Interlude 或るギルド職員の独白
ここ数日、街道周辺の魔物が活性化しているという報告は届いていた。人間や獣人からすると、シムラクルムの魔物は同じ個体でも他所の国のものより強いらしい。それがさらに強化されているとなると、安定化するまでちょっとばかり時間がかかるかもしれない。ステルラとの国境に近いし、行き来も減るかもな。
「……ヒマだな」
クエスト報告もチマチマしたものになってしまったし、思わず欠伸が出てしまった。今日はこんな感じで終わるのか、と思うと身が入らない。
そんな停滞した空気を破るように、ギルドの戸は開いた。
入ってきたのは少年少女二人組。男の方が女の方を「ネエサン」とか呼んでるが、どことなく顔が似てるから姉弟か。受付じゃなく、クエストボードに直行して依頼を物色し始めた。
二人は分担して依頼を精査し、何かを確認するように数度確かめてから依頼書を次々に剥がして持ってきた。
前に立っているのは、弟の方だ。
「ここに来るまでに討伐した物をまとめて取って来ました。手続きをお願いします」
見立てどおり姉弟だった二人は、別々のパーティーを示すカードを出してきた。ふむ、魔族じゃなくて人間か。
「他のパーティーメンバーは宿で休んでます。代表してわたしたちが」
代表とは言ったが使いっ走り……ってわけでもなさそうだ。目が違う。疲れてもいない。それでも戦闘をしたカンジはする。エースだな、この二人は。
持ってきたのは、例の街道の方の魔物が多いな。てことはステルラから来たのか。うちの冒険者がビビってる区域を抜けて。
「討伐済みってのがウソじゃないって気はするな。だが、肝心の魔石や証明部位を持ってるようには見えないが」
「それに関しては、解体場で直接」
これもまた嘘を言っているようには見えない。それどころか、最近休みがちだったおれのカンが告げている。面白いものが見られると。
姉弟を解体場に案内すると、弟の方が少し考え込む様子を見せた。次の瞬間。
「っ、な」
何も無かったはずの場所から、ボトボト魔物が降ってくる。思わず声を上げ……そうになったが、トドメを刺されてることに気づいてなんとか踏みとどまれた。
どうなってるんだ、コイツは。
「な、なんだ? どんな手品だ……?」
解体担当も信じられないようなものを見てしまった顔をしている。たぶんおれもおんなじ顔をしてるんだろうな。
魔石や証明部位だけじゃない。素材が取れる魔物は完品で最高に近い状態のがゴロゴロ転がっている。分かりきってる奴の仕留め方だ。
「おいおい。一週間分の解体をこなしそうだぞ」
「こいつは、色々やることが多そうだな。処理しておくから明日また来てくれるか。おれも久しぶりに燃えてきた」
おそらくだが、クエスト達成処理に素材の買取計算だけじゃ済まないな。街道の調査や掃除の依頼まで噛んでくるぞ。
「お願いします」
「無理しないでくださいね」
弟の方によろしく頼まれ、姉の方に気遣われる。
「「任せとけ」」
解体担当と見合って互いにニヤリと笑う。いい燃料をもらったぜ、本当に。
小金を稼いでのんびり生活してる奴。上手くやりくりして中の上くらいの生活を送ってる奴。危険と安定の手前や線上で引き時を見極めたりしてる奴。そういう奴らが悪いとは言わないが、相手を続けると山も谷もなくなる。
そんな平穏に慣れきったおれの横っ面を張り飛ばすようなとんでもない野郎が急に現れたりする。だからギルド職員はやめられないんだ。