Leveling ひっさつわざをつくれるかな?
「それでユーリ君。必殺技の話はどうなったのかな?」
クエストの休憩中、セラにこれ以上ない笑顔で言われた。
正確には、威圧感のある笑顔で詰め寄られた。背景には負のオーラが充満している。
レアもその雰囲気に困ったように笑っている。
「……魔法剣じゃ駄目か?」
「あれ超接近戦用だよね。ウォーターカッターみたいにもうちょっと距離のあるところからのはないの?」
「あー……何がいいだろうなあ」
たしかに、遠距離攻撃手段があったほうが安全か。戦術も増えるし。
しかし、何が合うかな。十字属性の時には属性をゴチャゴチャ混ぜ合わせていたが、単純に使っていた火魔法と言えば、
「まあそう簡単に必殺技なんて」
「地面の火を防壁で覆って踏み抜いたら炎上する発火地雷。出力を上げたファイアボールを小さく圧縮して口から叩き込む体内煉獄。燃やした敵ごと複合防壁で捕らえて酸欠や完全燃焼を狙う火牢獄。火牢獄で減衰した酸素を防壁を割ることで急速供給して起こす瞬間爆炎……」
「ちょ、ちょちょちょ、ちょーっと待ってユーリ君まったく追いつけない。特に内容のヤバさに」
「わ、わたしも目が回ってきました」
ん? ヤバいか?
確かに体内煉獄や火牢獄辺りは非人道的だとは思うが、必殺技ってある意味そういうもののはずだ。
「ていうか、よくそんな魔法ホイホイ思いつくよね?」
「ウォーターカッターもそうですけど、ユーリくんって風属性ですよね?」
「……例の知り合いの技だよ」
これは、口が滑った類かな。
いつか、この二人に転生のことを話す日は来るのだろうか。それとも、なにもないまま別離することになるのだろうか。
「うん。やっぱりユーリ君には普通の知り合いがいない気がする」
「実際、最近ではわたしたちも普通じゃない扱いですからね。ところで」
言葉を切ったレアは、わずかに顔を俯けて、目線だけ上げ……いや、上目遣いかこれは。
「水属性の必殺技は、他に無いでしょうか?」
「……珍し。レアあざとい」
まあ、たしかに珍しい。あざといかはともかくとして。
「だって、強くならないと置いていかれるじゃないですかっ」
「イヤそれはアリエナイ」
「そうだな」
セラの言うとおり。置いていく気もないしまだまだ強くもなる。
「水だと、一番単純なのは水属性放射を最大まで高出力化した津波か。まあ、そうでなくてもぶつける速度を上げればそれだけで土と同じだけのダメージは与えられるんだが」
「え、そうなの?」
液体である水は不定形で硬度がほぼない。のだが、本当にそうなら断崖絶壁から落ちた人はほぼ助かることになる。
前の世界だとガムでスイカに穴をあけるなんてのがあったが、この世界だとどう表現すればいいやら。
「あー。スライムで壁に穴をあける方法、とか、か?」
「いきなり何の話……?」
「氷魔法で凍らせるとかでしょうか? でも、水魔法の話ですよね?」
「もちろん、水の話だ。モノには変形する速度っていうのがあってな。それを超える速度で接触すると形が崩れる前に相手の方を破壊することができるんだ」
姉さんに説明する時は、厳密には違うんだがダイラタンシーを作って母さんに怒られたんだったな。食べ物を粗末にしたらダメだって。この場で説明をするならどうすればいいだろうか。
いや、説明するだけなら単純に水でいいのか。
「レア、ウォーターボールを出してくれるか?」
「はい? ええと」
頼んだ通り魔法が使われ、オレたちの間に水の玉が生まれる。
「水にゆっくり触れると特に何事もなく手は沈むが、叩くようにすると抵抗がある。これが変形速度によるものだな」
言った通り、ゆっくり触れるとオレの手は手首まで埋まる。だが、叩きつけると音や衝撃を伴って手のひらで止まる。
水にも粘性や張力はあるからだ。というか、これがないと水棲生物は動くことすらできない。
「この度合いはぶつかる側の速度が上がれば上がるほど強くなる。これを逆にしたものが基本的な水魔法の攻撃の考え方だ。ウォーターカッターはさらに接触面積を絞ることで圧力を高めている感じか。ありがとう、レア。助かった」
「いえ。なるほど、そういうことですか」
実際の原理はどうだかわからないが、一応これで再現できているから大きく間違ってはいないんだろうと思う。
「あとは、これも最初にダンジョンに行った時に姉さんが言っていたが、どこまで魔法の密度を上げるかだな」
そもそも、液体はほとんど圧縮できない。数値的にできたとしても、溶け込んだ空気が抜けて純度が上がった程度だろう。
分子間密度の問題のはずだが、なぜか魔法ではそれができる。推測するなら、魔法で作った水は魔力と半々くらいの状態で、魔力圧縮に付随して高密度になっている、と考えれば辻褄は合う。
火魔法についてもそうだ……というか、そもそも質量のない火に密度はない。
「小さな魔法でも極めれば必殺技になる、ってことだね」
「ああ」
でなければ、風魔法使いのオレは誰にも勝てないはずだからな。
「水の魔法剣だって、実は最強格でもあるんだぞ」
「本当ですか!?」
「えっ、そうなの?」
二人の驚きはわかる。剣に水を纏わせてもほとんど意味はないように見えるだろうからな。
「まず、相手の魔力量や密度を超えることが前提だ」
「それいきなりハードル高くない?」
「魔力制御で瞬間的に強化もできるからそうでもないな。そうでないと単純に魔力の高い相手には勝てないことになる」
「ああ、そっか。ケルベロスにも刺さったもんね」
「なら、必ずしも格下の相手である必要はないですね」
あの時の魔人のように、極端に魔力密度が高くて物理攻撃が通らない場合は別だけどな。
「でまあ、単体で無理なら強化なり付加なりを使ってとりあえず傷を与えるわけだ」
「はい」
「そうするとおそらく、武器の一部が血管に触れる」
「はい」
「血を操って逆流させると相手は死ぬ」
「いきなり話が飛んでませんか!?」
「魔法剣のメリットの一つとして相手の魔力に割り込めることがあるわけで、相手の身体構成要素に干渉できるようになるんだ。ちなみに風の場合は、血管に空気の泡を流すと相手は死ぬ」
「怖い怖い怖い! なんでいきなり即死攻撃の話になったの!?」
即死か。いや、銃で撃たれて死ぬのは失血ではなく血が逆流することによるショック死だと昔なにかで読んだし、空気が注射されると起こるのは心臓麻痺だったような。
「たぶん即死はしないな。のたうち回って死ぬ。いや、即死って多少時間がかかっても即死になるんだったかな?」
「なんの脈絡もなくいきなりハードすぎます!」
「思ってた必殺技と違う!」
たしかに、この辺りはそれこそ暗殺の領域かもしれない。
ただ、継戦能力を考えると最小の力で最大の結果を出すというのは重要ではある。常に有利な状況で戦うというのも、理想にしか過ぎないし。
「津波も火魔法最上位の火炎地獄もそうだが、相応に魔力を使うからな。一対一ならまだしも、スタンピードにでも襲われて魔力枯渇したら即飲み込まれる」
「ああ、そっか。物量には敵わないね」
大発生とか厄災とも呼ばれるスタンピードは、時に万単位の魔物が文字通り押し潰す勢いで襲ってくる。上位の騎士や魔法使いでも、と言うより、だからこそ前線に配置されて危機に陥ることが多い。
「と言っても、スタンピードの状況で魔法剣を使っていられるかは別だけどな。対峙距離的にも心理的にも」
「それもありますね」
「だからほら、遠距離技がさ?」
スタンピードの状況で二人が前線に放り出される可能性は低そうだけどな。
なにより、確実にレヴが飛んでくるだろうし。それを当て込むのも良くないとしても。
「いっそのこと、自分で開発するとかはどうだ? そっちの方が二人に合うものができそうだし」
「自分で? いや、うーん」
セラは腕を組んで悩んでいるが、いつかは必要にかられることはあるはずだ。
「そもそも、ユーリくんはどうやって新しい魔法を作ってるんですか?」
「あ、それ聞きたい。参考に」
魔法の創り方か。それ自体はそれこそ十人十色だろうが、
「詠唱がいらない身としては基本的にはイメージするだけだからな。まずは既存の魔法を組み合わせたり分解したりして、できるかどうか考える、か」
「やっぱりそれも頭の中でやるの?」
「いや、オレは一度書いて整理してたな。いらない部分や無理のある部分の切り分けがやりやすかったし、あとで読み返したりして思いがけない発想が出てくることもあった」
「なるほど」
あのノート、今はどうなってるんだろうか。リーズがさらに改良してとんでもないことになってたりしたら面白いのに。
「実践段階では、維持のための魔力は使うがまずはゆっくり組み上げてみる。それから構築のスピードを早める。適当なところで瞬間イメージでの発動ができるように構成を切り替える、といった感じか」
オレの場合は転生前に構築していたものをなぞっているだけだから、ほとんどの魔法の創造は最後の段階しかない。それでも発動できているということは、基礎構築が正しかった証拠だな。
「こうなると、研究って感じですね。それはそれで楽しそうです」
「ド派手なのとか作りたいよねー」
「まあ、まずは効率抜きで作ってみるのが楽しくていいかもな」
オレもそろそろ、新しい魔法を考える頃合いかな。疑似精霊魔法を使えば十字属性だった頃と同じようなこともできるとわかってきたし。
さあ、どんな魔法を創ろうか。