Interlude 次の魔王様はどちら様ですか?
「それと、ヴォルラットさんの次の魔王ってリーズさんがやるの? それともユーリくん?」
「いやオレは無いでしょう。リーズですよ……え?」
「ユーリさん……でいいと思います……え?」
レインさんに即答したら、ユーリさんも即答しました。思わず顔を見合わせてしまいます。
「あらあらユーリさん。不服そうね?」
「いや……息子が魔王かぁ」
「普通に聞けばこれ以上なく大それた話よね……」
お母様は肯定、ご両親は呑み込めないといった感じでしょうか。ユーリさんもですね。
「そもそも、魔王は血筋だって言ったばっかりじゃないですか。オレはただの人間ですよ?」
「そうかい? ならリーズの婿としても不適格かな?」
お父様がニッコリと笑うと、ユーリさんはさらに渋い顔に。お父様もお父様で、それについては反対されても困ります。いえ、冗談だとはわかっていますけど。
「じゃあ因果が巡ってオレが魔王になるとして、どうやって周りを説得します? 箔なんてこれっぽっちもないのに」
「転生前なら魔道王。今なら風神とか。そう説明すればいいんじゃないかい?」
「魔道王に風神って……」
お父様は初めから言葉を用意していたようですけど、それを聞いたユーリさんは言葉を繰り返して呆れたような嫌そうな顔をしました。
ですけど、そこまでおかしいでしょうか?
「悠理ならそんなところでしょう。どころかそれで終わるやら」
「だってユーリだし。うん。フィーもそう思うしむしろそうなってほしいって」
「はい。ユーリさんなら間違いなくそうなりますよ」
「結局、ありえないと思っていた風閃まで使えていますからね。そのうち風牙でなくてもできるようになるでしょう」
「ドラゴンのわたしとも普通に戦えるし」
「進化してないけどそれがなにって感じもあるし? 私の炎より上じゃない?」
「的確……だと思います……わたしも」
「ユーくんならおかしくないと思うよ?」
「ユーリだしなぁ」
「ユーリだものねぇ」
「そうですね。ユーリくんはそういう感じですよね」
「そうそう」
「わたくしもそう思います」
「異論は出したい。でもユリフィアスだし」
「そうだネェ……」
「レヴさんにも認められているのだから、いいのではない?」
「語られざるアエテルナの英雄でもあるからね。ほんとにどうしてユーリ君の絵姿だけないんだろう」
「救ったので言えば世界もかしらね。絵姿についてはミアのもあるのにねぇ。どうしてユーリさんのは無いのかしら」
「人を救うことにかけてもこの世界の誰よりも多くを行っていそうな気さえするね。ルートゥレアとレインノーティアは言わずもがな」
「過言じゃない過言じゃない。よっ、風神様」
わたしも含めて全員から肯定されても、いえ、だからこそかユーリさんは渋面を崩しません。けど、その二つ名はあながち間違っていないと思います。
転生前は魔法の開発を楽しんでいましたし、魔道王は的外れでもないです。
転生後は風魔法を追求しているわけで、王の上ならそういう呼称になるでしょう。
お父様とユーリさんが戦うようなことはないとは思いますけど、それでユーリさんが勝ったとしたらそれこそ。いえ、それは無いでしょうね。レヴさんとのことを見ても上手く負けるか、みなさんの話を聞いたように引き分けに持ち込むでしょう。そこでの証明は成り立ちませんか。
「ま、二つ名はともかくどう転んでも『やれ』って言われたらやりそうだよねユーリくんならさ……っていかんこれはブラックだ」
「ヴォルさん見てるにそういう気配はないですけど……見せないようにしてる可能性が高そうだなぁ」
「押し付ける気はないけど、手助けから始めてみるかい?」
う。お父様、それはまずわたしの役目です。果たしていないことが申し訳ないくらいの。
聞いていると、レインさんは立派にやっていらっしゃるようですよね。わたしもそうならなければと思ってはいるのですが……それは同時に、ですから。
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というわたしの悩みを置いて、話題は変わったようです。
「しかし血統主義かぁ。それを否定はしないけど……リーズさんみたいにちゃんとしてるならいいんだけどね」
「良くも悪くもなところはありますからね、これに限ったことではないにしても」
「うーむ。レインさんとユーリ君としてはやっぱり思うところはある感じ?」
わたしもそうですけど、同じ“血統主義の最上位置”にいるセラさんも思うところがあるのでしょうか。ご自身はセラディア・シュベルトクラフト女皇になる気はまったくないようですけれど。
「そりゃ思うところはあるさ。転移前は結構切実な話もあったからな」
「あー、そうだね。ぶっちゃけ民衆があれこれ考えてもあんまり意味はないし、どうにでもなる話でもなかったんだけど」
切実な話。
血統をどうこうすることはできないのはそうですね。さっきの話のように勇者が現れてわたしたちが討たれてしまえばそこで止まってしまいますし。わたしの次の世代は……えーと……ユーリさんとわたし次第……ですけど。
「えーと、なんの話? 帝国の状況とかと似てたりする?」
「いや無いな。直系が途絶えかけてたって話だから。そのあたりもなんか裏でもろもろいろいろあったんだとか陰謀論めいたものもあったけどな」
「まあなんかねえ。触れていいところでもなかったからあんまり詳しいことは出回らなかったけど、まあこの世界でも派閥だのなんだのはあるし……いやでもなぁ」
レインさんが言っているように、ややぼかすような話し方をしていますね二人とも。聞いたレヴさんも首を傾げたままです。
「こう言うとなんだが、貴族やその周辺もユリフィアス君の前に立ちはだかってきたようなものだけではないよ? レインノーティアから聞いた二世や三世がさほどいいものではないのはわかるけどね」
「そう。ルートゥレアとアイルードさんやユメとマコトさんやティトリーズさんとヴォルラットさんとティリーナさんを見るべき。家系は偉大」
「おっとぉ? ティアさん、その区分だと私も入るはずじゃありませんですか? フレイアさんも」
「いや、私とセラちゃんはもう平民のほうが感覚近いからじゃない? セラちゃんは馴染むの早すぎるけど」
「アタシもネー。あんまり貴族っぽくはナイもんネ?」
「ま、転生者のわたしも根っこがね」
それを言うなら、こうして立場を棚上げしているわたしもだと思います。
逆に、ララさんやアイリスさんは所作や表情が映えますよね。ネレさんも。マナーは心の余裕の表れと言ったりもするので、きっとそれだと思います。
「とは言え、魔族はそもそも他国のような貴族とは違うからね」
「そうね。ヴォルラット様とリーナ様もそうだけれど、恋愛結婚のほうがずっと多いし。うちもね」
「獣人もそうですね……ええ、ハウライト家は特にそうです」
血統主義のことを言うと、王国や帝国が主なのでしょうか。そこが排他種族主義の源泉になっているところもある、とか。
逆に、聖国は血統が絡んではきませんよね。それでもそれと似たようなことがあるのは不思議で悲しい話です。
「んー、恋愛と血統ね。それにしたってミアちゃんがこうきてるわけだし、純粋血統を保つのって難しくない? っていうかどう遺伝するんだろ。今のところ両方の力が使えてるって話だけど、その次は? 隔世遺伝で純粋な吸血鬼か夢魔に戻るのかな。ティアちゃんみたいに全部持ち?」
「うん? 隔世遺伝ってなんだい?」
「言葉の感じからすると、親と子どもが似ないということ?」
「あ、そっか遺伝学はまだだ。こう、孫と祖父母が似るというか、親を飛ばして先々代より前の特徴が現れることです」
「顔とかは似てても、髪の色だけ全然違ったりとか。あんまり実例は見ませんでしたけどね」
「そういうのもあるのだね」
「魔王家の血筋だとそういうこともよくあるのかしらね、いろいろ受け継いでいるのだもの」
隔世遺伝ですか。
レリミアが誰を相手に選ぶのかはわかりませんけど、そのときに子供がどういう力を持つのかもまたわかりませんね。その……わたしの子どもも。
こほん。夢魔の血統はまだ絶えていないですから、あるいは新たなエルシュラナの流れが生まれるのかもしれません。そういうことがユーリさんの世界でもあったのでしょうね。と言うより、起こりかけていたと。
「種族に血統、なぁ。大事なものではあるよな。つってもなんというかこう、それとこれがなぁ……」
「ユーくん、なにか不思議なこと考えてそう」
アイリスさんの声にユーリさんを見ると、たしかになんとも言えない顔をしていました。明らかにわたしが考えていたこととは違いそうですね。そこは少し、いえ、大変に残念です。
ユーリさんはかすかに口元を捻じ曲げてから、一言。
「“うなぎのタレ”」
「……なんの呪文ですか?」
ララさんがぽかんとした顔ですぐに聞き返しました。
おそらく日本語だったのでしょうけど……それが通じるレインさんは一人大笑いを始めます。
「わははははは、血統の話にそういうの持ち出してくるかぁ! でもおもしろい比較かもねぇ!」
大笑いで済まずにお腹を抱えて身をよじり始めましたけど、そんなに面白い話だったのでしょうか? その「うなぎのたれ」というのは。
「お姉様?」
「はは、っは、げほげほ。ごめんごめんほんとは笑っちゃいけない話なんだけどね。ユーリくんの言った『うなぎのタレ』っていうのは、創業数百年っていう料理屋の調味料の話でね。前作ったデミグラスソースみたいに他にもあったんだけど、店舗それぞれに秘伝のレシピみたいなのが伝わってて、毎日継ぎ足し継ぎ足しで途絶えさせないようにやってるってのがそういうレストランの売りだったりするわけよ。普通は、『そんな昔のものが変わらず残ってるんだ、すごい』とかって思うじゃない?」
「そうなるとすでに、代々伝わる職人の道具の領域ですね」
ネレさんの感覚に同意します。
同時に絶えぬ情熱も感じます。が。
「でも、科学的に分析すると創業当時の原料っていうのはまったくこれっぽっちも残ってないんだそうだ。それこそ魔法の話のときにした分子レベルでな」
ユーリさんになんなく切り捨てられました。いえ、脚色なく単なる事実なのでしょうけど。
それにしても、「初めのものはなにも残っていない」ですか。
「うなぎのタレとかデミグラスソースは毎日毎日数十年から数百年とかだから回数が違うけど、血統も重ねればいつかそうなっていくだろうね。基本的には子どもはお父さんとお母さんから半分ずつ血を受け継ぐって話で、それで二分の一。遺伝には発現しやすい要素としにくい要素があってそこでも比率が変わったりするから、実際は半分より減ったりするのかも」
「ホエー、ソレはまた」
「血を操る吸血鬼でも知らない話だー、なんて」
あまりにも長く多過ぎるものの見方ですけど、いつかはそういう日も来るわけですね。あるいはもうそうなっているか。
なにものもいつかは全く別物になる。それは王の血脈でも変わらず、と。
あれ?
「でしたら……ユーリさんが魔王でも……問題ないですよね?」
「……ん? あれ? そういうことになるのか?」
「まあ、初代魔王だって魔王になる前は普通の魔族の人だっただろうからね。ユーリ君とさして変わりないのではないかな」
「それを言ってしまうと、だけれどね。でもわたしもそうだものね。もちろん、わたしやヴァフラトルさんやメイにもどこかで魔王家の血が混ざっているのかもしれないけれど」
血統が信頼や幻想のたぐいになるのなら、そういうことですよね。お父様のおっしゃることも、お母様の指摘なさったとおり身も蓋もなくはありますけど事実です。
わたしかユーリさん。どちらが次の魔王になるにせよ、お互いで支え合えるはずですし、みなさんも助けてくれるはずです。がんばりましょう。




