Offstage 女皇龍、出陣す
「……ネレ。リーズにも言って。ユーリに渡すもの全部ちょうだい」
「はい?」
少し前から焦点の合わない目で空を見上げていたレヴの呟きに、ネレは首を傾げた。
フラフラと外に出た彼女の後をなんとなく追ってみていたものの。いつも元気な彼女に似つかわしくない不思議な状態だとは思ったが、いきなりすぎる。
家の外に出た二人の魔力を感知したからか、リーズも出てくる。
「どうか……しましたか?」
「スタンピードが来る。ユーリもそこにいる気がする」
ネレとリーズは、互いに顔を見合わせる。
スタンピード。かつてユーリが数度遭遇したという“災害”。魔法使いとドラゴンの出会いの直後に訪れた災厄。お互い巻き込まれたことはないが、話にも聞いたし知識としては知っている。
「本当ですか? でも、ユーリさんがそこにいるというのは」
「レヴさんの勘……馬鹿にならないですけど……」
「精霊が騒いでる。場所は、共和国だって。アエテルナのそば。魔物の山とおかしな男の子と強い女の子たちが戦ってるとか言ってるけど、ユーリたちでしょそれ」
「ッ……アエテルナの……!」
リーズにとっては祖国であり故郷。家族のいる場所。
それだけで迷いは消え去った。家の中に戻り、魔道具をかき集める。
リターニングダガー。リローディングスタッフと替えの宝石弾倉。魔法銃。特殊回復用の回帰結晶。通信用魔道具。空間圧縮を付与した鞄に手当たり次第に詰め込む。
一通り済んだところで、遅れて入ってきたネレに振り向く。
「ネレさん……刀剣類は」
「要望のあった耐炎剣と、冗談か本気かわからない破山剣も一応。残念ながら真打はまだですね。って、容量はともかく明らかに寸法を無視してますけど。入るんですかこれ……?」
「それも……念の為」
「入った……夢でも見てるみたいですね」
リーズはネレの疑問に答えることなく、剣を鞄に放り込む、否、飲み込ませていく。
すべて収めて、外に飛び出す。
「レヴさん……お願いします……ユーリさんと……シムラクルムのみんなを」
「うん」
鞄を抱え、レヴが跳ぶ。強力な魔力放射の余波が暴風として辺りに吹き荒れ、リーズとネレは身を庇う。
嵐が収まり、二人は目を開く。空を見上げると、一頭のドラゴンが飛び去るところだった。