Material 魔王。いずれ勇者も
ダイヤモンドの生成試験を挟んだ食事を終え、現在はみんなで庭でくつろいでいた。
いや、庭という表現は正しいのかな? 敷地ではなく領域だから、一般的なそれとは違うだろうし。
「あのー、そう言えばですね。元そういう世界人としてうかがいますけど、魔王ってどういう存在なんですか?」
ふむ。突然だねレインさん。
魔王がなにか、か。
「魔族の王ですよね?」
「魔族の王だね」
「魔族の王ね」
「魔族の王……ですね」
ユーリ君とニフォレア家の面々でほぼ同じセリフを口にした。息が合ったな。こういうの、悪くない。
ただ、それ以上の答えは出せないから当然でもあるのかな。と思ったのだが、レインさんの求める答えとは違ったようだ。
「あー、と。そういうことじゃなくてですね。いえ、それも正しいし事実なんですけど。それなら『共和国の王様』でいいわけじゃないですか」
魔族の王と共和国の王様か。
たしかに、シムラクルム以外の国に住む魔族も多い。そういう者の王はその国の王だろうに、それを無視して私がそこに座ってしまうのは変ではあるのか。
「ファイリーゼ領や王国に住む魔族に対して、私が何らかの強権を持っているとかそういうことは無いよ。レインノーティアさんの手の届く範囲で彼らを助けてあげてほしい」
「え? いえそういうことではなくて……いやそういうことでもあるのかな。わたしが聞きたかったのは、魔王という存在がこの世界でどういう機能を持っているのかというか。そもそもヴォルラットさんやティリーナさんやリーズさんは種族的にはなにになるんですか? ヴァフラトルさんが吸血鬼でメーレリアさんが夢魔でミアちゃんがその両方っていうのは知ってるんですけど、それ以外の種族の話も含めてあんまり聞かないなって」
ああ、そういう話かい。
要は、魔王の血脈の話か。
「ではそれに答える前置きとして、レインノーティアさんは獣人と魔族の違いを答えることはできるかな?」
「え? えーと。わたしからすると、獣人は動物の要素を持ってる人たちで、魔族は幻想種……わたしたちがいた世界で言うところの架空の存在って感じでしょうか」
レインノーティアさんの答えが正しいかどうか、この場の獣人族二人に目を向ける。
「獣人に関しては、レインノーティアさんの認識で間違っていないと思います」
「私のように人とのハーフとなると、どちらの血が強く出るかによって変わるようですね。私は外見的にはお母さんが強くて種族的にはお父さんが強い感じでしょうか」
ユメさんとアカネさんから否やは返ってこなかった。
「魔族は幻想種、私たちは架空の存在か。いや、ユーリ君も言っていたな」
アエテルナを見て、「不思議な光景だと思った」と。
動物は当然ながら地球にもいたわけで、進化の方向性というのとしてはあり得たかもしれないと。対して魔族は物語の中にしか存在しないような種族だったと。
「言うなれば、人に似たりて人に有らざる力を持つもの。獣人との大きな違いとしては、その特性を隠せるかどうかというのがある。私たちは一見して人と変わらないだろう?」
「あれ、そういえばそうですね。すんごいいまさらですけど」
「ミアさんと初めてお会いしたときも、わかっていたのはユーリくんだけでしたもんね」
ヴァンもミアちゃんも、吸血鬼としての翼を普段は隠している。魔族にはユメさんのように角を持つ種族も数多いが、基本的には隠すことができる。
「それを踏まえて魔王がなんの魔族であるのかと言うのなら、何者でもあり何者でもないと言うべきかな。血は繋いできたけれど、言うなれば好き放題取り入れてきたわけだからミアちゃんよりも混ざりに混ざっているよ。どこかで人間や獣人とも姻族関係を結んでもいるだろうね」
それこそ、リーズとユーリ君のように。あるいはアカネさんのような異種族間の血を引く相手もいたかもしれない。
「かと言って、それで様々な種族の力を受け継いでいるかというとそうでもない。リーズもリーナの邪属性の力を受け継いではいるけれど、リーナ自身の力を受け継いでいるかは微妙なところだからね」
「はい……それは少し……いえとても……残念です」
そこが魔王の血なのかもしれないとリーズは推測していたな。混ざった結果どれも発現しなくなったのか、元々抑える力があったのかは判別しえないようだが。
「そう言えばオレもリーナさんの種族って気にしたことがなかったな」
「わたしは種族としてはセイレーンになるわね。歌を魔法として感情を乗せられるのだけど、基本的には普通に魔法を使うことが多いかしら」
「歌。あー、それでさっきララさんと縁があるって」
リーズが幼い頃によく歌っていたリーナの歌。今もときどき聞かせてもらうことがあるが、安心や眠りに誘う効用があるのだよね。
他にも戦の歌や恋の歌もあるのだが、その多くが多用するものではないとして使うことはほとんどない。種族としても個人としても人の心の重さというのをよくわかっているからだろう。私にとってはすべてが愛の歌になるわけだけど。
「言われてみれば魔王様がどんな魔族なのかって気にしたことなかったなぁ。ミアちゃんみたいに士団にも法士爵を授かった魔族の人もいたけど、聞いたことなかったや」
「シムラクルムにおいてヴォルラット様はなにより魔王陛下だからね。それ以上に何者かということに言及されることはないかな」
「リーナ様とお二人、『理想の夫婦』って言われるくらいだものねぇ。そっちのほうが印象深いわ」
「まったくです。仲睦まじいのはヴァフラトルさんとメーレリアさんもですがね」
「俺としても、一生話すことなんてないものだと思っていましたから、まさかこのような方だとは」
「ええ。ユーリのことがあるとは言え、立場のある方と話していると感じさせてくださらないのが驚くとともにありがたいです。セラちゃんもユメちゃんもララさんもリーズさんもそうだけど」
親しみやすいと思っていただけるなら本望だね。それは名前を挙げられたみんなもそうだろう。
「それにしても、レインノーティアはどうして突然そんなことを?」
アイルードさん同様、そこは気になるかな。前置きしたとおり異世界の人間だったからこそというのが大きいのだろうけど、それだけではないよね。
「ほら、わたしたちとはちょっと違いますけど、勇者が召喚されることもあるのかなと思いまして。そうするとユーリくんは四天王みたいなのになるわけだけどね」
ユーリ君が四天王か。それだと元帥のエルザードと役割が被っていないかな? いや宰相のエクムザか? はたまた王配としてリーナを入れるならリーナとかな?
「ククク、ヤツは四天王のナカでサイキョー」
「……オレの記憶の中にそんなのまでありましたか、ミアさん」
「そりゃあるでしょ。でも他の三人誰だろうね? っていうかそれだとユーリくん死んでない?」
「他の三人はエルザード様とエクムザ翁とフェリーサちゃんかしらね」
メーレリアさん、アエテルナの冒険者ギルドを共和国の力とするのは大いに問題がないかな?
……いや、どうだろうね。国家の驚異ではあるのだろうから、ともに戦ってくれるのだろうか。スタンピードのときのように。
「なにを持って勇者と呼ぶかや為すかはともかく、地球の物語では私のような魔王を倒す者なのかな?」
「基本的にはそうでしたね。魔王自体も、純粋悪ではないとか仲間になる物語もいくらかありました。あとは、昨日レヴに言ったみたいに竜殺しの話だったりしましたか」
「そういう話もあったんだ。そこだとわたしは敵だったのかぁ」
それならばどうあってもユーリ君は勇者にはなれないね。私たちが敵に回ることはないだろうし。
だが。
「勇者……ですか……」
リーズがちらりとユーリ君を見た。
勇者に類する物語はこの世界にもあるからね。その多くが囚われのお姫様を助けに行くものだから、立場から来るものも気持ちもよくわかる。そうすると魔王はまさしく私かな、ははは。
そうならそれでもいいとは思う。死ぬ気はないけどね。
不幸なことではあると思うが、血統がいつか途絶えるのは歴史が証明してもいる。シムラクルムもリブラキシオムもシュベルトクラフトもいずれ主家は途絶えるだろう。それで各国が滅びることもないだろうし、シムラクルムであれば私がいなくとも機能するはずだ。王無くして国荒れるなど、治世とは呼ぶまい。
「少なくとも、魔王はただの王様だよ。遠い世界の物語のように世界の根幹に関わるような特別な存在ではない」
「それでも、わたしにとっては大切な夫であり、リーズちゃんにとっては大切なお父様よね」
「はい……それはいつでも……変わりません」
ありがたいことだね。
もし魔王を辞めるとしたら……最初はアレックスさんの弟子にでもなろうか。自らの糧を自らで作るというのは、存外楽しく価値のあるものだろうから。
/
「そういえば、ここにはれっきとしたお姫様たちがいるのよね」
フィリスさんの言葉で、全員の目がその“お姫様たち”に向く。
リーズにセラさん。二人の殿下か。
「本当にすばらしい偶然ですねぇ、悠理?」
ララさんがニッコリと笑う。聖女らしからぬ魔力の色と揺らぎだけれど、それだけ感情を出せるってことだからいい、のかな? みんな笑ってるし。ひょっとしていつものことなのだろうか?
「でもユーリくんってさ。こうして見たらわかるように、敵のアジトにお姫様を助けに行くよりも自分で助かってもらうか一緒に戦うほうを選ぶよね」
レインノーティアさんが言うと、二人のお姫様の目はユーリ君に向く。
「そう……ですね」
「話としては好きですけど、私自身はか弱く震えてるのは主義じゃないですからねー」
多くの人の役に立ちたいと思い続けているリーズと、自分の道を進もうと決めたセラさん。たしかにこの二人はお話の中の囚われのお姫様とは言い難いね。そんなことがあれば自分で檻を壊して出ていくだろう。
と、セラさんは既にやったんだったか。それこそどんな偶然なんだろうねユーリ君。
「自分の道は自分で切り開かないと。だよね、ユーくん」
「わたしは助けられるより助けたいです。胸を張って隣に立ちたいです」
おっと、アイリスさんもレアさんも自分で戦うお姫様かな。
いやでも、女の子は誰しもお姫様になりたいものなんじゃないかな。そして自分だけの王子様を待っている。ユーリ君は一人だけの王子様にはなれなかったわけだけど。はは。
けど、この関係をみんなが許容していて、誰もが守ろうとしている。そういう意味ではユーリ君は正しく王なのだろうね、きっと。




