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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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第七十八章 うみはどこのせかいでもひろくておおきいなあ

「どうしてこんなことをしてしまったんだ! こうなる前にどうにかならなかったのか!」

「だって、ソウするしかなかったノ!」

 ちくしょう! 俺がもう少し早く気付けたら! もっと早く力を貸せていれば! ここでこんなことには!



「なにをですか?」

「なにこれ?」

「ユーリさんだけならなにかの病気でしょうけど」

「“はくしんのえんぎ”ってやつ?」

「わかるような……わからないような……はい……」

「えーっと……拍手をするべきでしょうか?」

「二人とも真に迫ってるねー。ってことでいいんだよね?」

「どうしたかったの結局?」

「お二人には申し訳ないですけど、具体的なものが何一つ無い……ですよね?」

「うん。ユーくんとミアががんばってるのだけはわかる」

「ユリフィアスさんやレインノーティアさんの世界のお芝居でしょうか?」

「ソウとは。意味不明」



 総ツッコミをいただきました。ありがとうございます。

 二時間ドラマごっこはダメですか。提案したのはオレじゃないけど。


「エート? あとは、『あははははー、わたしをつかまえてー』ですかネ?」

「正直、話として聞いたことがあるようなレベルだけでそんなドラマは見た覚えがない」


 どこ情報だ。レインさんか。冤罪か。


「じゃあ、『海のバカヤロー!』ですカ?」

「それもありはするけども」


 いや冤罪じゃねえわたぶんこれ。守備範囲広すぎないか新草雨音さん。話が通じるなら出どころはオレかもしれないとしても、それでも絶対そっちだよ。

 というのはともかく。

 海だ。


「……これが海かぁ」


 セラが感慨深く呟く。皇族としてあちこち行く機会もあっただろうけど、やっぱり海は無かったのか。国境の分かれ方から考えても帝国にも海岸線はあるはずなのにな。


「こうして見るのは初めてですね。聖女として多くの場所に行ったつもりではいましたが」

「私もかな。なんとなく足が向かなかったから」


 ララとエルも同意している。

 それこそ、海が巨大なダンジョンだという逸話からか。いや、実際に海棲魔物の楽園なのかもしれない。海岸線付近はおろかかなりの距離を移動してきても人家の気配すらなかったものな。

 ダンジョン含めてそれだけ魔物の領域というものが脅威であるということでもあるが、まあ、何より未知だろうからな。一説には縄文時代にはもう太平洋横断が行われてたって話もあったけど、行ったっきりの上に万人がたどり着けたわけじゃないだろうし。東シナ海を渡るだけでも何度も失敗を重ねた偉人もいたし。海というものもそれ自体が脅威だ。


「ずーっとなんにも見えないね」

「この向こうにも、世界は広がっているのでしょうかね」

「だと思うけど、人がいるような場所があるかはどうだろうな」


 レヴとララとオレの三人で高空から水平線を見たけど、他の大陸なんかは見えなかった。かと言って星のサイズを考えるとこの大陸がすべてとは到底思えない。

 あるいは、ドラゴンの姿のレヴなら星のすべてを見に飛んでいけるのだろうか?

 それを知るためにも、まずは。


「フレイア」

「ん? なに?」


 空間収納から破山剣を取り出す。


「炎皇魔力破斬は見せたよな。アレを沖に向かって撃ってくれないか?」

「えんおうまりょく……ああ、あれね。できるかなぁ」


 フレイアにそのまま手渡すと、身体強化してブンブンと剣を振り回す。さらに魔力を送り込み、魔法付加。剣身の動きにあわせて炎の剣線が描かれる。

 本家本元本物の炎魔法を受けても破山剣が形を変えていくようなこともない。つまり、レヴに次ぐオレたちの最大火力はフレイアの魔法破山剣か。


「よし、行けそう」


 さすが。みんなでうなずいて後ろに下がる。

 フレイアは横薙ぎの構えを取り、



「炎皇魔力破斬っ!」



 技名を叫んで破山剣を振り抜いた。

 燃え上がっていた剣身から特大の炎が切り離されて飛んでいく。残心する姿はカッコよくもあり凛々しくもあり。炎髪と着衣を靡かせながらの斬撃は絵になりすぎた。

 まあ……恥ずかしいと思うやつがいたらそれはオレのネーミングセンスのみが理由なので、フレイアにいっさいまったくこれっぽっちも罪はない。その証拠にいくらかの冷たい目はオレにだけ向いているのだから……そんなにダメですかこのネーミング?

 で、だ。炎の魔力破斬は視覚にも鮮やかに沖へ向かって進んでいく。無限に飛ぶことはないが、それに近い距離を飛んでいくというか、どこかで突然消えるような気配もない。


「えーと? なんのためにやったの?」


 徒労に終わったと感じたのだろう、フレイアが首をかしげるが。


「魔力や魔法の届く範囲や……存在範囲……でしょうか……空と同じように……この“大地”が根源や起源であれば……遠洋はその範囲外でしょうから」


 さすがリーズ。この実験の意図を汲んでくれる。

 ただの魔力斬や魔力破斬では、不可視であることから探知の範囲問題が関わってくる。視覚化と持続可能なもので最大最強の技がフレイアの炎皇魔力破斬だろうからな。物理的制約からもやや逸脱できるし。それすなわち魔法の存在できる余地ってことだ。


「でも、ユーリが行った空の上ってもっと遠いよね?」

「ええ。あのときレヴに連れて行ってもらった高さを考えるとフレイアさんの……炎皇魔力破斬でも届くことはないでしょうし、仮に届いたとしても見えないのでは?」


 たしかに。レヴとララの言うとおり、飛行機は見えたとしても人工衛星の形は見えない。距離の問題もあるが、飛行機が見えるのはそれだけ大きいからというのもある。魔力破斬がデカイとは言っても精々二階建ての家を叩き割れるかどうかくらいのサイズ。比率は比べるべくもない。

 というか。


「そんなこと言ってる間に見えなくなっちゃったけど、消えたのかな?」

「だと思いますけれど、少なくともかなりの距離まで魔力の影響範囲であることはたしかのようですよね」

「うん。さすがに精霊はいないみたいだけど」

「ウーン、かと言って飛んでみるノもコワイよネェ」

「いくら魔力が強くても、ちょっとねえ。炎属性とか関係ないし」


 船で漕ぎ出してどうなるかっていうのは、漁師もいないらしいことを考えるとやっぱり危険ではあるんだろうなぁ。戦力でどうこうできる部分を超えてるのかもしれないし。

 海軍的な組織はもちろん、野盗とか海賊とかならず者の気配もなかったってこともそういうことなんだろう。前例がなければ禁忌にならない。禁忌が機能していないなら必ず横紙破りが存在する。

 しかし……魔力のない世界にこの大陸の生物は耐えられるのだろうか? あの魔人はまだ生きてるのかな? なんか真空でも大丈夫そうな気はしたけど。


「わたしでも帰ってこられないかもしれないのかな?」

「いまさらですけど、魔法の力は私たちの根幹ですね。それ無しで鍛冶師としてやっていける気がしません」

「それで言うなら、聖女としての力などまさしくですね。聖魔法の使えない私は何者なのか」

「わたしも……でしょうか……魔法のない世界は……今では少し怖いです」

「エルフの私としてはあんまり関係ないような気がするけど……そうするとティアリスやアーチェリアも私と同じような感じになるのかな?」

「それなら。それはそれで?」

「その場合、私は人と狼人とどっちの姿になるんでしょう?」


 魔法がなくとも生きてはいける。それでも、魔法世界の存在として魔力無しで生きていけるかは今はわからない。ネレの言うとおり、魔法はすでにオレの根幹。無くてはならないし、無いことも考えられない。あるいはいつかそこも超えて……いかないわけがないよな。

 それはそれとして、次だ。


「本題その二」


 破山剣をしまいこみ、別の空間圧縮解放。取り出したるは釣り竿。

 来たれ海の幸、海の資源。ある意味では魔力より大事なことだ。


「……展開が早い気がするなぁ」

「ですけど、こちらも大事ですからねっ」


 やや呆れた調子のセラと前のめりのレア。

 一番意気込んでたものな。言ってたとおりレインさんの役に立ちたいってのが大きいんだろうけど、それだけでもないはずだ。


「なにが釣れるのかな、ユーリ」


 乗り気なのはレアだけじゃない。レヴもだ。


「どうだろう? 最低限食えるものだといいよな。川から海に行く魚とか戻ってきたりする魚もいたりするからそこまで変なものが釣れるってことはないと思うんだが」


 この世界にもサケと思しき魚はいる。ということはそれに近い生態系もあるはず。

 と言っても、ここは未知の魔境。イワシがマグロサイズかもしれないからそれこそトローリングロッドがいるかもしれない。そこは魔力強化で解決することにしたが、足りるかはやはりやってみないとわからない。


「士団に川で釣りするのが趣味の人っていたけど、これはだいぶ長めだね」

「川じゃ遠投しないからな。飛ばすには長さとしなりがいるんだ」

「湖よりずっと広いですもんね、海。淡水の生物や魔物とは違うのがいるんでしょうね」


 アカネが知ってる、つまりギルドで認知されてる水棲生物や魔物というと、淡水魚系統にワニかな。それだって広めの河とか湖に行かないといないものだ。

 なるほど、地球は水面が七割でその九割以上が海だったってことを考えると、今のこの世界はそれ以上に淡水の水棲系魔物が居住できる場所って少ないのか。トードはほぼ陸棲だったし。って、そもそも魔物って釣れるのかな? ってのはいまさらすぎる。

 そもそもなにが釣れるかすらわからん。クジラが釣れることは無いだろうが、念の為に強めに糸を引っ張って調子を確認。


「豪華な糸ですよネェ」


 笑いながらミアがつつくけど、まったくそのとおり。

 アラクネという種族がいる。地球だと蜘蛛の魔物の部類だったと思うが、この世界では立派な魔族の一族だ。

 言うまでもなく糸の生産が生業の一つになっており、その強度は科学の世界で謳われていたとおり鋼鉄を超える強度……どころか質によっては剣閃にすら耐える。紛れもなく最強の繊維だ。

 当然、魔道具の制作にも使われる。つまり、リーズが持っていた。メイルローブにも使ってるって言ってたもんな。


「蜘蛛の糸が綿糸と遜色なく繊維として使えるのも異世界故だよなぁ……」


 縦糸の方に粘着力が無いんだっけ。これはそっちの糸だってことだよな。人と共通の意思のある魔族だからこそできるってことだよな。

 まあ。その糸が某ヒーローのように手首辺りから出るのかマンガみたいに口から出たりするのかそれとも生物学的に共通した位置から出るのかという。そんな疑問は当人たちや親しい人しか知らないし知るべきでもなさそうだ。


「ただの勘ですけど、ユーリさんが邪なことを考えていそうな気がします」

「……悠理?」

「大丈夫。謎はきっと謎のままだから。オレにもわかり得ない」

「謎……なんの……謎でしょう……?」

「「…………」」


 さてなんでしょうね。ネレもララも睨むのやめてね。いまいちよくわかってなさそうだけどセラとティアも。


「ゴホン」


 咳払いして、わずかに出ている糸を巻き取る。リールはそのままストレートに巻き取るフライフィッシングのものだ。スピニングリールやベイトリールは構造の想像がついてもちょっと複雑で作れない。

 餌も、なんでもいいんだろうけどあえてルアーを。といってもこっちも適当な合金の棒みたいなのをこれまた適当に叩き出しただけ。それをサビキ状に。さらにオモリと底ざらいの意図で鉄製の小さなカゴを。

 むしろミアの言葉を正しく言うなら「糸だけ豪華」かな。この世界ならではの釣り道具になった。


「では記念すべき第一投、いかせていただきます」


 と一応、ついにここまでこぎつけた万感とか大漁祈願とか一投の安全祈願とか命をいただくことへの謝罪とか含めて手を合わせておく。

 あらためて竿を青眼に構え、大上段を通り過ぎて背後まで振りかぶり、身体強化。投釣りなんて何年ぶりかわかったもんじゃないが、感覚的にはたぶん行ける。

 軽く数歩踏み出して、遠心力を利用してリリース。仕掛けは想像通りに飛んでいく……というか、一〇〇メートルなんて軽く超えてるな。余裕を持っておいてよかった。細さについては生成主の名も知らぬアラクネさん様様。というかほんとにそんな長尺を生成してくれてありがとうございます。


「っ、とと」


 前触れ無く、リールから糸が絡まったように出ていく。着水したのかな。

 もつれないようにきれいに巻き取り、そこからは竿をゆっくり大きく上下に揺らしながら糸を巻いていく。こんなんでよかったんだっけ。

 繰り返し。繰り返し。ただひたすら繰り返し。遠投し過ぎの上に一巻きもゆっくりかつ少量なので、波の音をBGMに時間が過ぎていく。


「……ただ見てても退屈じゃないか?」

「そうだけど、わくわくしてるのもあるよ?」

「うん、アイリスの言うとおり。精霊のみんなもそうだって。あはは、おっきいのが釣れるといいよね、サラ」


 ならいいけど。

 正直、アタリを取って合わせるとかできるだろうか? 蜘蛛の糸は同径の鉄線より強いという話だったけど、アラクネの糸はそれ以上だろう。切られはしないよなきっと。その上で柔軟性もあるのはまさに魔法だな。ところで変化を感じ取るなら横ストロークのほうが、


「んお?」


 とかいろいろ思ってたら、急に重くなった。なにかがかかったような感じではなく、それこそ。


「あーそうか。根がかりもあるのか」

「根にかかる、ですか?」

「釣り針が海底の岩とかに引っかかるのを言うんだ。『地球を釣った』って言われたりしたな」

「地球……星を。なるほど、ふふ」


 アカネの疑問に答えたらユメに笑われた。そもそもは見栄から生まれた言葉ではあるんだろうけど、たしかにこうして説明してみると面白い表現ではあるよな。

 どうしたものかと巻く手を止めたが、逆に引っ張られた気がした。糸の伸び縮みか岩と格闘してるのか波か……と思ったけど違うなこれ。手に伝わる感覚が一定じゃない。なんか釣れてるのか?


「引っ張れば外れるかな?」

「え? まあ根がかりは強引にやったら外れることも……レヴ?」


 答え終わるより早く、腰のあたりに手を回された。

 なんとなくやることはわかったので、身体強化の度合いを上げる。


「よい、しょっと! わわっ!?」


 オレ自身が土に埋まっていたのを引っこ抜かれるような勢いだったので、引っ張るのを通り越してバックブリーカーみたいになった。最後はオレが頭から落ちたわけじゃなくて、砂で踏ん張りきれなかったレヴごと後ろに倒れたんだが。一応防壁を展開しておいてよかった。

 それでも相当な勢いはあったので。そのまま糸は引かれ。ドラゴンの力による綱引きの大勝利で一気に距離は縮まり。

 糸の先にあったものが、浜までたどり着いた。というか着地着弾、あるいは墜落した。


「「「え?」」」「「なにこれ?」」「うーんと?」「意味不明」「「「えーっ、と」」」「これ……は」「はい、たしかこんなのが図鑑に」


 口々に聞こえるのは動揺か。思い当たるものがあるのはリーズとアカネかな。

 しかし、こいつはまさかのが釣れたな。っていうか釣れるのかこれ、と思うのと同時に攻撃が来る。

 みんなその一撃を飛び退いて避ける中、オレはほぼ無意識で通信魔道具を起動していた。


「レインさん。冬の味覚いろいろはお好きですか?」

『おん? なに突然? そりゃ人並みに? って今は春だよ?』


 だよな。嫌いな人っていなかったと思う。いたのかもしれないけどオレは知らない。



「もしも今。デカいカニの魔物が眼の前にいるとしたら」

『やっておしまいなさい。そして調理はお任せなさい』



 了解。

 防壁と完全停滞エアロフリーズで行動を阻害。これで巨大ガニは微動だにできなくなった。

 で、どう締めるか。首を折ろうにもカニにはその首がないし、一刀両断はその後の調理に支障を来す。種別問わず眉間を狙うとかはよく聞くけど、それでいいのかな。

 空間圧縮から細剣を取り出し、魔力強化。跳び上がる。


「そら、よっと」


 防壁に穴を開けて投擲。スコン、と特に苦労するでもなく眼と眼の中間くらいに突き刺さった。

 巨大ガニはしばらく硬直して、ダウン。魔力が抜けていくのでこれで良かったのだろう。


「それで、これはなんなんですか悠理」

「かに、とお姉様と話されていましたよね」

「蟹ですよね。川や湖にまれにいるっていう」

「わたしも……本でしか……なので……手のひらより小さいと」

「ああ、サワガニっているな。この世界だと基本は魔物の餌なのかな」


 この世界の生態系や食物連鎖はまだ謎が多い。巨大化できている生き物もいればできていない生き物もいる。そのあたりの違いもまだわからない。

 ともかくカニだ。冬の定番、海の味覚の定番、年末年始の定番。


「それで、これはどうするのユーくん?」

「レインさんが調理してくれるってさ。つっても、生ガニのまま冷凍は聞いたことないな。茹でないと」


 カニはボイルしてから冷凍のはず。ワタリガニとか毛ガニだと生もあったけど、脚が長いやつは違ったよな。いや、寿司屋の生簀とかだと生きてたっけ?


「というわけで、水魔法使いの皆様よろしくおねがいします」

「わかりました」

「うん、まかせて」

「この大きさです。なかなか骨が折れそうですね」

「それに見合う価値は。あるといいけど」

「たぶんダイジョーブだヨ」

「ディーネもお願い」

「あ、温度上げるのは手伝いますよー。そのあと凍らせるのもおまかせー」


 空中にできたお湯の玉の中に大ガニが放り込まれ、少しずつ色が変わっていく。それを見て小さな歓声も。

 しかし、このサイズは火通りに時間がかかりそうだなあ。


『ところでユーリくんさん』

「はい? なんですかレインさん様?」


 おっと、繋ぎっぱなしだったか通信。

 って、ユーリくんさんってなに? こっちも敬称重ねで返しちゃったよ。


「ん? もしかして茹でたらまずかったですか? ズワイとかタラバ系だったんですけど」

『へー。巨大な脚長系のカニか。すごいよね、っていやそうじゃなくてさ。あ、刺し身もあるっちゃあるけど醤油が無いから茹でるのは問題なし。すぐに持ってくるなら冷凍はしなくても良いんじゃないかな……ってだからそれよりさぁ』


 じゃあなんだろう? と思ったら聞こえてきたのはある意味しょーもないもので。



『あのさ。ファンタジーもので海と美女といえばほら、大きいうにょうにょっとしたやつとかがうにょうにょうにょとでしょ』

「なに言ってんですかギャグじゃあるまいしいくらなんでもそんな雑なフラグは出たァァァァァァァァ!?」



 脈絡なく唐突に海が弾けナニかが飛び出す。

 なんなのこの回収力。そりゃカニがいればおそらくエビもイカもタコもいる、かどうかはともかくいや少なくともタコはここにいる。


『ということはお約束の!』

「そうはさせるか!」


 リターニングダガーを抜き、投擲準備、


「…………おお」


 より早く、さらになにより速く、光の一閃がタコの怪物を貫いた。レーザーだ。

 ゆっくりと、その発生源に振り向く。


「邪な雰囲気を感じたので」


 見事な洞察力ですララさん。

 っていうかさ。普通はそういうことにはならんよね。


『ユーリくんさんユーリくんさん。どうなったどうなった?』

「なんで期待してるんですかなにもございませんでしたよ当然でしょう」

『……………………、えー?』


 なにが不満なの。あなたの妹だっているのよ?

 それにさ。触腕生物が獲物を締め上げるのは捕食のためであって、断じてそれ以外の意図があるわけではない。むしろそうなれば一刻も早く助けるべきであって。少なくともオレならそうするしそうはさせませんわ。

 むしろあなた様が期待したようなその場合に危険なのってさ。女性陣じゃなくてむしろ。


「レインさん。参考までにどういうことになるんですか?」


 おやぁ? ナニを食いつかれてるのですかララさんや。

 しかもこっちの通信は切れてませんか? しかもしかも、ララさんや手が空いている方たちだけではなくて、カニを茹でている皆さんの目までこちらに向いていませんか?

 しばしの時間が経ち。茹で蟹の調理で温度が上がってるはずなのに周囲の温度分布がまだらになり始めました。

 冷たい目になる人が数名。苦笑いになる人が数名。真っ赤になっていく人が数名。

 目に見える確定ブチギレが代表して一人。


「……悠理」

「この流れはもうやったでしょうがっ!?」


 悲鳴と形ならざる弁明虚しく、オレはまたビンタの形をとったホームランで叩き飛ばされたのであった。ほら危険なのはオレじゃん。

 海に向かって飛ばされなかったあたりたぶんまだ有情だね。



『あ、そうだ。海鮮系は体質の問題があるから慎重にね』

「了解でーす……」


 そうかアレルギーか。食物系は重篤になりかねないな。

 って、普段から気にしないといけないことだよなそれ。むしろタコの件よりずっと大事な話だったよ。



 さて。諸原因様の手ほどきに従ってカニとタコの処理は終わったので、がんばって気を取り直して次。


「……」


 リーズが仕掛けの先のカゴを見てるけど、特になにが入っているわけでもない。宙を飛んできたんだから仕方ないっちゃい仕方ない面もある。

 それでも貝殻の一枚くらい入ってるかと思ったんだけどなあ。それで言うと砂浜にも砂しかない。貝類はいないのか?


「魚、一匹も入っていないですね。川や湖のものとは違って海の魚の価値は未知数ですけど」

「ユーリさんとレインさんが話していた……海藻でしたっけ? それらしいものも入っていないですね」

「ユーくんとレインさんにはどっちとも特に必要なものって言ってもいいんだよね?」

「わたくしも見てみたかったのですが……」


 元からの料理巧者組としても興味は尽きなかったらしい。とはいえ、オレが煽ったのもほとんど食関係だしな。そうなるか。


「うーん、食い尽くされてんのかなあ。こんな巨大生物がいるわけだし」


 視線の先というか視界を占めるのは、茹で上がったカニ怪獣とタコ怪獣。

 海藻もでかくなるなら植物もでかくなるだろうに、陸のどこでもその気配はないわけで。って、なら逆に陸生植物も食い荒らされてるか。


「探知もぼんやりとしてますね。セラはどうですか?」

「温度分布的にも微妙かなぁ。そこまで差がない感じ? ユーリ君は?」

「微妙だな。無限に近い水の塊の中ってこともあるが、なんか」

「はい……普段しているようには……隠蔽や放射による阻害とも……魔力吸収とも違います……ね……」


 リーズも言うとおりどうにも探知がうまく行かないのは、領域や構成物が未知だからだろうか? あるいは潮流のせいか? それとも海中生物ゆえに体内に海水が混在しているせいか?

 魔力探知をソナーとして例えたことはあるが、逆にソナーとしてはほとんど機能していない。ということは、海水自体が強力な魔力を帯びているか魔法を阻害する効果があるかそのすべてか。

 音を主体として扱える魔法使いならそのままソナー魔法が使えるのだろうか?


「ウーン、直に見るしかナイですかネ? 防壁張って海中散歩トカ?」

「もしくは海を割る。ユリフィアスなら楽にやれるでしょ?」

「わたしのブレスならできるよね?」

「炎魔法で蒸発させてみる?」


 そりゃ一時的に割ることはできるだろうな、魔力破斬とかで。でも難民を対岸に渡らせるようなのは無理だろいくらなんでも。レヴのブレスでもそれは同じだ。その上引き波からの寄せ波で津波が来そうだ。

 炎魔法も試す価値はあるんだろうけど、十中八九水蒸気爆発。ヤバいヤバい。


「全面に防壁張っちゃうとその外のものの回収ができないし、ユーくんやレヴさんが海を割っちゃえたりフレイアさんが干上がらせても必要なものもふっ飛ばしちゃうことにならない?」

「む。そっか」

「ディーネやウンディーネにとりあえず見てきてもらうとか……怖いから嫌って、まあそうだよね」

「水魔法使いが多いのですから、四方を防壁で囲って内側の水を抜くというのもできるでしょうか」


 手法はいろいろある。魔法使いの特権だ。

 ただ、自然を相手にするとなるとな。それも質量が質量だからなあ。空気とは違う。やってみないとわからないし、できたほうがいいことなんだろうけどさ。深海でなければ水圧もそこまでではないだろうからまだ行けるだろうか。でもなあ。どう働くがホント。と、結局恐怖と危険性の排除がな。


「……とりあえずプランBを先に試そうか」


 空間圧縮を三度開放。

 現れたるはどでかい網。それの両端にリターニングダガーの試製品をくくりつけてある。


「えーと。作ってるときから思ってたけど、なにそれ? どうするのユーリ君?」

「リターニングダガーを沖に向かって飛ばせば、勝手に底をさらって帰ってきてくれるという……一応は魔道具でいいのか?」

「魔道具……と言って……いいと思います」


 魔道具師から是をいただきました。懐が広いな魔道具。

 要はセミオートの地引網だ。普通に紐で引っ張ることもできるだろうけど、なにがかかるかわからない。特に今となってはカニとタコの例もあったわけで。

 ただ、地引網みたいな底引き系って爆発漁とか電気漁と並んで生態系への悪影響が大きすぎるから禁止されてたんじゃなかったっけ? 気を回さなくても原状回復リバースで戻るだろうか?

 まあ、仮にそうだとしても一回くらいなら許してもらえるか。この世界だと誰が禁止してるわけでもないから誰に許してもらうのかもわからんし。

 空気圧砲エアプレッシャーカノンを展開し、両端のダガーを飛ばす。鞘の片方を砂に突き刺し、波打ち際に沿って移動。網がやや弛む程度に幅を開けてもう片方も突き刺す。

 試製リターニングダガーの帰還速度は、大人が長距離走をするときくらい。なので網を引っ張るのとほぼ変わらないはず。

 またしばらく待ちか。今回も飛ばしすぎたかな。

 とはいえ、各々遠くを眺めたり波打ち際で行ったり来たりしてみたり砂で遊んだりしているので退屈はしていないらしい。

 そこまで波も激しくないし、魔物がいなければ泳げたかもなぁ。そこはこの世界の残念なところかもしれない。いや、結界を展開すればいいのか。自然現象だけを通過させられるんだから。でもそれで海水浴する意味とかそこまでしてする理由はうーん。

 とかのんびりと考えていたら、引き波の中からダガーが打ち上げられてきた。遅れて網も引きずられてくる。

 とりあえず半々に分かれて網を引き上げると、こっちの手法についてはなかなかの成果だった。

 我先にとセラが覗き込む。


「結構引っかかってきたねー」

「ああ。大漁だな」


 パッと見でわかるところだとイワシかな。場所に当たったのか海藻や貝もいくらか。あとチラッと見えたけどクラゲとかエイとか。


「やりましたねユーリくん。お姉様も満足しますよね……でも、これって全て食べられるんですか?」

「いや。見た目が派手なのは確定で止めといたほうがよくて、デカ目の平べったいのと透明なキノコみたいなやつも避けるべきだな。どれも毒持ってる可能性が高い」

「……うへえ」

「ま、万が一があってもわたくしがどうにかいたしますから。ララさんも。ですよね?」

「ええ、まあ」


 笑顔のレアに答えたら、フレイアがドン引きした。ユメがかすかに引きつった笑顔でフォローしてくれる。でも、同意したララもちょっと引いてる。

 正確には毒のないクラゲのほうが多いんだろうけど、気をつけるに越したことはないよな。食えもしないし。いや、食えるんだっけ? 中華料理にあったような。キクラゲ? いやあれはキノコなんだよな?


『キクラゲはキノコです。それとは別にクラゲは食材としてあるけど、種類まではちょっとわからないから無理かな』


 ふむ。

 頭の中読まれた気がするけど、誰でも考えることだからおかしくないよな。


『他は?』

「サメがいます」

『フカヒレねぇ。なんのサメかわからないし今回はスルーしようか』


 オレもフカヒレがどのサメのか知らない。無理だな。

 そういう方向だとやっぱりエイヒレも無理か。


「フグもいます」

『聞くまでもなく普通無理でしょうよ。当然無理無理』


 だよな。これについてはそもそも免許がいったもんな。


『あー、映像情報送れたらこっちで判断できるけどねえ。さすがに無理だもんね。次はわたしも同行しようか』

「そうですね……映像……それもいつか……形には」


 いや、無理せんでもいいのよ。リーズならほんとにやってしまうとは思いつつも。


「ともかくこの場はオレの判断しかないな。そうだな……ダメな奴は魔弾で指示するから、水の玉(ウォーターボール)で拾って海に戻してやってくれ」

「うん」

「わかりました」

「はい」

「了解」

「ハイ」


 まずは一目でわかるダメそうなのから排除していく。っても、それもフグみたいに捌き方次第で食えるんだろうけども。

 最終的に残ったのは、イワシとかサバとか見慣れたもの。さらになにかの種類のイカと、あとはたぶんキスだと思われるやつとかスズキだと思われるやつとか。うーん、釣り番組の知識は侮れないのか大雑把なのか。なんにせよ悪いのはオレの記憶力。

 生きてるものは空間圧縮と相性が悪い。発泡スチロールなんてものはないので木箱になるが、そちらは用意してある。セラに作ってもらった氷を同封して空間拡張バッグの中へ。

 ……これに人をか。緊急時とかなら? なんて出発前のアレコレで頭の隅によぎるのを今は流して、死んでいる巨大ガニと巨大ダコは冷やした後に空間圧縮で。

 さて、当初考えていたことはほぼやった。


「あとはどうするかな」

「最終手段は? やらないの?」


 姉さんが首を傾げる。

 最終手段。ってまあ、単なる誘引なんだけど。強弱調整すれば生きてるやつはとりあえず寄ってくる。が。


「正直なところ、対処しきれるかわかりませんね」

「あんなノがイッパイいるならネェ……」

「それこそ。スタンピードみたいになったら。とても困る」


 そこだよな。

 てっきり小型の魔物がチョコチョコいるんだろうくらいにしか思ってなかったのに、初めのカニとタコが怪獣だったわけで。これらでさえ最後の一体ずつではあるまい。

 もしもここで魔物が押し寄せたらリバーエンドがマズいからな。やめておこう。

 あと。



「……なによりさ。今までの収穫でも食いきれるかっていうのが」

「「「「「「「「「「「「あー……」」」」」」」」」」」」



 冷凍しといたら保つかもって言ったって、魔力頼みだしなそれも。調理とか判別もとりあえずレインさん頼みだし。

 今回はこんなものにしておくか。

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