Material 人魚
「海に住んでる人っているのかな?」
地引網が人目に触れることなく頑張っている間。水平線を眺めていた姉さんが、ふとそんなことを言った。
「人間は無理だよねぇ」
「ユーリくんやお姉様の世界だと科学でどうにか、とか」
「いや」
人は海面下には住めないし、地球にも海上都市はなかった。遠洋漁業や航海はその類に近いのかもしれないが、
「獣人にも……いませんよね」
「と、記憶しています」
アカネとユメは顔を見合わせて頷いている。
「魔族にも……住居が水面下にあるような種族は……いませんね」
「ですネェ」
リーズとミアも。
そもそもこの世界の人種族が完全に人体構造準拠。すなわち肺呼吸なわけだから、水の中には住めない。
「あれ? ユーリやレインの世界だと海に住んでる生き物はいたんだよね?」
「いたけどな。今のところその類の獣人にはお目にかかってないな」
クジラとかイルカ……なんかその二つに明確な差はないんだっけ? それからトドとかの海獣と呼ばれる類の生き物。獣人として存在する可能性があるとしたら彼らか。カワイルカっていう種類もいたんじゃなかったっけ。
「こう言うとなんだけど。海に接してしまって。滅んだ。とか」
「ありえなくはないかもしれませんね。なにせカニとタコがこんなのですから」
明らかにサイズがダンジョンボスクラスだもんなぁ。こんなのがうようよいたとしたら生活基盤は形成できない。
でも、そう言えば人って基本的には浮くんだよな。水中で生活しようとしたら、泳ぐことなく深度を自由自在に変更できないといけないわけで。無理じゃね?
「あとは、魔族のような……幻想存在でしたっけ。そちらはどうなのですか悠理」
んー。魔族ねぇ。海にいる。それも人型の。
「なんだっけ。セイレーンが船乗りを惑わす魔物みたいな話が……いやだからあくまで創作の話だからリーナさんやリーズの話じゃないって」
石になりかけたリーズはフォローしきれただろうか。っていうか、科学世界での魔族は割と人間の敵な存在ばっかりだったからリーズに限った話でもないはずなんだが。
しかしこうしてあらためて考えてみるといないものだな。海棲哺乳類だって、獣人になったらどんな姿になるのかイマイチ想像しにくいってのもあるし。
海。魚。人。ってそうだ。
「忘れてた。一番身近なのだとあれだ、水精霊が人魚だって話だったろ」
「にんぎょ?」
ティアが首を傾げる。たぶんその横でウンディーネもそうしてそうだ。
「上半身が人間で下半身が魚だっけ。昔話してくれたよね」
「ふむ。ならたしかに。ウンディーネとディーネは人魚」
古今東西、海面下に住んでる人間と言ったら人魚か。
あるいは本当にこの海のどこかにも人魚がいたりするのかな。
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「ふーん、人魚かぁ。ねえユーリ。それって、逆の場合はなんて言うの?」
「……半魚人」
フレイアの質問にワンテンポ答えが遅れた。
そっちになると一気に化け物感出るのはなんだろうね。ろくなビジュアルも設定も浮かばないし。




