Connect 聖女が来たりて起こすもの
最近おかしい。
いや、オレの調子がではなく周囲の雰囲気が。この教室もそうだし、王都全体がざわついている気がする。かと言って祭りの用意をしている感じはない。
「最近みんな調子がおかしくないか? 浮足立ってるというか」
「なんかねー、聖女様が来るんだって。王様への謁見と、光魔法とか聖魔法を使える人を探しに来るとかなんとか」
「なるほどな。それでか」
時勢に疎いオレには情報通のセラの存在はありがたいな。
聖女といえば、王国や帝国と並ぶ存在である聖国の御旗。事実上の最頂点だ。そんな人間の訪問が噂でも広まれば落ち着いてはいられないだろうな。
「いやー、レアに聖魔法の適性があったら次期聖女とかあり得たかもね?」
「聖女って、わたしは別に……聖魔法が使えなくてよかったとも、使えた方がよかったとも言えないですけど」
そう言いながら、レアは横目で俺を見てくる。
オレにだって前世の頃から聖属性の適性はないし、属性複合の光魔法モドキは使えても回復系統魔法陣の構成も不可能だったから疑似精霊魔法で使うこともできない。聖魔法とはそれだけ特殊な、それこそ神の御業のようなものなのだ。
というかそもそも、聖魔法が使えても男は聖女になれない。と、これは本当にどうでもいい問題だが。
「まあ、例によってユーリ君には興味がない話かな?」
「いや……」
「あれ? 意外と興味あり?」
「え? え? あ……聖女様の魔法の方、とか?」
「そんなところだ」
誤魔化すしかないな。あるのは興味なんかではないのだから。
しかし、聖女ねぇ。
聖女か。
久しぶりに聞いた呼称だが、存在としてはずっと居たんだよな。“俺”がこの世界に転移してきてから。代替わりもしてないし。
「聖女って、どんな人間なんだろうな?」
「んー? それは当然、聖女様だし? 慈悲深くて優しくて、みたいな?」
「そうですね。『誰にでも手を差し伸べてくれる理想の女性』といったところではないかと」
やはりそういうものなのか。
聖女ソーマ。世界最高の聖魔法使い。それ以外に伝わっている情報なんてあるのだろうか。
彼女本人のことをこうやって待ちわびているうちの、一体何人が知っているというのだろう。
思い、願い。
期待。
不安、苦悩。
絶望。
そんな、一人の少女の内側を。
いや、フレイアもそうだが、二十歳を超えた女性をもう少女とは呼べないか。
「……聖女。ソーマ、か」
本当は、その名前を口にしている時点でどう思っているか大体わかるのだが。
まあ、一番不敬で不義理なのは疑うことなくオレなんだろうけどな。
「魔法使いが集まってるわけだし、この学院にも来たりするんじゃない? 適正のある人がいるかもしれないし」
「お話させてもらう機会があるといいですね」
「そうだな」
聖女と顔を合わせる期待と不安はオレにもある。
オレはまた立てるだろうか。
立ってもいいのだろうか。
彼女の側に。