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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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第七十五章 被告人は神様のつもりか? え?

「それでは、裁判を始めましょうか?」



 上座に座ったララが高らかかつ、かすかにおどろおどろしく宣言した。

 なんの裁判かと言えば、待ち望んでた、じゃなくていつか来るだろうなって思ったり言ったりしてたやつですね、はい。判決は絞首刑と決まっているやつ。


「まず言っておきたいのは、私たちの誰もお互いを責める気はないということです。悠理を好きになってこうなったことは、誰に非難されることでもないのですから」


 ララが微笑みながらそう言うと、誰よりもユメが深く頭を下げる。次いでミア。セラは苦笑い、ティアさん……でなくてティアは、かすかに申し訳無さそうだがほぼ無表情。


「問題はあなたです、九羽鳥悠理ことユーリ・クアドリことユリフィアス・ハーシュエス」

「……はい」


 正座は辛い。責められている理由もわかるだけに辛い。

 だからと言って別に悪いことをした覚えはないし、


「大げさに前置いたものの、あなたの生き方自体も責めるつもりもないのですが」


 最初からララに責めるつもりが無いのはわかっている。のだが、それはそれとして気に入らないのもよくわかるので甘んじて受けているのです。

 ただ、


「……………………たった一つだけ」


 苦虫を噛み潰したような顔を続けていたララだが、その瞬間能面とも鬼面ともつかない表情になり、言った。


「まさかこれ以上に増えないでしょうね?」


 ララの言葉に、オレたち二人以外の全員が神妙な面持ちでそれぞれ見合う。

 一度ならず二度までもというか、二度あることは三度あるというか、類は友を呼ぶというか。たしかにどんどん増えていっていますからね。

 ユーリ・クアドリとして、転生するまでが二年。ユリフィアス・ハーシュエスとして、姉さんを特例に学院で一年。実質三年で十三人と一柱。数えてみるとこれはほんとにどうなの。人生まだ長いんだから、可能性は高いほうが大きいというか大きいほうが高いというか。無い可能性のほうが無いというか。

 なにより。


「姉上とか?」


 話したばっかりだし。それ。

 恋愛関係ではありえないけどね。


「エーデ? なんで?」

「いえ、こうなると私とフレイアさんとかレアも婚姻関係みたいになるなって話をしましてですね。それを見込んで姉上も同列になろうとしてくるのではと」

「……そうなるんでしょうか?」


 レアは首を傾げているが、普通は疑問に思うだろうな。

 婚姻関係って公的には書類上のものであって、実際の例となるといろいろある。この世界ではどうかわからないが同棲していることを事実婚とした例もあるし、それに照らし合わせればこの面子が互いにそうであると言えなくもないだろう。単なる共同生活でもないのだし。

 あと、エーデルシュタイン様の動向に対するのも加えての疑問かな。


「セラのお姉ちゃんは、フレイアと家族になりたくてユーリのところに来るってこと?」

「レヴさんの解釈で正しいんだけど……私たちの関係性はともかく、エーデならユーリの横より命のほうを狙いに来るんじゃない?」

「あーそーですねー、姉上なら」


 直接話してはいないからわからないけど、オレもそう思う。まず間違いなく“さいきょうのてき”になるな。セラのこともあるし。

 ちなみに、“きょう”にどの漢字を当てるかは言えないです。


「……エーデルシュタイン殿下は、その。激しい方なのですね」

「そこはスナオに『怖い人』って言っていいんじゃないカナ? そうなノ?」

「普通の人に見えたけど。でもフレイアさんとセラディアが言うなら。そうなのかもしれない」

「うん。いい人のはずなんだけど」


 ユメとミアと姉さんは苦笑しとる。ティアは真顔。


「『エーデルシュタイン殿下は怒ると怖い方かもしれない』という噂話はありましたね。セラさんの前で言うのもなんですけど、実際にお目にかかるとそんな予感もしました」


 ネレも肯定か。

 人それぞれ虎の尾は違うからな。エーデルシュタイン殿下の場合はそれがフレイアってことか……あれ、セラは? そう思い視線を向ける。


「だいじょうぶゆーりくん。ふれいあさんのことだけでなくわたしのことでもおこってくれるよ。きっと。たぶん。すこしは」


 セラがそう言うのならそうなんだろう。そういうことにしておこう、じゃない、覚悟しておこう。どっち方向にとは言わずに。


「フィーが『魔法学院にはいなかったの?』って」


 エルを通したフィーに聞かれて、元学院組が首を傾げる。


「クラスには……挙げるならアオナさんでしょうか?」

「あー、ぽかったねぇ」


 え? アオナ?

 ガッツリした接点でいうと、最後の試合くらいしかなかったような気がするけど。ずっとクラスメートではあったけど。

 でも、最後に手合わせしたときに残念そうではあった。あれは、力の強さの話だけじゃなかったのか。


「アオナさんはわたしと同じ水魔法使いですから、そう思う気持ちもわかります。特にユーリくんは他種族に対する偏見も一切なかったですし、そこもあるのではないでしょうか」

「って言ってもホルンとか他の水魔法使いは特にだったけどね。火魔法使いは、私が結構早く熱に目覚めちゃったから離脱したのかもね」


 そういうことか。ほんとに悪いことしたのかな。

 今となって思えば、クラスに悪人はいなかった。けれど、強くなればそれだけ悪意が寄ってくるだろう。それも背負わなくていい類のものが山ほど。バックボーンの複雑さを無視して誰とでも同じように接することはできなかった。いやまあそれ言ったらレアとセラもそうなんだけどさ。

 でも、なんだかんだで「世界が単純だったら良かった」と思ったことって無いな。複雑にしすぎてると思うことはあるにしても。ってなんの話だこれ。


「ほかの学年の……学院生も……いますよね……お母様から……話も聞いていますし」

「正直。三年生間の感覚としては。『触れないほうが良さそう』という感じでした」

「ユーリさんと言えば大立ち回りの印象が大きいですからネェ」

「行動をともにさせてもらうことが多かったので周りからいろいろと聞かれましたけれど、どうしてもいい報告にはなりませんでしたからね」

「『自分はやられる側に回ったりしないか?』って聞きに来た人もいたね。否定していい人にはちゃんと否定はしておいたけど」


 なにそれ。人選ぶ爆弾かなにか?

 こうなると逆にオレが学院の混乱の元だったんじゃないのか。そういう気はしてたけども。今どうなってんだろう。


「でも特にユーくんはアレが有名だったよ」

「アー、ソウだネ。ユーリさんと言えばアレだったよネ」

「アレ。うん。恐怖の代名詞だった」

「「??」」


 アレとは。単純代名詞で通じ合われてもわかんないです。レアとセラもみたいだけど。

 一人困り笑いをしていたユメを見る。ありがたいことにそのまま答えてくれた、って、言うのに困るようなことなんだな。


「『その手が無くなればおまえはその妄言で笑えなくなるか?』という発言や、その際の表情に雰囲気ですね」

「あーそれ系の」

「あはは……」


 セラとレアが即納得したけど、オレもわかった。あの一件ね。

 一件っていうか。


「あれ? もしかして、『今すぐ手を離さないと腕が落ちるぞ』とか『二度と剣を振れなくなりたいのか?』とか『命と引き換えにか?』とか果ては『殺すぞ』とかですか?」


 アカネが言ったように、何件もある。それ以外にも言ったし、実力行使に出たときもあったな。さすがに腕と命は取らなかったけど。


「……なんとなくわかるような気はしますが、全容を伺っても?」

「これもいつものことですけど、風牙を取り上げようとされたときのユーリくんの返答ですね。本物の殺気っていうのがどういうものかよくわかりました」

「『そいつをよこせ』とか『貴族の自分がもっと上手く使ってやる』とか、相手も相手でよく言えるよって感じでしたけどねー」


 ララの願いにはレアとセラが答えてくれた。言ってる間、ユメと同じような笑い顔してたけども。

 最後の方になると雑になってきたのは、いい加減うっとおしくなってきたからだ。そりゃ風牙が珍しいのはわかるが、なんでくれてやらないといけないんだ。魔法のことといい、ほんとに疲れるネタだった。


「それってギルドの話だよね。そっちはどうだったの?」

「冒険者や取引先からは、『存在感のない素材魔の人』と呼ばれていましたね」

「「「「ぷ」」」」


 エルの疑問には職員だったアカネが答えてくれたが、何人かが吹いた。

 呼称が『少年』じゃなくて『人』っていうのがまさに存在感の希薄さそのものだな。年齢どころか下手したら性別すら不詳ってことだよな? ワラエルヨ。


「いえ、ちゃんと気づいている人は気づいていましたよ? といってもほとんどは架空の金勘定をしていたり実際の相場変動に頭を悩ませていたりでしたけど」


 そのあたりは懸念としてあったところだ。でも、復興で相殺されて今は一年前か二年前と同じような状況に戻っているだろう。短期の好景気だ。スタンピードの直後とかにもあり得る。


「風魔法と魔力隠蔽のおかげかな。ユーくんだし」

「でしょうかね。セラさんの一件がありましたけど、刀のことも含めて帝国では噂もありませんでしたから。ステルラやシムラクルムはどうなのでしょう?」

「アエテルナだと学院の生徒を通して知られてはいましたケド、基本的に恋愛系ではなかったですかネ。尊敬? ウーン……」

「ふふ。肖像画もありませんでしたものね、悠理」


 ララ。笑うならちゃんと笑いなさい。怒ったり拗ねたりせんから。そこのセラとティアも。ミアがなにか考え込んでたのにツッコめなかったでしょ。

 っていうか、目立ちたくないなら無いほうがいいんだよ。ほんっと人間は矛盾が多すぎるな。いやだから悔しくないって。


「存在感というのなら……わたしはユーリさん以上に無いはずですけど……わたしの肖像画はあったとお母様が……」

「うん。リーズだけじゃなくてミアも一緒に描いてあったし、わたしのとリーナさんのとユメのもあったよ」

「わたくしですか!?」

「アハハソウダネー。アタシのもあったネー……」


 リーズの存在感が無いってことはないと思うんですけど。お姫様だぞ。

 と言っても、ミアさんも性格はもちろんとして容姿も知らなかったみたいだし、ニフォレア・ティトリーズの人となりを知らない人はそれなりにいるのか。


「っていうか、リーズはこの……十五年くらいか? 一度も城に帰らなかったのか?」

「…………いえ数度は…………ごめんなさい…………魔人事変のときだけです」


 いつにも増して言葉を選んだな。

 これまで言及してこなかったけど、一国の王女がそれだけ姿を消し続けるってのはマズイのでは。たしかヴォルさんの話だと「修行中」や「見聞中」ってことになってたらしいけど、限度があるのではなかろうか。それとも、案外そのへんはファジーというかザルというかだったりするのか?


「え、なに?」


 セラを見ても察してはくれなかったけども。

 割と急務、いやリーズがアエテルナに帰ってしまうのも寂しいっていうか離れるのは嫌だな。うーむ。


「わたしのことは……なんとかします……それより……ステルラではどうなのでしょうか?」

「狼人族の街では特になにもしてないですよね」


 そうだな。ガーネット家に二度挨拶に行っただけだ。

 そもそもステルラ自体とやや縁遠いこともあるし、種族間交流が密とはいえ「連邦」と名乗るだけにその国家形態は衛星都市群と言っていい。噂のたぐいは広がりにくいし尾ひれもつきにくいだろう。それが眉唾であればさらに。

 ……いや待て待て、「なにもしてない」ってなんだよ。一句違わずそのとおりではあるにしても。


「デモ、牛人族の街だとイロイロやったよネ? ノゾミくんとのコトもあったし?」

「ええと、そうですね。ハウライト邸では、『不思議なお兄ちゃん』と『ノゾミお兄ちゃんの師匠』でしたね。それと屋敷に出入りする方たちから伝わったらしく、わたくしに恋人がいるのではないかという噂はあったようですし、それがユリフィアスさんだというのも……というのは現実になりましたけれど」


 ユメが頬を染めて嬉しそうに微笑む。幸せオーラ全開で。

 数名ほど、その輝きに浄化されて消滅しそうになっていた人がいたのは気のせいだろう。オレもそうっぽかったのもきっと。


「……ノゾミ君もいい兄上ができてよかったね」

「……信頼されていましたからね、悠理」


 どことなく存在が薄くなった気がするセラとララに言われたが、そうか。ノゾミは義弟になるんだな。

 それと、帝国殿下方お三方も義兄に義姉か……うーん。だいじょうぶかな、いろいろ?


「他によく顔を合わせてたと言えば、アンナ?」

「アンナさんはユーくんにそういう感情は持ってないと思いますよ?」

「んー、うん。言っといてあれだけどそうだよね。興味なくはないだろうけど、私の知り合いかアイリスちゃんの弟くらいにしか見てなかったか」


 さすがにその線は無いね。アンナさん素直だし、なにかあったらもうちょっと表に出してくれてると思う。って、アンナさん今頃くしゃみとかしてたりして。

 とまあ、これで一通り精査したようだが。


「結論、増えないこともないといった感じですか。悠理あなたは本当に……」


 ごめんなさい、オレだってそうなる気はなかったです。

 って言うとここにいるみんなに悪い。謝意より礼だな。


「そんなダメなオレを好きになってくれてありがとうございます」


 素直に頭を下げると、言葉に詰まった声がした。たしかに卑怯かこれは。


「『はい、ユーリの勝ち』だって。ほんとだね。あはは」


 フィーの言葉を伝えてくれたエルが笑う。


「ぜんぜんダメじゃないですよ」


 アカネは、言った言葉を否定しオレ自身を肯定してくれる。


「……『惚れた弱み』というやつですから仕方ないですね」


 ネレは本当に仕方なさそうに言うものの、ちょっと頬が赤かったりする。


「ユーリ、ほんとにお話の中の人みたいだね」


 まごうことなく物語のハーレムの様相にレヴはおかしそうに笑う。


「予想外といえば予想外だけど、予定と夢は実現したからいっか」


 フレイアは呆れつつも笑い。


「みなさんとなら……いろんなものを乗り越えられます……きっと」


 リーズは希望をたたえた微笑みを浮かべ。


「ユーくんなら、ちゃんとみんな幸せにしてくれるよね。もちろんユーくん自身も」


 姉さんは無限の信頼を寄せてくれ。


「隣を歩けるようにこれからもがんばりますっ」


 レアはあらためて決意を固め。


「背中は叩くか蹴るかしてあげるからね」


 セラは意地悪そうで、それでいて見守るようでもある顔をする。


「どこまでもついていきます」


 ユメは優しい声と笑顔を向けてくれる。


「いつでも。見てる」


 ティアは言葉尻ではちょっと怖いが、薄いながらも笑ってくれており。


「夢の中までデモお付き合いしますヨ」


 ミアは少しだけ変化した表情を向けてくれる。

 みんなが愛おしい。向けられる感情も伸ばされる手も離したくはない。


「悠理。もう絶対に逃げられませんし、逃がしませんからね」

「望むところだな」


 芝居がかっているとわかりつつも不敵に笑って答えると、ララが抱きついてきた。それを皮切りに我も我もとなり、もみくちゃにされる。ってティアもセラも口角と頬を引っ張るんじゃないよ。


「ふぁっはく」


 恥ずかしいとかより幸せで笑えてくる。

 手に入れた幸せを逃がす気はない。そのためにももっと強くなろう。なにが相手でも勝てるように。

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