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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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第七十三章 ユメの日

「ユリフィアスさん。恋とはなんでしょう?」



 ユメさんとの一日は、別宅のソファで隣同士に座った状態でのそんな疑問の言葉から始まった。

 人それぞれだから始まりかたはいろいろあったし、気持ちや思考の整理だから議論も必要だろう。でもこんな哲学的な命題が来るとは。

 だけど。


「なんとなく、ユメさんからそんな質問が来る気がしてました」


 真面目だから……って言うとちょっと違う気がするけど、なんだかんだ複雑に考えてそうなのはユメさんな気がしたからな。ララやネレやリーズも同じこと考えそうだけど、その辺の山はとっくに越えてきたんだろうし。あるいは押し通ってきたか。

 さて。心の話をするとどうしても闇の領域みたいなところまで踏み込まなきゃならなくなる。


「それもまた知る必要はないことだと思うんですが、知らないと先に進めないなら知るのも一つの手段なんでしょうね」

「です、ね」


 ああ、また回りくどく拒絶しようとしているな。ユメさんだって相応の覚悟があるだろうに。そこで無理矢理に足を引かさせるのは誠実じゃない。


「すみません。正直、あんまりいい話ではないんですよ。オレも聞いたときは陰鬱な気持ちになったくらいですから。だからまあ一つの論として聞いてほしいんですけど」


 深呼吸。

 よし、覚悟は決まった。


「おそらく、そのほとんどが本来は“勘違い”ですね」

「……“勘違い”ですか」


 これ以上なく暗い声を出された。うつむかれてても表情がわかりそうなくらいに。

 それこそその言葉だけだと勘違いされそうだが、「ほとんど」ってちゃんと言ったよなオレ。


「あ、ごめんなさい。それだけ難しいものだということですよね?」

「ええ」


 跳ね上げられた頭と力ない笑いにうなずく。

 こうなれば、ちゃんと最後まで話をしよう。オレの覚えてること全部。


「心については、心理学という学問がありました。当然、恋愛に関する心理学も。有名だったところでは『吊り橋効果』というのがあって、『揺れる吊り橋の上で告白をすると安定した石造りの橋の上よりも成功率が上がる』というものだったんですが、統計取って証明した人がいましてね。高所や不安定な足場による恐怖の動悸を、相手に対する恋慕の動悸だと思ってしまうそうです」

「吊り橋ですか。恐怖と恋慕」

「他には、壁に追い詰められるってのもあったんですけどね。そのあと顔の横あたりの壁を叩くっていう。これも同じようなものでしょう。追い詰められるのと大きな音と言い方が悪いですけど暴力、と全部威圧行為ですね。そういうのが行き過ぎた結果がDVっていう暴力で異性を従わせるような、洗脳に近い関係性になるのかなとか」


 そのあたりの心理的作用もちゃんとした説明はあるんだろうけど、そこまでの詳細な解説は無理だ。これについてはできてもする気も起きないだろうけれども。


「他には……オレとララのこともまた別口ですがそうでして。この世界だと医師と助手か。快復までに看病を続けてもらうと、医師や助手の人に恋愛感情を抱く患者がかなりいるんだそうです。向こうでは助手じゃなくて“看護師”って言いましてね。ナイチンゲールっていうその道の先人で偉人がいたんですが、その人の名前を取って『ナイチンゲール症候群』って呼ばれてました。他にも、監禁されるとその犯人に恋心を抱いてしまったり、同じ状況で逆に加害者が被害者に恋をしてしまったりすることがあるんだそうです。前者は自己防衛反応で後者は強い感情移入と同情あたりでしょう。実際あった事件の土地の名前がついてまして、この辺の心の変化は洗脳に近いかそのものです。学術的な病名でしたから」

「そういうものもあるのですね。いえ、ユリフィアスさんとララさんがそのナイチンゲール症候群であるとは……無いとは言い切れないということですか」

「はい。そりゃ、盲信するほどのようなものではないですよ? でも完全に否定するのは無理でしょう」


 確定した死から救われたなんて、最大級の奉仕と献身と恩義だろうからな。「それだけじゃない」なんて考えてる時点で「それもある」って言ってるようなものなわけで。

 もっと言うと、九羽鳥悠理の終わりとユーリ・クアドリの始まりにはララが関わってるんだから、神様みたいなものとも言えたりするわけで。その神様が自分を好きになってくれたなんてこれ以上は無い、とまで言うと言い過ぎだな。


「あとは、それこそ個人個人の匂いの好き嫌いがそのまま遺伝子の相性だとかですかね。こっちは生理学って言って身体の反応ですけど、無意識に近いので本能的なものです」

「え、匂いですか?」

「はい。血が近くて濃くなると病気とかに弱くなるらしくて、そういう相手の体臭を嫌うことでそれを回避しようとするんだとか。十代後半になると父親や母親のことを避けたりするのもそういう理由らしいですね」


 転移前だと「反抗期が無い子が増えている」ってのもニュースになったりしてたけどな。この世界だとその時期に成人して親元を離れることも多いからか、そこまで話は聞かない。だからって親子で結婚することも無い。いや、オレと姉さんの関係はそれなりに特殊だけれども。


「逆にそのあたりを補うような性質を持つ人の体臭は好ましく感じるんだそうです。直接的というか本質的というか、人が人に恋することの科学的な根拠でオレが知ってるのはこのくらいですかね」

「なるほど」


 一通り話し終えると、ユメさんは深く頷いた。

 間違ったことは語っていないはずだが、参考になるのもどうかという気がする。いろんな意味で「どの口がいまさら」だけど。


「たいへん興味深いお話でした。恋や愛についても、科学は詳らかにしようとしたのですね」

「ええ。命を繋ぐということではある意味最大の命題でもあるでしょうから。でも理屈放り投げてあえて言いますけど、科学で解明しようとか最高の相手を決定できるとか、そんなのつまらないし情緒が無いですよ」


 恋は駆け引きだとは言ったが、たとえ駆け引きであってもゲームであってほしくない。現実では選択肢で相手を恋に落とせるわけないんだけど、選択肢自体があるのなら逆に無限にある。正しい答えもあったり無かったりする。

 いつかの未来に心が計算できるようになったとしても、それを噛み合わせることなんてできないだろうきっと。だからこそ、必然でも偶然でも奇跡でも噛み合うことが尊いと思える。

 え? 数も歯も噛み合いすぎ? そうですね。こういうこともあるんだよたまにはきっと。


「みんなとしてるのが燃え上がるほどの恋かもわからないですし、そういうのは行き過ぎれば破滅が待ってるとは思いますけどね。恋は落ちたり溺れたりするものらしいですから」


 刃傷沙汰ってあんまり聞かなかったけど、修羅場なら王都にいる間に何度か見た。後ろから刺されるっていうのはどこの世界でもあるらしい。オレも軽度のはララやネレとやってるものね。


「でもだからって、冷静な頭で理屈付けてやっていいものじゃない。人によっては笑われるかもしれませんし、ユリフィアス・ハーシュエスとしてはなんかそう思われてないような気はしますけど、オレは恋とか愛って神聖で尊いものだと思ってますから」

「いえ、笑いはしませんよ。ナイチンゲール症候群のこともありますものね」


 ユメさんはそう言いながら口角を緩ませた。でもそれはオレの言った笑いとは違うな。


「まあなんていうのか、正しくない恋はある日突然覚めるでしょうね。時間はかかってしまいますけど、そこで錯覚だったとわかるんでしょう」

「ララさんたちのことを不安に思うのでしたら、それは不要な心配ですよ。皆さんからユリフィアスさんへの恋がそうなることはないですから」


 だといいし、そうならないようにオレも努力しよう。

 なんか、「恋は病気だ」とか言ってた人もいたからなぁ。動物がどう考えてたのかとか、それと人のとがどう違うのかとかも知りようもないわけで。「それ含めて所詮は生理反応や脳の電気信号に過ぎない」なんてのは、事実なんだろうけど答えとしては最低すぎる。

 あ、忘れてた。


「すみません、一つ無意識に目を背けてました。翼のみんなそれぞれから肯定と否定を一緒に貰ったんですけど、吊り橋のそれと同じで『弱っているところにつけ込む』という詐欺師とかクソヤローの手口もあります。オレが得意っぽいやつ」

「はあ、そういう手法も……え、え? いえ、ユリフィアスさんはそんなことはないですよ? 本当に」


 ユメさんも否定してくれた。必死感があるのは話が唐突に過ぎたからだろう。そうだよね?


「もう……びっくりさせないでください」

「すみません」


 胸をなでおろすユメさんに頭を下げる。さすがにこの当惑を恋慕に変換はしないな。させたら申し訳無さすぎるわ。


「それにしても難しいですね、やはり」

「そうですね。『恋は一人でするもの、愛は二人で育むもの』みたいな言い回しがあったりとか。ちゃんと想い合ってるつもりでオレもわかってるとは言い難いのかも」


 まあそこも自己愛ナルシシズムって言葉がありはしたけど、人は一人じゃ家族にはなれないのだ。誰かと手を繋がなければ。


「わかります。愛し合うことは相手がいなければできませんものね。事情があったとはいえ、ユリフィアスさんも想いを通じ合わせられたのは最近のことですから」

「ええ」


 好きになることはできても、好きになってもらうことは難しい。恋が愛になるかはその人たち次第。それを恋や愛と知ることができるのも。

 っていうか。母さんとかリーナさんとかベニヒさんとかマホロさんとかメーレリアさんとか、もっとうまく話せる人はいくらでもいそうだなぁ。逆に相手であるオレとでないと答えが出ないこともあるんだろうけども。

 両手で数えられなくなった想いを向けられても恋愛は難しい。頭で考えること自体が間違ってる可能性は非常に高いのだが。



 ユリフィアスさんの話を聞いて、わかってきたところもあればわからなくなってしまったところもあります。

 端的に言えば、胸が高鳴るのが恋。

 でも、胸が早鐘を打つ理由は恋からだけではなく千差万別でもあり、それと勘違いしてしまうこともある。それどころか正しい恋よりずっと強くなってしまうこともある。

 本能的なところで恋と感じることもあるけれど、それにも科学的な理由が付けられる。

 けれど、行き過ぎは否定するもののユリフィアスさんとしてはそれが恋であってもいいし、たとえ恋したとしても愛に変わるかはわからない。いえ、愛に変わるのか、それとも変えるのかでしょうか。

 あ、一番聞きたかったことを忘れていました。その最初の一歩をどう判断するのか、ということ。



『せっかくついでに他のみんなと同じことくらいやってしまえばいいわよ。一回唇と唇が当たったくらいで減るものはないわよね。むしろユーリさんとだからお得かしら』



 ティリーナ様のおっしゃっていたことが思い出されます。

 ララさん以外のみなさんは、続けて全員が見ている中で経験したそうです。けれど、その場にわたくしはいませんでした。もしもその場にいたのなら答えは出たのでしょうか? いえ、ティアリスさんとセラディアさんは「場違いさと肩身の狭さしかなかった」と口を揃えていましたけれど。ティアリスさんは、「試しにしてみたけれど。ちゃんとはわからなかった」とも。

 減るものはない。あるとすれば、わたくしのはじめての経験であることくらい。きっとそれ以上に得るものも。いえ、わかることもある。むしろ、そうしてみればわかるのかも。


(……あ)


 こうしてユリフィアスさんの近くであらためて考えてみて、気付きました。「したくない」という気持ちが一切ありません。それどころか「してみたい」という気持ちさえあるのです。

 わたくしのユリフィアスさんへの気持ち。もう一度思い返してみましょうか。

 アイリスさんのそれとは違い、単なる年上と性格で姉だと思われることを少しだけ残念に思い。

 手を掴めずにどんどん先に歩いていって、自分から手を差し伸べられないことを悔しく思う。

 皆さんがおっしゃっているように、わたくしも後ろではなく隣に立ちたいと強く願う。


(すべてが否定的な色ですけれど……ああ、そう思ってしまう一番深い理由はおそらく)


 きっとそれが答えなのですね。



 探知をしていたわけではないのだが、ユメさんの魔力が変わった気がした。霧が晴れていくような淀みが無くなるような、そんな感じ。呼吸が穏やかになったように見えたのもそのせいかもしれない。


「ユリフィアスさん」

「はい」

「アイリスさんも、ユリフィアスさんの事情を打ち明けたあのときだけですけれどお名前で呼んでいましたよね。お話をしてからはレリミアさんもですか。わたくしも、一度どうか同じように呼んでみてはくれませんか?」


 呼び方、ユメさんもか。

 でも、向き合うっていうことはそういうことでもあるんだからな。当然だ。

 例えに出されたあのときとは違って、「なんでもないことではない」と示すために一度深呼吸をして。



「ユメ」



 ただ名前を呼んだだけ。

 しかしオレにとってはその言葉は名前以外の意味も持つわけで、ちゃんと彼女の名前として聞こえただろうか? ってまあそれは彼女に限った話でもないんだけどさ。

 その逡巡が伝わったのか、ユメさんは少しだけ体を震わせて、泣きそうな顔をした。


「……はい。いえ、もう一度どうか」


 名前を呼んで、溜めてから敬称をつけるみたいなのあったものな。そこでちょっと不安になったわけか。


「ユメ。何度でも呼びましょうか、ユ、っ!?」

「ん……」


 胸にこれ以上なく柔らかい感触が当たる。首の後ろにも。それ以上に顔の“ある場所”に。


「ん、む」

「んん」


 抱きつかれて、口を塞がれた。口で。これをなんと言うかは、既に通ってきた道。

 長く情熱的な一度の口づけのあとに顔を離したユメさんは、微笑みながらぽろぽろと涙をこぼした。


「はしたないとそしられてもかまいません。遅いと呆れられてもかまいません。いまさらと笑われてもかまいません。やっとわかりました。わたくしはユリフィアス・ハーシュエスさんをお慕いしています」


 そしりも呆れも笑いもしないけど、泣かれると困るな。


「そうか……ユメ」


 そっと抱きしめ、背中を叩く。

 やっとわかったのはオレもかもな。いや、恋愛的なことじゃなくて申し訳ないけど。


「ありがとう、ユメ。悩んで悩んで悩み抜いて、嬉しい答えを出してくれて。だから泣かなくていいよ」


 どれだけ落ち着いて見えたとしても、ユメさんはまだ十代なかばだ。いくら世界間の違いがあったとしても時の流れはおそらく同じ。積み重ねられる時間も同じ。わからないことなんて雲を被った山の質量ほどあれば、気づかないことなんて海の底の広さほどもあるに決まってる。

 震えが止まったようなので、少しだけ身体を離す。涙の跡はあるものの表情は笑顔だった。


「ああ、わかります。いえ、どうしてわからなかったのでしょう。もっと触れたい。もっと触れてほしい。これが人を好きだという気持ちなのですね」


 ふわりふわりと、ユメさんから光の粒が漂う。それはシムラクルムで見た光景であり、言わなかったがララとこうしたときにもあったことであり。つまり、聖魔法使いの心の発露そのもの。


「ユリフィアスさん。どうかわたくしもあなたと共に歩ませてください」

「こちらこそ。よろしくおねがいします、ユメさん……」


 いつもどおりに呼んで、詰まった。違う違う。


「ユメ」

「はい」



「アカネさんの話を聞いたときはそんなことはないと言いましたし想像したときは恥ずかしかっただけですけれど、こうなってみるとありえるのかもしれませんね」


 横になって寄り添われ、胸に顔を埋められる。

 たしかに、ユメさんがそうしているのはこれまで想像もできなかったかな。でもこうしてるとそういうのもいいなと思うし、かわいいなと思う。

 しかしそれ以上にですね。こうしてくっつくと、柔らかさとか弾力とかなんとも言い難いというか筆舌に尽くしがたいというか言語化できないというかおさまりが悪いというかおさまりたいというか。最後のは変です。なーにを考えてるのユリフィアスさん。

 さて。女子はそういう視線や意識に敏感だという話はありましたけど、果たして都市伝説なのでしょうか?


「お風呂で胸囲の話はしましたけれど、ユリフィアスさんとしてはどうなのでしょうか」


 違いました。事実でした。誠に申し訳ございません。


「……ごめんなさい目は行きます。色欲封じがあったほうがいいんじゃないかってくらい」


 正直なところ、ユメさんを語る上で外せないからなこの話。本人としては嫌だろうなあ。誰でも嫌だろうし。


「ユメさんも、嫌なことは嫌だって言っていいんですよ?」

「そうですね。おっしゃるとおり嫌な思いをすることもありましたけど、お慕いする男性にアピールできるとわかった今なら良かったと思いますよ? さすがにそこだけ見られると困りますし悲しくなりますけれど」


 そうやって受け入れてくれるユメさんは不意に苦笑して、


「在学中に『男を誑かしてる』と言われたこともあるのですよ、実は。『触らせろ』や『揉ませろ』もありました。丁重にお断りしましたし、ティアリスさんとレリミアさんとアイリスさんが怒ったり懲らしめたりしてくれましたけれどね」


 と、過去の体験を話してくれた。

 それはまた。あり得ただろうとはいえ面と向かって聞くとなんとも言えん。っていうか、言い方からしても後者二つは野郎の発言なんだよな。辞書的なセクハラの概念や法による罰は無いとはいえ、バカなのか勇者なのか。間違いなくクソ野郎ではあるが。そういうのはたとえ思ってても口にしてはいけない向けてはいけない感じさせてはいけない。


「これからはユリフィアスさんのものですから、毅然として対応できますし、そうしますね。それで……どうしますか?」


 抱きつく力が強くなる。その狙いはたぶん気のせいではあるまい。そういうこと話してますからね。

 って、なんかララもそんなこと言ってなかったっけ。そういうの良くないと思いますぅ。動揺とヘタレでオレがひたすら気持ち悪い存在になるだけだからぁ。避けて通れないのはわかっているが答えていいのか悪いのかわからんたぶんだめだ。

 オレが言葉に詰まるというか煩悩と戦うというか自制心をなんとか魔力強化できないかと試みているのを見て、ユメさんはおかしそうに笑った。そのまま胸から顔を剥がして目線の合う位置まで身を動かす。


「ふふふ。ティアリスさんではないですけど、ユリフィアスさんに勝つにはこういう戦い方もありということですね」

「……はい、負けました。もう好きにして。いえ、方向と限度はありますけど」


 これに倣ってみんながみんなそっち方面で勝負を挑んでこないだろうな。勝てる自信がないぞ。さすがに無茶と無理を通すような要求はしてこないと信じるけども。


「わたくしとしては、勝ってもらっても良かったのですけど。では、一つだけ」


 もう一度くすりと笑って、ユメさんはオレの口に人差し指を当てて、


「『ユメさん』に戻っています。口調も。よろしくおねがいしますね、旦那様?」

「う。申し訳、じゃない、ごめん。あと旦那様はちょっとむず痒い」

「うふふ。ではこちらはもう少しお預けですね」


 ユメの顔は、これまで見たことないいたずらっ子のような年相応のような笑い顔だった。それもまた魅力的で焦るやら微笑ましいやら。

 しかし、呼び方と口調ね。いっそのこともう全員に対してくだけて話すべきか。ティアさんだけ特別みたいになるからな。

 だいたい、エルとレヴでさえ同年代みたいな感覚で話してるもんなあ。っても、他のみんなに対しても年上としての威厳だの凄みだのは当分見せられそうにないよ、オレ。

 がんばれオレ。まけるなオレ。

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