第十七章 炎皇だってまだまだ強くなる
「さて、と。行きますかっ」
上級ダンジョンの前で気合を入れ直す。魔力探知を発動。うん、侵入者もいなさそうだね。全力を出しても問題ナシ。
騎士・魔法士両士団管理のダンジョンでその表記もあるのに、たまに入り込むバカがいるみたいだからねー。訓練の場として利用してるのはもちろんだけど、管理権が王国じゃなくて士団に直接ある時点で、最低限入団できるくらいの実力がないと自殺と変わらないって気づいてほしいよね。それでもってさえ、装備を整えて中隊以上を組んで入るのが通常。
まあ、そこを私は手ぶらの単騎で行こうとしてるんだけど。いや、ダンジョンって室内戦みたいなもので、そこで団体戦するのもなんか微妙だと思うし、何より魔法の威力が高すぎて味方も巻き込むからね。
だから、私は模擬戦も気楽にできない。今日はそういうストレス解消も兼ねてるし、たまに本気を出さないと鈍るし。
「あー、でもユーリを誘えばよかったかな」
来てくれるかはわかんないけど、色々意見は聞きたかったかも。いまさら遅いけどね。
「改めて、行かせてもらいますか」
ダンジョンに足を踏み入れると、空気が変わったのがわかる。入り口からどこまで中を焼けるかなんていうのも試してみたりした方がいいかな?
まずは、適当に魔力を放って魔物を誘引。近づいてくる個体に向かって極小のフレイムボールを撃つ。
爆発。いつも思うけど、これってぶつけた相手に行く炎と周囲に逃げる爆炎のどっちのほうが大きいのかな。
魔力探知、標的指定、フレイムボール。威力過剰な炎は、接近戦で使うには危うすぎる。防壁を張ればいいんだけど、強度を計算するのも面倒だし。
「となると、新しい魔法も考えた方がいいかな」
探知で目をつけていた広間に向かって走りながら、魔力を洗練、洗練、更に洗練。
とりあえず、火の矢や土の矢ならぬ炎の矢。実体の無い炎が硬度を持つことはありえないけど、どこまで通じるのかは試してみる価値くらいはあるでしょうよ。
足を止めて、全方位に鏃を広げる。
「十連、斉射」
斉射と言いながら、タイミングがずれてるから連射だけど。それぞれ制御を手放さずに、軌道に微修正を加える。
ユーリが言ってたっけ。潰れるより早く叩き込めば受けた側も壊せるって。だったら、接触の瞬間に更に加速させるとか? アイリスちゃんのウォーターカッターみたいにはいかないだろうけど、って。
「うわ……」
うん、刺さったよ。ただし、当たり前だけど矢が刺さる感じじゃない。魔物が無意識に張ってる障壁や魔力結合を貫通して、内側から炎を吹き出して燃え上がった。なるほど、こうなるのね。消し炭じゃん。
まあ、士団に入ってから素材のことについては考えてないからいいけど……って、そか。ユーリについていくこと考えるとその辺も考えないと駄目なのかな。
「直接攻撃か」
さっきみたいに矢が作れるなら、そのまま剣にもできるかな。そう言えば、ユーリが属性柱をそのまま魔法剣にしてたってセラちゃんが話してたな。
そのまま掴んだら駄目に決まってるから、魔法防壁を展開してと、ってアッツ! 防壁が負けそう! ユーリよくやったねコレ!?
「こんなんじゃ駄目かなあ!?」
一閃。うん、剣みたいにはなる。斬ったところは、焼けてるっていうか融けてるけど。
接触時間の問題かな。とりあえずこの剣は投げつけてと。あ、燃えた。じゃあこう、ユーリがよくやる魔力斬みたいな感じで剣を飛ばせば。
「あれ、当たって表面が焦げただけ?」
おかしいな。矢と剣の感じだと焼き切れるはずなのに。これも接触時間の問題?
「うーん、この辺の検証は帰ってからにしようか」
一撃をしくじると一瞬で取り囲まれるのが上級ダンジョンの恐ろしいところ。でも、炎属性放射で全方位を焼き尽くせば問題なし。ってヤバ! こんな閉所で使っていい魔法と規模じゃなかった! 調子乗った!
複合防壁全開。息を止めて完全防御モード。暴風と空気の減少をやり過ごす。
「あっぶなー」
やっぱり簡単にぶっ放せる感じじゃないなあ。これならどこかの平原にしといたほうが良かったかな。閉所も弱点、と。
魔法の使い方、まだまだユーリの域には達しないなぁ。当面の目標は、どこまで威力を落とせるか。って魔法使いとして逆行した課題だよね、これ。
「飛ばすから悪いのかな。薄めたフレイムボールを展開して……」
私、防壁、フレイムボールの順に展開。もう一度誘引をかける。当然魔物は避けようとするから、炎球を不規則に移動させて。
うん、いい感じ。これなら突っ込んできた魔物が燃えるだけだね。もし抜かれても防壁で止められる。
ならいっそのこと、防壁も単純に炎で形成してやれば。
「おおー。これ、当たりかも」
これなら普通に移動してるだけでいい。もっと強い魔物相手ならわからないけど、その時はフレイムボールの出力を上げればいいし。
しばらく、出力や制御を調整しながら移動する。
一層を抜け、二層、三層と降りていく。誘引しつつ、ボスのところまで止まらず、止められず。うん、感覚は掴んだ。
ボス部屋の前で一時休憩。なんでここが安全地帯なのか不思議だけど、探知で見るとボスがこの周辺の魔力を吸ってるから他の魔物にとって旨味がないのかな。奥の魔力を求めて近付いたら食われるのがわかってるのかも。
「ここのボスはキマイラだっけ。どうやって戦うかな……なんてね」
やることなんて力押しくらいしかないし。て言うより、そのために来てるし。派手にやって、鬱憤を晴らしましょうよ。
「さあ、やろうか!」
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ボス部屋は広くて、魔法の影響を考えなくていいから楽で良かった。
炎属性放射で押し戻したり、炎柱を全方向から押し付けたり、フレイムボールを全方向からぶつけたり炎の矢を突き刺しまくったり、やりたい放題できた。
それでスッキリしたかっていうと別だけどね。ボスの方が楽だったかなってくらい。
魔法を最大出力で使っても部屋自体は壊れないのかもしれないけど、私が余波に耐えられるかわかんないし。
帰りも、行きに編み出した方法でのんびり戻る。うーん、もうダンジョンも訓練の場にならないねこれは。危険よ来いなんて言う気はないけど、冒険はそうそうできないかな。その辺もユーリに相談してみようか。贅沢な悩みだって呆れられるか、百年早いって怒られるかのどっちかかな、あはは。
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当たり前だけど、ユーリはそういう人じゃない。
信頼されてる限りは親身になってくれる。考えるまでもなかった。
『別に魔法剣じゃなくても剣は使えるし、フレイアだって多少は手ほどきを受けてたって言ってなかったか? 他にも槍とか、弓……は種別が違うから微妙か。そういう手技を増やせばいいだろ。戦術は多いに越したことはない』
おっしゃる通りで。それに、ユーリが使ってたような体術もあるか。思えば、こっそり見に行った対抗戦のアレは魔法使いの領分を超えた戦い方の見本みたいなものだったのかも。魔法学院の生徒を含めてほとんどの観客はドン引きしてたけど。
あと、魔力斬のノリで剣を飛ばしてもだめらしい。だったら魔力斬で斬れてるだろって。ごもっとも。なんか回転をかけないとダメって、ほんとユーリの知識どこから出てくるの。
ともかく、まだまだできる事はいっぱいあるね。師匠も一足飛びで強くなっていくし、止まっていられないよ、全く。
ところで、「剣術は無駄にならないようにしてくれるはずだ」ってなんだろうね。何か期待していいのかな?
っていうか、「してくれる」ってどういう表現?