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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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第十二章 校外懇親会は無事に済むのか

「いや最強はユーリ君でしょ」

「当然ですよね」

「誰がハーシュエスに勝てるんだよ」

「可能性的にはお姉ちゃん先輩?」

「頼み込んだらなんとか?」



 教室でされている話を、当の本人としては頬杖をついて聞いているしかない。

 今朝、毎年恒例の大規模なサバイバルをやるという通達があった。

 学院生全員参加。

 場所は王都郊外西の森入り口周辺。

 協力もあり。

 敵対もあり。

 監督は先生達と近衛魔法士団と冒険者ギルドから有志の参加。

 期間は半日。

 というなんともまあ曖昧なイベント内容しか伝わってこなかった。級友達はその中の「敵対」という部分を大きく抜き出した上で拡大解釈したらしい。いつの間にやらルール無用の実地戦闘を行うという発想で話をしている。

 たしかに、潰し合いがあるからこそその言葉が先生の口から出たのだとは思うが。このイベントの意図がなんなのかというのが一切説明されなかったのは誰も気にしていないのだろうか。

 いや、王都外のクエスト領域でやる上に魔法士団やギルド員が出張るということは、そのまま命の危険があることを意味する……そんな学校行事があっていいのか?

 などというオレの諸々の不安は、


「あのー。ユリフィアス・ハーシュエスくん、いらっしゃいます?」


 アンナさんの呼び声で保留になった。



 ユーリくんに勝つ方法。



 あるわけ無いですよねそんなの。ダンジョンで相手をしてもらったときもそうですけど、普通に戦っている時でも明らかに本気ではないですし。ヴェノム・サーペントの時や剣が壊れた時にその一端が見えたくらいでしょうか。

 ユーリくんを倒すとしたら、戦い以外の方法でしょうかね。たとえば……料理とか? ユーリくんのお母様の後ろ姿、すごく魅かれましたし。

 そうか、料理ですか。ユーリくんも並か苦手かもしれません。って、わたしもできないから意味ないですね。練習するところもありませんし。

 どうすればいいんでしょうかね。


「レアを人質にでも取ろうか」

「そうですねぇ……ってなんの話ですか!?」

「ハーシュエスくんを倒す話だけど……どうしたのファイリーゼさん?」


 ああ、わたしが考え込んでいただけでみんなその話を続けていたんですね。

 じゃなくて。


「セラはともかく、どうしてみなさんもそういう話に乗り気なんですか」

「レアなにげにひどくない?」


 だってセラはいつもそんな感じじゃないですか。いろいろ味方してくれているのはわかりますが。いえ、味方でしょうか? 本当に?


「手段を選んでいられるレベルじゃないって話だったんだが。アルセエットもファイリーゼも無理らしいし」

「たしかに無理ですけど……」


 言っていて悲しくはなりますけどね。事実は事実ですから、そこは認めないといけませんよね。


「でもなぁ、正直二人が羨ましく思う時もある」

「だよねぇ。なんかこう、上位三人とですごい差があるよね。一番はまた桁が違うけど」

「格も?」

「お姉ちゃん先輩が平民だからって話があったみたいだし、家格では勝ってる人多いかもね。でもそれで勝ったから何って感じだし、次の瞬間には取り潰されてそう」


 たまに思うのですが、ユーリくんの評価も大概ひどい気がします。もうちょっと言い方があるような。


「やっぱり、一度は勝ってみたいよなぁ。そうでなくても、教授を受けても気が引けない程度にはなりたい」

「だよねぇ」

「ともかく、普通のやり方じゃ無理だよね。だったらさ……」


 止めたほうがいいんですかね。なんだか悪巧みみたいになってきたような気がするんですが。みんな黒い笑いになってますし。

 ユーリくんに怒られませんように。



「そりゃもちろん、普通に考えればユーリはこっち側だよね。頼るにしても敵にするにしても、強すぎて盤上どころか盤ごと粉砕のバランスブレイカーだろうし」


 例によって、目の前にはフレイアがいる。ということはつまり、士団員として動けということか。


「毎年やってるらしいが、どういう意味があるんだこれ。卒業生全員が戦闘職につくわけでもなし」

「そうだけど、逆に言えばうちに来る可能性もあるじゃん? だから、生徒としては適性確認、学院としては関係構築と把握とガス抜きで、うちとしては戦力確認とスカウトって感じ」

「……なあ。なんか不穏な言葉が混じったんだが」


 なんだ関係把握とガス抜きって。つい最近一つ畳んだばっかりなんだが。

 いや、あの程度で畳めてはいないか。世の中そこまで甘くない。


「試験で全部篩い分けられるものでもないからね。軋轢は色々割り込んでくるよ」

「たしかに、そもそも何を基準に合格させられてるのかわからないところもあったが……」


 筆記は論説問題で採点不明瞭。実技は対戦形式で相対評価の上これもおそらく基準不明瞭。面接は当然のようにナシ。書類選考も有無不明。明確な合格ラインがあったとは言い難い。それをぶち抜いたのがオレたち姉弟だったとしても。


「問題は、どっちが主体側に回れるかか。これまで関わった中で死人が出たことは?」

「それをさせないために私達が参加してるんだけどね。まあ、私が参加してからは死んだ子はいないね。怪我はポツポツ、大怪我はたまにって感じ?」


 私が参加してからは、ってあたりはどういう意味なんだ。記録にある限りじゃ無いって意味なのか? それとも記録に無いってことなのか? もしくは、記録自体が無いって意味なのか?

 状況的にアウトなんじゃないかそれ。だから敵対だったのか。競争じゃなくて。

 わかっててやってるんだとしたら、学院側もタチが悪くないか?


「……平和な世界は遠いな」

「戦争はないけどねぇ。足の引っ張り合いと頭の押さえ合いはよくあるし」


 つまり、何もかも毎年のことではある、と。


「で、どっちで参加する? 士団として外から介入するか、生徒として中からぶっ壊すか」


 見守るって選択肢がないが、状況は悪く見積もっておいたほうが良さそうではあるか。

 中からぶっ壊すという表現もどうかとは思うが、


「今回は中から行くか。ヘイト分散にもなるだろうし。何より、どうもクラスメートが相手をして欲しそうな感じだったからな」

「いやー、それは無いと思うけどなぁ……」


 そうか?

 この機会にオレと手合わせをしたい魔法使いはいくらでもいるとは思うが。それが挑戦でも敵意でも。


「魔法士や冒険者が敵に回りたがってる可能性もあるからな。受けられる側に回るのがベターじゃないか?」

「そっか。そっちの可能性もあるか」


 身内が信用できないのもそれはそれで問題だが、誰だって善し悪し関係性も人間性もある。


「外側には優秀な弟子もいるからな。その弟子にも味方くらいはいるだろ?」

「まあね。わかったよ。こっちは任された」



 せっかくユーリと再会できたのに、仕事の話しかできないのなんとかならないかなぁ。

 まあ、辞めてもいいんだけどね魔法士団。正直、貴族位とかどうでも良くなっちゃったし、隊長職とはいえ立場もいいとは言い難いし。表立っては言わないし言われないけど。

 ていうか、こっちだって年食ったけどその分成長してるわけで、なのになんなんだろうね無反応なの。対象年齢狭いってわけじゃないと思いたいし実際そうだと思うけど。ほんとなんなんだろ。解決する可能性は期待できるみたいだし、それに賭けるしかないのかな。

 待ってて大丈夫なのかって問題もあるけど。なんか、聖女様ともアヤシイ感じだし、転生魔法の開発を手伝った邪魔法使いさんも女の子の気がする。理由はわからないけど、あのフウガって変わった剣を作った鍛冶師も女の子の気がする。さらにアイリスちゃんはマジっぽいし。パーティーメンバーも、セラちゃんはその気はなさそうだったけど、噂として聞くだけでももう一人のレアって子はそれっぽい。どうなってんのかなユーリの人間関係。

 あー、考えがまとまらないー! 考えることこれだけじゃないのにー!


「よし、辞表書こう」

「なんか頭抱えて悶えてたと思ったらいきなり何言い出すんですかワーラックス隊長!?」



『えー、では今年も近衛魔法士団所属魔法士の方々や冒険者ギルド所属の魔法使いの方々にも参加していただいて、大規模懇親会を行う運びとなりまして』


 当のイベントの前置きが始まった。

 学院長の言葉通り、士団とギルドがそれぞれ左右に分かれて並んでいる。

 師団側にはフレイアがいるのはわかるとして、ギルド側にはアカネさんがいた。アカネさんが働き者なのかギルドが人員不足なのかよくわからないなほんとに。

 しかし、レクリエーション意図だったのかこれ。サバイバルバトルじゃないんだな。


「……懇親会だそうだが?」


 クラスで集まっている割に距離のある級友に話しかけてみるが、何故か距離は縮まらない。


『将来の進路としては、魔法士や冒険者を目指す生徒もいるでしょうから、各組織の方々と交流して疑問を解消しておく場にも使ってください。加えて監督者も多くなるので、対人戦の経験を積む良い機会ということで、やりすぎないようにする分には是非の機会になるかと思います』

「だそうだぜ、ハーシュエス」


 代わりに、そんな宣戦布告が返ってきた。

 別にいいんだけどな、こっちとしては。ただ、


「……二人もか?」

「いい機会ですから」

「この状況ならこっち側かなって」


 まあ、クラスの結束を高めるのはいいことだな。オレが入っていないことに目を瞑れば。

 あちこちから視線と殺気が飛んできているし、忙しい半日になりそうだ。


『それでは、開始します。有意義な時間になることを期待します』


 って、いきなりか。周りも驚いて身体が跳ねている生徒が多い。


「ッ、ハーシュエス覚悟!」


 男子生徒の一人が声を上げる。それを合図にしたように一斉に詠唱が始まる。


「やるにしても……」


 風牙は使えない。殺傷力極大の抜き身はもちろん、鞘で殴るのもネレに申し訳ない気になる。乱戦で峰打ち連打の殺陣は難しそうだし。

 空間圧縮領域から、用意していた両刃剣を取り出す。こんな展開も考えて、柄と鞘を縛り付けて簡単には抜けなくしてある。

 魔力強化をかけ、探知で把握していた相手に向かって振るう。


「うわ、やめてよユーリ君! 仲間でしょ!?」

「なんで?」

「こっちがなんでだよ!? 私の扱いだけ雑じゃない!?」


 と言いつつ、セラは突撃をやめない。身体強化と防壁を合わせてかけているのと、すっとぼけながらもオレだって本気ではないので、容易く受け止められてしまう。


「止めた!」

「捉えました!」


 声の方を向かなくても、ウォーターボールを頭上に掲げたレアが飛びかかってくるのはわかっていた。右手はセラに止められているので、左手でウィンドボールを作って風圧で返そうとしたが、


「狙い通りではないですけどっ」

「は?」


 レアは何故かウォーターボールを解除して、オレの左腕に飛びついてきた。そのままガッチリと二の腕を抱かれる。


「今だ!」


 掛け声ととともに、四方八方から魔法が飛んでくる。

 自爆戦法か!? どんな発想でこうなった!?

 しかも、魔法は級友たちからだけ飛んでくるわけではない。明確ではないが、他クラスの同級生はもちろん上級生からも飛んでくる。


「こんなことしたら二人とも巻き込まれ……」


 そうかオマエら、オレがセラとレアを守るとわかってて、って誰の発案だこれは!

 ウィンドウォールを全開に。一瞬だが竜巻ばりの出力を出した風が、火水土の魔法を一気に弾き飛ばす。


「これは狙い通り!」

「ああ、そういう」


 剣を掴みながら、発案元のセラは笑っている。

 よし、じゃあお望み通りにしてやろうか。

 セラが掴んだ剣、というか、鞘に魔力を込める。それを探知しているであろう当人が叫ぶ。


「来るよ!」

「防壁担当前へ!」

「了解っ!」


 情報伝達に対する反応が早い。役割分担と意思疎通。知らない間に随分仲良くなったな。だが。


「いや下がれ」

「え?」


 セラは防壁で受けた剣を逃すまいと掴んでいた。それでも、身体強化済みのオレはそのくらい楽に持ち上げられる。


「ちょ!?」


 セラと剣の間に防壁を展開。そのまま振り下ろす。超近接距離で放った魔力は、オレとセラ自身の防壁を砕くことなく、押し飛ばすように動く。

 つまり。

 魔力斬でセラを飛ばした。


「ヒェェェェ!?」

「セラァァァ!?」


 左腕を掴んでいるレアも悲鳴を上げる。が、飛んでいる最中に見えたセラの表情は、不敵な感じの笑顔だった。

 着地したあとも、やはりそういう表情をしている。


「これも予測通りだね。実力差を考えると本気にはなれないからね、ユーリ君」


 なるほどな。そういう前提ならオレは防御力が高いだけになるか。しかも、今はレアまでくっついている。

 うん。くっついているというか、


「絶対離しません!」


 身体強化でガッツリ組み付かれている。こちらも身体強化をかけていなければ、関節がいくつか増えていそうなくらいに。

 身体バランスも崩れるし、この位置関係だと、


「総攻撃ィ!」


 レアも守らないといけない……ってそれでいいのか当の本人は?


「はぁ。ちゃんと掴まってろよレア」

「言われなくて……もぉぉぉ!?」


 その場でスピン。風魔法で旋風を起こしながら魔力斬をばら撒く。


「うわぁぁぁ!?」

「防御しろ防御!」

「わたし攻撃してないんだけど!?」

「僕もぉ!」

「俺もだっ!」


 予想外のところまで被害が出ているようだが、牽制以上の威力はない。怪我をすることはない、と思うが。


「じぇったいはなしゅましぇんー」


 確実に一番ダメージを受けているレアは、どんな力を発揮しているのかオレの腕を掴んだまま振り回されているものの離れていかない。


「……仕方ない」


 回転を止めて跳び上がり、ウィンドボールを作る。複数行使、強化、圧縮。そのまま真下の地面に投げつけ、全方位の突風と自分への追い風を起こす。


「「「ギャアアアア!?」」」


 周囲から悲鳴が聞こえるが、さすがにこの程度で死人は出ないだろう。ただの無茶苦茶な風だ。

 この状況で取れる最善手はおそらくこれ。三十六計逃げるに如かず。



 くっそー、やるなユーリ君。あたりまえなんだけどさ。

 何よりすごいのが、ちゃんと手加減できてるってことだよね。つまり、それだけ力の差があるってこと。実力差が近いとお互いにムキになるからね。

 当のユーリ君だけど、風魔法で飛んでったのは魔力探知でわかってたけど、私の探知範囲外に出たのか隠蔽をかけたのかわからないけど、すぐに捉えられなくなっちゃった。いやー、ホントまだまだだね。アイリスさんはこれでも探知できてるのかな。

 ところで、さらわれたお姫様の方はどうしてるのかな。この展開だけは予想外だったんだけど、すごい根性だよねーレア。ユーリ君がどう思ってるか知らないけど、レアにとっては役得なんじゃない?

 ま、せっかくだし上手くやりなよー。



「……大丈夫か?」

「大丈夫のような、そうでもないような……」


 足を止めて数分経つが、レアはまだ目を回している。流石にぐるぐる振り回された後に空を飛べば気分が悪くなるのは当然だと考えると、よく耐えている方だろうか。

 そこまで無理しなくても良かったんじゃないか? と思ったのだが、掴まってろと言ったのはオレだった。離せと言って離さないとも思ったんだが、言葉を間違えたか。

 しかしこれ、どういう状況だと考えるべきだろうな。だいぶ離れたが、姉さんとフレイアの探知なら届くはず。魔力や温度の隠蔽はレアも含めてかけているから、この空間範囲の魔力量が均一になっていることを不自然に思わなければ気づかれることもない、はずだが。気づくだろうな。そもそも気づかれても問題はない。

 それはそれとして、散会になる日没まではまだ四半日以上ある。その時間をこうして隠れ潜むのは、面倒な上に時間の無駄と言わざるを得ない。


「これからどうす……」


 とりあえずレアにこれからの行動を聞こうと思ったが、その彼女は、



「二人きり……二人きり……二人きり……」



 目を閉じて、謎の呪文を延々と唱え始めていた。

 いやまあ、二人斬ったとか斬られるとかじゃなくて他に誰もいないという意味なことくらいはわかるが。なんだその反応は。

 息を吐き、背にしていた木に完全に身を預ける。昼にはやや早い。周囲に敵対的な魔物の気配もないし、レアが正気に戻るまでしばらく休憩か。


「いい天気だなぁ。そこは救いか」


 クエストに出れば天候が荒れることなどいくらでもあるとしても、それが考慮されるのはさすがに学校行事か。雨が降っていたら軍事訓練みたいになったかもな。


「ハッ!? あれ!? ここは!?」

「おかえり?」


 弾かれたように頭を上げたレアに、とりあえず声をかける。これで良かったかな。


「あ、えーと、ユーリくん。ここは?」

「さあな。襲われるのが嫌だから集合場所からはだいぶ離れた。ただ、降りる前に見た感じだとそこまで深くは入ってないな」


 位置は、西の森の入り口から二キロ未満といったところだと思う。ホーンラビットのクエストでハウンドと遭遇した位置まではまだもう少しあるだろうか。

 たとえ襲われたところで、今のレアなら身体強化で木の上に逃げられる。ブラッドグリズリーでも出てこない限りは口笛も吹いていられるし、出たところで敵ではない。

 ……フラグじゃないぞ。周囲にはいないからな。


「こ、こうして二人きりになるのは……あれ? そういえば、初めてですかね」

「ん? ああ、言われてみればそうだな。だいたいセラかそれに加えて姉さんがいたから」


 なんだかんだで、セラが忙しなくしているから場が動いている所もあるのかもしれない。それ以上に、さっきまでレアがテンパっていたのが大きいが。


「たまには、静かなのもいいですよね」

「ああ。無音の森も風情があっていいな。森林浴も悪くない」

「森林浴、ですか?」


 あ、そうか。これはこっちには無い言葉だ。

 この世界には光合成の概念はなくて、魔力の浄化の推測だけがあったんだったか。


「樹木の吐き出す清浄な魔力に触れてリフレッシュしようっていう医療行為みたいなものだよ」

「はあ。ユーリくん、魔法以外も博識ですね」


 前の世界の概念だから、博識と言われるのもどうかと思う。あるいは、この世界のどこかにもそういう言葉があるだろうか。そもそも魔物が徘徊するこの世界の森では、警戒を解いてゆっくりするという事自体が不可能に近いのだが。魔力探知様様だ。

 そういう事情はともかく。さっきとのギャップが大きいからもあるだろうが、たしかにいい時間だな。森と言いつつそこまで植生が濃いわけではないから、木漏れ日も差しているし、時折心地いい風も通っていく。華もある、と言うとキャラがおかしくなるか。

 なんてことを考えていると、レアはまた呪文を唱え始めた。次は「話題」らしい。

 無理に話で場を持たせようとしなくてもいいのにな。こうして座ってるだけでそれで。


「あ、え、と。ユーリくんは、卒業後はどうするんですか? 魔法士団に?」


 見つけた話題はそれらしい。そういえば、そういう関係性をつくる場でもあったか。


「逆に、初めから無いのがその選択肢だな。ここ百年軋轢が無いとはいえ、国家間の力関係に加わるのは主義に反する」


 リブラキシオム王国を含めた各国が領土拡大を狙っている様子はないが、この世界の全員がそうとは限らない。他人を蹴落とそうとしたり権威を神聖視したりする奴らはどこにでもいるし、国家転覆を狙っている集団とは対峙したばかりだし、バランス崩壊要因はいくらでもある。それが国家間にまで波及する可能性もある。

 しかし、どこかの国に属するということは裏を返せばどこかの国に属さないということでもある。王国の体制に入ってしまえば、帝国や聖国の状況に瞬時介入できなくなる。


「では、冒険者を……いえ、ご実家に戻るんでしょうか」

「その辺はなあ。父さんも母さんも気にしてないっていうか、もっと向いてる道があるだろうからそっちに行けとは言ってくれてるし」


 理解のある親と言えばそうなのだが、息子としてはそうするのは薄情だろうな。

 暴れ回れば両親に影響が及ぶ可能性も含めてその進退まで考えてしまうのは、オレの精神年齢が高すぎるからだろうか。正直、転生前は考えもしなかった問題なので、オレも浅薄にすぎる証拠ではある。あまりにも家族関係が良すぎたのもあるかな。


「定期収入がないのは辛くても、当面は冒険者稼業だな。それ以前に学院を卒業しなくちゃいけないが」

「あはは、そうですね」


 レアは笑ってくれたが、オレの心は逆に曇ることになった。

 言ってから改めて気づいてしまったのだが、オレは別に学院に比重をおいていない。人生は取捨選択。もし何かあれば、オレは即座にこの立場を捨てて出ていくだろう。学院を卒業する必要があるというのなら、その手段も教えてもらったしな。そもそも姉さんもいなくなるわけだし。


「それで……ユーリくんは」

「オレの結論なら、結局の所は決まってないってのが回答だな」


 オレの求める職業なんてないだろうけどな。強いて言うなら正義の味方あたりが近いのかもしれないが、基本的にああいう人たちは無報酬だし。

 何より、誰にも話せはしないが無限色の翼プリズムグラデーション・エールのこともある。

 という答えが欲しいわけではなかったらしく、レアはふるふると首を横に振った。


「いえ。わたしの……わたしたちのことについては興味がないのかなって」

「レアの……それは聞いていいことなのか? ああいや、前に魔道師や魔法士の話はしたよな」


 どんな魔法使いになりたいのかは聞いたな。明確な答えはもらわなかったが。


「そういうことでもなくてですね。わたしたちがどういう人間なのか……いえ、わたしもセラのことを知っているわけではありませんけど」

「そうなのか? 幼馴染みだとまでは思ってなかったが」

「試験の時に助けて貰ったのが初めてですね」


 そうだったのか。

 それで親友になれるのは、同性故だろうか。それに二人の気質か。


「で、だ。そういうのを聞くのはマナー違反じゃないのか?」

「そうですけど、実際のところは聞かれたいか聞かれたくないかだと思います」


 たしかに、本質的なところはそこか。相手に自分を知ってもらいたいか否か。あとは、自分語りをウザいと感じるかどうかというところだろうか。


「二人とも、まっとうな魔法使いから教えは受けたんだろうってことはわかってたけどな。あと、所作とかが洗練されてるなって気はした」


 わかりやすいのはテーブルマナーだろう。オレ自身そこまで詳しいわけじゃないが、二人とも余裕は感じる。レアがそうなのは当然として、セラは一見微妙に見えるがわざと崩しているのが見ていればわかる。

 対して、ハーシュエス家は現状では平民ということになる。家系図を辿ればどこかに何かが混じってるかもしれないけれど、詳しく聞いたことは無い。


「貴族もいいものばかりじゃないですよ。ユーリくんなら当然そのあたりはご存知でしょうけど」

「含みのある言い方だな」


 苦笑してしまう。レアの家もあくどい事をやっているということだろうか。


「そういうわけではないですけど、家格のこともありますし不自由もそれなりにあるということです」

「卒業後の生き方が決まってるとかか?」

「いえ、それはまだないですね。あ、婚約者もいませんからねっ!」


 何を強調したのやら。まあ、結婚相手によっては生き方の殆どが決定してしまうこともあるだろうから、重要なことだろうけどな。


「じゃあそういうことを抜きにして、レアはどうなりたい? 家を継ぐか?」

「そうですね……それはありえないですけど……」


 レアは数秒だけオレの方を見て、目を逸らす。何か含みがありそうななさそうな、なんだろうな。


「少なくとも、ユーリくんの役に立てるくらいには強くならないとダメ、いえ、強くなりたいです」


 それは、近いのか遠いのかわからない目標だな。到達点があるわけでもない。

 オレ自身はどうなんだろう。ユリフィアス・ハーシュエスの人生と、ユーリ・クアドリとして作り上げたものをどう繋げていけばいいのだろう。

 フレイアはもちろん、ミアさんもその中間部分に立つ存在になった。確証はないが、姉さんも立ち位置としてはだんだんユーリ・クアドリの方に近づいているような気さえする。

 それを明かした時、みんなどう思うんだろうな。あるいはやはり、それが色々なことへの決定的な決別や決断になるのだろうか。


「いつか、ユーリくんの話も全部聞きたいですね」

「それは、ッ」


 前触れ無く水の放射が襲う。常時展開の防壁で凌いだが、それ以上の威力だったらやられていただろう。

 魔力探知に予備動作がまったく引っかからなかった。そんな魔法行使は……一つだけある。


「な、なんですか!?」

「敵襲、かどうかは微妙なところか」


 全方位に魔力放出。魔力の波が相手の纏っていた偽装を押し流す。


「わかってはいたけど。やはり出力が足りない。魔力量も桁違い」

「ティア先輩!?」


 精霊魔法。“魔法探知で知ることのできない者”からの魔法攻撃だ。そいつができるのは、エルフ以外にいない。


「全然気づきませんでした。ユーリくんは?」

「オレもだな。攻撃の瞬間だけだ」


 精霊がこんな高度な隠蔽までかけてくれるものだとは知らなかった。


「いつから隠れてたんですか。覗きは褒められたもんじゃないですよ」

「そう? 助かったと思うけど」


 どっちとも言えないな。いろいろ言わなくて済んだが、先送りにしただけでもある。


「……わたしは、助かってないです……じゃあ、ユーリくんが……?」


 なにか、隣から怨嗟の声も聞こえてくる気がするが。なんの怨嗟かはともかく、気のせいではないだけに困る。


「いきなり攻撃されて、助かるも何もないと思うんですが?」

「そこは別。ユリフィアスを倒す。そう言ったはず」


 いや、言ってたけどさ。上級ダンジョン行った時。

 あれ、本気の発言だったのか。

 流石に殺気はないから命のやり取りは……いや、ティアさんからあまり感情の抑揚自体が感じ取れないから、本当はその気なのかもしれない。いやいや。


「それにしても、まさかティアさんに最初に見つかるとは。驚きの索敵能力ですね」

「アイリスは掴んでたみたいだけど話さなかった。だから水精霊ウンディーネに聞いた」


 マジか。精霊はそんなことを教えてくれるのか。

 ……いや、待った。精霊はそれを教えてくれるだって?


「ティアさん。諸々すっ飛ばして是非にお聞きしたいことがあるんですが」

「何? 下手に出すぎて怖いけど」


 一応、攻撃に移らずに答えてくれるらしい。ここから奇襲をかけても意味がないからかな。

 僥倖。この質問と答えは、オレにとって、いや、ある意味で無限色の翼プリズムグラデーション・エールにとっての福音になりうる。

 まずいな。心臓がうるさい。深呼吸。違うさっさと聞いてやれ。



「精霊って、マッピングやナビゲートをしてくれるんですか?」

「してくれる。関係性や交渉次第でもあるけど」



 今、一つの解が出た。

 驚愕の事実だ。オレにとっても。ララとリーズにとっても。もちろん、レヴとネレにとっても。


「ああ……そうなんですね……そうなんですか……それは」


 精霊はそこまで親切なんだってさ、エル。思わずリーズみたいな話し方になっちまったぞ。

 どうなってるの貴女の周りの精霊達? 嫌われてるの? 遊ばれてるの?


「ユリフィアス? 驚きの場所がおかしい? 気のせい?」

「いえ。感動すべきか悲嘆に暮れるべきかと」


 感動はないな。悲嘆と動揺は酷いが。

 どうか、エルに精霊の導きがありますように。言葉通りの意味で。


「……ティア先輩」


 そんなオレの心の中とは別に、隣で呪いの言葉を吐き出していたレアが現実に戻ってき、


「ユーリくんの前に、わたしの相手になってください」


 ……なんかキレてますね。

 ここ最近、レアのキャラがおかしいな。最近というか、魔人騒動があってからか。魔法と感情は密接関係にあるとはいえ、これは成長傾向と見るべきか情緒不安定化と見るべきか。


「ルートゥレア。ワタシはユリフィアスと」

「では、問答無用ですね」


 返答も待たず間髪も入れず、レアは水魔法を展開し、放つ。前回ダンジョンでやりあった時より精度が上がっている。


「我が守護は水の如く」


 ティアさんも当然、防御と攻撃のために魔法を展開する。詠唱もしていたし、今回は魔力の流れが追えた。ということは通常の魔法。どちらも使えるわけか。


「水精霊。お願い。ルートゥレアに集中放水」


 ティア先輩が宙に向けて話すと、虚空から水の柱がレアに向けて放たれる。

 通常と精霊どちらの魔法もそうだが、詠唱と伝達の分だけティアさんの魔法は展開が遅れる。そこはレアが勝っている。

 だが、戦闘経験の数による戦術の組み立てと、全く読めない精霊魔法の行使がティアさんの強い得手として働いている。大きいのは精霊魔法の方か。読めない上に絶えない攻撃はそれだけで脅威だ。


「ユーリくん! 大杖の持ち合わせはありませんか!?」


 無言でお望みのものを取り出し、投げる。ノールックで受け取ったそれに、というか、手で掴み取る前から魔力が充填されているのがわかる。


「ユリフィアス! どっちの味方!?」


 そりゃレアでしょうよ。敵の敵だし、それ以上になんか怖いもの。

 レアは魔力を込めた大杖を力任せに振るう。さらに、水を撒き散らすように全方位に放射。ウォーターストームに近い魔法の使い方だ。

 精霊は人間には見えない。存在の位相が違うのか探知の練度や魔法のレベルの問題なのか、オレには未だに存在知覚すらできていない。敵対関係にはなかったから、人間の使う魔法が効くのかもオレは知らない。つまり、精霊についての知識は、エルフに力を貸してくれるということくらいしか知らない。

 だが、虚空から放たれる魔法が明後日の方に飛んでいるのを見れば、動揺かダメージかはわからないが効果があるのはわかる。さらにその余波は直接間接ともにティアさんにも届いている。


「っ。無茶を」


 魔法が止まった。明らかな好機だ。

 レアは身体強化で距離を詰め、接近戦に。振り下ろされた大杖を、ティアさんはからがらといった体で避ける。が、レアは止まらない。止まるわけもないし止まる理由もない。


「これは。魔法使いの戦い方じゃない」

「いいえ! わたしの知る限り最強の魔法使いの戦い方ですっ!」


 レアが言ってるのは、オレなんだろうなあ。最強かどうかはわからないが。

 大杖使いの姉さんも同じような戦い方はできるだろうが、どちらかと言えば遠距離主体だ。できるのとやっているのは別で、ティアさんにそれを見る機会はなかったんだろう。

 そもそも、得物は大杖と杖。殴り合って勝つのはどっちだろうね。

 さらに言うと、殴り合いだけではなくレアはティアさんの後方から水魔法を撃ちまくって退路を塞いでいる。自爆しない角度な辺りまだ躊躇いはあるのだろうが、実質二対一の挟み撃ち。相手は魔法だけではなく物理防御も必要になる。

 いい戦法だ。これができているのなら、対魔対人問わず手持ちカードの一つになる。


「……絶対に逃さないです。ここで倒しておかないと、またこうなりそうですから」

「っ。アイリスの言うこと。聞いておくべきだった。水精霊。魔法防御をお願い」


 姉さんがいつ何を言ったかはともかく、ティアさんが本気で後悔しているのがわかった。

 魔法と物理を天秤にかけて、大杖の方に注意の比重をおいたのだろう。予測や把握のラグがある魔法と違って大杖は常に見えているのだから、正しい選択と言える。

 それにしても、魔法を乱発している割にガス欠しないなレア。上級ダンジョンで魔力酔いを起こしていなかったし、日頃から意識的に鍛錬していたのか。

 とまあオレは状況を冷静に分析しているが、魔力は周囲にバンバン放たれている。感知できる者なら飛んでくるのは当たり前で、


「ユーリ! 大丈夫!?」


 フレイアが隣に滑り込むように並んできた。

 まるでヒーローのような登場だが、カッコよく現れたあとはぱちぱちとまばたきを繰り返して、やりあっている水魔法使い二人を見比べている。


「えーと? ユーリのそばが騒がしいなと思ったけど、何これ? どういう状況? 私闘?」

「レア……大杖を持ってる子と話してたら、クォーターエルフの方のティアさんに絡まれてというか横槍を入れられてというか。そこからこうなった」


 どう説明したものだろうな。これで間違いではないはずではあるが。

 キャットファイト? いや違うな。


「んー? あー。なるほどねー。それでああで。そりゃこうなるよね」


 何に納得したのか、フレイアは渋い顔をしている。

 しばし考え込んだあと、笑顔で深くうなずく。何かが腑に落ちたということか、諦めただけか。わかった方だったなら、この現象の名前を教えてくれないだろうか。


「じゃあ、ここは責任持ってよろしくね? 私は他の爆発しそうなところ探すから」

「了解」


 飛び去る瞬間、「ライバル多いなー」という声が聞こえた気がした。じゃあ“決闘”ですかねこの状況の名称。

 ライバルねぇ。今の所、オレの知り合いでフレイアに敵うのはレヴくらいじゃないか。次点でララ、搦め手でリーズか。やるわけないけど、物で釣ってネレ。

 で、それはともかく。二人とも本気で相手を殺しにかかっているわけではないのはわかるのだが、そろそろ止めるべきだろうか。それとも、納得行くかどちらかが倒れるまでやらせるべきだろうか。

 いや。止めるまでもないな。そろそろ終わりだ。


「ユーリくんとの……ユーリくんとの……! せっかくいつもより……!」


 レアの持つ大杖が悲鳴を上げている。魔力強化が限界だというサインだ。

 飛び上がり、頭上振りかぶりからの一閃。大杖でやることでもないし、それって勇者的な存在が使う技ではないですかね。


「我が守護は水によりて! 水精霊も! 防壁を!」


 ティアさんも防壁を展開するが、その防壁をレアの一撃が叩き割っていく。姉さんのものには届かないとは言え、改造しすぎたかな。

 やばいかと一瞬思ったが、ティアさんがニヤリと笑ったのが見えた。理由を探すとすぐにわかった。その顔と大杖の描く円の間にはわずかに距離がある。

 なるほど。防壁を張った瞬間やや身を引いたのか。あれなら直撃は避けられる。が、


「魔力斬ッ!」


 それはあくまで、大杖の届く範囲の話だ。そこからさらに伸ばされた魔力が届かないはずはない。防壁はすべて魔法と物理の複合攻撃で割れている。魔力斬はティアさんに確実に届く。

 そもそも初めから相手が避けることなんて考えていなかったな、多分。


「ぐっ。うっ!」


 魔力斬の直撃でティアさんの体が後ろへ飛ぶ。それでも、地面に叩きつけられる瞬間に防壁が展開したのがわかった。精霊の助けだろうか。


「わたしだって、いつまでも引いてばかりじゃありません!」


 高らかな宣言が辺りに響く。勝ち誇った様子ではなく、憤慨といった感じだったが。


「……ルートゥレアの本気。甘く見てた。貴女の勝ち」


 地面に寝転がりながら、ティアさんも呟く。

 いや、そんな話だったか?


「お見事、レア」

「はいっ! ……あれ?」


 二人とも、当初の目的がどこかにすっ飛んでいっているようだ。オレにもイマイチわかっていないが。

 ともかく、ルートゥレア・ファイリーゼ対ティアリス・クースルーのカードは、レアの方に白星がついたということだ。当人たちの思惑はともかく。


「わ、わたし、頭に血が上って……」

「悪くない戦い方だったよ。それに、魔力斬まで使うとは驚いた」

「それについては、ユーリくんがいつも使ってますから、それをなぞる感じで練習だけはしてました。あそこまで魔力を込めたのは初めてですけど」


 つまり、魔力斬線が思い通りに飛ぶくらいには練習したということだ。必殺技作成の一環かな。


「で。ティアさんにポーションを渡してもいいか?」

「ああ、ええ、そうですね」


 ここに放置していくわけにも行かないだろうし、許可を取る必要もないとは思うのだが、聞いておかないとまずい気がしたのだ。

 というわけで、許可を得てから……いやその前にレアに各種ポーションを渡してから、ティアさんにも同じものを渡す。


「ありがとう。ユリフィアス」


 寝転がったまま飲んでいるが、変なところに入らないのだろうか。

 しばらくそのままでいたティアさんは、いきなり俊敏な動作で立ち上がり、オレを無視してレアに近づき、両肩を叩く。


「邪魔して悪かった。そのままの勢いなら行ける。がんばって」


 なにをだ?

 そう思ってレアの顔を見ると、戸惑いと覚悟が半々くらいの表情になっていた。

 ティアさんはレアから離れてオレたちに背を向け、ひらひらと手を振って去っていく。なんて無駄にカッコいい去り方だ。

 こうしてまたオレ達は二人きりになったわけだが。さっきは何を話していたんだったかな。


「物を運ぶその魔法、普通に使うようになったんですね」

「最近魔力が余り気味だからな。それに、色々備えておけばよかったと思うこともあったし」


 日常的に使ってみて、そこまで魔力を消費するものでもなかったのもある。色々天秤にかけてみると使っておいて損はないという結論に達したので、憂いがないようにすることにしたわけだ。


「……ユーリくんって、隠し事が多いですよね」

「いきなりだな。いや、この魔法のせいか。これも含めて当然、話せないことはいくらでもあるだろそれは」

「そうじゃなくてですね。そうやって笑ってごまかせない隠し事というか」


 笑ってごまかせない隠し事、ね。やめろよ。笑えなくなるじゃないか。

 そうだな。そっちのほうが多いかもな。オレの根源自体それなのだから。


「わたし、強くなりますから。ユーリくんが全部話してくれても大丈夫なくらい」


 宣言して、レアはニッコリと笑う。

 眩しいな。レアよりもオレが応えられなくなりそうなくらいに。

 期待してる、でもない。頑張れよ、でもない。オレがかける言葉は、


「待ってるよ」


 これ、だろうかな。



 ユリフィアスと勝負をしようとしたはずなのに。ルートゥレアに割り込まれた。

 まあ。ルートゥレアにとってはデート中に割り込まれたようなもの。怒るのは当然。負けるのは当然ではなかったけど。恋する乙女は強いということ。たぶん。アイリスも強いし。

 その上。帰り道に男子に何回か絡まれた。連戦でいくらか貰ったけど。勝ったので良し。良くはない?

 思考を戻す。ルートゥレアとユリフィアスのこと。

 ユリフィアスがポンコツじゃなければもう片付いてるのに。でもアイリスはどうなるのかな。そもそもアイリスに目はない?

 わからない。向いてない。ワタシ。

 と言うより。ワタシもユリフィアスと同じかも。恋とかわからない。水精霊もこういうことは教えてはくれないし。

 エルフェヴィア姉ならどうするのかな。こういう時。

 エルフェヴィア姉なら。

 エルフェヴィア姉なら?

 あ。ダメだ。エルフェヴィア姉はユリフィアスよりもっとずっとポンコツだった。おそろしい。なぜかワタシの周りにはポンコツしかいない。



 他愛ない雑談をしながら元の場所に戻ると、頭数はだいぶ減ったもののそこそこの生徒が残っていた。

 探知を広げると、そう広くない範囲にバラけていくつものグループがある。しばらく様子を見たがまだ小競り合いは起きていないので、目に入った集団のところに歩いていく。


「あー、ほはへひー」


 少し早めの昼食を頬張りながら、セラが何かを喋る。おかえり、だろうか。

 ユメさんとミアさんもいるが、そばでぐったりしているフレイアと姉さんの介抱に忙しいようだ。フレイアはともかくとして、こういう状態の姉さんは珍しいな。


「質問攻めがひどかった……」

「勧誘が多くて……」


 あー、こっちでもそういうアレコレがあったんだな。

 フレイアについては考えるまでもなくあり得た話で、姉さんについては考えればあり得たのにってところか。予定では今年卒業だし。パーティーを存続するかという問題もあるだろうし。


「アイちゃん大人気だったよネ」

「ですが、一人一人お断りするのは大変ですね。純粋な勧誘だけではありませんでしたし」


 そういえば、士団の男連中がどうのってのも言ってたな。クラスメートからの魔法に混じってそっちから飛んでこなかった辺り、生徒を痛めつけることについては最低限の自重はあったわけだ。その代わりにストレートに姉さんに目が向いたのか。

 で、フレイアは。


「私、大道芸人じゃないんだけど……? せっかく一回抜けたのに、戻ってきたらまた囲まれるし」

「でも、カッコよかったですよ炎魔法乱舞」

「あははー。ありがとセラちゃん……はあ」


 こっちも重症だな。っていうか、広告塔どころか見世物にされてたのか。

 魔質進化や特殊属性については、聖女や聖女候補のことを考えればかなりの数がいることになると思う。だが、身近にいるかは別の話だし、どんな属性かとか、それが憧れになりうる属性かとか、興味の大小は当然起こりうる。

 それにしても、将来を考えるのはまだ早いとか思っていたのに、眼の前にそれを考えないといけない人達がいたんだな。全然意識していなかった。どころか、


「そういえば、姉さんが卒業後どうするのか聞いてなかったな」

「え、えぇー? はぁー? ユーリ君、それはちょっとさぁ……」


 セラに言われるまでもなく酷いのは自分でもわかる。だからって、表面上年下のオレが相談に乗るというのもそれはそれで違和感がないだろうか。

 それに、姉さんはオレに迎合して二つ返事で決めかねないからなぁ……いや、それはない、か? 微妙だ。


「んー、そうだね。最近まで引っかかってたこともあったから、改めて考え直さないとね」

「あー、魔人の一件で詰まってたもんね。あの状態でウチに勧誘するのはどうなのかなとか思ってたし。でも今は大丈夫になったみたいでよかったね」

「いえ、それではなくて。実家の周囲に面倒があったんですが、最近になって無くなったので」


 ん?


「うちの周囲の無くなった面倒? そんなのあった……あー、アレか」

「なんて言えばいいのかな、アレ」


 あれは、モノじゃなくて人というか、モノであり人でもあり。本当になんて言えばいいのか。


「横恋慕とか懸想じゃないよな。強いて言えば人攫い? そういや結局名前を知らないままだな。興味なかったし」


 オレ達姉弟の話を聞いて、ダレていたフレイアが素早く立ち上がる。


「よし燃やしに行こう」


 いや待て待てフレイア。目がマジだぞ。いくら権力側だからってやっていいことと悪いことがある。いやあのときオレもなんの因果か権力側だったけど。


「片付いたって言って……そうか。アレ、片付いたんだな」

「うん」

「ん? あー、御実家にお邪魔したときのやつ?」

「えーと。アイリスさんが魔法学院に通うことになった話に出てきた相手とあの時の相手が同じだったということですか?」

「ああ、あの話。解決したんですか」

「ヘー。よかったネ、アイちゃん」

「え、実家にお邪魔って何。そんなことしたのセラちゃんとレアちゃん」


 そういえば、その辺りの関係は詳しく説明していなかったか。それにそこまで意識していなかった。姉さんが学院に入ってからも細々とした嫌がらせはあったからな。


「そうか。もういいのか」


 姉さんが魔法使いになったのは、あの件を有耶無耶にするためだった。その懸念が綺麗になくなって父さんと母さんにも危険がないのなら、姉さんはもう何にでもなれるな。魔法使い以外の、なんにでも、



「魔法使いはやめないよ?」



 オレの逡巡を吹き飛ばすように、姉さんは微笑む。


「ユーくんみたいに身体強化や魔法剣を使えば騎士にもなれるかもしれないけどね。でもやっぱり、わたしは魔法使いが向いてるよね」

「いや、姉さん。家に戻ってのんびり暮らすって選択肢をだな」

「それもいいけど、弟を守るのはお姉ちゃんの役目だからね。無茶するユーくんにはわたしがいないと」


 理想的なお姉ちゃんとしての笑顔に笑ってしまう。

 姉さんは聖女じゃないし、その適性もないが。間違いなく素質はあると思う。むしろ、光や聖属性の条件ってなんだろうな。


「あー、ユーリ君はお姉ちゃんには勝てないねー」

「最強決まったネー」


 ねー、とセラとミアさんは悪巧みでもしているように笑う。

 まだやってたんだな、その最強論議。

 人の実力は、状況でかなり変わるものだ。というか、何を持って最強とするかにもよるし、ルールとズルのアリナシでも変わってくる。

 レアとティアさんだって、本気でやりあえばティアさんの勝ちだっただろう。相手を必要以上に傷つけないという前提なら、お互いの実力差がどれだけ開いていても、いや、開いているからこそ強い方の制限が大きくなるし、足りなければ全力以上の力が出せる。

 ところで、そのティアさんがいないな。なんでだ?

 魔力探知で探ると近づいては来るが、オレたちより先に戻る方向に歩いて行ったのに。誰かと違って遭難体質でもないようだし。


「お待たせ? 待たせてない?」


 オレ達のところにたどり着いたティアさんは、レアとやりあったあとほどではないがまた疲弊しているように見える。何かあったのか。


「ポーションで回復しましたよね?」

「あの後襲われた。割と多い。エルフでクォーターは珍しいから」

「ッ」

「な」

「え」

「そんな」


 レアと話すことに気が行ってて、探知がおろそかになっていたか。ここにも人種間問題はあったんだな。

 水精霊の祝福を取り巻く状況は複雑だな。敵意と敬意が一緒に襲ってくるとは。

 しかし、そのメンバーがさほど驚いていないのは慣れてるからなのか?


「すみません、気が回らなくて」

「ユリフィアスが謝ることじゃない。それに。勝ったら交際とかパーティー参加とか。そういう真剣勝負。望むところ」

「ってそっちかよ!」


 思わずツッコんじゃったよ! イジメ系じゃないのかよ! 平和でよかったけど! 無駄に心配させんなよ! そんな意味でやってたら探知してても気づかねーよ!

 安心して気が全部抜けたぞ、ほんとに。


「ゆ、ユーリ君がツッコミに回るって珍しいね?」

「ええ」


 そうか? そうかも。いつもレアやセラの役目みたいになってるからな。

 いや、エル相手だとオレもツッコミに回ることが多かったから、エルフの血がボケ体質なのか、オレがそういう体質なのかのどっちかじゃないだろうか。って、それはそれでどうなんだ。

 あ、ノリツッコミみたいなのは頭の中でやってるぞ、オレも。

 考えが伝わったわけではないだろうが、フレイアは苦笑している。そうだな、オマエの時もオレはツッコミ役が多かったな。忘れてないぞ。


「まあ、ユーリ君は発想がおかしいだけだし? 根本は常識人ってこと?」

「ユーリくんが悪人だったら世界滅んでるよネ」


 波長が合い過ぎだろうこの二人。仲良き事は美しき哉だとしても、少しは手加減してほしい。

 実際のところは、壊せも救えもしないから困ってるんだけどな。人選にすら苦労してるくらいだし。

 今回だって、どうにかなるはずのどうにもならないことをどうにかしようとしてこうなってるわけで、


「クソッ油断したッ!」

「こっちもっ!」


 フレイアと二人、弾かれるように跳ぶ。

 平穏すぎて探知が緩んでいた。これは完全にオレのミスだ。



 物心ついた頃だったカナ、ティトリーズ様の話を聞いたのは。

 実は誰も顔を見たことがないトカ。最高の邪魔法使いトカ。将来、侍従として側にいることになるかもしれないなトカ。

 伝聞だけでも凄い人なんだなってのがわかったから、お会いするの楽しみにしてたんだよネ。

 まあ、アタシが生まれた時にはもう魔国にはいなかったらしいんだケド。

 そんなワケでこう、アタシの中ではティトリーズ様って凄い長身美人の超絶無敵の魔法使いみたいなのを思い描いてたワケですヨ。空想ってスゴイネ。

 でも、ユーリくんの記憶の中のティトリーズ様は、アタシの想像と違ってた。

 自分に自信がなくて、魔法の使い方に悩んで、また自分の存在に価値を失って。どこにでもいるような女の子でしたとサ。いや、女の“子”かどうかはわかんないけどネ。たぶんそこそこ年上だろうし?

 で、そんなティトリーズ様の心を開いたユーリくんは凄いなと思うわけですヨ。いや、これも開き切れてないのカナ?

 まあ、そんなワケで。アタシはティトリーズ様を全力で応援するのです。

 って、何の話コレ?

 ああそう、もっと人間と魔族が仲良くできるといいナってハナシ。たぶん。



 轟音とともに土煙が舞い上がる。

 ホロウバレルも使って高速で飛んだ結果、着地よりは着弾に近い結果になってしまった。腕を掴んでいたフレイアは、防壁を張っていたのに目を回している。

 視界不良を解消するために風魔法で辺り一帯の空気を吹き飛ばすと、探知していた通りのどうしようもない光景が露わになる。


「大丈夫ですか?」

「ええ。来てくれるだろうなとは思っていましたし」


 後ろには、倒れた仲間を介抱する集団とそれを守るように立ちはだかっているアカネさん。眼の前は、中庭にいた集団だな。

 空間収納からポーションバッグを取り出し、アカネさんに渡す。


「そっちはお願いします」

「さすが、準備がいいですねユーリ君」


 何本使うかわからないが、代金は学院や士団にでも請求してみるか。

 怪我人の手当はアカネさんに任せて、オレはオレの仕事を片付けよう。相手もお待ちかねのようだしな。


「ユリフィアス・ハーシュエス……またおまえか!」

「こっちのセリフだ。二回目は成功するとでも思ったのか?」


 いや。成功させられかけただけにこっちも大きなことは言えないか。


「魔族も……獣人も……滅ぼさないといけないのに……なんで邪魔するんだ……」

「……やれやれ」


 またこの類の人間かよ。

 オレなんて、種族の多様性に感動までしたんだけどな。最初からこういう世界で暮らしてたらそうは思わないのか。

 だとしても、哀れな考えだ。


「本当に思考がお粗末だよな。たとえ人種問題が解消されたところで、他人を区分して見下すことでしかプライドを満たせないおまえみたいな奴らが止まるわけ無いだろうが。次は年齢か? 家柄か? 権力か? 宗教や思想か? 言葉か? 肌や髪の色か? 体力か? 剣や魔法の才能か? 人間同士でも要素はいくらでもあるぞ」


 人間至上主義の組織群も同じだ。世の中そううまくまとまるわけが無いだろう。そういう世界から来たオレだからこそ躊躇なく考えて言えることなのかもしれないとしても、思いつかないものでもないだろうに。


「おまえに何がわかる!?」

「何をわかれって? 無抵抗の相手を蹂躙できるおまえの異常さをか?」


 傷を負った集団と、明らかに反撃を受けた様子のない集団。それぞれ一〇対五くらいか。まあ、これも状況にはよるのかもしれないが、話を聞くまでもないだろうな。


「……大地より生まれし球体が我が敵を討つ! アースボール!」


 飛んできた土の球は、弾くまでもない。


「なるほど」


 そうか。わかって欲しいのは無能さか。理解できないが。


「うー、吐きそう。よくあんなことできるね……」


 さて、権力者がようやく目を覚ました。勧善懲悪が始められるな。


「……フレイア隊長、やってしまっていいですかね?」

「え、なんのはなし?」


 前言撤回。まだダメだ。


「……アカネさん?」

「はい? ああ、正当防衛の話ですか?」

「ええ。って、いまさらですけど、それってアカネさんたちにも適用されたのでは?」

「ですけど、過剰防衛になりかねないですからね」


 アカネさんは、どこか可笑しそうに笑う。

 そうだな。実力差がありすぎれば普通にやるだけでも過剰防衛。余程の罷免要素がなければ無理か。状況的には十分だとしても、学生同士であれば大人相手の時とは同じにいかないかもしれない。


「こんな魔法、どれだけ貰ってもダメージはないものなあ。それでも、防壁の張り方くらいは今度特訓をするべきかもな」

「っな、ふざけるなぁ!」


 防壁を拡大。強化まではする必要はないだろう。

 逆に相手の方に展開して自滅させるというのもありかな。

 などと考えていたら、フレイアがようやくマトモな状態になってきたらしい。立ち上がって頭を振っている。


「っあー、やっと感覚が戻ってきたー。ってユー……リフィアスくん何やってんの?」

「こっちから手を出すのが微妙な状況なので、様子見ですかね」

「あー、まあ、ねえ」


 防壁で弾かれる魔法を見て、フレイアも微妙な顔になる。

 レベルが低すぎるからな。前回もそうだが、これだけの魔法応酬の割にみんな軽傷で済んでるわけだ。


「アカネさん、そっちはどうです?」

「全員大丈夫です。ユーリくんのおかげですね」


 このまま帰還が無難だろうか。でも、それじゃあ解決にはならない。


「ねえ、一個思いついたんだけどさ」

「うん?」


 フレイアが、呆れた目で魔法の出どころを見ている。鬱憤が溜まってるのはオレだけじゃないか。理由はともかく。


「向こうに防壁張るっていうのは?」

「それも考えたんですけどね。意味ないかなと」

「じゃなくて。こっちの魔法が通らないようにってこと」


 なるほど、その発想はなかった。

 いいかもな。


「やりましょうか」


 防壁を多重展開。さっきより相手の魔法の飛距離が下がる。


「ところで。オレ達の防壁で炎魔法に耐えられるんですかね?」

「知らなーい。ポーションもあるしいいんじゃない?」


 適当だな。下手すれば死人が出るのに。というか、敵に塩ならぬポーションを贈るような相手へのライバル意識はないんだが。

 そんなオレの内心はともかく、フレイアはいつか見たように指先サイズの炎の粒を飛ばす。もちろん、起こるのは爆発炎上。これだけで威圧効果は十分だな。


「耐えられるなら気にする必要はないか」


 疑似精霊魔法、ファイアボール、ウォーターボール、アースボール。三種乱射。たまに普通のウィンドボールで視界確保。

 火、炎、水、土、風、湯気、突沸、熱風、土煙、ガラス化、焼成。いろんな化学反応が起きる。

 相手からの魔法は無くなっている。それどころか、逃げ出そうとしているか腰を抜かしているかどちらかだ。


「うん、飽きた」

「同感だな」


 フレイアが両手を上げたのに合わせて、オレも魔法の展開をやめる。意味のあった時間かはわからないな。


「撤収しましょうか、アカネさん」

「え、ええ。そうですね」

「ほら、みんなも戻るよー」


 腰を抜かしている集団を無視して、フレイアも魔族や獣人の生徒を立たせている。そっちも青い顔をしていたが、その対象はオレたちらしい。やりすぎたか。


「それをやったら今度は当てると思えよ」


 背中に魔法を撃ち込もうとしていたバカを牽制するのも忘れずにやっておく。

 ちなみに、ここで魔物を呼び込むとか外道なことはしないぞ。そんな趣味はないからな。



 ワーラックス隊長と初めて会ったのは、五年前のこの時期でした。

 わたしも引っ込み思案で友達が多い方ではなかったですから、将来どうしようかなとぼんやりと焦りの中間くらいの感じで最終学年を迎えたのです。

 戦うのは向いてないとわかりきっているし、うちは継ぐような仕事もないので魔道士か魔道具師という選択肢かなと思っていたのですが、



「貴女、士団ウチに来ない?」



 いつの間にか眼の前に立ってわたしをじっと見つめていた赤髪の女性が、そんなことを言ったのでした。

 ウチという言葉が指すのがどこかわからなかったのですが、近衛魔法士団の制服だというのはすぐに気づいたので次の瞬間には高速で首を横に振っていましたムリムリムリムリ!


「いや、うん。戦いたくなさそうだなってのはわかる。でもそれだけじゃないからね? 事務仕事とかもあるし、装備担当も研究職もあるから」

「で、でも、いざとなれば戦うんですよね?」

「まあ、そりゃ最後の最後にはねえ」


 ほら、絶対ムリですって!


「わたしに魔法士の適性なんて、あるわけないじゃないですかっ!」

「だから、前に出るだけが魔法士の仕事じゃないからね? 前に出る魔法士の支援をするのも当たり前だけど魔法士だし。それに、そうやって自分の可能性を狭めちゃうのはもったいなくないかな?」


 そういうものでしょうか。

 もちろん、実地授業もあったのでわたしだって戦闘経験はあります。小金稼ぎにギルドクエストも受けたことがありますし。自分が最低ランクというわけでもないはずです。


「……それに、士団に一度でも席を置けば法士爵も手に入るから。別の道に進む時も有利だよ」


 こそっと。下世話な話もしてくれました。


「……考えてみます」


 下世話な話が決め手になったわけではないですが、わたしの心を動かすには十分だったのだと思います。



 そういう話だったのに五年も席を置き続けているのは、わたしが流されやすいからでしょうかね?



 まあ、色々ありましたよもちろん。

 そもそも、冒険者ギルドが魔物討伐をガンガンやっているし、対処できない場合はまず騎士団が出るので実戦の機会がほとんどないとか。

 なので演習もそれほど無いとか。

 むしろ内務が多すぎるとか。

 魔道師にならなくても、ほんとに士団でもいろいろ研究をやってるとか。

 わたしを勧誘したのが、炎皇フレイム・エンプレイスと呼ばれる士団でも別格の魔法士だったとか。

 しかも第三隊の隊長だったとか。

 男女比率がけっこう偏ってて割と逆ハーレム状態だったとか……それでマトモな出会いがあるかは別ですけどね! ごほん。

 ワーラックス隊長が割とポカをする普通の人だったとか。

 数年後のある日に来た手紙に泣いてたとか。

 それから、隊長とわたしと学院のとある新入生とで女子会をすることが多くなったとか。

 二年後、アイリスさんの弟さんを見て、ドン引きしつつも喜んでたとか。

 ユリフィアスさんと直接の交流を持ってから、ソワソワするようになったとか。

 今年のイベントはウキウキで出かけていったとか。

 なんだろうなーとか思いながらも。この生活も悪くないかななんて思っていたことに、いまさらながらに気づいたのでした。隊長、いえ、フレイアさんには感謝してもしきれません。

 でも、十歳以上年下とかはアリなんですかね……?



「ありがとうございました」

「いえ、大きな怪我がなくてよかったですね」

「ホントホント。なんなんだろうねああいうの」


 フレイアは実感がこもっているしその要因となるものも知っているが、アカネさんも何か似た経験があるのだろうか、やはり。


「あの、ハーシュエスくんも。ありがとうね?」

「いえ。むしろオレが煽ったのかもしれないので、そこは申し訳ないかなと」

「あはは。ああいうのは結構いるからそんなことないよ」


 口々に礼を言って、魔族や獣人の生徒たちは集合場所の方に戻っていく。

 少数派だろうとは言えああいう輩が結構いるなら、それはそれでうまい対策はないものなのかね。国交断絶しかないとかになると笑い事じゃ済まない。


「どうしたって事件なのにね……」

「そううまく行かない辺りが難しいところですよねえ……」


 そういうのを取り締まる力を持つ側二人は、心底面倒そうに溜息を吐いている。

 それでも、この世界では凶器になるものや力を持っているだけで罪にはならないし、それでの自衛が認められているのは救いなのかな。殴り返される可能性も考えてない奴と、殴り返す気もなくて反撃するだけで国家間の軋轢になりかねないと考えている方とで相性が悪すぎるという致命的な問題があるわけだけれども。


「そもそも、罪は犯した上でバレないと罪にならないからなあ。行動に移されても困るし、そういう思想を持ってるだけでも嫌な気にはなりますけど」


 それは、やられる側も同じだけどな。うーむ。

 あと気になることと言えば、


「……アカネさんも、気をつけてくださいね」

「私は……まあ、直接的な標的になることはないと思いますけど、気をつけるに越したことはないですね。ありがとうございますユーリくん」


 どうやらオレの内心は伝わっていないらしい。それがいいことなのか悪いことなのかはわからないが。

 アカネさんが今後もそのスタンスで行くならオレが何を言うことでもないんだが、万が一はあり得るからな。

 秘密を明かされるほど信頼されていないなら、信頼してもらえるようになるだけだな。

 さて、次は何が起こる?



 ユーくんがどこか行っちゃったけど、ここを無防備にするわけにも行かないし、わたしは残ってるのが正解かな。

 うーん、探知で捉えてる感じだとやっぱりこの前の続きみたい。懲りないよね。

 と言っても、わたしも魔法学院に入るまでは人間以外の種族のことについてよくは知らなかったんだよね。冒険者さんが家に泊まることもあって、獣人の人や魔族の人もいたから怖いって感情はなかったけど、興味本位で聞いていいことじゃないし。

 たぶんレアちゃんもセラちゃんも想像できないだろうけど、わたしは割と人間って括りの中でも孤立する要素が多かったんだよね。ユーくんに手ほどきを受けたおかげで同年代でも頭一つ抜けていたこと。それもあって実技試験で大勝ちしたこと。地位としては平民だったこと。炎皇であるフレイアさんの推薦を受けていたこと。浮く要素と沈む要素ばっかりだよね、今思うと。

 そんなわたしに声をかけてくれたのが水精霊の祝福の三人だったんだ。同性同年齢で同じ属性だから一緒にパーティーを組まないかって。それがなかったら、わたしはずっと一人でいたかも。ほんとは、単純な水属性なのはわたしだけだったんだけどね。

 だから、わたしはユメとティアとミアにはすごく感謝してるんだ。みんなやその友達が困ってたら、いつでも、絶対助けるって決めてるくらい。

 だからこっちは任せておいてね、ユーくん。



「……何も起きない」


 木の枝に座ったまま呟く。

 いや、いいことなんだけどな。拍子抜けというかなんというか。

 いまさら闇討ちをかけに来るわけもないし、取り越し苦労だったか。


「とか言ってるとなにか起こる」


 決まってるんだよな、これ。いや、決まってはないんだけどさ。ムズムズするっていうか。

 もう、フラグを積み上げて自重で潰れてもらおう。


「身近な人間が人質に取られる高ランク魔物が出る魔人が出るスタンピードが起こる謎の組織が出る」


 あとは何があるだろう。

 元の世界に戻される? それはありえないな。


「恐ろしい呪文唱えないでよ……」


 同じように枝に座るフレイアは、心底嫌そうな顔をしていた。そんなに恐ろしいか?


「覚悟の準備にはならないか?」

「ただただ不安になるだけだって。ありえるなーと思っちゃうから」


 フレイアがそう思うならやめておこうか。傍から見たらそういう状況を望んでいるように見えるかもしれないし。


「でも、いくら探知で見えるからって何かあってからでしか動けないもんね、ユーリの言うとおり」


 その辺りは本当にどこの世界でも同じか。先制攻撃による防衛なんて、絶対的な官軍側でないと認められないだろうし、言葉からそもそも矛盾している。この世界では種族間差別は大勢側じゃないので、正当な防衛になるのだけが救いだ。

 まあ。爆発を防ぐと圧縮されるなんてさらにどうしようもない未来もあり得るわけだが。


「人間の種族性能が他種族より劣っているのは事実だから、そこで劣等感を持つのはわからないでもないけどな。そこから強くなってやろうって発想に到れる奴が……いやそんな奴は悪い方で目立ちはしないか」

「まあ、なんだろ。自分が特別だって思ってるのは結構いるよね。そういうのって特別じゃなくて特殊なんだけど」


 そいつは面白い言い回しだし、言い得て妙かもしれない。プライドが高いだけの英雄症候群みたいなのはどこにでもいるからな。


「でも、私達も特殊側かなぁ」

「どこで線を引くかだろうけど、お互いに自分のことを勇者だとか思ったことはないだろ。だったらその基準には嵌まらないさ」


 ただ、オレの人生や価値観を全部フレイアに話したら、その時はどう言うかはわからない。

 そもそも、他の世界からの転移者や転生者はオレ以外にいるのだろうか? いないのであれば、九羽鳥悠理は唯一無二の特殊な存在になるんだが、大陸各地いろいろ巡ったのに未だに同類に会ったことは無い。面と向かって確認してないだけなのだろうか。


「ユーリは割と特別なような?」

「……オレは特殊能力持ちじゃないぞ。転生の話なら別だが」

「そういうことでなくて。主人公体質というか」

「なるほど。たしかに、厄介事に巻き込まれることは多いな。自分で招いてるのも多分にあるだろうが」

「そういうことでもなくてですねぇ……」


 どうも、想像しているもののズレがあるらしい。フレイアにとってのオレの物語がどんなストーリーラインかってところが根本なんだろう。それについては想像がつかない。

 オレがユリフィアス・ハーシュエスを主人公にするなら、旅行記とかがよかったな。それでも、永遠に続く旅行記はありえないから微妙か。

 なんてぼんやり考えていたら、次の波が来た。場所はなんと集合場所ど真ん中。

 立ち上がり、枝を蹴る。フレイアも隣に並ぶ。


「そこでやらかすとは。なかなか肝が据わってたわけか」

「褒めてるのか呆れてるのか……」


 両方かな。コソコソするのをやめたのなら、むしろ称賛してもいい。対話のテーブルを用意するのならもっと良かったが。


「……人間とは何か、か」


 前の世界だと、『人間を人間たらしめるのは言葉だ』とかいうのがあったな。『道具を使うのは人間の特権だ』とかいうのもあったが。前者は話し合いでいいとして、後者は戦争になるとか嫌すぎる。手紙くらいにしておいてくれ。

 ああ、戦争か。


「あーくっそ言うの忘れてたな」

「何を?」


 やったか、とか結婚含めた家族関係云々と並ぶ有名なやつだよな。



「たまには平和に過ごせますように」

「よくわかんないけど不吉っぽいー!」



 王立魔法学院に入学した際、なぜここに来たのかと問われたことが多々ありました。いえ、入学前にもですね。

 ステルラ連合内の魔法学校は獣人が大多数を締めています。人種族は稀で、ハーフやクォーターが四半数くらいでしょうか。そういう概況なので、多民族国家であるリブラキシオム王国なら他の種族の方との交流ができるかもしれないと思ったのです。

 思ったとおり。アイリスさん、ティアさん、ミアさん。他にもいらっしゃいますが、大切なお友達ができました。

 けれど、それ以上に悪意というものに驚かされました。

 そもそも、わたくしは人から疎まれるという経験がなかったものですから、世界が狭かったと言えばそうなのかもしれません。それでも、「人間ではないから」という支離滅裂な理由をぶつけられた時はどうしたものかと思いました。その一方で、アイリスさんや無色の羽根(カラーレス・フェザー)のみなさんのように好意的な方も大勢いるのだから、人間というのは不思議なものです。

 わたくしは稀な光の魔法を使うことができますが、その力がみなさんの役に立つといいと、学院に来てから強く思うようになりました。かつて一度だけ直接お会いした聖女様の仰ったように、この力を使いたいと思う相手に出会えたということなのでしょう。



 魔力量は、生まれつき決まっているものではなく成長させることができる。

 ただし、正確に計測する術はないし、昨日と今日で大きく変わるわけではないので増加がすぐにわかるわけでもない。パーセンテージ増加なのか固定量増加なのかもわからないしな。

 少なくとも、急成長と呼べるような変化はそうそうない。初級ダンジョンに潜った時のような強行軍をすれば別だが、同じようにマナポーションを連続摂取して代替にすると身体にダメージを与えかねない。もっとも、まず確実に低ナトリウム血症や何らかの栄養素過剰になるだろうが。

 だが、極稀に魔力量一〇〇の魔法使いが二〇〇を引き出すことがある。一つは、決死の覚悟というやつ。火事場の馬鹿力みたいなものだな。

 もう一つは、悪感情による呪いじみたもの。こいつは魔力の質の問題か、周囲の魔物を集めてしまうことがある。今回はこのパターンだ。


「期せずしてレクリエーションになった、と言うと皮肉が利き過ぎか」

「まあ、こっちのがそれっぽいのは確かだね」


 言葉を交わしながら領域に到着する。

 不運なのは、ここにいるのがほぼ全員が魔法使いだということか。つまり、早い話が近距離戦のできる者はいるかどうかというレベルだし、常に同士討ちの危険性が伴う。フレンドリーファイアだけでなく、魔法同士の相乗効果での強化や干渉による誤爆もあるからな。

 ただ、森にまだ足を踏み入れていない位置ということで弱い魔物しかいないのは救い。死人が出るようなことはないだろう。


「私は遊撃と状況把握に回るから、ユーリは元凶をお願い」

「わかった」


 フレイアと別れ、魔力探知で原因となっているやつの位置を探る。

 抜刀。生徒達の上を飛びながら、魔力の放出源に向かう。

 そいつはこっちに目を向け、って、またか。


「ユリフィアス・ハ」

「うるさいな」


 そう何度もイチイチ付き合ってやるか。

 峰打ちで一撃。オトせばとりあえず魔力の放出は抑えられる。


「いきなり何をするんだ!」

「ヒドい!」


 状況もわからない周囲から悲鳴が上がるが、知ったことではない。

 空間収納から槍を取り出す。当たり前だが、杖化工作済み。防壁の術式を込めて、集団の四方に突き立てる。

 これで魔力の漏洩も無くなったし、余計な横槍も入らなくなる……寒いシャレだな。

 さらに、同じものをもう一周。内側は内に向けて、外側は外向きに。これでそう簡単には防壁に干渉できなくなった。

 まだなにか喚いているが、付き合う気もないので無視。

 ざっと探知した限りだと戦線が膠着していたり押し込まれているような場所もない。フレイアが上手く動いているし、そもそも苦戦するような状況でもないので当たり前か。

 とりあえず足を止める場所を探すが、適当な場所は限られている。


「ユーリくん!」


 降り立つ場所は当然、レアとセラのそば。合流したのかアカネさんもいる。


「さっきはありがとうございました、と悠長に言っている場合ではないですかね」

「いえ、そこまで強い魔物がいるわけではないようです。戦闘職志望ばかりではないですが、そのうち片付くでしょう。回復物資の用意が多くないようなのだけが気になりますかね」


 何にせよ、士団や冒険者への道を考えている魔法使いにとってはいい経験になるだろう。攻撃だけじゃなくて防衛の状況にもなるし。


「姉さんたちは?」

「他の場所に行ったよ。分担した方がいいって」


 まあ、魔物との比率的に考えれば押してるくらいだし、Bランクパーティーなら問題ないな。


「そうか。わざわざ気合を入れる必要もないが、武器が必要なら」

「剣かな」

「ほら」


 このやり取りもややテンプレ化してるな。


「帰ったら専用のを見繕うか?」

「うーん。そうしたほうがいいかなぁ」


 セラは答えながら剣の感触を確かめている。毎回違うものを振っているのだから当然だろう。それに、オレと同じ使い方をするならいい加減に宝石の選定も必要だしな。


「わたしも大杖の感覚に慣れてきましたし、自分のものを持ったほうがいいですかね」

「これからも使っていくならその方がいいな。宝石のこともそうだが、全長や重量バランスの問題もある」


 道具の重要性は身に沁みた。最終的な妥協と更新は必要だが、最適なものを持つべきだ。


「無色の羽根はどんどん先に進みますね」

「ユーリ君がこんな感じですからねー」

「ええ。頑張って追いつかないとって気になります」


 オレの存在が二人の励みになっているのなら、前を走っている価値があるというものだ。いや、前を走るっていうのは上から過ぎるか。

 ともかく、みんなが二人みたいな考えをしてくれたらいいんだけどな。本当にうまく行かないものだ。

 ただまあ、オレのことで言えば、


「アカネさんのおかげもありますよ。いつも親身に対応してくれるので嫌な思いをすることもないですから」


 ユーリ・クアドリだった頃の経験だが、無茶やると大抵の場合横暴な態度が返ってくるからな。苦笑いしながらも信頼してくれているアカネさんなら、次も頑張ろうという気になるものだ。


「そう言ってもらえるとありがたいですね。ギルド員冥利に尽きます」

「……出たよ。人殺し発言」

「……事実ではありますけどね」


 何故かパーティーメンバー二人には不評なようだが、なんでだ。


「ともかく、そろそろフォローに回ろうか。フレイア隊長にも楽をさせてやらないと」

「了解」

「行きましょう」

「気をつけてくださいね」



 子供の頃、心の中で勝手に“虹色の魔法使い”と呼んでいたお兄さんがいました。

 四大属性すべてを使う魔法使いを十字属性魔法使い(クアドリクスマギカ)と呼ぶのだというのは後で知りましたが、そのお兄さんは誰も見たことのない不思議な魔法を使っていました。そんな、知る人ぞ知る。けれど誰も知らない偉大な魔法使い。

 なんて言うと大げさで、私と彼の出会いは訳知り顔で語るようなものではなく、どこにでもあるような話です。

 乗り合い馬車で隣街まで両親とでかけた帰りに魔物に襲われて、たまたま乗り合わせていた彼に助けてもらった。ただそれだけ。お兄さんもどこにでもいるような優しいお兄ちゃんといった感じでしたし。それでも、子供の目には恐怖からの感動でしたから、憧れを通り越したような感情を抱くのは当然だったと思います。

 彼が私達の街に滞在していたのは数日でしたけど、また会えるかもしれないと思ってギルドの手伝いを始めて、勉強もして、そのおかげで正規職員として採用されて今に至るわけです。いろんな意味で恩人ですよね。

 そう思っていたんですけど、彼は別段高ランクの冒険者というわけでもなく、私の他に名前を覚えている人もいませんでしたし、それ以降は噂を聞くこともありませんでした。魔物と相対することが多くなる冒険者の死亡率が相当なものだというのも手伝いを始めてすぐ知りましたから、周りのみんなからもそうなのかもしれないとやんわり伝えられていたのも今ならわかります。

 でも、私には彼がそうなるとはどうしても思えなくて。無限色の翼プリズムグラデーション・エールという名前をなにかの話の中で聞いたときに、なんとなく彼を連想したことだけが記憶の端に残っていて。

 あの出会いから十年以上が経って。あのお兄さんと同じ「ユーリ」と呼ばれる彼を見た時に、なんとなく懐かしい気がしたのが不思議でした。



「まあこんなものか」


 この位置にいる魔物なら、多くがホーンラビット、出てきてハウンドくらいのものだ。ハウンドは個人戦力なら相手として脅威だろうが、こちら側の数が違いすぎる。ブラッドグリズリーが出てきたところで数的優位か上位戦力でどうにかなっただろう。


「探知範囲に魔物はいないね」

「ええ」


 二人の能力がどこまで上がったかはわからないが、たしかに周囲の魔物は誘引によって一掃されている。わざわざ近寄ってくる反応も見られない。


「よっ、と。三人ともお疲れ様」

「フレイアさんも。お疲れ様でしたー」


 降ってきたフレイアにセラが駆け寄る。いい師弟関係になったな。


「ユーくん、ただいま」

「おかえり姉さん」

「みなさんも、お疲れさまです」

「ありがとネー、レアちゃん」

「回復が必要でしたらおっしゃってくださいね」

「ん。みんな大丈夫そう」

「あ、ユーリくんから鞄を預かったままでした」


 いろいろあったが、無事終わってよかったよかった。



「いーや、まだ終わってないぜハーシュエス」

「そうそう。日没にはまだ早いよ」



 いつの間にか、クラスメートが近くで集まっていた。なんだなんだ。


「敵わないってのは分かったからな。いっそ稽古をつけてもらうつもりで行こうかってな」

「お願いしていいかな?」


 なるほどな。そういう頼みなら、受けるのも吝かではない。


「なら。ワタシは彼ら側に回るのが当然」

「アタシもこっちカナー」

「私ももう一回挑戦しようかな。今回は剣もあるからね」

「では、わたしはユーリくんの側に。大杖の感触も詰めたいですから」

「わたしもユーくんの手伝いをするね」

「わたくしは中立で。回復はお任せくださいね」

「よし、じゃあ見届人はこの私フレイア・ワーラックスとアカネちゃんが預かった!」

「あはは。皆さん無理だけはしないでくださいね」


 レクリエーションは宴じみていく。

 みんなで最高の魔法使いを目指そうと言ったのはオレだからな。その言葉の責任を取ろうじゃないか。

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