Study 魔物の探し方
「そういえば、よくハウンドが近づいてきたのわかったよね」
「ホーンラビットの位置も的確に把握してませんでしたか?」
クエスト上がりの流れで街中のカフェに行ったら、そんな話になった。
……どうしたもんだろうか。
オレの使う魔法というか魔法理論は、実はほとんどが前世でオレ自身が構築したものだ。探知魔法についても高位魔法使いや魔物が無意識にやっているだろうものを理論化したような面があるので、おそらく一般的ではない。
一般的ではないが。この二人なら別に教えてもいいか。ホーンラビットの件は別として。
「無属性探知と属性探知があるんだが」
「いきなり超理論っぽいのが来た……」
話の腰を折らないで欲しい。
「どちらも理屈としては大して難しいものじゃないぞ。無属性探知の方は単純に周辺に向かって軽く薄く魔力を放出して、干渉する魔力を観測するだけだ」
「いやいや、言うは易しな気がする」
まあ、人力でアクティブソナーをやれって言ってるのと同じだ。たしかに言うは易しかもしれない。
「軽く……薄く……魔力を……放出……」
「もう試してるし。私もやってみよ」
やってみることは悪いことじゃない。ただ、初心者にとっては街中ではあまり役に立たない魔法でもある。
「ムリー。もしかしてできた?」
「いいえ、ダメみたいです。ユーリくんは魔力量が多そうですし、この辺りにもそういう人はいそうですけど」
「魔物と比べると人間は平常時の放出量が少ないからな。そういう意味でも探知は難しいし、オレは意識的に放出量を抑制してるんだ。そうしないと周りの人が魔力酔いを起こすかもしれないし」
「あー、入学試験のときの」
「ああいう場では無意識に放出量が上がる。いろんな匂いがごっちゃになってると言えばいいのかな」
「それは……たしかに酔いそうです。だからだったんですね」
「あのときは明らかな悪意もあったから仕方ない。魔力総量が増えればもっとひどい場所でもああなることは無くなるさ」
さて、魔力探知の話に戻るか。ここで剣を抜くわけにも行かないが、鞘に入れたまま柄を握るくらいなら構わないだろう。
いつもやっているものよりやや雑に剣に魔力を乗せる。
「もう一度やってみてくれ」
「はい……あ」
「うーん……あっ、これか」
視線がすぐにオレの掴んだ剣に向かった。
「これが無属性探知だな。無属性探知は単純に魔力の強さだけを感知する魔法だ。やり続ければもっと小さな魔力も理解できるようになるし、おおまかな形状くらいならわかるようになる」
そこまで行けばもうかなりの魔法操作能力も持っているはずだ。
「それと特にここだけの話だが。単純に魔力に反応する無属性探知能力が高くなれば、魔力結晶の回収が捗る」
「ああ、それでアレ」
「あの魔力結晶の量は驚きましたけど、そういうことだったんですね」
もちろん、一日二日の結果じゃないのもある。それでも探知ができなければあの量は無理だ。そもそも魔物の中に存在しているかどうかもわからない。
「属性探知の方は属性魔法の力を使う各属性固有の探知方法だ。火なら体温や温度分布、水なら水分量差、風なら物体の形状、土なら地面への圧力なんかで相手を特定できる」
光と闇を含む他の属性については門外漢なのでわからない。作用するものは当然あるのだろうが、そもそも使えないので試せなかった。光魔法なら透過光線スキャンで、雷魔法なら神経の電気信号を読み取ることができるだろうかというくらいか。闇は影が思いつくが、時間変化があるから難しいとは思う。
ちなみに。基本四属性と無属性を組み合わせて相手のほぼすべてを鑑定する全属性探知という魔法も作ったが、もうオレが使うことはないだろう。
「なるほどねー。便利だから覚えておいたほうがいいかなあ。ってあれ? 別に視力が良くなるとかじゃないんだよね。じゃあ、魔物の区別とかって」
そうだな。そこがこの魔法の一番辛いところだ。
「探知して、自分の目で見て、総当りで覚えておくしかないな」
「とんでもなく地道な魔法だった!」
「でも覚えておいて損はないぞ。今後もクエストや素材買取を資金調達として当てにするなら、進むか退くかの状況判断や効率のいい戦略や魔法の選択にも役立つ。何より魔法の制御能力も上がるし、相手がどんな人間かもわかるし」
むしろそっちの用途の方が有用かもしれないとたまに思うことがある。悪意や害意はもちろん、時には人間性までわかることもあるからな。
「……入学試験のときもそれで助けてくれたんですね」
「二人とも、きれいな魔力の形と色をしていたからな」
魔力は属性ごとに固有の色がある。それを見れば相手がなんの魔法使いかがわかるのだが、更にその根本には当人の本質が魔力として見えることが多い。オレの場合だと炎の構造に似て見えており、外炎が属性魔力、内炎が無属性魔力といった感じに見える。
二人とも本質はまだ無色なので薄い白色かつ魔質固定もされていないので属性魔力も色が薄い。オレからは綺麗な水色と桜色に見える。なので、炎というより花びらだろうか。
とか考えていたら、二人ともぽけーっとした顔でこっちを見ていた。
なんだ? 何か変なことを言ったか?
「あー、なんか暑くなってきたなー」
「そ、そうですねー」
そうか?
さて、これまたもういい時間だな。
「そろそろ帰るか。支払いはオレが持つよ」
「えっ、悪いよそんなの」
「クエストに付き合わせたし、さんざん危ない目にも合わせただろ。これでも足りないくらいだ」
何より、魔力結晶は当然としてホーンラビット本体の買取が思いの外良かったしな。このくらいで懐は傷まない。
「……うおお、これが無自覚紳士か」
「むしろ授業料を払った方がいいような……」
授業料ってなんだよ。
それより、なんだ無自覚紳士って。