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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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Interlude 「悠理」

「あの、わたしも一ついいでしょうか?」


 おそるおそるになりましたけど、手を上げます。

 わざわざ聞くほどのことでもないかもしれません。それでも勇気を振り絞るようなことでもないですし、せっかくのこの機会ですから聞いてしまいましょう。


「お、攻めるのかいレアさんや」

「え? いえ。わたしたちとララさんでは、ユーリくんの名前の呼び方が違いますよね?」

「それかーい、いやそんなんかーい」

「そうですね」


 不服そうなセラはひとまず気にしないとして。

 わたしたちの誰もが「“ユ”ーリ」のような発声をするのに対して、ララさんだけは平坦な発声をしています。そのことにずっと不思議さと違和感を持っていました。


「姿が変わろうと、私にとっては悠理は九羽鳥悠理ですから」


 あ、そうですね。ララさんとユーリくん……九羽鳥悠理さんの関係は、特別の上に特別ですもんね。


「というのももちろんありますけど、私もずっと『ソーマ』と呼ばれてきました。その分だけ名前に対する思いはありますから」

「歴代の聖女様も同じ想いだったのでしょうか?」

「正直。ユメがそうならなくてよかったとは思う。あ。いや。ララさんもそこから解放されてよかった」


 悲痛な表情のユメさんをティアさんが励ましたと思ったら焦りだしたので、ララさんはもちろんみんな笑ってしまいました。


「ありがとうございます。ですが悠理がユリフィアス・ハーシュエスであることを受け入れたのなら、私も皆さんと同じで『ユーリ』と呼ぶべきでしょうか? と言っても本人の答えはわかりきっていますけど」

「当然、『ララの呼びたいようにすればいい』だな。それに結局のところオレ自身、根本が九羽鳥悠理であることには変わりないとも思うし」


 ララさんの気持ち。ユーリくんもなによりそこをわかっているんでしょうね。


「同じ転生者としてそれはわからないでもないかな。結局のところ考え方とか在り方が新草雨音だったころから大して変わってないんだよねぇ。一市民だよ一市民。もちろん……レインノーティア・ファイリーゼとしての振る舞いもできますけれどね。フフフ」


 お姉様の場合、そのレインノーティア・ファイリーゼの部分がしっかりできているのがすごいと思います。わたしに対してずっと隠してこれたのもありますから。


「呼び方かぁ。それ言うと私たちも『ユーリさん』って呼ぶべきなんだろうけどなんかねぇ」


 セラがモニョモニョとした顔で言いましたけど、そうですね。その辺りは「変えなくてもいい」という本人からの許諾があります。ララさんと同じですね。ユーリくんが九羽鳥悠理だったとしても、ユーリ・クアドリでもユリフィアス・ハーシュエスでもあるわけですから。

 それに、いまさら「ユーリさん」も距離がある気がします。想像するだけでもなんとなく悲しい気分になってしまいます。でも。


「『いまさらそう呼ぶのも』って顔してるけど、違和感あろうがなかろうがレアは遠からずそう呼ぶことになりそうだけど?」

「ははは、そうだね」


 えーと、お姉様お父様それはどういう……あ。

 そ、そういうことですか。そうですねずっと「ユーリくん」は変ですもんね。

 えと、「ユーリさん」ですか。呼んでいる方は既にそう呼んでいますけど、いつになるのでしょう。そのときわたしたちがどうなっているのか。はう。そのことを考えるのはまたにしましょう。周りから微笑まれてしまっていますし。


「『でもホントはララの言い方が正しくて、ユーリって呼び方は間違ってない?』ってフィーが言ってるけど?」

「そうね。『くわどりゆうり』と『ユーリ・クアドリ』だと言い方が変わってしまうわね……あら、単に『ユーリ』と呼ぶときもそうね」


 フィリスさんがそれぞれの呼び方をしましたけど、たしかに聞いてみると不思議です。全部違いますね。


「イントネーションはなにより語感が優先されるからな。それ言うと変わる人も結構いるよ」

「たしか、獣人のかたがたの名前が日本語に似ているという話でしたよね」


 ネレさんが言いました。風牙もたしかそこから来ているんでしたっけ。


「そうなの。ユリフィアス?」

「ええ」


 ユーリくんは紙とペンを手にとって、サラサラと文字を書いていきます。

 一段目に、“茜”、“紅緋”。

 二段目は、“夢”、“希望”、“真”、“幻”。

 すごく複雑な字ですね。


「オレの感覚に過ぎないけど、もしも書くならこうなるのかな。アカネちゃんはそのままだけど、ベニヒさんは『べにいろ』と『ひいろ』から平坦な発音になるかな。でも、口紅のことを『“ベ”ニ』って発音したりするからこの読み方でもあり得る。ユメさんの場合、家族の名前からすると『“ゆ”め』だからちょっと変わっちゃいますね」


 ユーリくんは、アカネさんの名前として“茜”を。ベニヒさんの名前として“紅緋”を。ユメさんの名前として“夢”をそれぞれ示しました。さらに、他の文字にもこの世界の言葉での名前を併記します。


「私とお母さんはこうなるんですね」

「わたくしの名前も、漢字で書くとこうなるのですか。ノゾミやお父様とお母様も」

「トールさんも地球だと神話の雷の神様の名前になるんだろうけど、日本語風に『とおる』さんとも呼べたりとかするな」

「へー、帝国出身者でもそういう人はいるんだー」


 そういえば、セラはトールさんのことを聞いたときに複雑そうな顔をしていましたね。今思えば、同郷だっただけでなく境遇が似ていたからというのもあるのでしょう。

 日本語の名前とこの世界の名前。ここまで似ている例があるのにはなにか理由があるのでしょうか? それとも偶然?


「そういえば、お姉様の名前は転生前とよく似てるとおっしゃってましたよね? ユーリくんの場合はどうなるんですか?」

「オレの場合? オレは……」


 わたしの素朴な疑問にユーリくんは軽く考え込んだと思ったら、なんとも言えない表情をしました。


「そういえば聞かなかったけど、ユーリくんってどんな字なの? あ、わたしは“荒い”じゃなくて“新しい草”。名前はわかるよね」

「そう書くんですか。オレは……“九羽の鳥。悠久の理”、ですね」


 日本語でしょうか? わたしたちにはよくわからなかった言葉を聞いたお姉様は、


「植物のほうじゃないんだ珍しい。で、“悠久の理”か……ブフッ。いやごめんユーリくん変なの思い浮かべケフッ」


 思わずといった感じで笑っていました。なんでしょう。


「エタニティーにセオリーとかロジックだから、『エタリ』くんとか『エタロウ』くんになっちゃうじゃんごめん笑っちゃいけないんだけど無理フハハ」

「単に“雨音”さんがうまくハマり過ぎなんでしょうよ」


 辟易とまでは行かないですけど、ユーリくんはイヤそうな顔をしています。あんまりいい言葉じゃないんですね。

 それでも、ユーリくんは文字列を二つ書きました。“九羽鳥悠理”と“新草雨音”。どちらがどういう意味なのかは、なんとなくわかります。


「っていうか、ユーリくん“エタる”って知ってるんだ?」

「どこで見聞きしたかは覚えてないですが、大まかな意味くらいは」


 ユーリくんとお姉様のいた世界の言葉なのでしょうか。


「その『えたる』って。なんなの?」

「たしか、『永遠』とかそういう意味ではなかったかな」

「初めてあったときの話から考えるに、『悠久』ですよね?」


 ティアさんの率直な疑問に、様々な固有表現に通じているであろうヴァフラトルさんとユーリくんの原点を知るララさんが答えてくださいました。

 お姉様はそれに頷きましたけど、苦笑は崩しません。そのまま、


「名前の文字の本義的にはそれで合ってます。でも文芸用語で『未完成』……って言うとまだ聞こえますけど、正しくは『話の途中で放り出されて完結してない』お話に使う揶揄みたいな言葉ですかね。わたしたちの世界は魔法がなかったですから、こういう世界を空想した話こそ投げ出されたのが多かったんですよ」


 と、説明してくれました。

 未完の物語。そこだけ聞くと詩的に聞こえますけど、実際はそこまでいいものではないわけですか。前者ならユーリくんを言い表しているような気もするのに。


「でしたら、そのままユーリの方で良かったですね悠理」

「別にオレがそういう名前になるって決まったわけじゃないだろ。今のとこ順風満帆だよ。それに完結のことを考えるのは早すぎる」


 どうだったんでしょうね。

 ユーリでもユリフィアスでもない名前って、どんなものがあるんでしょうか。


「エタるってよか、今のユーリくん見ると“考察厨”?」

「それはそれでイヤなんですが。いえその傾向はあるのかもしれないですけど」


 はい? “こうさつちゅう”ってなんでしょう? よくない言葉のようですから知らなくていいですかね?


「それ以外だと、アイリスちゃんが花の名前だからユーリくんは百合?」

「この流れでその単語だとそれはそれで別の意味に感じるんですが。っていうか、なんですこの流れ」


 今度は百合? それも別の意味ってなんでしょう?


「はっはっは、案外知ってるなあユーリくん。それだとたしかにね。ああそういえば“フィアース”って『恐怖』だっけ? ある意味怖いよねユーリくん。そっちはこの流れにも合う上で意味がちゃんと通じてるかな」

「それこそどういう意味ですか」


 ちょっとだけ怒ったような顔をした当人に対して、発言したお姉様はさっきまでの笑顔を完全に消したすごく真面目な顔でその理由を言いました。

 これ以上なく端的に。



「女運。良縁だけどさすがに怖くない?」



 わたしどころかその場の全員がうなずいたのは言うまでもありませんよね。

 ユーリくんも、微かに首が縦に動いていました。

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