表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風魔法使いの転生無双  作者: Syun
(5)
45/239

第十八章 膝を突いて祈ってはいられない

 聖女は、忙しくて暇である。

 なんと矛盾した話かと。けれど、事実です。

 朝昼夜の食事、祈り、湯浴み。それなりに決められている一日の行動はそのくらいでしょうか。それ以外は、聖都ですることはありません。

 昔は勉強の時間もありましたけど、魔法もほとんど使えるようになりましたからね。あとできないのは、死者蘇生リバイブくらいでしょうか。イメージはできるものの、ぼんやりとしたものであり、成功した者もおらず、果たして魔力を代償とするだけで済むのかすらわからず、基本的にないものとして扱われているんですけどねこの魔法。と、これはともかく。

 基本的に一日の殆どが余暇ではあるわけですが、それは何もない日の話。拝金的な治癒行為はかつて誰かがほぼ潰してくれたとは言え、十年以上経てば状況も元に戻る可能性はいくらでもあるわけで。こちらの意思を無視した強制的な日程というのが組まれることは多々あります。それに日程と心持ちで備えなければならないので、暇だから休まるかと言えばそんなことはないわけです。

 その誰かみたいに、身体強化で思いっきりぶん殴ってやれたらいいんですけどね。

 いえ。冗談ではなく、引っ叩いてから回復してしまえば証拠も残らないだろうと思ったことも一度や二度ではないですが。っと、一度やりましたか。それも悠理に。あれは数えなくてもいいでしょうか。

 それはともかく。


「……難しいですね」


 奇跡を売り物にするのもタダでばらまくのも良くはないと悠理も言っていましたけど、その辺りの釣り合いはどう取ればいいのでしょうかね。

 とは言え、命を選ぶのもまた傲慢で。本当に、人生というのはうまく立ち行かないものです。

 こんなことを考えているなら、さっさと次の聖女を見出したほうがいいですかね。けれど、適格者を私の代わりに据えるみたいでどうにも……なんというか。

 いずれは必要になることではありますけど。いずれっていつですかね、本当に。


「それもこれもすべて悠理が悪いんですが」


 あの時、全てかなぐり捨ててついていけばなにか変わっていたんでしょうかね。

 でも。

 もしそうなら。



 エルは世界のどこかで彷徨い命を落としていたかもしれず。



 ネレは失意のままで鎚を捨てることになり。



 レヴは誰もたどり着けない場所で一人ぼっちで眠り続け。



 リーズは自傷のような自省と共に息を潜め続けていた。



 皆にとっては地獄ですね。

 そもそも私だってこんな性格でなかったら、聖女としての苦労もないけど悠理と出会うこともなくて。世の中というのは、どう噛み合うかわからなくて。世界はこんなにも偶然にあふれている。


『聖女様、よろしいですか?』


 ノックの音と声で思考を中断。お仕事でしょうかね。


「どうぞ」


 答えると、特に急ぐでもなくドアが開かれました。緊急性のある要件ではなさそうですか。


「王国のユリフィアス・ハーシュエスという方から贈り物だそうです。名義が法士となっているので一応お伝えすることになったのですが、いかが致しましょう」

「……王国で世話になった魔法使いですね。運んでもらえますか」


 偶然に、溢れているんですかね。全部必然だったらどうしますかこれ。

 彼女は頭を下げて一度出ていき、しばらくして戻ってきました。手に持っているのは、手紙と小さな包み。

 聖女への贈り物はいくらでもあるので、危険を避けるという名目は勿論、見られないことによる横領や着服もあり、私の所まで届かないものもかなりあるようです。実際、この包みも開けられようとした形跡がありますね。

 それでもこうして私のところに届いたのは、彼女が私の味方だからでしょう。悠理の運が良いのか私の運が良いのか。


「では、私はこれで」


 頭を下げて、彼女は再び出ていきました。終始無表情でしたけど、出ていく瞬間微笑んでいたので、そう努めていただけなのでしょうね。

 手紙は当然ながら検分されています。この辺りは当然ではあるのですが。


『王都での一件の際はご助力頂き誠に有難う御座いました。その御礼となる程ではないと存じますが、聖女様に是非ご献上致したく……』


 読んでいて寒気がしてきたので、そこで止めました。なんですかこの恐ろしいほどに畏まった文章は。

 まあ、これくらいしないと検分を通らない可能性もありますか。

 あれ、最後になにか殴り書きが。


『横領や盗難をしたところで聖女様には全てお見通し』


 わざと殴り書きにしたのでしょうけど、これは痛烈な皮肉ですね。そういうことをする人間がここまで読むのかという問題はあるでしょうけど。もし読んだら背中が冷えたでしょうね。あるいは逆上したか。

 さて、肝心のこちらの小包には何が。


「……開きませんね」


 開かないというか、微妙に包み自体に触れられていません。なるほど、防壁をこう使いますか。魔力探知をした感じでは、同封されている水晶がその役目を果たしている、と。時間制限はありますが、確かにこれはいい手かもしれません。

 いまさらですが、あの時王都で覚えた悠理の魔力をぼんやりと感じていたのはそのせいですか。

 防壁が切れるのを待つというのも手ですが、いつになるかもわかりませんし。ここはハサミを魔力強化。出力を段階的に上げながら先で突いていきます。

 数度目の試行で、防壁が割れる感覚と魔力の飛散がありました。これで開けられますね。

 包みを丁寧に解くと、中にあったのはもう一通の手紙と箱。まずは手紙からですかね。



『できたから送る。何かは言わなくてもわかるはずだ。普通の人間はこれが何かもわからないだろうから悪用の心配もないが、最初の一個だから盗まれないようにはしてくれよ』



 嫌な予感がしつつ、これもまた丁寧に箱を開けると、ただの宝石になった水晶のカケラと、薄い緑色の透明な石の付いたペンダントが。って、これは……ちょっと。


「……まったく。どこまで」


 悠理の魔力を感じていたのはこれも原因ですか。微笑めばいいのか、それとも頭を抱えればいいのか。感心すればいいのか、それとも呆れたらいいのか。

 おそらく、その全部。

 あの魔法バカが自分を弱いと思っている理由がわかりました。本気を出す機会がないからですね。それこそ、周囲に影響のない状態でレヴを相手にでもしなければ、底は見えないのでは。

 この世界のどの魔法使いが魔力結晶を自力で生み出せるというのでしょうか。しかもそれを、装飾品にするなんて。

 どうせなら、悠理の手で直接つけて欲しかったですね。でもこれって首輪……いえいえ。邪推こそ無粋というか無駄でしょう。


『ちなみに作り方だが、最初は完全停滞を使ったが、その後の試行だと強化した防壁でよかった。その中で魔弾を大きくして行けばそのうち結晶化してくるから、あとはそれを大きくしていけば……』


 ……ちなみにじゃありませんよ。

 具体的なイメージや魔力探知のできない普通の魔法使いがこれをするのは不可能だとはわかっていても、この手法が知れ渡ればきっと世界の何かが変わる予感がします。

 まあ、興味も湧きますしいつかやってみようとは思いますが。こちらはそれこそ首輪にでもしましょうかね、ほんとに。



 何かあれば報告。これは私達の中で協定による義務なので、すぐにそうすることにしました。


『ずるい』

『ずるいです』

『いいなー』

『……』


 四者三様か二様といった感じでしたが、反応はある意味予想通りでした。私も逆の状態なら同じ感想になるでしょうから。

 リーズからだけ感想が返ってきませんでしたが、


『……形状は……どうなっていますか?』


 代わりに、質問が。

 形状? この状況で気になるのがそれですか?


「多角柱型、とでも言うのでしょうかね。水平方向に八面、そこから上下に錐。防壁を使う為に敢えてこの形状にしたということでしょうか」

『んー、いまいちよくわかんないなー』


 ……わからなかったですかね。他に説明のしようがないのですが。私が説明される側なら、レヴのように伝わらなかった可能性も否定できませんか。

 ともあれ、作成方法まで含めて共有したので、リーズなら同じことをするのは簡単でしょう。もっと違う形にするのも。


『形状が自由なら、魔力量によっては魔法剣ならぬ魔力剣も作れそうでしょうか。鍛冶師泣かせになりそうですね』


 現実的には強度が足りないでしょうけど、とネレは付け加えましたが、なるほど、そういう使い方もありますか。


『それだけではなく……どれだけの魔力を使うのかや許容量は今度やってみますが……余剰魔力を好きな形状で保存しておけるというのは……革命……ですね』

『それ、わたしでもできるのかなぁ』

『なるほど。それを利用して一時的に出力を上げられるなら、そういう剣も……』


 レヴの魔力はもちろん、ネレもなにか着想を得たようですが、どうも不穏というかやりすぎの気配があるというか。大丈夫でしょうかね?


『それにおそらく……防壁ではなく……鋳型を使うなどすれば……自由な……弾丸などの形状にするのも……可能でしょう……超音速貫通撃オーバーソニックスラストの術式を付与した魔道具……ユーリさんが銃と呼んでいたものが……これで過不足無く使えるかもしれません』


 銃。悠理の世界での個人用遠距離武器。正確には火薬というもので飛ばすらしいので、厳密にはレールガンとかに近くなるのかも、という話でしたっけ? レールガンが何かはわかりませんけど。

 魔法があれば必要ないのではと思ったものの、こと飛距離や使用距離と直進性や貫通力では比較にもならないとか。加えて、主用途は魔法が使えないエルの護身用でしたっけ。魔力結晶なら起動用の魔力まで補えるし、場所も取らないからと。


『銃かぁ。使えるかなぁ』

『構造自体は……さほど複雑でもないです……弓のような感性や特訓を必要とするわけでもなく……指を動かすだけで矢よりも速く貫く一撃を放てます……ユーリさんが以前話していた通り』


 リーズの言葉には確信があります。つまり、既に実用化済みだと。本当に敵いませんね、天才魔法使いにして天才魔道具師には。

 悠理の発想も……なんでしょうけど。

 ただ、問題は。


『取りに行けるかなぁ……』


 それなんですよね。



 ベッドに横になりながら、悠理から贈られたペンダントを眺めていました。

 ほんとに、よくもこんなことができたものだと。魔力結晶を作ったのも当然ながら、それをこうやってアクセサリーになんて。

 最初の一つ。それを私に。


「少しは、期待してもいいんでしょうか」


 両手で包んで胸に当てると、心が繋がっているような気になれます。錯覚だとはわかっていますが。

 少女の時はとうに過ぎたというのに、そんな感情が私の中にまだある。とても嬉しくて、少しだけ苦しくなるような。


「ああ、いつかきっと」


 そのいつかを、できるだけ早くなるようにしたいですね、いい加減に。

 祈りの時を終わりにする覚悟をしないと、欲しい物を手に入れることはできないでしょうから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ