Interlude ステルラの歩き方
「……うーん、民族の種類を覚えるだけで頭が爆発しそう」
「あはは、たしかにセラの言うとおりです」
街を歩いていると、人波を横目にセラディアさんが呟きました。
ルートゥレアさんも同意しましたが、おっしゃるとおりだと思います。ひとくくりにされる人族と比べると、獣人は「多民族」という言葉でまとめることすらできないかもしれません。
「そうだネ。魔族でもこんなに色んな人はいないナー」
レリミアさんの言葉通りですね。ただ、
「アカネさんやベニヒさんのように見た目でわかる方ばかりではありませんから、実際に話してみないとわからない方のほうが多いですよ」
「私はそのくくりでいうと、月イチでしかわかりませんね」
基本的には毛色と種族で分類されますが、わたくしだって白髪というわけではありませんし。
「ユーくんならここにいる人たちがどこの種族の人かわかるのかな」
「ん、ああ」
ユリフィアスさん、生返事ですね。なんとなく心ここにあらずな気はしていましたけど。
「またユリフィアスは違うことを考えている。無視するのはよくないって言った」
「またしょーもないこと考えてるの?」
ティアリスさんとセラディアさんが呆れたような顔をしていますが、こういう時のユリフィアスさんは割と根源的なことを考えていることが多いように思うのですけどね。
「ん? ああいや、これだけ色んな人がいるのに多様性を保ち続けていられるのはすごいなって」
ほら、思ったとおりです。
それにしても、平和ではなく多様性ですか。考えたこともありませんでした。
「どういうこと?」
「セラの言うとおり辞書が必要になるくらいの種族がいて、その中や外には途絶えてしまった種族もいるんだろうけど、文化的にも種族的にも完全に融合せずそれぞれがお互いを尊重してるって、奇跡的だなってさ」
独り言のような言葉で、皆さん首を傾げていました。それでも、ユリフィアスさんが本当に尊いものとしてステルラを見ていることは伝わってきます。
ユリフィアスさんにしか見えない世界がどんなものなのか。少し興味がありますね。
「……人なんて、どこでも足の引っ張り合いと潰し合いしかしてないのに」
ああ。そういうことですか。そういう方向から見れば、ユリフィアスさんの言葉がよくわかります。
ステルラには、獣人同士の争いはほとんどありません。魔物と違って捕食関係にあったりするわけではないので当然だと思うのですけどね。ちなみにそれはシムラクルムでも同じだとか。
学院の先生は尊重と共立と互助が上手いバランスで働いているからだと説明されていましたが、実際のところはどうなのでしょう。
「みんなが誰かに優しくなれる世界だといいよね」
アイリスさんがユリフィアスさんに笑いかけました。
本当に、そうであればいいと思います。
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ところでそのユリフィアスさんですが、レストラン街に案内したところで一転して無表情になってしまいました。
文化という言葉を口にされていたので、食文化も重要なその一つだと思ったのですが。ちょうどお昼時ですし。
「あまりこういう所はお好きではなかったですか?」
「いえ、好きですよ。興味深いですから」
笑ってくれてはいますけど、愛想笑いのたぐいでしょうか、これは。
「ユリフィアス。思ったことがあるなら言ったほうがいい。むしろいい機会。言え」
「……弱みを見つけたイジメっ子みたいだネー」
レリミアさんの感想は、一言一句違わず皆さん同じ感想だったと思います。それでも、ユリフィアスさんの弱みというのは、わたくしもなぜだか興味が湧きますね。
「口にしなくていいもの、ああ、言葉の方ですが。そういうの、あると思いませんか」
「言ってみなければわからない」
「そうだよユーリ君。ほれほれ。何が苦手なのかなー?」
「今後の参考のためにも聞いておきたいですかね」
「食べ物の好き嫌いはないよね、ユーくんって」
「あまり根掘り葉掘り聞くのもどうかと思いますけど、私も興味はあります」
アカネさんまでなんだかんだで興味津々なのはどうしてでしょうか。
全員の目に晒され、観念したようにユリフィアスさんはため息を吐きながら頭をかきました。
「いやその。牛人族の人達が牛肉料理を売りにしていたり、羊人族の人達が羊料理を宣伝していたりするのがシュールだなって……」
「「「「「「「……」」」」」」」
ユリフィアスさんの忠告の意味がわかりました。
たしかに、言わないままにしておいたほうがいいことは世の中にたくさんありますね。
わたくしたちだって完全菜食ではないですし、ラッシュバッファローやスリーパーシープは貴重な食料ではあるんですけどね。ええ。




