Interlude この関係性における最大の謎と、もうひとりの覚悟
「レインノーティア・ファイリーゼさんっていうか新草雨音さん? 一つおうかがいしたいのですが」
『なに、畏まって?』
ユーリと話をした翌日。セラは自室のベッドに正座した状態でレインと通信を繋げていた。すでに状況は説明していてお祝いの言葉ももらっている。
その上で聞きたいことはただ一つ。
「いやその、ユーリ君ってなんであんなモテるのかと。そのあたりのことをご教授いただきたく」
それである。おそらく全員気になることではあるだろうが。
通信の向こうのレインからは、特に間を置くことなく答えが帰ってきた。
『なんでそれをわたしに聞くのかなって気がするけど、自信があるからじゃない? それと、使命感とか昔のことから来るちょっとだけの心の闇? そういうのがあるから一人でガンガン先行っちゃうんだけど、なんだかんだ待っててくれるし、崖から落ちちゃいそうになったら絶対手を掴んでくれそうな感じなんでしょ? レアが言ってたよ』
それはすとんと胸に落ちた。
いや、「先を走っていくこと」はセラも自分で言っていたことではある。その上で「置いていかれるのではないか」と考えてはいたが、ここまでそんなことはない。危険から遠ざけようとしてくれてはいても、そちらも完全な部外者として蚊帳の外に置かれたことはない。心の闇についてもそうで、やはり時折なにかを感じることはある。焦りや諦めのような。それが過去の、特に一度死んだことから来ているのだろうこともわかる。
『あとはほら。常識としては間違ってないんだけど実はおかしくて誰も文句を言えないことって結構あるよね。それに真っ向から立ち向かってるってすごいわけでさ……いやそれはほんとすごいんだよ。自分を貫けるってことだから。八つ当たりで首飛ばされそうになっても相手全員の首飛ばせそうだし、その気があるからできるんだろうけどさ。って言ってて怖』
「ですねー」
ユーリがいれば「後悔する生き方はもうする気がないから」と言ったのだろうが、二人とも聞かなくてもそれはなんとなくわかっている。そういう生き方を見てきているのだから。
『もちろん、どうあっても礼節とか序列とか必要なことはあるけどさ。最高位のセラちゃんとかリーズさんにユメちゃんミアちゃんもレアも制止とか苦言を呈したりするようなこともなければリブラキシオムの殿下たちにも一目置かれてってことは、そこのあたりはちゃんとしてるってことだもんね』
「ですねえ。って、私はお姫様扱いされたことないですけどねあはは」
『え、してもらえばいいじゃん』
冗談に真面目に返されたので、セラは固まった。
言われてみればそれだけの話だった。一瞬とは言わず想像してしまう。というか、経験から呼び起こした“ドレスで抱きかかえられたところ”で記憶を一時停止してしまう。
「そそそそうですね? ま、まあいずれはですけど? と、ところで。レインさんとしてはユーリ君はどうなんです? 結婚相手的な意味で?」
『若いっていいねぇ。で、そっちについては無いかな』
「おっとぉ、それも即答ですか」
苦し紛れで出した反撃を空かされたおかげで浮かんでいたものが流され、セラは苦笑してしまった。
誰だって相性はある。ユーリが誰にでも好かれていたわけではないのはそうだし、好意的であれば恋愛感情になるわけでもない。けれど、セラとしては価値観の面で二人は共通だと思っていたのだが。
『そりゃ、嫌いじゃないよ? でもわたしは波乱万丈に生きる覚悟はないからね。それに、正義の味方って柄でもないしちょっと子供っぽく見えちゃうかな』
通信の向こうのレインは苦笑したような様子だったが、そこにはしっかり憧れがあったのがセラには感じられた。同時に、自分がそれに染まってきているのも。自分よりもレアがだろうが。
「大それてはいますよね、実際」
『まあね。でもそれよりなにより、わたしはレインノーティア・ファイリーゼとして生きるって決めたのが大きいかな。お母様の分も生きないとね。だから、わたしはファイリーゼ領で幸せになって、領民を幸せにするの。わたしのできる限り』
その声には強い力があった。
ともすれば、その覚悟はユーリより重く強い。皇族であるセラにもこれ以上なく響く。
貴族には貴族のルールと矜持がある。ユリフィアス・ハーシュエスはそれを踏み越えていき、レインノーティア・ファイリーゼはその中で戦っていく。それが、二人の転生者がそれぞれ選んだ道。
「応援してます。きっとレアも、ユーリ君も」
『うん。ありがとね、セラちゃん。セラちゃんもがんばってね? というか、自重せずに“らしく”ね?』
「前向きにがんばりまーす」
それぞれの場所で、二人はお互いを鼓舞しあって笑いあった。




