Bridge 命の選択
勇気と蛮勇と無謀の境目はどこにあるのか。戦いを描く物語なら、どんな世界観でも一度は触れられるテーマじゃないだろうか。
なんとなく思うのは、手に余るような出来事に向かって行ったあとに判別できるんじゃないかってこと。怪我してそれでも帰ってくれば勇気。大怪我しても馬鹿笑いしながら帰ってくるのが蛮勇。帰ってこないのが無謀。そんな答えはどうだろうか?
スタンピードを経て、みんなの意識に変化があったのは事実だ。とは言え、大抵の人間は死を連想させる戦いを乗り越えれば慢心するのだと思うがそんなことはなく、それぞれに自信を得て安定したという表現が一番近かった。これはいい方向に進んだと言っていいはずだ。
それなのに、なんでこんなことを考えてるのか。
それは、姉さんの戦い方がそれとは違う方向に変わったからだ。
魔法使いは後衛職。これは、前衛のサポートって意味や詠唱による動きの遅さもあるが、本義的には自爆を避けるためもある。なので、基本は敵との距離を詰めることは下策。緊急時や、オレのような魔法剣士を除いて。
「ちょ、だからアイリスさん突出しすぎですって!」
そのはずなのに、アエテルナを出て以降、実家に近づくにつれて姉さんはオレとセラより前に出ることが増えている。ともすれば、オレ達の剣で魔物と一緒に斬ってしまうくらいに。
今も、ウォーターカッターを乱発して魔物を切り刻んでいる。繊細さに欠けた、力押しの魔法行使。そりゃ、姉さんだって怒ってるときはこんな魔法の使い方をするのかもしれないが……怒るような出来事もないし、感情の大きな動きは感じられない。
戸惑っているのは、オレとセラだけじゃない。他のみんなも、援護の難しさに悩んでいるのがわかる。
「……アイリスさん、どうかしましたか?」
「なんか……ムリしてナイ?」
「してないよ?」
ユメさんとミアさんが、恐る恐るといった調子で姉さんに声をかける。その姉さんは、自分の水魔法で返り血を洗い流して乾燥までしていた。一応、冷静ではあるようだ。
「もっと強くならなくちゃダメだなと思っただけだよ」
姉さんは笑顔を浮かべるが、その笑みはおかしい。
「違う。鬼気迫る。そう言った方が適切」
ティアさんもそんな感想を持ったようだ。なるほど、鬼気迫るか。たしかに、戦い方はそう見えるかもしれない。
でも違う。怒りでもなく、焦りでもない。無謀とも少し違う。上手い言葉が見つからない。
けれど、オレはこれを見たことがある気がする。
「アイリスさん……無茶をしすぎだと思います。実力で及ばないわたしが言えることじゃないのかもしれませんけど……」
「ええ。数多く冒険者を見てきましたけど、今のアイリスさんは……」
レアの言葉を肯定したアカネちゃんが、その答えをくれた。誰にも聞こえないような独り言だったが。
死相。
決死とか、捨て身とか。彼女ならそういう人をよく見ているのもわかる。
そうか。出逢った頃のリーズだ。空虚で、緩やかな死を望んでいたあの頃の彼女にそっくりだ。そう考えれば、オレより前に突っ込んで無茶をする説明もつく。
どうなってるんだ。なんで姉さんがそんな境地に。
死んでも構わないなんて、そんな。




