Interlude もしも風魔法使い以外になったなら
「ユーリ君ってさー。もしも風以外の魔法使いに転生してたらどうしてた?」
「んー?」
食後にぼんやりしてたら、セラにそんなことを聞かれた。
「話してなかったか?」
「乾物を作って売るとか。そんな話しか聞いていないと思う。それも風魔法使いとしての話」
これもぼんやりとした疑問はティアに訂正された。そうだっけ?
風魔法使い以外の道か。そもそも考えたかどうか。
選択肢云々よりも強くなることしか考えてなかったからなあ。火水風土で可能性があるのは風で、乾物を売るってのは楽して金を稼ぐ方法として付随的に思いついただけだし。
「強くなるから風っていうのも驚いたけどねえ……うん、一番驚いてたのはたしかにフィーかもね」
「転生するって考えたときは、あたりまえだけど私と出逢った後だったよね。力っていうなら炎とかよくないの?」
「たしかに……継戦のことで言えば……フレイアさんのように……少ない魔力で大きな魔法を使うという手法も……ありますね」
「わたしみたいなドラゴンとか、ってそれは無理だよねたぶん」
「ドラゴンのユーリさん、ソレはソレで見てみたいカモ」
どっちも、転生するにしてもどうやって生まれてくるかって問題があるよな。特にドラゴンの場合。
「人に限るなら、あるいは光や聖、闇や邪のような特殊属性ですか。前者については男子が発現したという記録はないようですけど、世界のどこかにはいるのでしょうね」
ララのような“聖女”や“聖女見習い”という呼称が先行しているから光魔法使いは女性しかいないと思われがちだし、実際に聖国でも回復系統の役職についているのは女性ばかりだ。
かと言って、光属性の魔力を持つ男性がいないわけではない。リブラキシオムの両殿下なんかその一例だな。って言っても王族だから血統の要素が大きいだろう。これまで王妃になった人が光魔法の素養を持っていたか、聖女と縁組をしたりしたとか。
「憧れが無かったって言ったら嘘にしかならないけど、そこは汎用性がな。ララとユメとリーズを否定するみたいな言い方になっちまうけど」
「いえ……そうでないのは……わかっています……ちゃんと……事実……わたしやララさんが特別な存在なのは……たしかですから」
「あ、一応は普通の人としての限界を目指してたんだっけ。一応は」
そこまで「一応」に含みを持たせなくてもいいですセラさん。あと「普通」にも。間違っちゃあいないんですけども。
「じゃあ、エルフになるのも駄目だね。魔法使えないし……そうだね、もしそうだったらみんなとも話せたよね」
う。いい加減そこの解決はな。誰よりフィーに悪いし。
でもまあ、そんな感じで生まれは選べないんだよな。あるいは選べたのかもしれないけど、不確実性に賭けるのはなんとも。そういう可能性もあったのかもしれないんだけども。
「なんの話?」
「もしも。ユリフィアスが風以外の魔法使いとして身を立てるならどうする? という話」
「あ、わたしも興味があります」
片付けを終えてやってきた姉さんにティアが端的に答えると、隣りにいたレアも声を上げた。なんとなく救われた感があるのはどう考えても駄目な安心だ。
けれどそれを汲み取ってくれたのか、ゆるい風に頬を撫でられる。ありがとうな、フィー。
「風魔法使い以外のユーリさんですか?」
「もともとは四属性を使えたのですものね」
「とはいえ、小金稼ぎという意味で作っていたのは陶器くらいでしたっけ、転生前は」
少し遅れてアカネとユメとネレも続く。
「あー、陶器。お風呂ね。土魔法使いならそういうのもあるんだよねそうだそうだ」
「粘土の質は焼き物には重要だからな。魔法で良いものが出せるならいろんなハードルを無視できる。そう言えば土系生産物だと天然砥石も枯渇が近かったって話があったな、転移前だと」
「たしかに砥石は貴重ですね。なるほど、そういう生成物も」
鍛冶師のネレとしては気になる話になったか。
土中鉱物を好き放題作れるなら、鉄だけでなくもっと硬度のある素材も作れるのかもな。合成物までとなると無限にあるわけだし。
タングステンカーバイドだっけ。アレの組成とか知ってたらどうなったかな。
「デモ、ユーリさんの話だと金属からナニからいろんなモノ出せるカモってコトでしたケド。そういうのってゼンゼン無いですよネ?」
「土……石自体も宝石以外に様々な種類があると……ユーリさんの知識もそうですけど……レインさんの知識でも」
「今のところ無理そうですね。私やアレックスさんのような混合以上ではなくて、土の単属性であればまた話は違うのかもしれません」
頭に浮かぶのはアンナさんだけど、どうだろうな……ってなんかララにすごい冷たい目で見られた。
あるいは、ノゥならどうだろう? やはり精霊との直接の意思疎通は必要だなぁ。
「ネレさんでいうと、火は? 私は熱もだけどさ」
助けてくれたってわけでもないだろうけど、助かった気はする。これまたありがとうセラ。
「火系統は火系統で難しいよな。パッと思いつくのはゴミの焼却処分とかだけど、それはもう仕事としてあるし、断続的に燃やし続ける必要もないし」
「そう? …………よくやらされてたよ?」
フレイアが遠い目をするけど、威力的に爆破処理にならないか? 機密物や即時処理の必要なものに対しては有用だろうか?
なんにせよ、人が火を起こす目的というのは限られている。灯り、暖、調理、物体の加熱、焼却処分。火を着けた相手が可燃物なら燃え続けるし、不燃物であれば割に合わないかなんの結果ももたらさない。それこそ攻撃のための魔法属性の面が強いかもしれないな。
「主用途が明確すぎるのかもな。パッとは思いつかないな」
「ユーリさんでも難しいですか……」
うお、アカネがしょんぼりしてしまった。純粋な火属性だものな。種族的なこともあるし。
「難しいというより、それだけ生活と切っても切れないものだってことだよ。料理も灯りも暖房も火が大部分を担ってるから。それだけでも有用なものだ」
「自然にそのままで存在しないものは……火だけですから……そういう意味でも……特別ではありますね」
火。火か。
大小というか、別に小さな火だけではないわけだから。大火。ああ、
「自然の火を完全に掌握できるのなら、今ある形とは別の形の消防士……火消しとして活躍できるかな」
「消防士ですか?」
地球の中世代がどうかは調べることもなかったから知らないが、江戸時代で言えば破壊消火……延焼阻止が基本だった。対して魔法が使えるこの世界では放水消化が基本だ。水魔法使いがいない場合なんかに土魔法による化学消火に似たことが行われるくらいか。
放水消火の弱点として水浸しになって貴重品を台無しにすることがあり、それへの対処や特殊火災に対応する化学消火についても後片付けが必要になる。土もその類だ。その点、火をそのまま消し去ってしまえば被害は残らないことになる。
問題と言っちゃいけないところとしては、火事がそこまで多いかって言うとそうでもないってところだな。火抑符もあるし。でも少なくとも、種族によっては木造建築の多いステルラでは新しい職業になるかもしれない。
「火事って、消したと思ってもくすぶり続けてることが多々あるらしいからな。魔力探知もできれば被害を最小限に抑えられるだろう」
「なるほど……そういう仕事もあるわけですね」
アカネは深くうなずいてくれた。これで答えの一つにはなったかな。
「最後に。わたくしたちのなかでは多いのは水魔法使いですけれど、ユリフィアスさんならどう使うのでしょう?」
「ウォーターカッターって、工具なんだよネ。そういうのカナ?」
「高圧洗浄も。って。なんだかうまく使われてる気がするけど」
冤罪だろそれは。掃除するときに楽なのは事実だけど。むしろティア自身も積極的に使ってるじゃないか。
「あとはやっぱり治水系とか? アオナとかリュフィとホルン組みたいな」
「ハーシュエス家もそうでしたし、農業的な用途でも天候調整も有用ですよね」
うーん。セラもララも、考えつくところはそこか。
「そういうのって、あんまりやった覚えはないね? もちろん、魔法の修行の一環でならしたけど」
「治水は流路を変えるから土の領域だよな。日照りに雨を降らしましょうってのも一過性なら出来はするけど、気温が高ければすぐに乾燥するわけだから、根本解決するには気候自体を変えないといけないからなぁ。それは魔法の力を超えてるところもあるな」
「そういうもの?」
レヴが首を傾げるが、天候を決める要素は複雑で、どれとどれが絶対というわけでもない。だからこそ逆にというか、水の力でどうこうできると思えないところがある。
「日本の場合、上空に西から東に向かって強い風の流れがあったんだけど、はるか西には世界一高い山が連なってる場所があってさ。そこで北と南にその風が分かれて温度差ができてちょうど日本の上で合流するから、高温多湿の雨が多い気候になってて。夏の前後には台風っていう大嵐が頻繁に来たりもしたんだけど、その二つがなかったら砂漠化してただろうって話があったくらいだ」
「地形も大事……ということですね……なるほど」
「あとは、風の吹き方や空気の温度差密度の違いかな。海水温の高低で季節の平均気温がガラッと変わるなんてのもあったな」
「いろんな原因があって複雑に変わるんですね」
レアがまとめてくれた通り、気象には様々な要素が絡む。プールに水を貯めれば季節を越せるとは限らない。
カオス理論っていうのは天候にも当てはまるんだったか。日本ってところ一つとっても酷暑もあれば冷夏もあり、厳冬もあれば暖冬もあり、空梅雨もあれば雨天続きもあった。そのどれもが同じ場所で外的要因の差異から起きてたわけで。そこを予測するのも気象予報士の腕なんだよな。
「でも、今言ってきたのを全部できるのがユーくんの風魔法なんだよね」
「あはは。『これは私も負けてられないね』ってフィーが」
フィーも風属性だもんな。ならオレと同じことはできるはずだ。
「他の魔法でできないことは無理だけどな。っていうかレアとセラとの話で出たことがあったけど、疑似精霊魔法自体はみんなも使えると思うぞ? なあ、リーズ」
話を振ると、リーズはゆっくりとうなずく。
「はい……可能です……魔法陣の形成は各属性の魔法でもできますから……現にわたしも使えています」
「じゃあ、空間収納魔法とかも?」
「はい……理論上は可能です……ただ……圧縮時の魔力供給が繊細なので……その辺りを詰める必要はありますね」
「そうなんですねー。ふむふむ」
ある種の極地はそれと言ってもいいものな。セラの気持ちもわかる。
「だとしても、不可視状態にできるのはユーリくんのように風魔法だけですよね?」
「単純に……属性の可視防壁で覆ってしまえば……魔法陣そのものを見えなくすることはできます……けれど……完全になにをしているのかわからないようにということであれば……たしかにレアさんの指摘どおり風と……邪だけですね」
そう言えばそうか。視認させないだけなら衝立で隠してしまえばいいだけだな。でもその衝立は見える。
とは言え。
「結局、魔力探知が一般化されたら全部バレちゃうんだよね……まあ私の場合は物運ぶ系は無理そうだけどとほほ」
フレイアの言うとおり、そこだよな。いや、後半も後半で否定はできないですけども。
でもまあなんだ。技の一つとしては使えるってことだし、成長の余地だって考えればまだまだ先は長いんだよな。その他のことを考える時間もまだまだある。
人生は案外長いのだし、案外もう一度始まったりするのかもしれないのだから。って、後者は今これを言うと不幸の意味合いが大きくなるかな。




