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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
(20)
202/239

Interlude 言葉の意味

 ユーリやレインさんの名前にはそういう意味があって、レヴさんはなんとなくこの世界の言葉とも共通してるところがあったりする。それって不思議なことだけど、なんかおもしろいことでもあるよね。


「そういう名前の話って、他にあるんですか?」

「あるよ? たとえばフレイアちゃんはね、“豊穣の女神”」


 豊穣の女神? 私が?

 農業的なことなにもやってないけど?

 いや、これはやれってことかな。ユーリも農家の息子に転生したわけだし、ここでもそういうのやってるから。


「家名の方はたしか魔法使いのことを『ワーロック』って言ったりしたと思うんだが」

「あー、言う言う」


 へー。

 うち、魔法使いの家系ってわけじゃなかったと思うんだけど……でも、魔法使いになったのは間違いないってことで。不思議。


「フレイアさんカッコイー。私はなんかあります?」

「セラちゃんは“天使”」

「おっとそんなこと言われても困りますー、ってホントですか?」


 わ、セラちゃん天の使いかー。皇族だし実際にそういう面もあるのかな。


「天使の階級にセラフィムってのがあってな。“ディア”が後ろに付いてるから、セラは差出人側になるとして。『天使からの贈り物』とかかな」

「うわ、思ったより恥ずかしい意味だったぁ!」


 って、そっち側か。恥ずかしいというより、かわいい意味だよね。それで恥ずかしいのもあるかな。


「シュベルトクラフトは“剣製”だね。なんかネレさんっぽいけど」

「うーん、ネレさんにはちょっと申し訳ないけどそっちはちょっと普通だ」

「皇家が鍛冶師だったという話も聞いたことがありませんね。謁見の間での話からすると『剣を用いて道を創る』という風でしょうか」


 国是からすれば合ってるかな。でもセラちゃんの名前全体からすると『天からの使いが贈り物として自作の剣をくれた』みたいになるのか。そうなると神様はネレさんになったりするわけだけど。


「あの、ユーリくん。わたしの場合は」

「そうだなぁ。レアは“貴重”。ルートで“道順”か、ルーツで“起源”かな」

「そうなると『貴重な道』とかでしょうか?」

「あるいは『貴い起源』かな? リースリーナもいい名前をつけてくれたよ」


 んー、レインさんといい、名前が妙にハマってるよね。でもさ。


「まあレアはどっちかって言うと貴重品だよねー」

「たしかに。セラディアの言うとおり」


 うんうん、そうだよねぇ。女の私から見ても可愛い性格してる。本人は意味わかってない顔してるけど。


「ただ、『ファイリーゼ』って『空集合の巨人』だよね」

「和訳できても意訳できるとは限らないでしょう。むしろ『ファイル』で『蒐集』とかでは?」


 巨人はわかるけど、空集合ってなんだろ? 集合するの? しないの?

 蒐集の方ならわかるけど、特別な意味はなさそう?


「悠理、私は?」

「ララは……歌のオノマトペ。ってそれはこの世界でも同じだな」

「……自分の名前で悔やむ日が来るとは思いませんでした」


 ララさん……でもいい名前だよ。楽しいときじゃないと出てこないもんそういう音律。


「フリュエットは、フリュエントが『流暢』だったかな」

「であれば、ララさんのお名前は『歌がお上手』ということになるのでしょうか?」

「あら、いいわね」

「こういう縁もあるわけか」


 ん? こういう縁ってどういう縁? 歌に何かあるの?

 それで、ララさんの次は。


「それじゃあ、私は?」

「エルさんは……」

「エルは……」

「……なんで詰まるの?」


 あ、あれ? ほんとなんでいきなり?


「エルフェヴィアをどう分解しようかってな。接尾語で“エル”はセラと同じく天使の意味になるんだけど、それよかやっぱりエルフだし。っていうか正直発音しにくい類なんだよな」

「ごめんなさい、わたしもできません。エルフには別の言語体型があるのかもってことでここは一つ」

「えー?」


 エルさんはこれ以上なく残念そう。

 ここまでスラスラ出てきてこれはたしかにね。でも、なににだって意味があるって限らないわけで。エルさんの名前ってたしかに聞き馴染みは薄いもんね。


「『ヴィア』って心理学用語でたしか……」

「苗字の方は……なんと言ったらいいのやら」


 ただ、ユーリもレインさんもボソッとなにか言ってたけど。


「では、私を聞きましょう」

「ネレは……」

「んー……」

「……まさか私もですか」


 いやだからほら。必ず意味があるってわけでもないですし。そこまで共通してたらそれはそれで変な気になったりとか。いい意味が欲しいのはわかりますけども。


「わかったひねり出してやる。鍛冶師的に解釈すると、日本語でものを混ぜ合わせることを『練る』という。それを命令形にすると『練れ』になる。ついでにネレリーナから『レ』を抜くと『練りな』になって強制に近い発言になる」

「いい意味じゃないじゃないですか!」


 小さな土の玉(アースボール)が飛んで、ユーリの額を直撃した。ごめん擁護できない。


「グレイクレイは“灰色の粘土”」

「お父さんにまで追い打ちはいらないです!」


 さらに一撃。無理全く擁護できない。

 いやいやでもネレさんもさ。両親完全に否定してるよそれ。


「わたしは剣の名前だよね」


 うん。始まってるのはもともとそこからですからね。ここは平和。

 意味はちょっと辛い面もあるけど、それ言ったら炎皇って呼ばれた私もね。だから、レヴさんになにかあれば私も全力で助けになりますから。


「そうですね。あとユーリくんが呼んでる『レヴ』っていうのは、“トルク”が“馬力”的な意味だったから“速さ”の方かな? “回転数”? ユーリくんそっち方面やってた?」

「触り程度には。それで合ってるんじゃないですかね」

「ふーん。わたし飛ぶのは速いよね。だから合ってるのかな?」


 そういう意味もあるんだ。でもなんとなくズレてる気もするなぁ。


「では……わたしは……」

「リーズさんだし、ティはお茶かな? ティリーナさんも」

「あら、それはいいわね」

「トゥ。『お茶をリーズへ』。って自分にお茶はおかしいな。リーズ。ツリーズ。となると『お茶の木』か?」

「あ……え……お茶……の……木……です……か……」


 ちょっとユーリ! リーズさん昨日に引き続いてまたすごいショック受けてるんですけど! 誰かフォローを!


「いやいやお茶の木を馬鹿にしたらいかんよ? そのまま。揉む。蒸す(緑茶)煎じる(煎茶)。半発酵《烏龍茶》。完全発酵《紅茶》。葉《碾茶》。挽く(抹茶)。茎《雁ヶ金》。日光の当たり具合(かぶせ茶・玉露)炒り米と混ぜる(玄米茶)。様々な手段や場所を用いていろんなお茶になるんだから。そもそもお茶って薬として始まった歴史があってですね。緑茶の殺菌作用はそれはもうすごいものであり、それでいて毒性もほぼ無いと言っていいという」


 って、思ったよりすごいフォローが来たー。さすがプロになれる料理人。

 ん? じゃあお茶の木ってなんでもできるリーズさんに合ってるじゃない。


「……ということで大丈夫だろうか、リーズ」

「はい……ありがとうございます……レインさん……ユーリさん」


 よかったよかった。平和になった。


「でも、お母様(リースリーナ)にネレリーナさんにティリーナさん。リーナさんが多いですよね。なんで?」


 逆にというか、レインさんが聞いてきた。

 あ、たしかにそうだ。なんでだろ。


「先々代、いえもう三代前ね。その聖女様がそういうお名前だったから、それにあやかった名前が多いのだと思うわ」

「……知りませんでした」


 ネレさんは、ご両親から名前の由来とか聞く機会はないままお別れしたのかな。だったら私と一緒か。

 いやさすがに異世界の女神様から貰ったとかはないよねお父さんお母さん。ユーリやレインさんみたいだったなんてことも。


「ふーむ。『お茶の木』に『お茶の聖女』か。私はそれに並ぶに値するだろうか」


 って、ヴォルラットさんも期待値上げてきたなー。

 代わりに二人は焦って、って焦り方がおかしくない?


「ヴォルさんは……あれですね。炎」

「そ、そうそうそうです。“ヴォルカニック”って炎的な意味の」


 炎。私と一緒か。

 なんて言えなかったよ。二人とも怪しすぎる。


「……とすると、『ラット』の方になにか良くない意味でもあるのかな?」


 ヴォルラットさんが苦笑すると、ユーリとレインさんの二人はドバっと汗をかいた。ほんとに。威圧されてるわけじゃないのに。

 微妙な笑顔のまま見つめられて、二人は観念させられたようです。というか並んでたわけじゃないので、完全にユーリが。嗚呼。


「……ネズミです」


 ……がんばったね、ユーリ。ってネズミ。


「で、でもですね! 悪いだけでもなくて、キャラクター化されて愛されてるのもいっぱいいましたし! あ、そうだ火鼠! ほらユーリくん火鼠!」


 火鼠。

 そんな叫ぶような言葉じゃないように感じるけど。絶対いい言葉じゃなさそう。


「……皮衣?」

「そうそう! ほら、説明!」


 なんだろう。皮? 服? 鎧のこと?


「『かぐや姫』という物語がありまして。月からやってきたお姫様の話なんですが、その中で存在しないはずのものの一つとして“火鼠の皮衣”が出てくるんですが……って大慌てして説明した意味あります?」

「……ごめん無いかも」


 無いんだ。

 うん、無いよね。内容知らない私にもわかる。月からやってきたお姫様の話は面白いけども。


「いやいやそれくらいで怒ったりはしないよ。炎の鼠か。なるほどね」

「サラが『ちょっと違うけどお揃いだねー』って言ってます」

「ふむ、そうだね。悪くない」


 そっか。火の精霊が炎をまとったトカゲだし、別に悪いものでもないのか。


「ん、待てよ? (ボルト)とネズミで」

「レインさん。キャラクターとしてはそっちもそっちで危険には変わりない。っていうかわざとやってます?」

「ごめーん。ちょっと情緒不安定が収まってなくて」


 レインさんが子どもみたいにぺろりと舌を出す。

 え、まだなにかあるの? 二人は絶対話す気ないみたいだけど。なにが危険なの? しかも、「その笑い方も危険でしょうが」とか聞こえたけど。


「じゃあ、私の名前がどうなるのかを聞いてもいいかな」


 ヴァフラトルさん、話を強引に変えたね。でも外務大臣としてはそういうのも大事なのかも。いい流れとは言えなかったから。


「そうですねぇ。ヴァフラトルさんは吸血鬼ヴァンパイアですし、『ヴァン』って呼ばれてましたからそれですよね」

「あは。ヒネリがないケド、ストレートでお父さんらしいカナ」

「ええっ、そうかい?」


 なにげにひどいな、ミアちゃん。お父さんが好きなのはちゃんと伝わってくるけど、ヴァフラトルさんも困惑してるよ。


「う、うーん。ユリフィアス君としてはなにかないかな?」

「そうですね。ドラゴンみたいなので恐竜っていうのがいたんですが、『ラプトル』ってつくのが多かったので、初めて名前をうかがったときにそれっぽいなと思いました」

「お、そっちはいいかも。キョウリュウか」

「かっこ良さが増したわねえ、ヴァン」


 メーレリアさんがヴァフラトルさんの頬をつつくと、二人とも嬉しそうに笑い合う。でもすぐにメーレリアさんの目はユーリに向いた。


「メーレリアさんは、ですね」


 目のあったユーリは、また言いよどむ。ちょくちょくそういうのあるのね。


「ユーリさん、遠慮なくドウゾ」


 ユーリは母娘をかわりばんこに見て、目をそらした。


「……夢魔つながりというか。寝れないときに羊を数えたんですが、羊の鳴き声は『メー』ですよね。ヴァフラトルさんが『メイ』って」


 ひつ、じ。


「アハハハハハハハ!」

「……ミア。覚えておきなさいよ」

「はは……いやいいと思うよメイ」


 いやミアちゃん。お母さんからよくからかわれてるらしいけど爆笑するのはさすがにどうなの。セラちゃんとかティアちゃんも笑いそうになってるけど。

 でも合ってないわけじゃないってところが。基本的にはいたずらっ子みたいに見えるけど、羊みたいにほんわかしたところもあるもんねメーレリアさん。そういう雰囲気だとユメさんやリーナさんもだけど。


「私はどうなるんだい、レインノーティア?」

「アイルードはですね。“インター・ルード”が舞台の幕間劇とかだから……『私は小劇』?」

「……舞台俳優に転向しようかな?」


 おっとっと。

 って、元貴族の私がツッコめた義理じゃないし、案外似合うかも。


「俺は?」

「父さんはそのまんま人の名前」

「雑だなオイ!」

「そういうこともあるだろ。ユーリだってオレの名前だぜ? あとさっきの恐竜でいうと“レックス”っていうのもあったりしたけど。そういえば恐ろしいんだっけオレ」

「まあ……それなら似たもの親子としてぴったりか」


 なにやりあってるの。おもしろいからいいけど。


「わたしもそんな感じかしら」

「フィリスさんは、“フィル”が『満たす』って意味だから『満たす人』ですかね。合ってます」

「そう?」


 うん。合ってる。みんなそう思ってる。わかる。


「アイリスちゃんは、ユーリくんの名前のときに言ったけど花の名前かな。でもこの世界もあるよね、アイリスの花」

「はい」


 えーと。

 それは私詳しくないな。今度花屋へ行こう。


「でもそれだけではなくて、ユーリさんもアイリスさんもご両親から名前を分けていただいているわよね」


 リーナさんが言う。ん? そうなの?

 アレックス。フィリス。

 アイリス。ユリフィアス。


「ほんとだー」

「気づきませんでした」

「とうとうわかってくれる人が現れたか」

「そこはこだわったものね」


 うん。気づかなかった。ちゃんと並べると家族だって強く感じられる。


「いやでもそうなると『ユリ』どっから飛んできたんだよってならないか? やはり本来オレはフィアス君だったのでは?」

「そういえば、色欲封じの回避のときにそんな名前の分け方をしていましたね」

「ありましたね。ユーリさんとフィアスくん」


 なにそれ。


「色欲封じの……呪いの頭痛回避でしたけど……あながち……的外れでもなかったわけですか」


 色欲封じの呪い。

 そうかわかったあれか。「これは友達の話なんだけどさ」で自分の恋愛話するやつ。ってそんなんで回避できるの? 逆にびっくりだよ。


「私は、赤色の一つでしょうか?」

「うん。夕焼け空のことを“茜空”って呼んだりとかな」

「お父さんのトールさんのこともだけど、茜っていう名前も普通にあったよ。あとはこう」


 レインさんは、さっきの名前の羅列に“紅音”、“赤音”、“朱音”と文字を並べていく。


「日本語だと当て字っていうのもあったのが面白いところでね。お母さんから文字を貰うなら最初のかな」

「そうなんですね」

「ユメちゃんは、ユーリくんが書いてくれた字からだとそのまま寝てるときに見る『夢』かな。他には『この先の展望』や『進みたい未来』とかって意味もあるけど。わたしが思い浮かべてたのもいろいろあったけど、この並びならこれしかないや」


 レインさんはまた文字を並べていく。“由芽”、“結芽”、“結愛”。

 同じ音でもこれだけの書き方がある。それに、一つ一つ違う感じを受ける言葉。すごい。


「『進みたい未来』ですか……」


 ユメちゃんは自分の名前の意味を呟いて、一瞬だけユーリを見た。おやおや?


「……ユリフィアス。ワタシは?」


 ユメちゃんから意識を逸らすためか、やや早口でティアちゃんが割り込んだ。なんかあったのかな。


「“ティアー”は『涙』でしたね」

「よし。ユリフィアス泣かす」

「“アリス”はよくある女の子の名前かな」


 ティアちゃんがユーリに襲いかかろうとしたところでレインさんが後ろの方を言うと、ピタリと動きが止まった。


「……『泣いてる女の子』は。ワタシらしくない」


 そう言いながらなんか泣きそうに見えたのは気のせいかな。


「ティアって、『引き裂く』みたいな意味もありませんでしたっけ痛い痛い痛い」


 今度こそティアちゃんはユーリに襲いかかった。言葉通りというかひっかいてる。うーん、これはこれで当人らしいし合ってるのかも。


「さあ、最後はミアね。しっかり決めてもらいましょうか」

「ユーリさん、オネガイします!」

「……ごめん。わからん」


 ズダーン、とミアちゃんは机に突っ伏した。そりゃそうなるって。


「強いて言うなら、猫の鳴き声が『ミャー』だったからそれっぽいかな? ミアちゃんもどことなく猫っぽいところあるし」

「あははははははははうふふはははははははは!」

「ウワーン!」

「わわわ」


 メーレリアさん大爆笑。ミアちゃんは比喩じゃなく大号泣。意趣返しがひどい。ヴァフラトルさんがこれ以上なく狼狽してる。

 でも、猫っぽいっていうとそれっぽい気もするな。さすがにクロさんとマオさんと子どもたちには勝てないけどね。向こうは本物なわけだし。

 でも、お母さんが羊で娘が猫っていうのもおもしろいよね。で、お父さんが恐竜ってやつだっけ。それはアレックスさんも同じだったりで。


「えーとさ。悪夢のことだけど『ナイトメア』って言葉もあったし、寝てる方の夢には関係した名前であるんじゃないかな? ほら、読み方ちょっと違うからそれっぽいけどそれじゃないってことで」

「アクムはヤダー!」


 レインさんのなんとかしようとしたフォローもちゃんと聞こえてないし。相当ショックだったみたい。

 人の名前って、いろいろ読み解けることがあるんだね。

 私の子どもとか……えっと。私とユーリの子どもとか、どんな名前がいいんだろうなぁ。

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