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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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第二十一章 ハウライト家での出会い

「うーん……」


 セラは唸りながら半目でアカネちゃんを観察し。


「むう……」


 レアはどこか不満そうにオレを見続け。


「……」


 ティアさんは無言で目線をオレに固定し。


「ふふ」


 ユメさんはなぜか微笑み。


「ふふっ」


 姉さんも同じように柔らかい笑みを浮かべ。


「アハハ……」


 ミアさんは困ったように笑う。

 それだけで、なぜか針のむしろを想像してしまうのはなぜなのだろう。

 別に、何があるわけでもない。アカネちゃんの表情から固さが消えたくらいで、肩にもたれかかってるわけでもそれどころか真横に座ってるわけですらないのに。どうしてこんなに責められている雰囲気に感じるんだ。二人で出かけて帰ってきたら雰囲気が一変してたのは事実だとしても。

 いや、この世の終わりみたいな顔してたのがニコニコ状態になってたら、周りはこんな感じにもなるか。

 やれやれ。魔力探知の巧拙がこんな風に働くとはな。駅馬車の距離がさほどないのが救いか。


「お」


 警戒のために広げきった魔力探知の端に、魔物のものとは明らかに違う魔力が大量に引っかかる。もう着くようだ。


「そろそろ見えるころですか」

「そうですね」


 土地勘のある二人は感覚でわかっているらしい。ユメさんとアカネさんの言葉で全員が駅馬車の進行方向を見る。


「……ああ、久しぶりですね」


 ユメさんが感慨深げに呟く。

 そこにどこか高揚や安心のような感情が見えたのは、気のせいではないだろう。



「おっきいいえー」


 セラの語彙力が消失している。レアも同様にあんぐりと口を開いてハウライト邸を見ている。

 気持ちはわからないでもない。一区画を専有する家なんて、そうそうないからな。


「……ユメ。これはあらかじめ言っておいてほしい」

「ハウライト家が名家だとは聞いてはいましたが……」


 ティアさんとアカネちゃんもドン引きに近い顔をしている。


「物腰丁寧だと思ってたケド、これ程とはネー」


 ミアさんはニコニコ笑っている。想定外ではあるが驚くほどでもないということか? 彼女の家にお伺いする楽しみと恐怖の比率がおかしなことになってくる。

 姉さんは唯一、何かを考え込んでいるようだった。


「姉さん?」

「やっぱり、みんなで暮らすならこのくらいのお家がないとだめなのかな……」


 ……たしかに何かを考え込んでいるらしいが、オレにはよくわからないことを考えているらしいな。直接は触れないでおこう。

 ていうかさ。そのみんなの人数にもよるだろうが、家族数人ぐらいではどう考えても持て余すに決まっている。使用人の人数も尋常じゃないだろう。


「ユメお嬢様、お待たせしました」


 庭師さんが屋敷に走ってしばらく、執事さんがやってきて頭を下げる。


「ありがとうございます、ハクヨウさん」

「いえ」


 執事さんは羊人族か。

 なるほど、羊の執事ね。言葉だと冗談かと思うが、所作は見習うべきところばかりだ。

 有能な執事。当然、その視線は一番の異物であるオレに多く向く。苦笑いで頬をかきでもすればスルーしてもらえる……わけもないだろうし、行儀よく頭を下げておくくらいにしようか。あっちも別に敵意の目を向けているわけでもなし。

 前庭だけで数軒家が立ちそうな空間を通り抜け、玄関へ。使用人さんたちがズラッと並んでいるような光景はなかったが、魔力探知をすればかなりの反応がある。いや、人の家でくらい最小限にしておくべきだな。

 ハクヨウさんが扉を開くと、これまた立派な玄関ホールが広がっていた。建物の中に入ったのに広がるってのが摩訶不思議な感じだ。

 その玄関ホールには、男女二人。どちらもユメさんに似ている。


「お帰り、ユメ」

「お帰りなさい」

「ただ今戻りました、お父様、お母様」


 にこやかに笑うご両親に、ユメさんは深々と頭を下げる。その挨拶が終わるのとほぼ同時に、ホールの扉の一つが開いて子供たちがなだれ込んできた。


「ユメねーさまー」

「ユメねーちゃ」

「ユメねーたま」


 走り寄ってくる子供たちは、みんな白牛人族……というわけではない。ハクヨウさんと同じ羊の角を持つ子や、種々の動物を思わせる三角や丸の耳を持つ子もいる。使用人の家族だろうか。

 たった一人、一番後ろにいた年長の子が同じ白牛人族かな。


「おかえりなさい、ユメ姉様」

「ただいま、ノゾミ」


 ユメ希望ノゾミか。ステルラに来ると色々思うところも多いな。漢字表記は無いんだろうが。


「ようこそハウライト家へ。ユメの父のマコトと、妻のマホロ。それに息子のノゾミです。子供たちは、家で働いてくれている者たちの子供や孫ですね。ほらみんな、自己紹介を」


 クロガネとかシズクとかユキとか、子どもたちは名前を口々に教えてくれる。所作もしっかりしているので、寺子屋みたいなものも兼ねているのだろうか。


「みんなもありがとう。紹介が遅れてしまいましたが、こちらはわたくしのパーティーメンバーのアイリス・ハーシュエスさん、ティアリス・クースルーさん、エルシュラナ・レリミアさん。それと、アイリスさんの弟さんのユリフィアス・ハーシュエスさんとそのパーティーメンバーのルートゥレア・ファイリーゼさんとセラディア・アルセエットさん。それに、王国のギルドでお世話になっているアカネ・ガーネットさんです」


 ユメさんの紹介に合わせてそれぞれ頭を下げる。姉さんにくっついてきたとまでは思われていないだろうが、やはり注目の大部分はオレだな。紹介されようがされまいが友人の弟でしかない上にただ一人の男。要素を列記してみると笑うしかない。

 ただなんか、単純な奇異だけではないような。なんだろう。


「改めて、ようこそ皆さん。娘がお世話になっております」

「ゆっくりしていってくださいね」


 両親が笑い、ユメさんにも頭を下げられる。

 客室は二階にあるらしく、みんな連れ立って階段を上がる。その途中で子どもたちの足並みが遅れ、オレの隣に来た女の子に袖を掴まれる。


「おにーちゃんは、ユメおねーちゃんの恋人なの?」


 子供の興味ってのは、どの世界どの場所でも変わらないのかな。

 もっと言えば、親や周りの反応も。衝撃が走ったのがわかる。

 こういうの、どう答えたらいいのかな。「残念ながら」も色々変で、「違うよ」という答えが正しいのだが、そっちは残念がりそうな気がする。傍の誰かみたいにツッコみたい笑顔を浮かべているわけでもなく、純粋な興味みたいだし。

 周りのこともあるから安易に答えられないのもあるが、どうしたものか。


「それとも、騎士様?」


 頭を巡らせていたら、話題がスライドしてくれた。これならなんの迷いもなく答えられる。


「いいや。オレはただの魔法使いだよ」


 笑いかける。飴とか花でも出せたらよかったのかもしれないが、残念ながら持ち合わせがない。

 魅せるための魔法なんてのもないしなぁ。今後は造花の数本でも用意しておくべきか。


「……ただの魔法使い、ねぇ」

「ふふ」


 傍の誰かことセラの呟きに、ユメさんが笑う。気づけばオレを知る人間はみんな苦笑していた。

 まあ、ただの、ではないか。意味が何にせよ、そこを説明するのは憚られるが。


「そう言えば、皆さん杖や剣しかお持ちではないのね」

「それでお荷物をお運びする者を呼んでこなかったのですが、宜しかったのでしょうか」

「ええ、荷物ならユリフィアスさんが」


 ユメさんの言葉に合わせて、空間圧縮を開放する。八つの旅行カバンが空中に現れると、それだけで誰も何も言わなくなる。

 自由落下する荷物は、その開始前に完全停滞で宙に留める。単純な風魔法だったら暴風を吹き荒らしてたところだったな。


「……おにーちゃんすごい」

「言っただろ、魔法使いだって」


 ずっと袖を掴んでいた女の子にもう一度笑いかける。これを使えるようにはならないと思うが、子供に夢を見せるのも大人の役目……今は外見的には子供だけどな。


「では、ユメ様はご自分のお部屋を。あとはお二人ずつ一部屋で、申し訳ありませんがユリフィアス様はお一人でお願いできますか」

「わかりました」


 二人部屋を一人で使えるのなら、別に何を言うでもない。男女一纏めも問題があるだろうし。


「荷物を置いたら街を案内しましょうか」


 ユメさんの言葉に頷いて、全員部屋に散る。と言っても、オレは荷物を部屋に放り込むくらいで他に用はない。扉の向こうの気配が消えるのを待って、もう一度廊下に出る。

 玄関ホールで待っていればいいのかなと思って来た道を戻ると、何人かのメイドさんとすれ違った。ハクヨウさんと同じ羊人族の人や、山羊人族の人もいたのはご愛嬌なのだろうか。

 だだっ広いホールでボーッと待つ。そう言えば、オレもセラも帯剣していることを特に咎められなかったな。魔法の存在があるとは言え。


「ユリフィアスさん」

「なんでしょう、ノゾミ様」


 振り返る前に答えると、息を呑むような声が聞こえた。背中越しにどうやって把握していたのかということか、それとも。


「敬称は結構ですよ。ユリフィアスさんのほうが年上でしょうから、話し方も楽にしてください」


 そっちか。まあ、君付けするのもさん付けするのも変な感じがしたから様にしたんだが、そう言ってくれるなら気が楽ではある。


「ならオレもユーリでいい。ってそう言えば、ユメさんはみんなの事を愛称で呼んでないな」

「姉様は、名前の響きや親から貰ったものを大切にしたいと言っていましたね。獣人の多くが愛称を使う習慣がないというのもあるかもしれませんけど」

「なるほどな。距離を置かれてるわけじゃなくてよかったよ」

「あ、それも少しはあるかもしれません。一応、うちはこうですから」


 ノゾミが自分の家を示す。

 貴族としての立場か。ユメさんにも色々葛藤があるのかな。それともあれが素なのか。


「それで、ですね。姉様から、ユーリさんは魔法使いでもあり、騎士でもあると聞いたのですが」


 騎士かどうかは微妙だな。刀を使う以上は侍と呼ぶべきだろうが、そこまでも達していない。剣もそもそも我流だ。


「騎士の方を強調したってことは、オレから剣術でも習おうと?」

「は、はい」


 ほぼ同い年の相手に教えを請えるのはそれだけで才能だと思うが、オレよりいい師匠はいくらでもいると思うけどなあ。お父さんに頼めば適役を見つけてくれそうだが。


「まあ、滞在している間だけ、参考になるかわからない程度で良ければ」

「ありがとうございます!」


 うーん、なんか変な気分だ。とは言え、ほんとに基本的なことくらいしか教えられなさそうだけど。


「ノゾミ? ユリフィアスさんを困らせてはいけませんよ?」

「姉様! 僕だって強くなりたいんです!」


 階段を降りてきたユメさんが困ったような顔をしているが、ノゾミの気持ちもわからないでもない。ユメさんも十分強いからな。負けていられない気持ちも守りたいと思う気持ちも力になりたいと思う気持ちもわかる。


「ユリフィアスさん、よろしいんですか?」

「やり遂げられるかは本人次第ですから」

「がんばります! あ、今日は子供たちの相手を頼まれているので、これで失礼します!」


 もっと言うと、その眼が姉を見ているなら、同じ弟であるオレと共通するところもあるし。

 どういう道を進もうとしているかは、これから見ればいい。その先はオレ次第でもある。



「よろしくおねがいします!」

「しまーす」


 翌日からの授業には、何故かセラも加わっていた。いや、セラも剣を使うようになったからわからないでもないが。そういうキャラだったかな。

 圧縮空間から木剣を取り出す。二本は直剣、一本は刀。作った意義はあった。


「まずはセラとノゾミでやるか」

「お、負けないよ」

「胸をお借りします」


 セラはフェンシングみたいな構え、ノゾミは崩れた正眼。中身はどうだろうな。


「セラ、言うまでもないが」

「魔法は禁止だよね。了解」


 開始の合図をするぞ、という意味も込めて大きく息を吐く。

 セラは笑顔、ノゾミは緊張。場数を考えれば当然か。


「では、始め」

「やあああ!」


 攻めたのは、ノゾミが先だった。しかし、攻撃時に声を上げるのはセラと同じだ。気合を入れる意図かな。

 ノゾミが振り下ろした剣に、セラは剣を引きつつ下がって回避。切っ先を突き出した構えは相性が悪いだろうから当然か。

 ノゾミの木剣の切っ先が地面を抉る。同時に、セラが踏み込んで一閃。速度のある突きがノゾミの耳の横をかすめる。


「それまで、だな」

「うっ、負けました」


 ノゾミはガックリと肩を落とすが、まあこんなところだろう。

 特段セラが強かったというわけでもない。勝負とはこんなもの。ルールがあるわけでもないし。


「ノゾミ、交代だ」

「うえ、ユーリ君ともやるの?」

「上手とやらないと意味ないだろ」

「じゃあ、胸をお借りしますよっと」


 セラがさっきと同じように構え、こちらも正眼に構えると、開始の合図もなく剣先が飛んでくる。どこかでやられたような気もするが、やはり対処はそこまで難しくもない。

 はたき落とす。体が崩れるが反撃の打ち込みはしない。

 流された剣が揺れ、反転して再び向かってくる。今度は振り上げで弾き上げる。


「……細剣の剣筋はまだ駄目かな」

「突きは連続で繋げるのが難しいからな」

「今実感したよ」


 セラの目は常にオレを捉えている。悪くない。

 片手だった持ち手を両手に変えて、やや大振りに。直剣の戦い方に変わる。

 こちらも、受け太刀から回避へ。剣の重量やバランスの問題もあるんだろうが、やっぱり二人とも振り回されてる動きだな。

 セラの次の位置を予測して、顔の来るあたりに手をかざす。驚いて目を見開いたところにデコピン……ではなくおでこをつつく。


「こんなところか」

「まあ勝てるわきゃないよね」


 ガックリと肩を落とす様子を見ると、その気はあったように思うけどな。もちろん、負ける気でやるよりはずっといい。


「二人ともなによりまず素振りからだろうな。もっと慣れないと」

「えー、そこからー? 剣術ってだいたいそうだよね」

「当然ですよね」


 セラは明らかな不満顔。ノゾミも納得しつつも残念といったところか。

 オレも誰かに手ほどきを受けたわけじゃないから何をするべきかは正しくはわからないが、この世界に来てから素振りの重要性は確認している。


「振るだけなら誰でもできるし、剣自体の重さを使えば振り回すことで一撃は強くできる。だから剣をどう動かすかじゃなくて、どこでもどんな体勢でも止められるようにするってことだ。剣に振り回されずにな。じゃないと変なものを斬ったり刺したりすることになる」

「……なるほど」


 変なものと表現したが、さっきのように地面ならともかく、それが仲間や果ては自分だったりする。ノゾミはそこに思い至れたようだ。


「でも、身体強化使えばいらないよね?」

「振る力も増すのに止める力だけ上がるわけ無いだろ」

「……おっしゃるとおりでございますね」


 楽に強くなる方法なんて無い。苦労すれば強くなるわけでもないけどな。

 というか、オレだって偉そうに言っていながらまだ斬線が想定とずれることもある。そういうのを矯正するのも役目だろう。

 二人と一緒に、オレも素振りと行こうか。



 翌日。セラとノゾミの二人は筋肉痛で地獄を見ていた。見えていた結果ではあったけどな。


「いまさらイリル達の気持ちがわかるぅー」

「ユーリさん、きついですー」


 二人は、変な動きをしながら木剣を握っている。

 で、一つ悩みがある。これを治すべきかどうか。回復魔法やポーションが回帰系作用によるものだとしたら、超回復が見込めなくなる。筋力の増強効果もないってことだ。

 回復加速だとしても一週間分寿命が縮むことになるのかもしれないからなあ。あんまり頼りすぎるのも良くないかもしれない。この辺りは現代医学の勝利になるのだろうか。


「ユリフィアスさん……」


 早朝練習を見に来ていたユメさんがオレに目を向ける。うーむ。

 どうしようもないか、これは。


「お願いします、ユメさん」

「わかりました」


 一週間分の寿命を惜しんで数十年分を失うよりはマシか、とも思うが、そんなことになり得るかどうか。レベルとHP制の世界なら殴りヒーラーで強引に強くなれただろうけどな。変なところで不便なような現実的なような。


「えーと。回復しないほうが良かった感じ?」

「……どうだろう」


 回復してしまったものはもうどうにもならない。やることが同じなのだから今後次第でしかない。

 さて、切り替えるか。

 昨日と同じ太刀サイズの木刀と、少し短い脇差サイズの木刀を取り出す。


「打ち合いにしよう。素振りはいつでもできるし」

「うん」

「はい」


 返事をしてから、二人は顔を見合わせる。


「同時でいいぞ」


 二人共にそれぞれ切っ先を向けると、セラがちらりと相方を見る。


「大丈夫、ノゾミ君?」

「は、はい」

「んじゃ」


 ノゾミの背を押すためか、セラが先に切り込んでくる。

 腰だめの一閃。打ち込まれた剣が刃の上を滑る。なるほど、刀だとこういうこともあるのか。


「僕も!」


 ノゾミも走り寄ってくる。剣を前に掲げたままなのは、玄人なら攻防一体なのだが。


「わあっ!?」


 脇差振り上げの一撃で剣を弾くと、大上段の構えのようになってしまう。膂力が足りないな。そのまま後ろに下がってしまうのは、勢いに類するものがないからか。

 そっちに気を取られたと判断したのか、セラは剣を引いて突きの構え。昨日と同じように顔の横に向かって突き出されたそれを、二本重ねた木刀で受け止める。


「反則じゃない、それ?」

「もっと思い切り突き込んで崩されてもオレは何も言わないぞ」

「あはは」


 軽い笑い。それと共に、セラは軽く跳んで距離を取る。


「そりゃ、魔法なしだとユーリくんには敵わないよね」

「そう簡単に勝ってもらっても困るな」

「ま、私は次の機会もあるし。やっちゃえノゾミ君」

「僕ですか!? わかりました、行きます!」


 もう一度。正眼に構えたまま突っ込んでくる。振り下ろしたところに返し刃を当て、一撃一撃を弾いていく。


「膂力が足りないと簡単に捌かれる。やっぱり体力と腕力をつけないとな」

「はい!」


 子供のチャンバラだと揶揄する気はない。ノゾミが強くなりたいという思いは伝わってくる。

 それでもやっぱりついてこないものもある。その辺りを埋めるところから始めなければいけない。が。

 滞在は一週間の予定だったか。それでは成果は出ないだろうなあ、どうしたものか。



 ノゾミや子供達と風呂に入るのも慣れた。子守みたいにならないのは外見年齢のおかげだろう。

 その後、風魔法を使って部屋で涼んでいるとドアをノックする音がした。魔力探知を絞っているので誰かまではわからないが、姉さん辺りだろうか?


「どうぞ」

「すまないね。夜分に失礼するよ」


 入ってきた相手は意外にも、ユメさんとノゾミのお父さんのマコトさんだった。


「ハウライト卿。わざわざいらっしゃらなくてもお呼びくだされば」

「いやいや、そこまで堅苦しい話ではないからね。それにハウライト卿もこそばゆいな、ハーシュエス卿」


 一応法士爵持ちだから間違っていないが、そう呼ばれるとたしかに。彼のような立場だからこそ、誰からもそういう扱いをされることは距離を感じるのかもしれない。


「では、ハウライトさん……いえ、マコトさん」


 二度目の言い直しで表情が緩んだので、備え付けのテーブルに寄り、席を勧める。ニッコリと笑い、彼は腰を下ろした。

 こうやって部屋に来るとなるとおそらく私的なこと。ノゾミのほうかな。


「ユリフィアス君。ノゾミは一端の騎士になれそうかな?」

「正直なところを言ってしまいますが、わかりませんね。いえ、彼の才能の話ではなく、自分も騎士というより剣使いとでも言うべきですから。ただ、ご子息の努力は無駄にはならないと思いますよ。貴族の責務以前に、人生は何があるかわからない」


 この世界に戦争はないが、紛争の履歴はあるし魔物の驚異は常にあるからな。大将が前に出るか後ろで構えるかはその場の判断もあるが、後ろに構えているから雑兵でもいいというわけでもないし。

 敵わない相手に立ち向かうという蛮勇を発揮する状況に陥る可能性はだれにでもあるが、少なくともノゾミはそんな自信過剰な状態で満足はしないだろう。


「人生何があるかわからないか。そうだね。ただ、ユメがノゾミまで王国に行きたいと言い出すのではないかと心配していたからなあ」


 それは、国と親元を離れることか自分が晒されたものに飛び込むことか、どっちの心配だろう。両方かな、ユメさんなら。


「彼の意図からの意味で答えると、騎士学院が役割を果たすかはわからないですね。今後多少の改革はあるでしょうけど、自意識過剰者の巣窟みたいな所だったようですし」

「はっはっは。ユメからの手紙で読んだよ、君が大暴れしたという話。それを聞いていたからノゾミも君が来るのを待ちわびていたようだ」


 伝わらない所には伝わらないのに、思いも寄らない所には浸透してるんだな。ある種の笑い話だからもあるんだろうが。


「アレも単純な剣技だけで戦ったわけではありませんし、自分なんかより誰かしっかりした先生に付いてもらったほうがよいと思います。教科書も実戦もできれば一番ですが、自分としてはやはり実戦の方が重いと思うので」


 ふむ、とマコトさんは考え込む。こういう大きい家なら騎士のツテくらいはありそうなものだけどな。


「この家にも、有事に動ける人員がいるのでは?」


 ハクヨウさんとか。まあ、彼が何を得手としているかまではわからないけどな。


「そうだなあ。ハクヨウ達に頼むか」

「それがいいと思います」


 投げてるように聞こえるか、これ? 聞こえるかもな。


「……魔法の方を教える機会はいくらでもあったんですが、剣術の教授を望まれたことはなかったので。本音を言うと、どう教えたものかと戸惑っています」

「いやあ、当然だろうね。君は魔法使いなのだから。その年でユメ達に教えることがあるというのが驚異的ではあるが」


 それは、見た目通りの年ではないからだな。

 ただ、どんな技術でも努力を超えてくる天才というものはいる。そういう意味では、オレはまだ年相応と言うべきだと思う。


「申し訳ありません、大した力になれず」

「いや、ノゾミのやる気を引き出してくれたという意味では感謝してもしきれないよ。ありがとう、ユリフィアス君」


 手を差し出されたので、握手を返す。偉大な貴族で、立派な親。大きな手だな。

 少なくとも、滞在中くらいはノゾミの手合わせの相手になろうか。



 クエストをこなす様子を見たいというノゾミの頼みを聞き入れて、オレ達は牛人族の街からやや離れた平原にやってきた。

 周囲に街道はなく、冒険者の魔力反応もない。無関係の人が襲われたり他のパーティーの獲物を奪うこともないな。


「ノゾミはアカネさんから離れないように」

「わかりました」

「ノゾミくんのことは任せてください」


 アカネちゃんの実力なら多少の大物は問題ないはずだが、もしもがあれば即時対処を心がけよう。


「それじゃあ全員、準備はいいな?」

「いつでも!」

「万全です」

「がんばろうね」

「わたくしも準備完了です」

「目指すは一番」

「血が滾るネー」


 ノゾミとアカネちゃんを中心にして七角形に散る。


「行くぞ!」


 魔力放射連射。魔物を呼び寄せる。

 グラスハウンドやグラススネークにゴブリンといった平原定番の魔物から、ラッシュバッファローやサーベルジャガーのような転生してから初見の魔物もいる。


「来た来た来た来た!」


 セラの声が心地いい。いいテンションだ。


「こ、こんな数を相手にするんですかっ!?」

「大丈夫ですよ、お姉さんたちなら」


 背後から悲鳴が聞こえるが、宥めと信頼の声も届く。期待には応えなければいけないな。

 魔力放射の中心はオレになるから、その辺りの偏りが出るのは仕方ない。それでも、他の活躍機会は残さないと。


「口火を切らせてもらうぞ」


 横一閃、特大の魔力斬。風閃を使おうかとも思ったが、姉さんが素材のことを気にしていた。最大限残せるように狙ってみよう。


「……防衛線を維持しつつ最小ダメージで倒す、か」

「ユーリくん、またすごいこと言ってませんか?」


 独り言のつもりがレアに反応されてしまった。


「いや。肉、皮、角、牙、素材が多いからな。劣化は避けたいなって」


 誘引を使ったからしばらくこの辺りの魔物は減るだろう。一時的な物資不足を引き起こすのも良くない。逆に供給過多にはなるだろうが、物価崩壊まではしないだろう。


「そんな余裕あるカナー」

「みんな、無理しないようにね」

「そうですね」

「了解。可能な限りやる」


 水精霊の祝福のやり取りに苦笑しつつ、空間収納から疑似精霊魔法で作り貯めていた焼成矢を取り出す。

 完全停滞で滞空と照準補正。空気圧砲の威力を調整し、貫通しない程度の速度で撃ち出す。接近しすぎた魔物は防壁で押し止めて風牙で一突きか斬り捨てる。


「なるほどね。私もユーリ君の真似くらいさせてもらおうか」

「わたしも。ウォーターカッターの威力を調整して、と」


 セラと姉さんは、近距離と遠距離でのオレのやり方をそれぞれ応用している。


「ウォーターカッター、もう少しなんですけど……」

「わたくしも、あと一歩ですね」

「でも。確実に魔法の使い方は上手くなった。水精霊もあと少しで使えそう」

「アタシはとりあえずこれだけ血があればそっちで苦労しないカナー」


 他の面々も、各々危なげなく戦闘を続ける。この程度ではもう脅威にならないか。


「す、すごいです」


 ノゾミが驚いた声を上げている。

 誘引された魔物の反応がどれだけあったかは数えていないが、頭数が七なら一人十五体倒せばそれだけで一〇〇を超える。単騎戦力で言えば、ある意味こっち側が数の暴力とも言えるな。それに。


「高ランクの魔物もいないからな、そこまで」

「っ、ユーくん下!」


 足元の魔力反応。それに攻撃し返すのではなく、防壁を展開し、突き上げの勢いを受けて跳ぶ。オレの代わりに生えてきたのはバカでかいミミズだった。

 ワーム種。草原にいるからグラスワームだが、こいつは進化個体だな。

 危険があるとすれば地中からの攻撃。それだけ特に気をつけるようには言ってあったが、上手い具合にオレのところに来たわけだ。


「何このキモチワルイの!?」


 ビッググラスワーム。全長は不明。直径は二メートルを下回るくらいか。苦手な奴なら卒倒ものだ。


「流石にヴェノム・サーペントほどじゃないな」


 空中で魔法を組む。

 疑似精霊魔法、土針柱。

 風魔法、空気圧砲。

 口の延長線上に人間大の土の棘を生やし、飛ばす。

 ミミズに発声器官はない。体内を直線上に貫かれたワームは、土煙を巻き上げながら地面に倒れた。

 魔石の位置は土の中のようなので、いつぞやの草抜きと同じく風魔法で掘り起こしておく。


「大物だけどこいつは取れる素材が無いんだよなぁ」

「そうなの? 残念」


 前の世界ではミミズ肉の都市伝説があったし、虫食のことを考えれば食えはするんだろうが……そもそも需要が無い。


「土は? ユーくんが取ってきてうちの畑で使ってたよね?」

「そっちも納品対象じゃないんだよ」


 有用だってことはなんとなく知られてるんだが、農家と冒険者を両立してる人がそれほどいないし、供給も安定しないし、永久に効果のあるものでもない。オレの場合、探知で魔力を含む土を拾ってきたからできたことだし、普通の人には違いもわからないからな。


「ところで。終わり?」


 ティアさんの言葉に、探知を拡大する。周囲に魔力反応はない。終了だな。


「の、ようです」

「案外サラッと終わったよね」

「それだけわたしたちもちゃんと成長してるってことですよね」


 全員、魔力は有り余っているようだ。これだけ余裕があるなら、もっと魔力密度の濃い場所でもやれるか。


「姉様も、みなさんも、すごかったです!」


 ノゾミはこれ以上ないほど興奮している。そりゃそうだ。ユメさんの戦ってる姿を見る機会なんてなかっただろうからな。


「惜しむらくは、全方位に目を向けられなかったことでしょうか。姉様とユーリさんも反対方向でしたし」


 三六〇度展開した弊害もあったか。角度を絞った誘引の術式も考えるべきかな。


「あーその辺は平気平気。ユーリ君は手を抜いてるから」

「……なあ、セラ。なんか最近オレに当たりが厳しくないか?」

「いつでも殴っていいってことは遠慮しなくていいってことでしょ。それにさ。ユーリ君がなんか言うとこっちへの要求も上がるんだけど?」


 セラは、自分が担当した方向を指差す。大抵の魔物が脳天一撃で倒してあるな。


「いい感じじゃないか」

「こっちは必死なんですが? 私の属性知ってるよね?」


 火と熱だな。

 ああ、素材の話か。どちらも変性要素だな。


「無理しなくてもいいのに」

「そーゆーわけにはいかないじゃんかー」


 頬を膨らませているが、そういうものなのだろうか。

 いや、オレに追いつきたいとか言っていたし、そこでの妥協は許さないってことかな。


「じゃあ、場所変えてもう一回やるか?」

「……いやそういう話でもなくて」

「……自然に鬼提案をする辺り。ユリフィアスはブレない」

「あはは、ユーリくんそんな冗談ばかり……九割方は冗談でもないんですよねきっと」

「ユーくんなら問題なくやりそう」

「ユリフィアスさんらしいですが……」

「後先考えなかったら行けそうだけどネ……」

「絶対昔と人間性変わってますよねぇ、これ……」

「そんなユーリさんみたいにはなれそうもないです僕は……」


 非難轟々。さすがにそれはやりすぎか、やっぱり。



「お世話になりました」

「いやいや、こちらこそだよ」


 頭を下げると微笑まれる。

 ハウライト家での一週間は非常に有意義だった。ガーネット家でのことも含めて、ステルラに滞在できて幸運だったとも思う。

 それでも、一週間は短すぎるな。国を知るにも、人を知るにも、強くなるにも。


「いい友達を持てて良かったな、ユメ」

「はい、お父様」


 二人の顔を見ていると、社交辞令じゃないってこともわかる。ただ、オレの方を見た瞬間だけ苦笑いだった。

 さすがに、三日ほどお祭りができるくらいの納品はやりすぎだったか。街の人達にはこれ以上ないほど感謝されたとしても。


「ユメ」


 マホロさんがユメさんを手招きし、耳元で何かをささやく。目がこっちに向いていたから、オレに関わることなのかな。ユメさんは苦笑いを浮かべて首を振っていたが、今は風魔法の出力を抑えているので何を話していたのかまではわからない。

 次に進み出たのは、ノゾミ。


「ユーリさん、鍛錬は欠かしませんからまた来てくださいね」

「ああ」


 ここで風牙を預けていければカッコいいんだろうが、あらゆる理由で無理だからな。代わりに贈るような剣もない。

 安請け合いになりかねないが、いつかまた必ずノゾミに会いに来よう。

 最後は、子供たち。


「おねーちゃんたち、またね」

「ユメねーちゃん、がんばってね」


 まあ、そうなるだろうな。ノゾミに掛かりっぱなしであんまり相手もしなかったし。

 と思ったら、来たときに袖を掴んだ子がじっとこっちを見ていた。


「おにーちゃん、またね」

「うん、またな」


 手を振られたので振り返す。オレにも人徳らしきものはあったらしい。よかったよかった。

 名残惜しいが、予定もある。互いに手を振り合いながらハウライト家を後に。

 敷地を出て、見送りが見えなくなったところでミアさんが手を突き上げる。



「サア、シムラクルムに出発しますかネ!」

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