表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風魔法使いの転生無双  作者: Syun
(5)
39/239

第十五章 お姉ちゃんはがんばる

 今日も今日とてクエストです。

 ホントは、今年からはユーくんとののんびり学生生活を送るつもりだったんだけど。ユーくんもユーくんでやることがあるだろうし、レアちゃんやセラちゃんとの付き合いがあるし、わたしがいると二人ともやっぱり気を使っちゃうだろうからね。一緒にクエストに行くのもそれはそれでいい経験だとは思うけど、こっちからだと無理強いに見えるかもしれないし。

 本当は、水精霊の祝福のみんなはわたし含めてだいぶ前に卒業要件って満たしちゃってるんだよね。でも、部屋を借りたり家を買ったりするよりも、学院に滞在している方が出費が少ないからここに残ってる感じ。

 まあ、少しくらい打算があってもいいよね。お父さんとお母さんには申し訳ないけど、友達付き合いもあるし、ユーくんの側にもいられるし。

 それで。そもそもどうしてこんなに頑張ってるのかってよく聞かれるけど、基本はほとんどの人と同じ。お金を稼ぐため。そう考えると、王都のほうが高ランク依頼も多いからいいのかな。

 遊んで暮らす、っていうのは比喩表現だけど、一生にかかるお金ってどれくらいなのかなあ。それが溜まったとしても、ユーくんはのんびり暮らすなんてできないしやらないような気がするけどね。

 そもそも、わたしたち家族だけならこんなにがんばる必要もないと思うけど、たぶんわたしたち四人じゃ済まないと思うし。レアちゃんは当然として、なんとなくだけどフレイアさんもかな? ソーマ様もなんだかユーくんと結構な付き合いがあるみたい? 一度しか会ったことがないっていうか、あの時が初めてだったと思うんだけど。不思議な話。ユーくんの交友関係って実家にいた頃は全然無かったんだけど、ほんとによくわからない。

 ユーくんは弟だけど、謎な事ばっかり。そもそも、魔法の知識だってどこから得たのかわからないし、剣術も体術も師匠がいたわけじゃないし。身体強化で強引に経験を積んだっていうのともたぶん違うと思う。風魔法使いになることも一切迷ってなかったし。

 変な話だけど、まるで二回目の人生を生きてるみたい、かな? 一回目で魔法使いを追求し尽くしたみたいな。だから一回目で今使ってる魔法のほとんどを構築して、誰も選ばない風の魔法使いになったんじゃないかな、なんて。

 きっと、聞いたらちゃんと教えてくれるんだろうけどね。でもまだそこまでの覚悟はない、かな。嫌われることはないだろうけど、離れてはいっちゃいそう。

 そんなことを、ウォーターカッターを撃ちながら考えてた。これだって、ユーくんがいないと使えなかった魔法だし。


「こうで、いえ、こうでしょうかっ」

「水精霊。ウォーターカッター。同時に行くよ。それ。えい。うん。駄目。ワタシも駄目」

「ぬぬぬぬぬぬ……だー! アタシもムリー!」


 水精霊の祝福のみんなも、ユーくんが許可したっていうことで無詠唱での魔法の使い方……というか観念かな。ともかく、詠唱無しで魔法を使えるようになった。けど、ウォーターカッターはまだ無理みたい。レアちゃんもまだだって言ってたし、しばらくはわたしだけの必殺技かな。ユーくんはなんだかんだでサラッと使いそうだけど。疑似精霊魔法だっけ。あれで。

 みんなのフォローのためにも討伐対象をサッと両断。ユーくんの使ってる運搬魔法を使えれば、重い素材や大きい素材もいっぱい持ち帰れるんだけどね。あれもユーくんにしか無理だってことらしいし。ウォーターボールの中に入れて持って帰ることもできるけど、種類によってはどうしても劣化させちゃうんだよね。


「アイちゃーん、どうやったらウォーターカッターできるのー!?」


 ミアが泣きついてくるけど、わたしには原理以上のことは言えない。みんな水流を細くすることは出来てるから、


「あとは、力技?」

「ざっくりしすぎ」


 ティアにツッコまれちゃったけど、他にやりようもないわけで。実際、力技みたいなものだからね。


「加速のイメージだから……」


 そのあたりの石ころを拾って、軽く投げる。


「普通がこんな感じだとして、ウォーターカッターはこんな感じ?」


 もう一回石を拾って、同じフォームで投げる。ただし今回は身体強化を使って。

 さっきとは段違いのスピードと威力で石ころは飛んでいって、射線上にいた魔物に直撃する。それで一撃ダウン。あれ? これだけでウォーターカッターの代わりになるような?


「わからないような、わかったような……」


 ユメにも伝わらなかったみたい。うーん、やっぱりこの辺りはユーくんから直接手ほどきを受けたほうがいいのかな。でも、レアちゃんもまだ無理みたいだし、難しいのかな。


「原理としてはわかるんですけどね。そこまでの速度をどう出すかというのが大きな問題ですね」

「まさにそれ」

「だネー」


 うーん、このままじゃハーシュエス家秘伝みたいになっちゃうな。使えるわたしと、使えるけど使いどころのないお母さんがおかしいってことに。

 でも、みんな諦める気はないみたいだから、きっとそのうち使えるようになるよね。


「それにしても、詠唱しなくて良くなったのはすごいよネ。できるようになってみると、なんで今までダメだったんだろうってカンジ?」

「そうですね。未だに戸惑うこともありますけれど」

「ユリフィアスはやっぱり変人」


 ティアだけユーくんへの物言いがおかしいけど、なんだかんだ信用してるみたいだしいいのかな?

 最低限、卒業するまでにみんなウォーターカッターは使えるようになってもらいたいかな。きっと、これからもみんな悪意とは向き合って生きていかなくちゃならないんだろうし。

 それだけじゃなくて、強い魔物はもちろん、魔人とだって戦うこともあるのかもしれないし。その時絶対役に立つはずだよね。



「はい、確かに」


 アカネさんに納品とクエスト完了の報告をして、今日の冒険者活動は終わり。


「どうするー? ドコか寄ってく?」

「頭を使いすぎた。甘いもの」

「いいですね」

「うん」


 だいたいいつもこんな感じだよね。初心者だった頃は結構みんなぐったりしてたこともあったけど、今はほとんどない。焦って汚れて帰ってくるなんてのもないし。

 だけど。

 ざざっと、行く先の男の人が二人動く。そのまま入り口の前に立ちはだかられちゃった。

 ああ、こういうの久しぶりだなあ。


「お嬢さん達、俺達のパーティーに入らないかい?」

「遠慮させていただきます」

「要らない」

「トーゼン、却下」


 みんな反応が早いなぁ。まあ、三人はこういうのだけじゃなくて告白とかもあるみたいだからね。わたしより慣れてるのかな。


「いや、見た感じ魔法使いだけだろう? だったらさ、前衛で俺達が立ち回った方が」


 登録当初と比べてだいぶなくなったんだけどね、こういうの。この辺は、人の入れ替わりの激しい王都の駄目なところかな。

 反応しなかったわたしを狙ったのか肩に手をかけられたけど、やられて嬉しいと思われてるんだったら心外だなあ。まあ、やり返して変な文句をつけられないわたしで良かったのかな。

 周りを見渡すと、わたし達を知ってる人は親指を立ててくれて、アカネさんは指で丸印を作ってくれてる。

 身体強化を強めて、さらに武器強化。ユーくんなら風魔法も使うのかな。ともかく、大杖でわたしの肩を掴んでる方の顎を下から撃ち抜く。これが一番早い気絶のさせ方らしいからね。ユーくんほんと色々知ってる。


「ガッ」

「なっ」


 これに反応できない時点で前衛として問題外だよねえ。

 さらに、大杖の石突きでもう一人の足の甲に一撃。こっちはただひたすら痛いだけらしいけど、試したくないしどんなものなのかな。


「いっ、ぎひいい!?」


 打たれた男の人は、ブーツで多少防御されたはずなのに足を押さえてうずくまる。うーん、二人とも反応できないんだね。まあ、何が起こったかわからないほうがいいのかな、お互いに。

 周囲からは、音無しの拍手が贈られてる。それにお辞儀を返しておいて、二人を避けてみんなで外に出る。


「てめ、この……」


 敵意のこもった魔力が向けられてるけど、それ以上にその周りからもっと強いのが向けられてたから、気にするまでもないね。あとはよろしくお願いします。

 誰かが言ってた。魔法使いは別に頑張らなくても接近戦くらいできる。でも、騎士はどんなに努力しても遠距離戦はできないって。

 まあその誰かって、言うまでもなくユーくんなんだけど。



 みんなで行きつけのカフェに行くと、オープンテラスにユーくん達がいた。注文と了承を得て近くの席をくっつけて、一緒に座る。


「そういえばアカネさんから話を聞かなかったけど、珍しいね? 今日はクエストに行かなかったんだ」

「ああ、まあ……今日は謝罪日ってことでさ」

「そういうわけです」


 ユーくんの説明にセラちゃんが胸を張って同意する。レアちゃんは……苦笑してるね。

 三人はいつもと変わらない……様に見えるけど……ううん、見えないね。空気は、ユーくんが少し沈んでる以外はいつもとほとんど一緒だけど、見た目にはこれで同じだって言うなら鈍感って話ですらないかな。


「あの……セラちゃん? その髪の毛、ドシタノ?」


 誰よりも先にミアが聞いたけど、たしかにわたしも内心ではすごく驚いてた。セラちゃんの髪の毛、白銀になってる。


「ああ。ユリフィアスがそんなに心労を」

「そうなんですよ。ユーリ君が私をいじめて……」


 ティアの言葉に、よよよ、とセラちゃんが泣きそうな顔をする。けど、ユーくんは特に否定するようなことはない。これ逆にティアとセラちゃんがいじめっ子じゃないかなあ。


「……ユリフィアスさん?」

「受け取り方の問題なので。やり方が下衆だったのも事実なので弁明はしません」


 ユメが困った顔をしたけど、やっぱりユーくんは言葉通り否定も弁明もしない。もちろん、ユメだってありえないとはわかってるだろうけどね。


「とまあ、冗談はともかく。ユーリ君のおかげで新しい力を手に入れまして。うーんと。レア、ウォーターボール出してくれる? ちっこいの」

「ええ」


 レアちゃんがコップに収まるくらいの水の球を出し、セラちゃんがそれに手をかざす。次の瞬間には、水の球は凍りついていた。

 氷の塊は落下して、ジュースの中に沈む。


「ナニソレ、氷魔法?」

「ううん。だったら、発生からできるはずだよね」


 そう、氷なら単体で出せるはず。

 魔力探知の感覚では強化に近いように見えたけど、それで水は凍らないね。

 それに、火魔法使いのセラちゃんが氷に目覚めるっていうのは。無いとは言えないんだろうけど、ユーくんは相克関係から言って嫌がりそうな気がするし。


「ユーリ君によると熱だそうです。だから」


 ユーくんの前にあったお茶から、湯気が上がる。さっきは冷やして、今度は温めたのかな。


「まあ、今見せられるのはこれくらいですかねー。場所のこともありますけど、どこまでやれるかの把握もまだなので」

「はえー、これが進化魔法使いかー。初めて会ったカモ」


 そっか。魔質進化したんだ、セラちゃん。よかったね。熱、か。

 羨ましいっていう気持ちがないわけじゃない。氷が使えたらなと思うこともあるし。

 叶わぬ夢とかないものねだりとか身の程知らずとか、その間の差ってよくわからないね。ユーくんとセラちゃんを除けばみんな水魔法使いなのに、氷魔法使いが一人もいないっていうのが気になるのかな。


「わたしたちは、魔質進化することはないんですかね」


 レアちゃんも同じ気持ちなのかな。この中で劣ってるなんてことはありえないけど、ユーくんはほぼ無敵でセラちゃんは進化属性持ちになっちゃったし。水精霊の祝福でも、単属性のわたしは同じ感じかも。


「正直、その分野についてはわからない。専門で研究してる人もどこかにいはするんだろうが、発現した人に会うならともかく、そうなるところに出会うなんてほぼ無いみたいだからな。事例が少なすぎて無理だろう」


 そう考えるとオレは運が良すぎなんだが、ってユーくんは隣のわたしにしか聞こえないくらいの独り言で続けてたけど、たしかにそうかもね。

 ……なんて納得してから、なんでレアちゃんは外されてるんだろうってふと疑問が浮かぶ。知り合いっていう意味で言えばフレイアさんもそうだし、仮にソーマ様も入れると三人にはなるけど。学院内とか魔法士団にも他にいないよね。そもそも、他の二人が発現したところに立ち会えるわけはないし。


「うーん。アタシのも種族的なものだからネー」

「ティアさんは、精霊魔法っていうのも使えるんですよね?」

「ん。たぶんワタシはクォーターだから四属性のうち水だけ。それも運が良かった。お父さんは使えない。エルフェヴィア姉が」

「ブフッ」


 ティアが恩人だって言ってた人の名前を言った瞬間、ユーくんがお茶を吹き出した。当然だけど、みんなの目はそっちに向く。


「ユリフィアス?」

「あ、いや。あー、エルフのエルフェヴィアって、すごい名前だなと」

「む。たしかに。言われてみれば。まあ。ポンコツのエルフェヴィア姉が水精霊を説得してくれて使えるようになった」


 ティアは納得してみんなも苦笑いしてるけど、なんかユーくんは申し訳無さそうな顔をしてるような。みんなみたいに人の名前を珍しがるとかそういう感じじゃなくて。

 なんだろ。また謎が増えたのかな。

 エルフェヴィアさんかー。その人にも一度会ってみたいな。ソーマ様とも直接お話をする機会が欲しかったかな。

 その後は、精霊魔法の話とか、セラちゃんのお祝いをして解散になった。わたしとしても、気分転換になったから良い時間だったよ。



 二人で学院に通うようになってから、ユーくんのことを日記に書くことが増えた。

 こうなると、日記というかユリフィアス・ハーシュエス推理日誌かな。これはこれで別にあるけど。

 やっぱり、ユーくんにはわたしの知らない繋がりがあるのは確かみたい。そもそも、フレイアさんとの関係性もおかしいからね。会ったこともないフレイアさんに手紙が送れるのはおかしいし、面識のない相手を推薦してくれる事もおかしいもの。

 エルフェヴィアさんのこともそう。名前がって話だったけど、ユーくん、そういう冗談を言う方じゃないからね。思ってもないところから知り合いの名前が出てびっくりしたっていう方が正しいと思う。

 こんなことばっかり考えてるって知られたら、それこそ離れていかれちゃうかな。でも、ユーくんのことを知りたいのも事実だし。自分の心も難しいなぁ。

 ほんと。これも全部いつかぶちまけちゃう日が来るんだろうね。今でも知らぬ存ぜぬで通せてるかは怪しいけど。その時にユーくんを繋ぎ止められるかは、当たり前だけどわたしにかかってるのかな。

 うん。がんばろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ