Interlude 心を覗く意味
「ミアはどうなったかなぁ。上手くいくだろうか」
エルシュラナ・ヴァフラトルは、寝室のソファでくつろぎながら言う。呟くようではあったが、隣の相手に聞かせるためのものだ。
「そうねえ。ユーリさんは受け止めてくれるでしょうから、ミアが当たっていけるか次第でしょうね」
対して隣に座るメーレリアは、いつもするようないたずらっぽい笑顔ではなく真剣な顔でそれに答える。
夫婦ともに娘の幸福を願ってはいるが、それが現実になるかどうかはどうあっても本人たち次第である。どうあっても心配することしかできない。
だからこそ、メーレリアは今になって不安が湧いてきた。ユーリを中心としたあの場が奇跡的なバランスで成り立っていることは誰が見てもわかる。なのに、引っ掻き回してよかったのかと。
「あまり人の心を覗きすぎるのも良くないのかなって、今回初めて思ったわ」
それと見て察せるミアの中にもユメの中にも、友情に見えるセラの中にもティアの中にもユーリへの信頼はあった。そこに恋情が見えたからこそああして言葉にしたのだが、同じに見えたからと言ってそれぞれの中で同じだとは限らない。ときには望まれて本心を教えたこともあるが、その場合と今回が果たして同じだったのか。
「僕の心を覗くのは躊躇わなかったの?」
「そうね。ヴァンの心を覗くのは怖かったわ。なんとも思われてなかったら、それどころか嫌われてたらどうしようかって」
願って心を見せてもらい、親愛を見つけて喜んだ。あのときの歓喜は言葉にできず、たとえ言葉にできても陳腐になってしまいそうでしたくない。自分が夢という形で心を知ることのできる夢魔で良かったと心から思った瞬間だった。
だが。
「だからこそ思うのかしら。純粋であればあるほどどこかが歪になって、ひび割れて壊れてしまうかもしれないって。ユーリさんがみんなを大切に思っていないわけではないのだけれど、リーズ様たちにを含めてどこか保護者的な部分があるのよね」
「ユーリ君の受け入れ方の問題ってことかな? 年上ゆえのことなんかで」
ヴァフラトルの要約に、メーレリアはゆっくりと頷く。
「そうね。ユーリさん、心を焦がすような恋をしたこと無いみたいだから。みんなを大切に思っていないわけではないけれど、心から本気とは言い難いのかなってね。そこでいつかあの子たちが傷つくことが無いといいのだけれど」
「うーん……」
どちらかと言えばヴァフラトルはユーリと同じ惚れられた側なので、気持ちはわからないでもない。それでも自分がメーレリアを愛していないと言えばそれはとんでもない大嘘だ。口が裂けてもそんなことは言えない。
人によっては、「絆された」と言うのかもしれない。けれどそうではないし、自分の心の変化……メーレリアにどうやって惹かれていったかも当たり前だが知っている。それとユーリを比べてみても、なにかが違うようには思えない。
「ユーリ君の心にはちゃんとみんながいるし、愛情もあるんだろ?」
「ええ。それはちゃんと」
「だったら大丈夫だよ」
「……そうね、きっと」
メーレリアは、いつの間にか添えられていたヴァフラトルの手をしっかりと握る。
それとともに。愛する娘にも幸せが訪れることを心の中で願った。




