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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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Offstage どこかとどこかとどこだかで

 聖国に帰り着き、いろいろな報告を終えて……やっと一息つけました。いえ、本当に大事な報告などたった今済ませたものしかないのですが。

 それにしても、悠理を助けるまではこの自室が鳥籠に思えていましたが、今ではここが唯一本当の自分になれる秘密基地のように思えるのだから不思議なものです。もちろん、周りに気をつける必要はありますけどね。「壁に耳あり」でしたっけ。


「そういうわけです。相変わらずでしたよ、悠理は」

『まあ、転生してもユーリはユーリだろうからねー』

『ほんといいなー、ララ。ユーリ分補給できて』

『相変わらずな十二歳、ですか』

『そうですか……よかったです……元気なら……わたしはそれだけで』


 それぞれ思うところはありますけど、内実はさして変わらないですね。救われたのはみんな一緒で、たぶん秘めている感情もほとんど同じなのでしょうし。

 ところで、レヴの言う「悠理分」とはなんでしょう? と一瞬思いましたが、よく考えるまでもありませんでした。私もやったようなあれですか。よく抱きついていましたね、たしか。いえ、私は手を繋ぐくらいしかできませんでしたけども。

 はあ。彼がユーリ・クアドリだったときは散々ヘタレだと心の中で揶揄したような気がしますが、存外私もそうなのかもしれませんね。

 ……とりあえずそれは置いておきましょう。悲しいだけですし。


『風牙も届いたんですよね?』

「ええ。魔人にも通用していましたし、風閃も放っていました」

『風閃って、風の刃だったよね。精霊でも無理なのにホントにできたんだ』

『ユーリ、やっぱりすごい!』

『重畳、と言うんでしたっけ。とは言え、真打の完成にはまたまだ遠いですけれど』

『魔人が現れたのなら……他の武器も出来てましたけど……必要でしたかね』


 実際は刀だけで足りましたけど、いろいろあればそれはそれで便利だったでしょう。

 転生前に悠理が残していったトンデモ課題の殆どが実用化しているというのは夢としか思えませんね。

 それにしても。


「息をするように身体強化や武器強化に魔法付加、は以前もやっていましたが。ノートにあったブーストとバーストも平然と使いこなし。超音速貫通撃オーバーソニック・スラスト疑似精霊魔法エクスターナル・エレメントマジックも使用可能だそうです。風閃までできるようになり、おそらく完全停滞エアロフリーズも手が届く場所にいるはず。誰が敵うんでしょうかね」


 本当に。「強くなるために転生する」と言われたときは正気を疑いたくなりましたけど、どこまで強くなろうとしているのでしょうあの人。

 まあ? いくらかは確実に私のためだとわかっているだけに、頬が熱くなってしまうものはありますけどね? ふふふ。


『あれ、なんか今ピンク色の空気を感じたような?』

『ピンク? エル何言ってるの? 空気は透明でしょ?』


 ぐっ。変なところで鋭いですね、エル。

 というか、どうやって感じ取ったというのですか。


『恋愛に関係する雰囲気をそう言うのでしたっけ』


 うっ。ネレも詳しいですね。

 抜け駆けをしたという罪悪感と再会できた特別感と優越感がせめぎ合っていて、どう折り合いをつけたらいいものやらです。


『ララやっぱり何かあったんだ! いいなぁー! ねえリーズ。魔力封じをジャラジャラつけたら人間の枠に収まらないかな、魔力』

『それは……無理……だと思います……そもそも……魔力総量が桁違いですし……壊れるかと』

『うーん。この身が歯痒い。まだ魔力を抑制できない自分がさらに歯痒い』


 レヴの気持ちもよくわかりますが、ないものねだりというか、ありすぎるもの仕方なしというか。

 とは言ってもというか、私たちはそれぞれ十三年ですけど、レヴにはそれ以前に私達には想像すらでき得ない時間があるわけですからね。協力はしたいです。

 ああ、本当にもう少し罪悪感を持ってもいいかもしれませんね、悠理は。


『ていうかリーズはなんで会いに行こうとしないの? ネレも。行こうと思えば行けるでしょ?』


 レヴ。貴女は凄いです。いえ、嫉妬とかそういう感情が貴女にないのはわかっているんですが。私はそこまで真正面から突撃できません。

 踏み込むときは踏み込むべきだとは思いますが、ここまで悪意なく踏み込めはしないでしょう。


『一番は、無事に辿り着けるかというのがありますけどね。ユーリさんがまだその時ではないと思うのならそうなのだというのと、私自身も真打を完成させて胸を張って会いたいというのもあります』

『わたしは……そこまでいいものじゃないです……会う資格がないだけ……ですから』

『んー? 資格?』


 おそらくレヴにはわからないでしょう。リーズも詳らかにしようという気もないでしょうし。

 ただ。


「そこは気にしても意味がなさそうです、リーズ。貴女が悠理にかけた呪いについては、彼自身もなんとなくではありますが把握しているようでしたから」

『……え……それ……ほんとう……ですか?』


 リーズならその可能性に思い至っていそうなものですけどね。思い至ったら冷静ではいられないからこそ、それを拒絶していたのでしょうか。


「こう言うとなんですが、『相手を誰だと思っているのか』というのを考えた方がいいでしょうね。特に怒ったりはしていないようでしたが」

『う……』

「ついでですが、私にもわかりました。そこであえて聞きますけど、アレは貴女には効果を発揮しない類のものではないですよね?」

『それは……やってません……そこまで複雑なのは……色々と無理ですし……身勝手すぎますから……ごめん……なさい』


 その気はありませんでしたが。いえ、なかったと言えば嘘になりますが。声に威圧を乗せてしまいました。反省。

 リーズが悪人でないというのは知っていますし、そんな抜け駆けじみた事などしないとわかってはいるのですが。

 いるのです、が。



 せっかく! 十三年ぶりに会えたのに! アレはないでしょう! 恋する乙女ではないにしても! 私だって! 色々と! 思うことが! あったのに!



 いけない。思考がとっ散らかっています。私はこういうキャラではありません。あははうふふでもありませんが。ええ。そうではないんです。


「……はあ」


 でもなんというか、リーズの気持ちもわかるだけに本当になんというか。もし同じ立場なら私も同じことをしていたに違いないですし。いえ、確実に自分を除いていたかも。リーズはずっと立派です。


「リーズ。私自身にそのことを責めるつもりはないとは言いません。けれど、気持ちはわかりますから。必要以上に自責の念に囚われないでください」

『それは……無理……です』


 ああ、悠理もこういうところを心配していたのに。リーズの過剰すぎる自省と内省の気質を癒してあげることはできませんでした。

 十三年これを抱え続けていると考えると当然なのかもしれませんけど。これは誰の罪なのでしょうか。


「いいですか、リーズ。今の悠理は強力な女たらしです。よく考えてください。無自覚に真顔でそういう言葉を吐けるんですよ。さっさと解呪しないと危険です」

『あ……え……ああっ……そ……それ……そうか……そうなるん……ですね』

『え? 女たらし? そういう言葉ってなんなの? ねえ、ララ?』

『この流れだと口説き文句?』

『は? くど? どういう事でしょうか、ララさん』


 いえ、まず間違いなく悠理が主犯ですが! 私が責められる理由もリーズが責められる理由もないはずですね、ええ!


「悠理の名誉のためということで黙秘権を行使します。それで、一つだけ。解呪ディスペルはどう働きますか?」


 転生術式も一種の呪いだと聞きました。であれば、解呪はそちらにも働いてしまう可能性があります。悠理が懸念していたのもそれでしょう。そうでなければあの場で私に頼んだでしょうから。


『ごめん……なさい……それも……ユーリさんと……直接会ってみないと……わからない……です……たぶん……存在自体は固定されてる……と思いますけど』

『ねーねー。さっきからララもリーズも何の話してるの?』

『リーズさんがユーリさんになにか呪いをかけたのだということはわかりましたが。我々にとって危機的状況となり得る呪いを』

『あと、確実に話題そらしたよねララ』


 拙い流れかもしれません。悠理に報告した手前、ここで空中分解は許されません。


「『良かれと思ったことが思わぬ結果をもたらすこともある』、と今回はそういう話です。詳しくは悠理が戻ったときのほうがいいでしょうね。今は解決できませんし」

『よくわかんなかったけど。まあ、リーズやララが悪いことするわけないもんね』

『まあそこはそうだねぇ』

『ええ。たしかにそうですね』

『ごめん……なさい……ありがとう……ございます』

「信頼していただけてうれしい限りです」


 とりあえず、当座はしのいだという感じでしょうか。

 やはり悠理は私達の中心ですね。無限色の翼プリズムグラデーション・エールを作ったのは彼なので当然なのですけど。

 本当は、彼が望んでいるのはこういう状態ではないとわかっているのですが。それとこれとは別の要素もありますからね。やはりそういう戦いにおいて主犯は強いです。


「今回はこのくらいにしておきましょうか。なにはともあれ、悠理の居場所が分かったのはこれ以上ない収穫ということで……」


 あ、そうだ。忘れるところでした。


「失礼。悠理からオーダーがありました。ネレには炎魔法に耐えられる剣、リーズには若返りの魔法だそうです」


 後者は私も非常に気になるのですが。ここは素知らぬフリをしておくということで。

 まさかフレイアさんを槍玉に挙げるわけにも行きませんし、そこも黙っておきましょう。今の状態で何かが進むとは思えませんし。


『刀という指定でないなら両刃剣でしょうかね。それにしても、炎に耐える剣ですか。魔剣にすべきか、それとも素材で解決するべきか。そもそもどう打つべきか……』


 悩んでいるようではありますけど、楽しそうですね。ネレならやってくれるでしょう。

 さあ。もう一つの方はどうですか、リーズ。


『若返り……以前……回復に使いましたが……物体への時間遡行の邪魔法なら……ありますね……これも呪いに近くはありますが……強化と純粋な魔法化はできる……と思います』


 あるんですね!

 できるんですね!

 頼みましたよ、リーズ!


『よし、魔力を抑えられるように頑張ろっと。そうすればいろいろと届ける役もできるもんね』


 それぞれ気持ちを新たに。悠理も前に進み続けているのですから、私たちも精進しなければ。


『当面の目標は決まったねっ。でさ……みんなに一つだけ聞きたいんだけど』


 エルの声の最後はとても深刻なものです。前半との落差に神妙になるほどに。

 ですが、みんなわかっているのです。エルの現状が深刻だということも、その質問が何なのかも。それに対する私たちの答えも。



『ここ、どこー!?』

「『『『判断材料をください』』』」



 オチ担当は相変わらずブレませんね。

 さすがエルです。いえ、笑い事ではないんですけど。ほんとに。

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