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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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第二十四章 災厄、人事、神采

 スタンピード。

 暴走という言葉の通り、魔物が雪崩のように押し寄せる災厄。おそらく元となった言葉であろう“スタンプ”のような、「大量の魔物が動線上のものを押し潰しながら地図を塗り替える」とかそういう意味もあるのだろう。

 スタンピードの発生源は主に二つある。ダンジョンからのものと、今回のようなどこにも由来しないものだ。

 実は、ダンジョン性のスタンピードというのはほぼコントロールされている。冒険者が足を踏み入れた時点で、ダンジョン内はその魔力により魔力的飽和が始まる。侵入者はダンジョンにとってはある意味エサであり、大量に未帰還者が出れば過剰な魔力供給が起こる。それが一定量を越してしまうと魔物が通常より多く発生したり、既存の魔物に供給されたりしてダンジョンから溢れ出す。これを天災と呼ぶべきか人災と呼ぶべきかは個人によるだろう。

 だがそもそも、こちらはそこまで大きな災害にはならない。ダンジョンの入り口という制約が存在するからだ。言うなれば、プールの水を蛇口から流そうとしても洪水にはならないようなもの。適正に対処すれば、それこそ小隊規模でも余裕で収めることができる。

 だが、今回はそんなダンジョンスタンピードとは別物。発生予定も何もわからない、本当の天災だ。

 魔力探知によってこの世界にも龍脈のようなものはあるとわかったが、稀にその流れが詰まったり捻れたりズレたりして濃度が極端に上がる場所ができるようだ。その魔力が魔物の大量発生を生む、のだと思う。とまあ、推測だけ。発生する瞬間には居合わせたことがないから仮説に過ぎない。“龍”脈についてもなんとなく暴論じみたものは考えたが、証明や検討は不可能だろうな。

 原理はともかく、ダンジョン性のものと違ってこっちは問題ばかりしかない。

 まず、規模が読めない。強力な魔物が一〇〇体湧くか、程々の魔物が一〇〇〇体湧くか、有象無象の魔物が一〇〇〇〇体湧くか。あるいはその組み合わせか全てか数が逆転するか。運としか言いようがない。規模は井戸程度かもしれないし、湖かもしれない。今回は、数としては全部で規模としては後者だろう。

 さらに、ダンジョンからのスタンピードは入り口の延長方向への移動なのに対し、こっちは方向が決定されていない。何かしらの要因があればそちらの方向へ一気に流れる。誘引も、元々はスタンピードの進行方向をズラせないかと作り上げた魔法なくらいだ。

 まさに、津波。あの災害でも、揺れ自体の被害はそこまでではなかったんじゃないだろうか。しかし、その後の一撃がすべてを押し流してしまった。これもそれと同じになってしまうかもしれない。

 確実に言えるのは、個人でどうこうできるものじゃないってことだ。それが魔法使いであっても。



「まさか、この規模のスタンピード兆候が出るとは……」


 現在地は魔王城の正面大広間。そこに共和国首脳と呼べる面子が集まっている。

 軍事を司る元帥と内政を司る宰相。共和国ギルド本部のマスター。そして、苦々しげに言葉を吐いた魔王ニフォレア・ヴォルラット。あとは、間接的に兆候を観測したオレたち。

 急拵えで用意された大机の上には、周辺地域の地図。モノクロだったそれに、今はオレが塗りたくった赤色が血痕のように見える。


「現状確認のため飛行可能な斥候に出てもらったが、視認距離まで近づくことすら危険を感じたそうだ。よく無事に戻って知らせてくれたな」

「アエテルナの目と鼻の先で、と言うと語弊がありますが、兵力の展開の面で言えば不幸中の幸いと言ったところでしょうかな」


 明らかな体育会系の元帥と、これまた明らかに文系な宰相がそれぞれ労いと慰めを口にするが、その表情は二人とも険しい。当然か。宰相の言ったことだって、不幸中の幸いというより規模的には死中の活とでも言うべきだろうし。


「冒険者については、街道の状況悪化で戻れなかった者と進めなかった者で、戦力的には何とも言えない状況です」


 ギルドマスターは眼鏡をかけた理知さを感じさせる女性だったが、表情が青ざめている。

 表情の面で言えば、オレの後ろにいるみんなもいい勝負……いや悪い勝負なんだが。


「まずは、誘導方向の決定ですかな。衛星都市のことを考えればアエテルナ方向へは論外ですか」

「そもそもこの都市は城壁都市ではない。防衛戦には向かん。いやそもそも戦闘を想定してはいないが……」

「そうだな。開かれた都市を作るということが仇になったか。魔王家の失策とも言える」

「何をおっしゃいます陛下。アエテルナの気風を嫌う者はいないのですから何も間違ってはおりません」


 大人達が策を話しているが、捗っているとは言い難い。というより、さほど進んでいないな。

 選択肢として挙げられる前に否定されたが、戦力を即時展開させるなら正面以外の選択肢はない。だが、そうすれば当然アエテルナへの直線ルートを取らせることになる。付近の都市を含めて失敗した時の被害は計り知れない。

 現在想定しているように、被害を減らそうと回り込めば戦力を全投入できなくなるし、その分疲弊することになる上、目減りした参加者の危険度は段違いに上がる。

 どちらをとってもどちらが付かず。止めるという面で言えばここに向かわせるのが一番マシかもしれない。だが、為政者としてその選択ができるか。できないのは他を見捨てるのと同義だとしても。

 ヴォルさんの目が、一瞬だけこっちに向いた。意見を求めている感じではなかったな。オレをどう使うかということだろうか。


「……エルザード。フェリーサ。現存戦力を全投入したとして、どの程度の損害が想定される?」

「正直、我々とこれの規模を考えれば五分五分といったところでしょうか。壊滅的被害は免れないでしょう」

「アエテルナに残っている冒険者の確認と招集を進めていますが、軍が五分五分なら楽天的に見積もって七分三分といったところでしょう。各支部に使いは出しましたが、往復ですから間に合うかは……」

「わかった」


 情報はいくらあっても足りない。だがそれでも、ヴォルさんは有事司令官でもある魔王として決断したようだ。


「アエテルナに誘導する。非戦闘員は城の地下への避難誘導を」

「陛下、それは!」


 宰相さんが即座に異議を唱えようとする。

 被害のことを考えれば気持ちはわかる。失敗したときに誰かが責任を取ればいいというものでもない。


「賭け、いやそれどころでなく無謀でしかないのはわかっている。だが、全戦力を回り込ませるのは労力的にもおそらく時間的にも無理だ。全兵で五分なら受けるのはこの方向しかありえない。その上で、冒険者を主軸とする精鋭戦力で後方から挟撃をかける。兵員輸送のための人員を割く必要はあるが、最も可能性があるのはこれだろう。フェリーサ、各地から戻ってくる冒険者にも可能なら背面や側面から当たるように通達を。エクムザ、聖国教会への連絡や備蓄ポーションの準備を頼む。エルザードは大至急全軍を出発させてくれ」

「「「はっ!」」」


 三人幹部がそれぞれ走っていく。エクムザさんだけ目的地が二つあると思うのだが、一人で担当するわけじゃないだろうし大丈夫か。


「君達は、冒険者としてギルドの指示に従ってくれたまえ。ああ、ハーシュエス君とは少し話したいことがある。残ってくれるか」


 みんなに頷くと、ヴォルさんと二人だけその場に残される。

 ヴォルさんは、スタンピードの発生場所とアエテルナを太い線で結ぶ。いくつかその線上に掛かりそうな都市がある。それを把握して、大きなため息を吐いた。


「ユーリ君。正直な話、どの程度保たせられる?」

「わかりませんね」


 素直に首を振ると、ヴォルさんは一瞬残念そうな顔をしてから愛想笑いをした。


「だろうな。手に余るに決まっているか。君も危険だと思ったら逃げてくれ。一度やったからってもう一度転生をする必要はないだろう?」


 ん? ああ、そう聞こえるか。いやいや違う。そういう意味で言ったんじゃない。


「彼我戦力比はわからないってことです。転生して以降、本気を出す機会なんてなかったもので。正面から行って飲み込まれるか五分か殲滅できるかわからないですね」


 それに、感覚的には死んだのは一度じゃない。二度だ。次があれば三度目。二度あることになるか正直になるかは知らないが。

 いやこれだとどっちにしろ死ぬか。


「は? ははは。言うに事欠いてとか言いたくなるな、本当に! 君はいつも期待を持たせることを言ってくれる!」


 ヴォルさんは、オレの言葉に大笑いした。ヤケクソでないあたりは肝が据わっていると言っていいんだろうな。

 あるいは、すでにヤケクソを通り過ぎたか。


「ヴォルさん。リーズの帰ってくる場所くらいは守りますよ。その力を得るためにも転生したようなものなんですから」

「ああ、そうだ。そうだな」


 ヴォルさんは、噛みしめるように何度も頷く。


「頼んだよ、ユーリ・クアドリ。いや、ユリフィアス・ハーシュエス」

「任されました、魔王様」

「……って、私も前線に出るのだけどね」


 上手い具合に笑いのオチもついたな。



 ギルドに向かうと、既にみんな待っていた。他にも冒険者が結構いる。魔族だけでなく、獣人も人間も。現存戦力はこんな感じか。


「ユーくん」

「お待たせ」


 姉さんが気づいて声をかけてくれるが、他は重い空気に飲まれてる感じだな。


「これまでの成果を試すチャンスと思えばいいのかな」

「わたしたちだけでは駄目でも、やれることをやらないといけませんね」

「ええ。わたくしたちも少しは役に立てるはずです」

「まあ。追撃するくらいなら逆に危険はそれほど無い。はず」

「絶対なんとかするカラ。絶対にネ」


 それでも、各々奮起している。特に、ミアさんがか。家族がここにいるんだものな。


「わたしたちは機動力が高いから後方に回ることになったけど、問題ないよね?」


 わたしたちは。同盟を組んだパーティーなんだから一纏めになるのは当然。それに、適材適所でもある。おそらく、今アエテルナにいる中で一番速く動けるのはオレのはずだ。大打撃を与えられる後ろに回るのは理に適っている。


「了解。で、疑問なのは……アカネさんもこっち側でいいんですか?」

「私はここの職員じゃないですからね。一緒に行きます」

「なら、区分的には一般人では……」

「戦う力はありますから。それに、ね」


 目配せされる。アカネちゃんが強いのはわかってるけどな。っていうか、冒険者じゃないのになんでこんなに強いんだって感じだ。オレ達に付いてこれてるわけだし。


「……あ、はは」


 あれ、なんで残念そうな顔に?

 っ、そうかアレか。色欲封じ関連か。つまり、アカネちゃんに限らず今までこういう顔をされた時は全部そうだったのか? 心当たりがありすぎる。


「と、とにかく。ありがとうございます、アカネさん」

「……ええ。でも、ユーリくんにお礼を言われるのは変ですけどね?」

「うん?」


 オレ達の間に流れた妙な空気を訝しんだのか、わずかに姉さんが首を傾げた。


「ま、いっか。それで、準備ができた人から出て欲しいって。大きく回り込むことになるから」

「あ、ああ。そうだな。ならオレ達もすぐに出るか。ついでに誰かを引っ張っていったりとか」

「そこは、魔力を温存して欲しいのと隠密を取って欲しいって断られたよ。鳥人族の人とか有翼魔族の人たちは一人ずつ抱えて行ったみたいだけど」


 すでに出発している人はいるのか。出遅れたな。


「全員、準備はできたか?」

「うおっ、ユーリ君いたの!?」

「あっ、絶対に気付くって言ったばかりなのに……」


 声をかけたら驚かれた。また隠蔽をかけすぎていたか。

 いや、緊張の結果だと思っておこう。きっとそうだ。


「ジュンビハデキタカイクゾー」

「うわあ、ごめんて! アレを相手にすると思うとさ!」

「そ、そうです。きっとそうです!」


 ああうん。そういう事にしておこうね、ほんとに。

 ヴォルさんと同じく、適度に緊張も抜けただろうからいいか。



 人体には空気が必要だ。これは誰にでもわかる。

 だが、物体の移動を阻害するのも空気だということは案外気にしている人は少ないんじゃないだろうか。

 速度が上がるほど空気抵抗は段違いに上がっていく。ホロウバレルを使えばその辺りは完全解消できるのだが、オレだけ突出するわけにも行かないし派手に魔法を使うわけにもいかないので、前方の気圧を低減して後方からの気流を作り出すくらいに留めておく。

 結果、先行していた獣人や魔族の冒険者に追いつくことができた。一番速い人が動いたのは、情報が伝わってすぐだったとか。会議での方針決定の前からこれを見越して声を掛け合っていたらしい。練達は流石だな。

 それでも。肉眼で確認したことを後悔するほどの魔物の群れが、森の木々を食い尽くしたように群がっている光景に言葉を失っているのは仕方がないか。彼我戦力一対一でも主観的には一対一万だ。


「直接の権限はありませんが、ギルド職員として伝達と説明の役目を受けました。正面側に軍と冒険者が展開次第、魔法攻撃により誘引を開始。完全に移動方向が定まってしばらくしたら各方向から追撃を開始せよとのことです」

「了解」

「承った」


 それほど大きな声でやり取りはできないので、伝言ゲームのように情報を伝えていく。ここで曲解させるような奴は冒険者失格だ。


「私は開始までに可能な限りこの情報を伝えて回ります。ユメさん、ユーリくん、しばらくお願いしますね」

「はい」

「ええ」


 アカネちゃんは、魔力探知に従ってまっすぐ他の冒険者の元に走っていく。


「とは言われたものの、オレ達も少し移動しませんか」

「そうですね。固まりすぎている感じもありますからね」


 ユメさんと頷きあい、他の冒険者とも頷きあって場所を移動する。後方攻撃が最有効とは言え、多人数で固まりすぎても意味がない。ある程度の展開と機動性は必要だ。

 本当ならオレたちも個別に散るべきなんだろうが、みんなの不安もわかるからな。オレだって、一分一秒が長く感じる。


「お待たせしました」

「お疲れさまです、アカネさん」


 アカネちゃんも帰ってきた。さあ、あとは合図を待つだけだ。

 目を閉じて、深呼吸。何も憂いなく被害が懸念されないのなら、実力を試す良い機会だったのにな。そんなことはありえないとしても。


「……やれやれ」


 ため息を吐いて目を開けると、全員の目がオレに向いていた。なんだ? 音頭でも取れって?

 言えることなんてさして無い。あるとすれば、


「絶対に無茶は禁物。踏み込みすぎないこと。ヤバいと思ったら迷わず退くこと。躊躇ったら一瞬で飲み込まれるぞ」

「……了解」

「……肝に銘じます」

「……うん。大丈夫」

「……判断を間違えないように。常に冷静に、ですね」

「……今回ばかりは。忠告は聞くし。守る」

「……こんなトコで死ぬ気はナイヨ」

「……ええ。まだこれからどうするかも決めていないですから」


 本当は、眠らせてどこか安全な場所に閉じ込めておくのが優しさなのかもしれない。でもそれは先延ばしでしかないし、見たくないものに目を塞ぐことと変わらない。

 万が一を感じたなら、すべての枷を無視することも考えよう。ハ、思えば風魔法使いは自由だとか言った割に不自由も多かったな。

 はるか遠くで光が輝き、遅れて炸裂音が届く。それに呼応したように、魔物達が動き始める。

 始まった。追撃の開始は最後尾が動いてから。でないとおかしな釣り方をしてしまう可能性がある。

 焦れったい。正面に回って中まで切り込むべきだったか。余計に時間が長く感じる。

 目を閉じ、魔力探知に集中する。スタンピードはアエテルナに向って逆滴型に伸び始めている。もう少し。周りの冒険者達もみんなそれぞれ焦りと緊張を抱えているだろうに、よく耐えている


「ユーリくん」


 レアの呼ぶ声が聞こえる。わかっている。最後尾が動いた。あとは、誰がいつ口火を切るか。


「よし、魔法使いは攻撃を開始しろ! 近接職は突っ込め!」


 どこからか叫び声が聞こえた。鬨の声(ウォークライ)というやつか。なるほど、セラやノゾミのもこれなのかな。

 言葉通り、詠唱が聞こえてまず魔法が飛ぶ。多くはファイアボール。次いでアースボールや土の矢。いくつもの魔法が炸裂する。


「あらら、先陣取られちゃった」


 構うものか。

 第二波。魔物に向かって飛ぶ魔法を追って飛び出す。駆け出した前衛の前へ。さらに、前方に向けて魔力斬を放つ。速度と威力の後押しだ。

 魔法が直撃した魔物はダメージを受け、周辺の魔物も魔力斬が薙ぎ倒す。


「やっぱり。いいところを持っていく」

「ホントにネ」


 追いついてきたティアさんとミアさんが感想をくれる。いいところを持っていったつもりはないんだけどな。


「よし、行こうユーリ君!」

「ああ」


 近接武器持ちで前衛ができるのはオレとセラだけ。できればオレだけで行きたいところではあるが、と、この思考はいい加減引っ込めておかないと。

 大部分の魔物はアエテルナ方向を目指しているようだが、最後尾にはこちらに向き直るやつもいくらかいる。まずはそいつらからだ。

 セラと二人で切り込む。魔弾も使って注意を引く。

 風牙は言うまでもなく、強化をかけているセラの剣もそこらの武器よりずっとランクが上がるだろう。近接はオレ達が主体となって動くべきだ。が。

 相変わらず魔物の種類の特定は困難だが、見える範囲ではオーガやサイクロプスといった巨人型の魔物が多い。生半可な攻撃では決定打にならない。


「これ、ケルベロスの時より面倒かも?」

「キツイって言わない分成長してるってことでいいんだよな?」

「言ってくれるねぇ!」


 セラはすでに魔力斬を使えるようになっている。そこまで難しい技では無いとは言え、確実に一歩前に進んでいる。無難とまではいかないが、多くの冒険者たちと同様に渡り合えている。


「ユーリ君、あのドラゴンモドキ消し飛ばしたやつ使えないの?」

「貫通力や周囲への影響がどこまであるかわからない。乱戦状況じゃ気軽に使えない」

「ああ、そっか」


 同じ理由で風閃も使えない。むしろ風閃の方がコントロールが効かないかもしれない。


「いや、上空からなら行けるのか。だがそれだとどれだけ効果があるか」

「そっか、上から。ユーリ君、サポートして!」


 セラが跳び上がる。オレがいつもやるように防壁を蹴って、魔物の群れのはるか上へ。

 セラは頭の上に火の渦を作り始める。同時に熱魔法も展開。さながらファイアストームの強化版か。サポートしろっていうのは、風魔法で威力を上げろと。

 大気の温度を上げてさらに熱を供給。酸素も追加。その間も風牙で魔物を切り刻む。


「行くよ!」


 セラが魔法を放つ。着弾した火の渦をさらに風で加速し、威力を上げつつ持続時間を伸ばす。そこそこの範囲の魔物が灰になった。


「必殺の合体攻撃だね」


 着地したセラが笑う。まあ、風は火とバフ相性がいいからな。


「ああっ! セラずるいですっ!」


 遠くからレアの叫び声が聞こえてくる。はて、何がズルいのやら。


「お姫様が怒ってるや。でも、一番槍は譲れないね」

「喧しいだろうが無理は」

「禁物。でも、ここにいればユーリ君が助けてくれるから一番安全だったりして」


 なるほど。そういう考え方もあるか。

 疑似精霊魔法、土針柱。風魔法、空気圧砲。最近のお気に入りのコンボを前方に向かって放つ。威力を調整して、貫通までは行かないように。キルレートは減るが周囲の被害は避けたい。


「なら、安全になるように頑張るか」

「よろしくね」


 位置的に背中を預ける格好にはならないが、肩を並べる格好にはなる。


「だからセラずるいですー!」


 相変わらずレアの叫び声が聞こえるが、下がるわけにもいかないから応えられない。

 踏み込むオレ達に引きずられるように、後方からの追撃ラインが進んでいく。近接職も果敢に踏み込んできている。こっちの状況はいい感じだな。

 だが、全体としてはどうだろう?

 魔力探知。当初逆滴型だった魔物の群れは、アエテルナ側を底辺とした滴形に近い形状になっている。

 いつの間にか逆転しているし、進行と事態の推移が早い。それだけの魔力が溜まっていたのか、勢いがあったのか。

 あるいは、こちらの攻撃が後押しになってしまっているのか。

 イチかバチか風閃や超音速貫通激を使うか。いや、やはり点を通す魔法では例え味方に被害が及ばなくとも焼け石に水にしかならない。


「順調……でもなさそうだね」

「規模が大きすぎる。前後からの挟撃のつもりが物量のせいで前線が耐えきれていない」

「こちらからもいくらか側方に回すか前方へ走らせるか?」

「いや、分断したところでこの規模では状況は変わらんか悪化するだろう」


 付近の冒険者とも善後策を交換するが、いい意見は出ない。


「むしろ、我々が後方から側面への展開を潰しているだけマシと見るべきでしょうな」

「ええ」

「ったく、平面スタンピードってのはこんなに面倒なのかよ」


 この状況を変えるには、なにか大きな一手がいる。

 まっすぐ前線まで切り込めば、群れを二つに割ってしまってこちらの戦力も割かれる。このまま押し込んだら正面が崩れる。側方に回って前後に分断したところで焼け石に水か進行方向がズレる。

 どん詰まりか。この状況を覆す一手は少なくともこの中には、


「ッ」

「え、何!?」

「ん? って、おお!?」


 不意に、空間の魔力の流れが変わる。気づいたのは、探知半径の大きいオレと姉さん。続いて、オレの側にいたセラ。

 スタンピードの放つ、押し流すかのような大量の魔力反応。そのはるか上、雷雲のような荒れた魔力の波を、流星のような一筋の魔力が切り裂いていく。


「何この魔力!?」

「大きすぎて、周辺の魔力が」

「敵意は感じない? それでも、なんなのこの属性……知らない。今まで感じたことも」

「これは、一体!?」

「え。なんて? 水精霊?」

「なんなノ? 敵? 味方?」

「どんな存在がこんな魔力を……」


 ティアさんの反応だけが違う。そうか。精霊は対話できるんだったな、彼女と。

 懐かしい魔力だ。いや、持ち主を考えれば神霊力とでも言うべきなのか。相変わらず天災級だが、昔よりは抑えられている。十二年の成果なのか。

 ララの次。やっと二人目との再会だ。


「来てくれたのか、レヴ」

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