……始め!」
「ほい」
とりあえず、魔力斬。腰に差してた剣を構えるついでだけどね。ユーリ君なら初手で風閃とかやっちゃえるんだなぁ。つくづく味方で良かった。真っ二つにならずに済む。
見えない一撃で一人撃破。あと九人。面食らって近づいてこない。
剣の材質は木だから燃やしちゃうとアレだし、魔法剣は無しで行こうか。
「人の方は知らないけど」
ファイアボールを作り出して放つ。
連射。直撃はしないで地面に当たるけど、制御を手放さずにその場に残す。魔力量も入学試験のときから比べれば段違いに上がってる。これくらいならまだ余裕。
「猛る水の波動よ、我らを襲う物を払い給え!」
水魔法使いが詠唱をしてファイアボールを消そうとするけど、無駄無駄。そんなんじゃ出力が足らなすぎ。レアと相殺勝負っていう実験を繰り返したから、余計な魔力を使うこともなく属性相克を超えられる。
「おい、消えてないぞ!?」
「ちゃんとやってるよ!」
うん。ちゃんとはやってるね。一応、多少は相殺されてるよ。出力が足りないからほとんど効果がないだけ。
ちなみにこっちは別に全部に注力する必要もない。魔力探知して、必要なところにだけ魔力を追加する。それだけで全部が強力な火に見える……のかな。
このままでもいいけど、ファイアボール追加。現状でも迷路みたいになって近づいてこれてないけど、さらに空中を漂わせて走らせる。
「この子エゲツねぇ!?」
「ちょ、こっち来ないでよ!?」
この程度で死ぬこともないし、たぶんユメさんが治してくれるのかな。でも、ケガさせないに越したことはないかなってことで、追い込むようなことはしない。
さて、そろそろ狙った効果が出てきたかな?
「ぐっ、は、火を受けすぎたっ」
残ってた九人全員、汗をダラダラ流して膝をつく。説明どうも。でもそれだけじゃないんだなー。
ファイアボールに加えて、熱魔法で周囲の気温を上げてた。むしろ見えてる魔法の方が目眩ましだったことにどれだけの人が気づいたかな。
飛ばしてたのと地面に残してたのと、ファイアボール全部を集めて取り囲む。結局、大魔法は使わなかったね。
「ま、参った。降参だ。みんなもそれでいいよな?」
「も、もう無理……」
「まだ行け……るわけない」
よし、勝った。
\
初戦はセラがきっちり決めました。わたしも気合を入れないと。相手もセラの戦いを見て慎重になっていますからね。
「では、始め」
と言っても、千日手になってはいけませんし、決めるなら早期で。
魔力斬を連撃。単純に魔力を放つこの技は、魔力の蓄積量が増える大杖の方が威力は上がるようです。洗練度は剣の方が上のようですが。
「またこれか!?」
「なんなんだこの技!?」
ユーリくんが「風は不可視だから何やってるかわからないからそれだけで驚異のはずなのに」と言っていましたけど、それは魔力斬も同様ですね。風の魔法使いがほとんどいないのに、風の魔法っぽいものが飛んでくるあたりも相手の動揺を誘いそうです。
次の手。やや散らすように打ったので視界は奪えています。あえてここは、防壁と身体強化で突撃。
「わたしだって、ユーリくんの隣で戦えますから!」
武器強化をかけて一閃。接触時に軽めの魔力斬。
さすがに強化した大杖をそのままぶつければただでは済みませんから。そのくらいのことを考える心の余裕はありますよ。ええ。
「魔法使いが突っ込んでくるとか……!」
言葉を返す意味も特にありませんし、そもそもわたしの魔法使い像はほとんどがユーリくんになってしまっていますから、何もおかしなことはないです。
「力の示し方としては弱いでしょうかね」
突っ込んだ先は、敵集団のど真ん中。魔力探知を展開して狙いを定め、全方位に水属性放射。今のわたしたちの中ではウォーターカッターの下位魔法みたいになってしまっていますけど、単純にダメージを与えるだけならこれが楽でいいです。
これで全員押し飛ばして終了、ですかね。そもそも手の内を明かす気はないですし。
視線を向けた先のユーリくんが苦笑していたのだけがちょっと残念でしたけど。
\
ウーン、一年生二人やるネー。サラッと終わらせちゃった。
さて、アタシはどうしようかな。ハデに行くかジミに行くか。
ジミでいっか。目立つ事が目的じゃないもんネ。ソレに、この状況じゃ血も操れないし。
「というわけで……オヤスミナサイ」
開始とほぼ同時。色んな感情を放っていた相手のすべてがバタバタと倒れていく。
別になんの変哲もなく眠っただけだけどネ。まあ、ダラダラ長い口上が必要だった術が何を口にするでもなくて良くなったのとこれだけ効果が強くなったのは、ユーリさんのおかげカナ。
\
正直。こんな試験とか興味ない。実戦はこんなに畏まったものでもないし。レリミアみたいに楽がしたい。
「何をしてくるかわからないぞ! 気をつけろ!」
「わ、わかってる!」
もちろん。魔物がこうやって連携をとってくることもあるけど。連携を無視するボスやザコがいるのも確かだから。本質的にはどちらも変わらない。
でも。魔物も盗賊もまずは後先考えずに突っ込んでくる。だから状況が荒れるのが普通。こんなじゃない。
「水精霊。防御だけしてくれる?」
そう頼むと。水精霊がワタシの周りに防壁を張ってくれる。
攻撃は自分でやらないと。相手の頭上から。滝のように水をぶっかける。
「降参するまで続けるから。聞こえてる?」
非常に地味だけど。相手にとってはすごく嫌な時間だったはず。
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レリミアさんのやり方もティアリスさんのやり方も、お二方らしいと言うか。少なくとも、レリミアさんのやり方は真似られませんけどね。
わたくしはそもそも回復魔法が使える水魔法使いでしかなかったわけで、戦うための能力としては水精霊の祝福の中で一番劣っていたかもしれません。
それも、ユリフィアスさんとレヴさんの助力で聖属性の力を得て変わった……とも言えないのですよね、これが。まだ持て余しているような状態ですし。ソーマ様なら聖属性を攻撃に転化する方法もご存知なのでしょうか。
とりあえず、教えていただいた通りに水と光を組み合わせて相手の視界を撹乱。ウォーターカッターは無しで。アイリスさんの見せ場を奪ってはいけませんからね。ウォーターボールや水属性放射で一人ずつ倒していきましょう。
戦い方については、まだまだユリフィアスさんにはお世話にならないといけなさそうですね。
倒して治して倒して治してを繰り返して戦意を完全に奪うでしたか……そういう恐ろしい方法は聞いただけに留めておくのが良さそうですけども。
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みんな結構無難に終わらせちゃったね。力の差があるわけだからそうなるのも当然なんだけど。
大体一人一〇人くらいずつ。わたしは増えて二〇人ってとこかな。ユーくんのためにももう少し減らしておきたかったところだけど、そこは相手の都合と思惑が優先されるから無理だね。
なら、死なない程度に痛めつけてユーくんとも戦うなんてことができないようにしようか……なんて怖いことは流石に考えたりしないよ。
みんなと一緒だね。めんどくさいことはさっさと片付ける。時間を取られるのもなんだし、こっちが先生ってわけでもないし。二度と邪魔しに来なくなったらそれでいいかな。
後衛は水属性放射で足を払って転ばせる。立ち上がってきたらもう一度。
前衛はウォーターカッターで模擬武器を全部持ち手だけになるように切り飛ばす。これで終わりかな。
さあ、あとはユーくんがすることをのんびり見てるだけだね。
/
「……みんな割と容赦ないというか、末恐ろしいと言うか」
表情が虚無になりそうだったが、そこは抑えて感想を口にする。いや、抑えられてないか。
「うーん、面倒だからねえ」
「実力のすべてを出すのもどうかと思いますし」
「アタシは攻撃手段の半分くらいが使えないからネー」
「セラディアと同じ。ただただ面倒」
「わたくしも、あまり相性が良くない試験方法ですから」
「派手なのはユーくんがやってくれるかなって」
それぞれに思うところがあったのはわかるが、本当に色々あったな。
「やはり、さすがですね皆さん。職員として担当できてよかったと心の底から思います」
アカネちゃんも、オレ達を担当したから背負った苦労も山のようにありそうだが、言葉の端にそういう感情は見受けられない。メリットがデメリットを上回ったってところかな。
「それじゃあ、トリを飾ってくるか」
「鳥?」
セラが首を傾げる。
ああ、この世界にはそういう言葉はないのか。締まらないし失敗した。
「最後を決めてくる」
「あ、そゆこと」
「期待してますからね、ユーリくん」
レアが両手を差し出す。その意味を察して腰から風牙を抜き、預ける。
戦いの舞台への道を歩きながら、空間収納から木刀二本を取り出して腰に差す。
フィールドに立って相手の数を見るが……明らかに異常だ。
「何人いるんですか、これ」
「わからん」
審判役のギルドマスターにもわからないらしい。まあ、人を数えるのって割合面倒だからな。整列してるわけでもないし。
これまでしてきた探知から類推すると、五〇人は超えているだろうか。
「すまんな。おまえの活躍が眉唾でなければこの程度物の数でもないだろうとか抜かす奴がかなりいて、止められなかった」
ギルドマスターの権限もそう強くないのか、実は敵なのか、あるいは面白がっているのか。どれとも取れるな。
なんにせよ、愉快な状況でもない。
「はぁ……」
いつものことだが、力試しのこういうところは面倒臭い。本気を出せるわけがないのに、不要な手加減をこれでもかと強いられる。
圧倒的な力で勝っても何も示せない。八百長だと言われるだけだろう。だからこういう状況になっているのもあるのだろうし。
特に、今は風の魔法使いだからな。ともすれば一歩も動かずに何をしたのかわからないまま全滅させることすらできる。
まあ。何も考えなければ虐殺で終わってしまうわけで、その辺りはどうしても手加減は必要なわけだが。
「最低限、演習場をぶっ壊してしまっても許されるくらいの確約は欲しいですね」
「お? おう。それくらいなら構わんだろ」
よし。これで威力を絞ることは考えなくて済む。
必殺は使えないが、大立ち回りはできるな。
「それじゃ、最後だ。この差だから、ユリフィアスのタイミングで始めさせてもらうぞ」
「別にいつでも構いませんが」
「そうか。では……始め!」
「火の玉よ」「我の足を支える土よ」「命を司る水」「空より降り注ぐもの」「全てを育むもの」「全てを灰にする力」「塵と化せ」
重なりあった詠唱がグチャグチャな音になって耳に届く。聖徳太子でも聞き分けは無理そうだな。
詠唱に意味はないので無視。魔力探知で魔法の総威力と軌道を把握、回避……必要ないか。念の為防壁を多重展開。その外側に魔力を乗せた旋風を起こし、全て受け切る。
風に邪魔され、すべての魔法が軌跡を曲げて明後日の方向に飛んでいく。念の為、仲間やギルドマスターへの軌道のものだけは潰しておいたが。
防壁までは届かなかったな。それでもというか、個々人の魔法に殺傷力がなくても重なればそれだけの力はあるわけか。
というか、ここまで容赦がないと殺しに来てると取られても仕方ないと思うんだが。オレの力への信頼で向こう側に立ってるわけでもないだろうし。
だとしても、やっぱり本気を出すには足りないな。もちろん、本気を出さなくとも風牙を使えばそれだけでほとんどのものは細切れにできるわけだが。レアから返してもらうことができるとしても、それはいくらなんでもまずいだろう。
セラやティアさんが言ったとおり面倒だな、これは。ある種のスタンピードと考えて処理するか。
破山剣……を取り出すわけには行かない。斬りつけるわけでもないからどうでもいいが。代わりに、同じようなものを使おう。
「は……?」
「な、なんだいきなり!?」
「どこから……いやバカな!?」
混乱を引き起こしてるな。こういう意味でも空間圧縮は有用か。それだけじゃないんだろうが。
圧縮空間から取り出したるは、破山剣と同サイズの木剣。実家にいた間に成木一本から切り出しと削り出しをして作った。削り出すだけでも大変だったんだが、ほんとにネレはこのサイズの剣をどうやって打ったんだろうか?
「こっちも容赦しなくていい……わけはないよな」
魔力破斬。これを放つだけで言えば、魔力浸透性の高いこっちの方が威力は上がる。武器として使うなら破山剣の強度がなければ話にならないが。
死なないだろう程度の魔力を込めて打ったが、防御が足りなかった奴らは悲鳴もなくまとめて吹き飛ぶ。
一撃では足りない。振り抜いた勢いを利用してもう一度回転。今度は風魔法も乗せる。
「これで終わり……」
いや。
二撃でかなりの数をぶっ飛ばしたが、一人だけなんの被害も見せず立っている人がいた。誰かに守られたわけではないようだ。
二撃目の時に剣を振っているのが見えたが、斬波の位置を読んで切り裂いたのか。一度目の被害状況から予測したとかか? 無茶苦茶だ。
そのまま歩み出てきて、一対一の格好になる。
「流石だな、ユリフィアス・ハーシュエス」
着ている服にも言葉にも飾っている要素がないが、立ち方にどこか気品を感じる。
それにこの魔力の感じ。数度会ったあの人に似ている。ということは。
「貴方が」
「おっと、俺が誰かはわかっても言うなよ。場が白ける。まあ、これだけ人がいてオマエにしか気付かれないってのも虚しいものはあるが」
有名税が機能しないのはそれはそれでということかな。とは言え、重要人物がこんなところに来るというのも予測なんてできないと思うが。
「オマエは魔法使いだが、剣士として俺とやり合う気はあるか?」
「お望みであれば」
相手の剣の構え方は型通りとは言えない。そもそも片手だし。それでも、隙は見つけさせてくれない。なるほど、これが騎士団をまとめる人間か。
そうやって観察していたら向こうから突っ込んできた。焦れたわけではないだろう。顔が笑っている。
巨大木剣を空間収納に押し込み、木刀一刀に切り替える。
「それと斬りあっても見たかったがな!」
真っ直ぐな振り下ろしを横にした木刀で受ける。
かなりの衝撃。片手では弾き飛ばされていただろうし、身体強化や武器強化が無ければそのまま打ち込まれていた。
明確な身体強化をしているわけではない。それでも、無意識に身体に流された魔力がこれまで見てきた上位の使い手のそれすら上回っている。しかも無闇矢鱈に流されているわけではなく、洗練されている。前の世界で達人の気を可視化したらこんな感じになったのだろうか。
天才だな。努力もしてる。歪んでもない。こんな人たちが時代を担うなら、王国は安泰だろう。
「リードとワーラックスが入れ込むだけの事はあるな、ユリフィアス・ハーシュエス。魔法の力だろうとは言え、俺と真正面から打ち合えるとは」
「お褒めいただき、ありがとうございます……」
木剣と木刀をギリギリと押し合う。
軽口を叩いている余裕がない。間違いなく、転生後の最強の相手はこの人だ。
魔法を使おうと気を割いた瞬間、押し込みの力が上がる。魔力探知を使っているわけでもないだろうに。凄まじい直感だ。
「本気を出させたら負けるのは俺だろうからな。卑怯だと思うか?」
「多少は。ですが、相手の弱みや隙を突くのも戦術ですね」
「斬り合う前に悠長に俺と話してた奴の台詞じゃないな。嫌いじゃないが」
違いない。
とは言え、殺し合いでもないしな、っと。
身体強化したまま前宙。踵で後ろから近づいてきていた敵を蹴り上げる。
ある意味最大の隙だっただろうが、剣を合わせている相手は微動だにしないどころか回転のための支点になってくれた。
「やるもんだな。しかし……不粋なやつはどこにでもいやがる」
吐き捨てられた言葉に心底同意する。あらゆる意味でこの人との打ち合いのほうが意味があったし楽しかっただろう。
「興が削がれたな。まあ、こんな場で楽しもうってのがそもそも間違ってるか」
言葉と共に剣が引かれる。互いの実力を見極めたり殴り合いで語ったりする機会はまた今度か。
改めて、魔力探知。魔力破斬で仕留めたはずが、意外と生き残っていたらしい。誰かを下敷きにしたり防壁でなんとか耐えたりしていたのだろうか。あるいは、短時間で回復したか。
みんなはサラッと片付けて相手もすぐに気力を削がれていた感じだが、何故かオレだけそうも行かないらしい。
救いは、悪意からだけではないってこととホントにどうでもいいやつは戦意喪失してるってことかな。
「仕方ない。来い」
木刀から左手を離し、手招きする。
後衛の魔法使いから再び、詠唱と共に魔法が飛んでくる。
「同じことは二度やらないぞ」
今度は、射線上にウィンドボールを配置する。さらにそれを回転。勢いを上げる。
接触した魔法を気流に取り込み、一八〇度向きが変わったところで放出。そう言えば、魔法の反射とか言っていた奴がいたな。
これは反射とは違う。加速もされるし、火は増幅される。今のセラならオレが投げ返した火も驚かずに制御を保てるかな。
綺麗に鏡返しとは行かないが、敵陣には着弾した。悲鳴が上がる。
余波は前衛の武器持ちにも広がるが、
「魔法使い! 全員ぼくに防壁を張れぇ! 早くしろぉ!」
突然の叫びに困惑が広がる。それでも、命じられたからか一つの手段としてか程なくいくつもの防壁が重ねがけされていく。ただ、干渉して消えているものも結構あるけどな。
「逃げるなよぉ!?」
叫んだ奴が突っ込んでくる。仕方なく受け太刀をしてみたが、特に驚異には思えない。
「で?」
「法士爵持ち? 爵位なんて金で買える。お前もどうせその口だろぉ?」
なんだかな。モノの価値を自ら貶めていくってどうなんだろうな。いや、コンプレックスのある人間からすれば願ったり叶ったりなのか。
ただ、この場で言っていいような言葉じゃないぞ、最悪な意味で。ヤバい雰囲気の余波がビシビシ伝わってきている。集団よりも遥かに強い。
「……学院の授業料以外を払った覚えはないが」
「嘘はいいよぉ!」
めんどくさ。欲しい答えなんて一生やれないぞ。
「ほらほら、さっきから防戦一方じゃないかぁ! 本気で来いよぉ!」
行けるわけないだろ。
でも、演習場をぶっ壊してもいいという言質は取ったし、ちょっと強めにやってやろうか。
全身の魔力を活性化。身体の表面に溜める。あちこち被害は行くだろうが、探知のできるみんながカバーしてくれる、か?
一応、角度を変えるために飛び上がる。これで横ではなく下に近い方向に力が働くな。
「土魔法使いにでも助けてもらえ」
「は?」
魔力放射。受ける方は魔力破斬と変わりない。だが、こちらは予備動作なしに連射ができる。
「ぐっ、がっ、ぼっ、ごっ、ばっ」
カエルの潰れたような悲鳴が上がるごとに、地面にクモの巣状のヒビが広がって行く。同時にその中心に身体が埋まっていく。
そう言えば防壁を張っていたんだったか。ならもう少し行けるか……と思ったが、声が聞こえなくなったのでこんなところにしておこうか。
「また要らん恨みを買わないか、これは」
「曲がりなりにも魔法士団の末席に名を連ねる身で、リーデライト殿下を貶める発言をする輩を見逃すわけにも」
「ありがたくはあるがそれ、リードを言い訳に使っちゃいないか?」
その気はないが、そう聞こえもするか。
というか、愛称で呼ぶということは兄弟の仲は悪くないのかな。家系の継承者がみんな不仲ってことはないとは思うが。
「どうやら全員萎えたな。怒らせなくても相手をするのはマズいってのは伝わったか」
「の、ようですね」
防壁を張った人間が地面に埋まるような魔力放射の余波を至近で受けて立っているこの人もとんでもないが。やる気も萎えていないようだし。
「最後に、一撃だけやり合うか」
「わかりました」
視覚効果と防御崩しの魔法剣。遠距離攻撃の魔力斬と強化バージョンとも言える風閃。いくつか必殺剣を考えて試してきたが、三つ目の剣術もいい加減試さないといけなかったしな。利用させてもらうか。
右手一本で木刀を持ち、天に向けて掲げる。
大上段。でもないな。アレは頭の上で両手でって構えだったはず。
「あとの構えは、こうか」
左手を前に出し、右足をわずかに引く。
魔力探知を二重に展開。相手の動きを把握する基本的なものと、オレ自身の射程を把握するものの大小二つ。
刀身に風魔法。展開の仕方は風閃とほぼ同じ。ただし、抜刀の加速や防壁の展開が不要な分だけこちらの方が構成は単純だ。
「またこっちが踏み込めばいいわけだな」
歩くような速度から、一瞬でトップスピードへ。消えたようにさえ見えるその動きにタイミングがズレそうになる。
だが、この剣技は目で見て使うものじゃない。踏み込みの速度も関係ない。相手とのリーチ差も関係ない。
武器の魔力強化。風魔法による剣閃の加速。重力の補助。身体強化による膂力の増加と攻撃に対する耐久。
すべてを最大限に高め、腰溜めから振り上げられた木剣に対して躊躇うことなく木刀を振り下ろす。
「……見事だ」
「そちらこそ」
名付けるなら、刹薙。キルレンジに入った瞬間、回避不可能の神速で相手を斬り捨てる一撃必殺の剣。風閃もそうだが、角度が限定されるのだけが難点だな。
しかし異次元とも言える切れ味を持つ風牙なら必殺になり得るが、木刀では何も斬れない。木刀と木剣では殴り合いになって相応の衝撃が双方に入るわけで、オレの手にあった木刀は遥か遠くに飛んでいっていた。
「引き分け、か。いや、オマエの本来の剣ならわからんか」
勝敗に言及しない辺りが怖い。負けるとは思っていないということなのだから。
ただし相手がそう言った通り、今回は引き分けでいいのだろう。オレ達双方の手は空手になっているのだから。
ちなみに、相手の木剣は折れずに深々と地面に突き刺さっている。武器の魔力強化まで無意識でこなすのか。自力という面で見れば完敗だな。
やはり、上には上がいる。オレなんてまだまだだ。
「ギルドマスター。俺としては文句のない結果だと思うが」
「おっしゃるとおりですね、エルブレイズ・リブラキシオム殿下」
ギルドマスターがその名前を呼んだ瞬間、周囲がざわつく。
「えっ。で、殿下?」
弾き飛ばされた木刀を拾って駆け寄ってきたレアも、その肩書きに固まっている。レアだけじゃないが。
「お、お初にお目にかかりますエルブレイズ殿下」
フリーズから最初に戻ったのは、そういう機会が多いのかもしれないユメさん。ただ、声は震えている。
「ああいや、大袈裟な状況にして悪かった。いろいろ確かめたいこともあったんでな。その他大勢として紛れるつもりだったんだが、予定外に熱くなっちまった。許してくれ」
「い、いえ。お楽しみいただけて何よりと存じます」
ユメさんは、焦った顔のままペコペコと頭を下げている。それでも固まっているみんなよりはだいぶ礼節ある対応ではある、のか?
次に復帰したのはセラ。殿下を見た後、遠い目でオレを見る。
「ていうかユーリ君大丈夫……? 不敬罪とかになったりしない……?」
「ユリフィアスが不敬なことをした覚えはないが? そこで潰れてる奴はどうだか知らんが」
まあ、オレとしても求めに応じただけだからな。身分を明かす前だったわけだし暴言を吐いたわけでもなし、不敬にはならないだろ。
「そもそも、今日の俺はただの一個人として来ただけだ。ノびてる奴の中に近衛騎士がいたとしてさほど気にはしねえよ」
やはり曖昧にぼかす言い方をする。こちらのことを考えてくれているのか、それともあんまり自分の立場が好きじゃないのか。どちらにせよ、リーデライト殿下とは違う方向で接しやすい人だな。
「で、試験だったか趣旨は。どう見ても問題なさそうに見えたが」
「ええ。文句は出ないと思いますね」
呆れたような表情の殿下に、ギルドマスターはニヤリと笑う。なんだろうな、こういう展開を狙ってたんだろうか。オレ達全員が魔法学院の生徒なんだから、ともすればリーデライト殿下がこの場にいたかもしれないし。
ともかく、ランクアップはこれで合格ということでいいのだろうか。なんだかんだで遺恨を残すやり方になったような気もするが。
「しかし俺が言うのもなんだが、その歳でこの実力とか、全員何と戦う気なんだ?」
殿下の言葉で、その全員の目がオレに向く。
そうだな。ある意味で全員がオレについてきたとも言えるわけだし。
でも。
「その答えなら、さっきまで目の前にあったのかもしれませんね」
「……ああ、確かにな」
腕試しか嫉妬かはわからないが、今回これだけ人が集まった。今後も無いとは限らない。
力は力を呼ぶ。無限色の翼のような仲間だけならいいが、敵である可能性のほうが高いわけだな、今回のことを見る限り。
「難儀だなユリフィアス。もしもの時は躊躇わなくていいが、できるだけそのままでいろよ」
「心得ておきます」
生まれてから命の危機に晒され続けてきたであろうからこその言葉だろうな。
もっとも、何もかも無視してやりたい放題やったら愛想を尽かされるだろうからやる気はない。そうしなければならない理由が訪れる可能性はあるとしても。
「ところで」
オレへの話は終わったのか、殿下の目が動く。その先にいたのは、
「セラディア・アルセエットって言ったよなたしか。どこかで会ったことないか?」
「は、はい? いやー、ないと思いますけど? 私のような一般人には王子様は縁遠いですし?」
「そうか? なら勘違いか」
その反応は知ってる反応じゃないかな、セラ。思いっきり目が泳いでるし。
ただ、エルブレイズ殿下もわかっててツッコむ気がないようだ。あるいは、鎌を掛けるわけではなく本当に思い出せていないのか。どんな知り合いなんだか。
「まあなんだ、楽しかったぞユリフィアス。機会があったら今度は一対一でな」
「はは、その時までにもう少し剣術を磨いておきます」
正直、単なる剣術では一生勝てないだろうな。少なくとも人体としての成長がないと無理だ。
「そうか。楽しみにしておく。他の面子も、縁があったらまたな」
身を翻してエルブレイズ殿下は去っていく。
本当にカッコいいし人間できてるな、どっちの本物の王子様も。
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「ランクアップが正式に認められました。皆さんAですね」
「俺がこういうことを言うもんじゃないとは思うが、ステルラやシムラクルムでの活動が大きかったな。もちろん、最大はスタンピードへの対処だが」
並べられた七枚のギルドカードには揃いの文字が刻まれている。まあこの上にはSに該当する特別ランクがあったはずなので、最上位というわけではないが。
「今回のことを考えると面倒なことは続くかもしれないが、ギルドの本質は人助けだ。これからもよろしく頼む」
ギルドマスターに頭を下げられるが、言われるまでもない。
ともかく、ギルドランクのことは片付いた。あとは学院でどうするかだな。




