Interlude 異世界の目
うーん、聞きたいことか。いろいろあるような特にないような。
いや、こういう場だからこそ聞けることってあるのか。
「少し重い話になるかもしれないけどいいかな?」
「ええ、どうぞヴァフラトルさん」
ララさんに許可されたので、遠慮なく。いや、少しだけ遠慮はするけれど。
「あのね。シムラクルム出身者以外のみんな、それと特にユーリ君とレインノーティアさんに聞きたいんだけど。魔族ってどう思う?」
魔族である我々は、他の種族からどう見えるのか。誰かに面と向かって聞く機会なんてないことだ、こういうこと。
「んーと、いわれのない誹謗中傷を受けて大変だな、とか?」
「そうですね。学院で思ったことの一番はそれです」
セラディアさんとルートゥレアさんが同情してくれたことは、多くの魔族が感じていることの最大多数だろう。そして最大の難問でもある。外交をしてきて、攻撃されたことや敵対心を向けられたことはなくても忌避感のにじみはよく感じてきたからね。
「『ミアの力を羨ましいと思うか』っていうのもあるのかな? ときどき思いはしますよ。どんなことができるのかなって」
「好きな夢を見られるのなら。とは思ったことはあるけど。現実にならないならそれはそれも。という気はした」
「空を飛べることには羨ましいと思いましたね。それ自体は鳥人族のかたたちもできますし、わたくしたちも今では浮かぶことも形は違えど飛ぶこともできますけれど」
ミアと付き合ってきてくれたアイリスさんとティアリスさんとユメさんは、羨望か。そこまで重いものではないようだけど。
飛ぶことに関しては、メイにも同じように言われたことがあるな。と言っても、鳥人族の人たちのように自由自在に飛び回れるものではないのだけどね。
「リーズの能力は感嘆すべきものですけど、それは『魔族だから』ではないですよね。リーズ個人のものです」
「いろんな人がいたって感じかな。いい人ばっかりだった。うん、だよねサラ」
「私が関わるのは騎士と冒険者と料理人が多くなりますけど、向上心のある方が多い印象です。同僚や仲間との関係も良さそうでしたね」
「この前世界のあちこちに行ったときに魔人を魔族だって勘違いしてる人がいたから、みんなちゃんと知らないんだよねきっと」
ララさんたちの反応も悪くはないね。レヴさんの指摘が真理なのかな。
「クロさんみたいに魔族と獣人のハーフの人もいたりするわけですし、嫌ってる人ってほんとにごく一部なんじゃ?」
「獣人への偏見も含めて、実際はそうだと思います」
フレイアさんとアカネさんの言うとおりなんだろうね。
だからこそ不思議な面もあるのだけど。なぜこんなに大勢側に見えるのかと。
「悪意や暴言は強く聞こえて、正論は言うまでもないから誰も言わない。どこの世界でも同じことだよ」
「罵倒も小声ではしないもんねぇ。パワハラもそうか」
ふ、とユーリ君がどこか嘲るような顔をして言い、レインノーティアさんもそれに同意するようなことを言った。そういうものだからか。
「うーん、お恥ずかしながらそういうのを意識して生きてこなかったもので。よく言われてるような悪感情とかなかったですし、こうしてお話させてもらってもみなさん普通の人だなあと」
「アレックスと結婚する前は話すこともよくあったんですけど、さほど種族を意識はしなかったですね」
「そうですね。領主として話を聞くことも多々ありますが、そこで優劣を付けたりすることは無いです」
アレックスさん、フィリスさん、アイルードさんも嫌悪は持っていないようだ。嬉しいことだね。
さて、この世界の人とは違う視点を持っている二人の本音はというと。
「正直、獣人の人は見てわかるんですけど、魔族の人って人間と見分けがつかなかったですね。魔力探知ができるようになって初めてそうだって知った人ばっかりですよ。この世界の人って、『この二人のどちらか一人が魔族です。さあどっちでしょうか?』とか言われてわかるものなんですか?」
レインノーティアさんの問いに、全員が一瞬考え込んでから首を横に振った。
わかる人にはわかるとは言うけれど、私も無理だね。逆に方法を教えてもらいたいくらいかもしれない。
「だからこそタチが悪いところもあるんでしょうね。人の属性をどう区別するかってのは大いに主観でしょうし、それ以上に思い込みですから。外見で判断がつかないからこそ、気に入らない相手は全部魔族だってしておけば溜飲も下がるし変な連帯感も生まれるんでしょうし。ついでのように悪評は全部魔族に行くという」
ユーリ君の指摘は鋭いところを突いていたと思う。
うーん。人の心はエルシュラナの得手ではあるんだけど、それって夢魔としての力が大きいからなぁ。メイやミアみたいに。
「そこまで万能ではないわよ?」
メイを見たらそう言われたけど、少なくとも私に対しては万能じゃないかな?
ところで、いろいろあって最後の一人は。
「残るはオレか。そうだなぁ。リーズやヴォルさんとリーナさんはさほど関係なさそうですけど、獣人も魔族も服の用意がめんどくさそうだなとか。大量生産の被服は無いですからそもそも一点物にはなりますけど、どうしたって専用の仕様にはなりますから人間用と比べれば高く付きますよね」
「……そういう話、初めてミアさんユメさんと会ったときにしたけども。ここでそれかーい」
「……そういう話になるあたり、ユーリもどこかズレてるわよね」
本当にフィリスさんの言うとおり。
ではなくて、もうすでにみんなに言われ尽くしたからではないかな。そのくらいはわかるよ。場を和ませようとしたのだということも。
「そうね。シムラクルムではあまりそういう方面の流行は大きくならないわね。だからこそかアクセサリー類は凝ったものが多くなるかしら」
「逆にだからこそ、デザイン性や技術は他国より高いと思うよ。そこに気づいている人は多少の手間を掛けてもアエテルナの洋裁店にオーダーをするらしい」
うん。そういう話はよく聞くし、何度か紹介や仲介を頼まれたこともある。その恩恵は私も受けていたりして。つまりメイとミアも。
結局、この集まりだと悪感情は出てこないわけか。ありがたいんだけど、答えになったかというと、うーん。
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「ところでユーリさんって、チカラを持った魔族とかに転生しようって思わなかったんですカ?」
む、ミア。それは良い質問かもしれない。
ユーリ君によって“転生”というものが現実に提示されたわけだから、誰だって違う種族に生まれ変わることができるはずだ。あるいは、“来世”というものにかな。いや、人間はもちろん今生を生ききることを否定しているわけではなくて。「どう生きたいか」という願いとともに、「どう生まれたかったか」というのは誰でも持つ仮定の希望だろうから。
「オレは人がよかったし人でよかった……って言いかただと誤解しか生まれなさそうですね」
「確実に失礼ですね、悠理」
いや、その「誤解される意味」で言っていないというのは弁明しなくてもわかるね。
「では、しっかりと聞かせてもらおうかなユーリ君」
「ええ、ユーリさんの思いを。リーズちゃんとミアちゃんのためにもね」
「はい……ん? まあいいか。たとえば、ヴァフラトルさんのような吸血鬼に生まれて、操血の力を活かすために医療関係に従事したとしてですよ? それってオレ自身の力とか限界なのかなって思うと思うんですよ。ああいえ、魔族の種族それぞれの力を否定するわけではないですよもちろん。姉さんみたいに『その力でなにができるのか気になる』ってのもあります」
ふむ。種族特有の能力は自分の能力ではない、か。ララさんが言っていたようなことかな。
なんとなくわかる気がするかな。それはさっき思ったように、私が吸血鬼のエルシュラナだからか。メイが助けてくれてはいるけど、義父や義祖父が担ってきたのと同じことはできないし、逆もまた言えるわけだから。
「この世界みたいに、人種だけじゃなくて種族も含めて無限の可能性がある中で、人間っていう言ってしまえば別に特段なにが優れてるわけでもない存在がどこまで進めるのかってのを示さないといけないかな、と。だから光闇聖邪……男の聖魔法使いって会ったことないですけど、それでなくて風なら行けるんじゃないかって。というのはリーズには説明したんですけどね」
「はい……転生前……いえ……転生魔法を作る前に……ですね」
人間は特別ではない、か。
そういう論もあったね。「あらゆる種族からその特徴を奪っていくと残るのが人間だ」、とか。人間至上主義から実攻撃を受けて今は消させられかけていたはずだけど。
「ユーリ君がそれ言ってもなあって気はするけど」
「うん。セラディアに同意」
「なにがなんでだよ」
人間の型から外れているからではないかね。きっとそうだろう。
だけどたしかに、ユーリ君は発想と人としてできることだけを元に先へ歩き続けている。
誰にだってそれぞれの個性がある。ユーリ君のそれもセラディアさんのそれもティアリスさんのそれも、輝くような一粒限りの宝石だ。それがユーリ君の言った「無限色」であり、羽ばたくための「翼」なのだろうね。




