第八章 装備とランクをアップグレードしよう
いい加減、装備を見直すべきだ。
ずっと思っていたことではあるが、ついにその時が来てしまった。
王都に戻る道中、運良く商隊の護衛クエストを受けられた。行きが何もなかったせいで半ば油断していたところにグラスハウンドとゴブリンの混成がそれぞれ十頭と十体。こちらはアカネさんも飛び出してくれたので五人。彼我戦力比は一対四。しかし悲嘆するような差ではない。
そのはずだった。
「ッ!」
剣に魔力を込めた瞬間、稲妻が奔るような通り方をした。
金属武器の強化は根元から先端に向けて素材全体に魔力を染み渡らせるように行う。当然刃厚も密度も完全に均一ではないため、毎回必ずどこかに無理がかかることになる。それが進行すると内部クラックが入ったような崩壊を始める。オレはかなり無理矢理気味な魔力強化をかけている。この剣を選んだ時からそう長く保たないと踏んではいたが、酷使しすぎたのだろう。
剣を手放し、複合防壁で包む。それと同時に甲高い音を伴って刃がボロボロに砕け散った。
「ちょ、何!? どうなったの!?」
「剣に限界が来ただけだ! 気にするな!」
とは言え、よりにもよってこのタイミングとは。懇切丁寧に説明している暇がないので叫んだ言葉も良くない。
魔物に囲まれているこの状況では全員の動揺を招いてしまう。躊躇っている暇はない。
魔力探知、ブースト、バースト。
疑似精霊魔法、土針柱。
二十本の土の棘が地面から勢いよく生え、ハウンドとゴブリンをすべて刺し貫く。
「え? 土魔法ですか、これ?」
「すっご。これ、誰が? アカネさん?」
「い、いえ。私では」
魔力探知能力が上がったとはいえ、二人はまだアカネさんの属性については把握できないらしい。唯一、姉さんだけがオレの魔法だと気づいている。
「うーん。似たようなことはできるけど、最後のだけはユーくんじゃないと無理だね」
「あ、やっぱりユーリ君か」
しかしまだまだだな。
同等の魔力を注ぎ込んでそれぞれの足元に展開したつもりが、棘の太さも長さも貫通位置もかなりのバラツキがある。焦りも関係していたのだろうか。何にせよ、隠し続けて切り札にできるような精度じゃない。
グラスハウンドの魔石とゴブリンの討伐証明だけ剥ぎ取り、残りはセラの魔法で燃やしてしまう。余裕があれば皮もいい素材になったはずだが、ど真ん中に貫通穴が空いていては使い物にならない。
「悪かったな。変なタイミングで剣が寿命を迎えてしまった」
「いや、ビックリしたけど。ていうか今もビックリしてるけど色々と」
オレの手元には、刃が四分の一程度になってしまった剣が残っている。
本来、素材自体への過度な魔力強化は武器破壊への対抗手段であって常時行うものではない。調子に乗って使い過ぎたか。
相棒として愛着が湧いてきたところだったんだけどなあ。
「王都に戻ったら剣を探さないとな……」
「その前にさっきの魔法についても教えてほしいかなあ」
そうだな。
まあ、しばらく暇だろうしその説明くらいはしようか。
/
色々と無茶苦茶やったお陰で資金面では問題がない。その辺りは気が楽だ。
しかし、価格や質が上がると装飾過多になっていくところは意味不明だな。それもまた鍛冶技術なのだろうか?
「改めて見ると綺麗ですね、剣って」
「展示物としてのジャンルもあるくらいだからな」
それが実用的かどうかは別として、装飾付きの剣は確かに美的ではある。宝剣なんかそもそも美術品なわけだし。
ただ、フランベルジュを始めとする波打った刃は、傷を拡大と悪化させる副次作用を持っていたと思うんだが。まさか人に対して使いはしないだろうな。
セラも数ある剣をじっくりと見つめている。
「セラは気になるものはありましたか?」
「いや、うーん。火の剣ってカッコいいかなぁって」
その目線の先にあるのはレイピア。想像しているものも察せる。オレも通った道だ。
「確かに見栄えはいいな。問題は刀身が融ける可能性があることか。耐火素材の武器を使うのがいいな」
「耐火素材かぁ」
ホントに、ビジュアル的には最高にカッコいいんだよな火炎剣。さらにその上を行くフレイアの炎の魔法剣とか前世ではよく妄想したものだ。しかし同時に、「炎魔法に耐え続けられる素材がない」とわかったときのフレイアのガチ泣きも忘れられない。まあ、その辺りはいつか解決できるはずだ。
ただ、火系統が向いているのは斬撃より拳やハンマーのような打撃だったりする。つまり、接触の面積か時間のどちらかを増やす必要があるわけだ。
突き刺して内部延焼を、なんてエグいやり方をセラに教える気はないしなぁ。「武器に油を塗って火を点けて投げる」なんて方法もあるが、これも外道戦術だ。
あとは、威嚇効果が強いというのがあるかな。単純に火を突き付けられているわけだし。獣系の魔物の多くにはかなり効く。
「水はあまり向いていなさそうですね」
「水は撹乱の用途が強いな。雫をばら撒いて相手の注意を散らしたり、光の屈折で目標を外すとか」
「だとすると補助として考えても良さそうですかね」
あとは、これもまた非常に見栄えがする。姉さんにも一度やってもらったことがあるが、月灯りの下での剣舞は言葉を失うほど幻想的だった。
そしてこれもまた必殺の使い方があるんだが、今は話さないでおこう。
「発想次第で無限の可能性があるのが魔法だ。意外な使い方を思いつくかもな」
「うーん、発想次第かぁ」
「どんな使い方がありますかね」
実はオレが剣に付加している風魔法は、運動補助の意図であって魔法剣の類ではない。それですら想定した使い方の半分もできていない。
そもそも、オレが求めている物は剣じゃないからな。今まで使っていた剣と杖の複合武器もそうだが、どうも発想自体がトチ狂っているというのが共通認識らしい。なのでその辺りはネレに期待するしかない。
「せっかくだ、そういう剣も買ってみるか」
疑似精霊魔法を使えば風以外の属性剣も可能だろう。
一本はファイアリザードの素材を使った片刃剣。これならセラの魔法付加の練習にも使える。
それと、同グレードの片刃剣を一本。二刀流を披露する気はないが、リスク分散と方向性決定にはなる。
投げ槍用途の矢とか弾丸代わりのスローイングダガーとか、試したいものはいくつかある。でもまあ、投擲武器として見れば魔法補助があればそのあたりの石でも十分のようだし、威力だけなら魔力結晶や魔石を魔力強化した方が破壊力がある。今回は保留だ。
もう少し魔力量が多くなれば、空間圧縮で山程武器を持ち歩けるんだろうな。また今後の期待要素が増えた。
さて、次の問題。二人の装備の更新はどうするか。
人間、最初のものというのは強力な愛着がある。二人が入学祝いで買った杖を取り上げてまで強力な装備を持たせようとは思わない。
となると、
「いい加減、魔法付与のついた防具くらい用意しようか」
そのくらいだろうか。
学院の制服がある以上、魔法使いとしてはマントかローブにアクセサリーくらいしか選択肢はない。
「そう言えば、ユーリくんはいつも付与ではなくて付加って言葉を使ってますよね?」
そうか。そのうち授業で習うのかもしれないが、そこから説明が必要だな。
「実際は三種類あって、最初にあるのは素材特性だな。各属性に耐性や適性がある魔物の素材を材料に使う事で、特に何もしなくても効果を発揮する。この剣と同じファイアリザードの耐火鎧なんかが代表的だ」
「なるほど。火属性の魔物ならたしかに火に強いね」
実際は使用者の魔力や相性問題があるので期待通りの性能が出るかはわからない。ある意味「他人の力を使ってる」ようなものでもあるし。
「その次の段階が付与なんだが、これは魔道具の類になる。魔物の素材や魔力結晶を掛け合わせたり魔法式や魔法そのものを組み込むことで、アイテム自体が一定の魔法効果を発揮し続ける。前回作ったのは宝石自体の質がそこまで良くない上に急拵えだったからすぐに効果が切れてしまったが、本物の魔道具なら半永久的に期待した効果が得られる。似たようなもので素材自体に魔力を流すと効果が発揮されるっていうのもあるが、こっちは素材特性の方に分類されるな」
要は、電気ウナギをムチにするとかホタルをランプにするとか。電気ウナギやホタルはこの世界にはいないが、似たような特性を持つ魔物なら存在する。
「最後は付加だ。これはオレがいつもやっていることだな。道具を魔力で強化したり、魔法自体を纏わせるその場限りの方法。付与を超える効果が期待できるが、当然やりすぎれば寿命を縮める。この前剣が砕けたのはそのせいだ」
「なるほどねー。じゃあ、強力な素材効果とか付与が付いた防具がいいってことかな?」
「そこも落とし穴がありそうですね」
然りだ。もちろん、何事にもそういう面はあるが。
「わかってて使ってる分にはいいが、強力な装備は強力なバフだ。基礎能力を上げるものではないから、装備でステータスを嵩増しした状態で作戦を組んでしまうと壊れた時に立ちいかなくなってしまう」
「そっかー。言われてみるとそうだね」
「最悪は命の危険もありえますね」
「ああ」
この世界に転移して初めて衝撃を受けたのは、ここがゲームのような都合のいい世界じゃなくて現実だということだ。殴られるとHPが減るだけで済み、数値が一桁でも生き残れる世界ではない。薬草のときに話したような初心者だけではなく、剣聖だろうが賢者だろうが勇者だろうがホーンラビットの一撃で墓に入ることがあり得る。そもそも“レベル”という概念がない。「魔物を倒してパワーアップ」なんてことはできない。それ以前に自分のステータスを正確に知る方法すらない。
現状、オレたちは大きな怪我をしていないし、目に見えるダメージを受けたこともない。しかし今後も同じように行くとは限らない。運だけに頼ってきたつもりはなくとも、運が良かったと言わざるを得ない。そこを無視して進むと死は三段跳びで近づいて肩を叩いてくる。
「ユーリ君の発想と要求って、トンデモばっかりかと思えばかなり現実的で実用的なんだよね」
「安全のためには信頼性が第一だからな。最悪を想定しておくに越したこともないし。でもオレだって変なことを考えることもあるぞ。呪いのブーメランとか、誘引と耐火と発火の特性で立っているだけで敵を倒せる鎧とか」
「呪いのブ……飛んでかない! ただの嫌がらせじゃん! しかも鎧の方は外道すぎる!」
「あはは。ユーリくんもそういうことを考えるんですね」
バカみたいなアイデアだが、これはこれで使える発想だった。実際、転生前のメモにはこの呪いのブーメランから着想を得た武器を書いてきている。完成させることができれば面白いことになるはずだ。
鎧の方は単純に紫外線電気殺虫器そのものでしかない。使い所はわからないが。
「装備については、何よりも過信しないことだな。基本的に素の能力であらゆる事を考えておいて、装備は“戦闘を楽にするための補助”くらいの意識のほうがいい」
「そうだね」
「わかりました」
という話を店内でするのは営業妨害になりかねないので、店に入る前に済ませておく。ある意味では話が終わった時点で営業妨害が完了していると言えなくもないが。
目的の魔法用品店に入り、なにはともあれ杖を一本選ぶ。宝石は以前と同じ水晶。これで二刀分の杖を確保できた。
次は防御。属性加護は値が張る上に相手との相性問題が大きい。対物理の効果を持つマントが無難なところだろう。オレは魔法士団のマントがあるから考えなくていいな。
「ついでにこれも買っておくか」
「なになに? えーと。ファイアリザードの手袋?」
「火の魔法剣を試すためにな。付加をミスしてもダメージが減る」
「わざわざいいのに」
「あとは、コレ自体に直接火魔法を付加すればそのまま殴るなんてこともできるぞ」
「え。いやそっちの方が物凄そうなんだけど?」
身体強化の次の段階だな。防壁が展開できれば防具なしでもできるし、稀にそういう戦闘法をする魔法使いもいる。それ以上に多いのが「近接戦での魔法の発動失敗」だというのがなんとも言えないが。
「あとは大杖も試してみようか」
「わたしも興味がありました」
同じ水属性の姉さんが使っているからだろう。メインはレアのテスト用だが、こちらも宝石を水晶にしておけばオレとセラも試せる。
ただし姉さんの杖ほどの出力は出ない。店に並んでいる物を見る限り、かなりいい物を買ったか改造したかしたみたいだな。姉さんは手先が器用な上に“アレ”のおかげでそういう加工はお手の物だし。
「よし。じゃあ、討伐クエストで試しに行こう」
「次の成功でランクアップでしたよね」
「楽しみだなー」
/
店を出た足でギルドへ。そしてまっすぐ実践訓練代わりのクエストにやってきた。と言ってもFランクで受けられる討伐依頼などたかが知れている。クエスト自体がオマケだ。
……余談だが。二刀に加えて大杖まで持ったオレを見たアカネさんに、「戦争にでも行くんですか?」と聞かれてしまった。たしかにちょっとした戦場ならこれで蹂躙できそうではある。
「それじゃあ、魔法付加と大杖のレクチャーに行こうか」
「「よろしくおねがいします」」
セラはファイアリザード装備。レアは大杖。しばらくしたら入れ替えることも話してある。
「魔法付加の方は簡単だ。単に剣が燃えているのをイメージすればいい。ただし、最初は低出力でな」
「よしやってみ……できた!?」
早いな。この辺りは無詠唱に加えて杖の補助もあるから苦労はしないと思っていたが、セラのセンスもよさそうだ。
「あとの問題は剣術だな。次は大杖の使い方だが、先端の宝石に魔法をストックできる。水晶に向かって魔法を押し込むイメージでやってくれ」
「はい。こうですかね」
魔力探知で監視しているが、レアも一発で成功している。
「あとは、貯めた魔力を解放するイメージをすれば魔法が発動するはずだ」
「はい。では……えいっ!」
水晶から魔力が抜け、ウォーターボールが飛んでいく。成功だな。
「なるほど、こうなるんですね」
「これが大杖の機能だ。宝石の質によってストックできる魔法の規模に限界があるが、これを使えば」
レアの持つ大杖を意識し、水晶に魔法を留める。
「もう一度、解放のイメージだけしてくれ」
「はい。あっ」
今度はウィンドボールが飛んでいく。
「すごいですね!」
「こうして誰かにストックして貰えば他の属性やランクの魔法が使える。逆に、無理やり押し込んでしまえば自爆に近い状況に追い込めもする」
「それはそれでヤバいよね」
「対人戦のテクニックの一つだな。大杖を持った相手とやり合うことなんかまず無いが、頭の隅にとどめておけば役に立つこともあるかもしれない」
それでも万が一はある。敵性魔法使いと出会う確率はゼロじゃない。だからこそ属性を秘匿するのは重要なわけだ。
「さて、オレもコイツを試してみよう」
片刃の剣を試すのは転生してからは初めてだ。重量的には両刃よりやや重めだがどうなるかな。
身体強化はいつも通りに。剣への魔力強化は今回からやや抑えめにする。
刀身に魔力を纏わせ、斬撃のタイミングで解放。交流戦でも使った魔力斬。よし、これの使用は問題ない。
刃側に風魔法を展開、空気抵抗を低減。これも当然問題なし。
さらに、峰側に風魔法を展開。追い風で斬撃を加速。
そこからさらに、風向を変えて斬線を修正、刀身に当てて反転、連斬、連斬、連斬。
「フッ、ハハハ、フハハハ!」
「うえっ?」
「ど、どうしたんですかユーリくん?」
いやあ、いいな。魔法との噛み合いが最高だ。使いやすい。両刃剣より合っている。斬線が思い通りのものに近い。峰で風を受け易いのは当然として、形状が曲刀に近いのもいいのかもしれない。
「ミスったなあ! 初めから片刃剣にしておくべきだった! そうか、資金が足らなかったんだった!」
「ユーリ君が壊れた!?」
「でもいつもどおり楽しそうですね……」
ラスト一撃、魔力斬に加えて風魔法も乗せて飛ばす。
よし、確認はこんなものでいいだろう。これなら今まで以上の戦い方ができる。
「そろそろクエストの方に移ろうか。装備を入れ替えて試すのはその後にしよう」
「うん」
「そうですね」
今回の内容はロックスネークの討伐。小型の魔物だが、元が保護色の上カメレオンのように色を変えるので発見は困難だ。
普通なら、な。
「魔力探知を教えてもらったから楽だね」
「こういう使い方もできるなんて、本当に便利です」
サクッと規定の五匹を狩り終え、袋に詰める。討伐証明は頭で肉は砂っぽくて食べられないが、蛇だけに皮には価値がある。
さて。そのまま魔力探知を続けていたのは二人も同じだったらしく、オレと同じものに気づいたようだ。視線が同じ方向に向いている。
「遠くの方にもいくつか反応がありますね」
「魔物の群れ?」
「大きい一つはそうだが、他のは冒険者パーティーだな」
物理的にも魔力的にも人に似た形の大きな反応が一つ。その周囲や近接距離に人型の小さな反応が五つ。
大きいのはストーンゴーレムか。魔力の強さや動きの感じでは苦戦しているようだ。
割り込むのはマナー違反だが、救援に行くべきか?
「行ったほうがいいか悩んでる?」
「ああ。奥の手があるのか撤退のタイミングを探ってるのか、判別がつかない」
「なら、それを見極めるためにも行くべきだと思います」
その言葉にレアを見て、セラを見る。返るのは頷き。だったら悩むことはないな。
地面を蹴る。距離は数百メートルというところか。魔法で追い風は吹かせているが、二人にあわせて身体強化は無しなので到着までは数分を要する。その間にも徐々に状況は悪化している。
「見えてきました!」
「何あのでっかいの!?」
高さ三メートルほどの、何かの塊としか表現しようのないヒトガタ。色は白に近いグレー。
やはりストーンゴーレム。その名の通り、石を主材にした巨人だ。
対峙しているのは魔法使い二人に剣士が三人。パーティーバランスとしては悪くないが、前衛が全員突出しすぎていて後衛が全く機能していない。
「助けは要ります?」
魔法使いの元にたどり着いたセラが声をかけるが、二度見ほどされたくらいで答えは返らない。ただ、焦った表情自体はしているので「答えあぐねている」というところだろうか。前衛にワンマンのリーダーがいるのかもしれない。
ストーンゴーレムの足元を水魔法や土魔法で崩すなり、この乱戦状況でもできることはあるはずなのだが。
「ぐわっ!」
とか考えていると、前衛の一人がゴーレムに殴り飛ばされた。真上からだったら死んでいたかもしれないな。
そろそろスイッチしたほうが良さそうだが、その気配もない。ひとまず下がろう。
「魔法使いの二人の援護は難しそうだね」
「前衛が張り付き過ぎだ。しかも胴体ばかり狙ってるようじゃ牽制にもならない」
「ゴーレムの動きが全然鈍っていませんね」
ストーンゴーレムはたしか、防御力からCランクの魔物だったはず。ということはこのパーティーは最低Dランクはあるはずだが、戦い方がどうもそれに見合っていない気がする。
そもそも打撃武器ではなく斬撃武器の剣でゴーレム系の魔物をどうにかしようということが論外だ。つまり、このクエストを受けること自体が間違っている。
「このパーティ構成で戦うなら、魔法使いベースで物事を考えるべきだったな」
「石に剣は無理がありますよね」
まさにジャンケンだ。
さて。雑談をしていたら前衛の動きが鈍ってきた。そろそろ介入のタイミングか。
「逃げるかここで死ぬかちょっと聞いてくるか」
「え?」
セラの驚きに構わず身体強化して跳ぶ。着地するのはストーンゴーレムの頭の上だ。
攻撃の揺れに合わせて小ジャンプを繰り返す。これでオレにヘイトが向いた。
その意図はないにせよ、割り込んだ形ではある。当然に非難は飛ぶ。
「何するんだ!」
「ダメージは与えてない。撤退するかしないか今決めろ。しないならオレたちはこのまま退かせて貰う」
地面に飛び降り、振り回される腕を避ける。一時間は続けていられると思うが、続けたいかどうかは別だ。
こっちが遊んでいるのかあっちが遊んでいるのかはわからないが、無視されている面子から答えは返らない。それよりも戦局が更に雑然としてきたのに気づいてしまった。
「まあいいや。あとは頑張ってくれ。あっちはオレたちで処理しておくから」
ストーンゴーレムのレンジから大きく跳び退き、魔法を展開する。
疑似精霊魔法、土柱。護衛クエストで使った土針柱の原型だ。本来は防御に使うものだが、タイミングや向き次第で打撃攻撃にも使える。
いつから乱戦を始めていたのかはわからないが、これだけ地面を揺らして音を立てていれば余計なものを呼び込むのは当然。
近づいていたもう一体のゴーレムを押し退け、戦闘領域を分ける。
「二人とも!」
「はい!」
「りょーかいっ!」
相対したもう一体の方は、最初からいた方と比べてやや黒みが強い灰色をしている。探知で感じる魔力も強い。
それでもいい加減オレ一人で物事を片付けるのはよくないだろう。
「せっかくだ。二人で倒してみるか?」
「えっ? あっちは五人がかりでもダメなのにムリでしょ。ユーリ君がメッタ斬りにしてくれたら別だけど」
「そうでもないさ」
五人がかりでダメだったのは、前衛が物理で削り切ろうとしていたからだ。ゴーレム相手なら前衛が積極的にターゲットを受けて魔法使いがチクチク後方から殴り、スキを見て前衛も打撃を加えるというのが基本。あのパーティーなら三枚でターゲットも散らせたのにな。
「ですが、わたしたちの魔法だけで倒せるでしょうか? 決定打になる物理攻撃が必要では」
「そうだよね。アレ多分燃えないし。水に溶けもしないよね」
「いや、セラとレアで火魔法と水魔法を交互に撃つんだ。加熱と冷却を繰り返す事で構造破壊を狙う」
熱衝撃は鉱物や金属の破損事由として有名なものの一つだ。もっとも、この世界ではやはりそういう科学知識が認知されているとは言い難い。より強力な炎と氷の魔質が稀有なのも一因だろうか。
「それじゃあ魔法を解除するぞ」
「えっ、ちょ、心の準備とかは!?」
待たない。問答無用で魔力供給をカット。
魔力による強制的な結合を失った土柱は一瞬で砕かれる。
「ウゴゴゴ……!」
「うわー! 仕方ない、やろうレア!」
「ええ!」
セラが火の玉を打ち込むとゴーレムの表面が赤熱化する。さらにそこにレアが水の玉を打つと盛大に湯気が立ち上る。
「チマチマしたのじゃ埒が明かないね」
「手数を増やしましょう」
「うん」
二人は前方からだけでなく四方から魔法を発射し始める。こうすればゴーレムの気を散らせるし、セラが連続したファイアボールでもっと温度を上げられる。
いい感じだ。魔法制御も、戦い方の応用も、砕け始めているゴーレムも。
さて。高みの見物としゃれ込む気はなかったが、オレは別の対処だ。
さっきのストーンゴーレムが近づいてくる。周りに他の魔力反応はない。
領域がかぶることは多少考慮していたが、擦り付けまでやるか。
「気を使ったのが馬鹿らしくなるな」
手刀に複合防壁を展開、さらに魔法陣を展開。
疑似精霊魔法。右手に火柱、左手に水柱。即席の火と水の魔法剣だ。
「ん? うぇぇぇぇ!? 何やってんのユーリ君!?」
「え? な、なんですかそれ!?」
「見た通りの似非魔法剣だ。一本はセラが持ってるだろ」
「拳にも付加できるとは言ってたけどさあ! 言ってくれれば返したのに!」
「それよりそっちに集中!」
「できないよ!?」
と言いつつ、きっちりやることはやっている。命に関わることだからな。
微小だが、ストーンゴーレムはダメージを負っている。斬撃ダメージということは切り傷のようなものだ。そこをメインに火柱を連続で叩き込み、赤熱したところで水の攻撃に切り替えることを繰り返す。
数度目には「ビシビキベキ」と砕けるような音が聞こえ始める。さすがに中心部にまで大きなクラックを入れることは無理だろうが、熱衝撃と浸透した水の蒸発膨張を繰り返したせいでかなりの構造劣化を起こしているはずだ。
火柱と水柱に供給している魔力を増やす。火柱を切り離し、ストーンゴーレムにぶつける。火が消え去り陽炎が立ち昇ったところで、水柱を叩き込む。
これで終わりだ。
一瞬で蒸発した水が蒸気となって辺りを包む。その向こうでガラガラと何かが崩れる音がした。後ろからも同じような音がする。
「よし、砕いた!」
「やりました!」
状況を確認するために風魔法で蒸気を散らす。開けた視界の向こうには積み上がった瓦礫の山が残っていた。二人の方のゴーレムも同じような状態だ。
これで、倒せた上に労せず魔石が回収できる。まあ高位の土魔法使いなら内部破壊で即座に同じような状況に持っていけるのだが。
ストーンゴーレムの魔石はバスケットボール大。色は透明なグレーだ。
「あれ? これ、ユーリ君のとこっちのと微妙に違わない?」
「本当ですね。個体差でしょうか?」
二人の違和感の通り、二つの魔石には微妙な差異がある。体表通り、オレの討伐したストーンゴーレムの物の方がやや白みがかっている。
さあ、その辺りの事情は報告してからのお楽しみだ。
/
ギルドに報告に戻ると、どこかで見たような顔の男がカウンターの側に張り付いている。
あー、なんだかまたトラブルの気配だなあ。面倒だなあ。
だからといって逃げる気もない。行く先はまっすぐ。アカネさんのところだ。
「クエストの報告を」
「はい、確認しますね」
横目で伺うが、視線はずっとこっちに向けられている。
それにしても、オレ達が報告を先送りにしたり万一死んでたらどうするつもりだったんだろうな?
「たしかに。これでランクアップですね。おめでとうございます」
「やった!」
「これで駆け出し卒業ですね」
学生特例を使っている以上は“ヒヨッコ”と言うべきかもしれない。が、ともかくこれで一端の冒険者の仲間入りだ。
さて、このまま帰るのも一つの手。しかしまとわりつかれるのも面倒だ。
「ついでに、予定外の討伐があったのでこれの換金もお願いします」
「よいしょ」
オレとセラがそれぞれ持っていた魔石を二つカウンターに並べると、ようやくトラブル要員が近づいてきた。アカネさんだけがそれに気づいて、なんとなく察したような表情をしている。
「おい、それは俺らの手柄だ。聞いてくれよ受付嬢さん。俺らがもうすぐで倒せそうだったところをコイツらが横から掠め取ったんだよ!」
「……えぇー」
「……はぁ」
もうなんだか二人ともこういうトラブルに慣れさせてしまった感じがある。こんな世界に慣れさせたくはないんだけどな。
「それはパーティーの総意か?」
「そうだ!」
どうだろうなあ。他の仲間がいないところを見ると、どうもそういう感じでもなさそうだが。
まあ、裁かれる人間が減るのはいいことだ。
「ようやくEランクに上がったような奴らがこんな大物を狩れるわけがないだろうが」
「へえ。参考までにそっちのランクを知りたいな」
「デ……Cだ」
確実に盛ったなこれは。ギルドカードを改変しない限りは明確なルール違反にはならないとは言え、信用を失う行為だ。
冒険者に増長と焦りは付き物。それに、冒険者ギルドはある意味で社会不適合者の掃き溜めの側面もある。人格者だけが集まるわけではない。モラルやルールを失えばチンピラの集まりになりかねない。
「Cね。討伐方法は?」
「それはオマエ……剣でだよ」
「……剣で、ねぇ」
「……どう見ても無理そうでしたね」
嘘を一つつくと連鎖的に嘘をつき続けなければならないって誰かが言ってたな。既に表情が苦しそうだ。
というか、剣でどうにかできていたらそれこそこうやって絡む必要もなかっただろうに。
あるいは、オレとセラが剣を持っていたから剣士二人に魔法使い一人のパーティーだと勘違いしたか。防御面も制服も明らかに魔法使いだと示しているんだが。
「そうか。二体とも剣で倒したんだな?」
「だからそう言ってるだろうが!」
言ったか?
それにしても、せめて一体だけにしておけばよかったものを。傍から見ればそれでも筋は通っているのだろうか? こういう奴らの考えはサッパリわからない。
「それじゃあ最終確認だ。アンタらのパーティーが討伐したのは、“ストーンゴーレム二体”だな?」
「だからずっとそう言ってるだろ!」
終わったな。
語るに落ちる。いや、無知に自刃するというところか。
「新しいパターンではありますけど、いい加減こういうのも飽きてきましたね、アカネさん」
「ええ、本当に。ユーリくん、呪われてるんじゃありませんか?」
お互いに肩をすくめて苦笑する。
ただ、笑えないがその可能性はあるな。実際に一つや二つはかかっていそうだ。
「討伐したのはストーンゴーレム二体、ねえ。だったらストーンゴーレムの魔石が二個無いとおかしいはずだ」
「たしかに一体はストーンゴーレムですね。ですがこっちの魔石はストーンゴーレムではなく希少種のロックゴーレムのものです。相当の業物でない限りは剣は通じませんね」
ストーンゴーレムの中には、何故か組成強度の増した個体が見られる。そいつはアカネさんの言うとおり「ロックゴーレム」と呼ばれ、魔石の違いでも区別される。
石と岩になんの違いがあるのかとか、どういう経緯で別の魔物になるのかとか問題はいくつかあるが、そういうことなのだから仕方ない。アイアン以上のゴーレムの存在からして、発生場所付近の構成物なのではないかとか言われている。
ところで。どっちがロックゴーレムだったかというと、
「それ、わたしたちが倒した方ですよね?」
「ええっ!? 私たちもっと強いの倒したってこと!?」
「しかも、オレは特に手を出さずにな」
二人が力を合わせて倒した方だ。
ただ、さっきの説明通りストーンゴーレムよりロックゴーレムの方が物質として見た場合の硬度は高い。ということは熱衝撃を使った戦法はより効く。のだが、わざわざ言うことでもない。
大事なのは、オレが口を出しただけで手を出さなかったというところだからな。
「二人はちゃんと強くなってる。実感できただろ?」
「はい!」
「うん!」
これが正しい自信だ。偶然や数の暴力にしか因らない増長とは違う。
「わざわざ協力を申し出たのに無視したのはお前たちの方だぞ。いや、おまえの独断か。素直に共闘していたら報酬も魔石も手に入ったのに、やることがこれか。その上に擦り付けまでしていったんだ。簡単なペナルティだけで済むと思うなよ」
「で、デタラメだ……そんなこと、俺は」
「正直なところ、彼はやることはデタラメですが言うことはこれ以上なくマトモですし信頼できますね。あなたがストーンゴーレムを倒したというのは一切信用できませんが、彼なら『絶滅させてきた』と言っても信じるかもしれません」
「あー……絶滅ね……」
「ユーリくんならできそうな気がします……」
アカネさんの評を否定はしない。しかしセラとレアの反応も併せて褒められているのか貶されているのかについてはやや疑問が残るな。
うん。精神衛生のためにも褒められているということにしておこう。
「しかしロックゴーレムですか。前回の緊急クエストの件もありますし、Dへのランクアップも検討すべきでしょうかね。C辺りでも良さそうですけど」
アカネさんはニッコリと笑う。明らかな威圧感を伴って、だ。
「今回のことは、しっかりと報告書を作成しておきますね。そちらのお望み通り」
「く、そっ」
あー、これは本当に終わったな。コイツについては知ったことではないが。
/
「なんかさ、ギルドに行くたびに何かしら起こるよね」
「そうだなあ。もう少しなにか考えたほうがいいか、オレも」
「ですから、ユーリくんのせいではないと思いますよ?」
とは言ってもこう色々あるとな。転生術式になにか間違いがあったのだろうか。
それとも転生のペナルティなのか? だとすれば解決できないもっと重い問題がオレを殺しにくるか。
ぼんやりと考えていたら、両隣の二人が立ち止まっていた。釣られてオレも足を止める。
眼の前にいたのはストーンゴーレムと戦っていたパーティーだった。ただしギルドにいた一人はいない。
「申し訳ない!」
頭を下げられ、二人と顔を見合わせる。
どうやら「あの男の独断だった」という予測は間違っていなかったらしい。
「パーティーのランクアップのために仲間に入ってもらったんだが、ああいう奴だとは思わなかった。散々迷惑をかけて、本当に、止められなかったことは情けない限りだ」
彼が本来のリーダーなのだろう。あとの三人も同じように頭を下げている。
「寄生ですね。まあ、よくあることですが」
「……よくあるならそれこそユーリ君のせいじゃなくない?」
一般的にはパワーレベリングの手法を寄生と呼ぶが、その逆もある。格下のパーティーを食い物にする行為だ。こちらは明確に質が悪い。
だからこそ救済措置も必要というものだ。
「ギルドでいくつか手続きを頼んできました。一つはあの冒険者のパーティーからの即時除名。それと、魔石の売却額の半値のそちらへの譲渡です」
「え? ちょっと待ってくれ。除名の方はむしろありがたいが、金の方は受け取れない」
「本来貴方達が受け取れたはずのものですよ。いや、本来という意味であれば全額の上にクエストも達成できたはずですが」
「だ、だが」
「わたしたちも納得してやったことですから」
「それに、ストーンゴーレム倒したのユーリ君だし」
「そうなのか。君が二体とも」
待て待てどんな勘違いだ。
いや、この人もロックゴーレムのことは知らないのか。
「あなた達が相手をしていた方だけですよ。なのでそちらは完全にオレ一人でというわけではありません。分け前も受け取ってください。もう一体は彼女たちが倒したのでそちらは譲れませんけどね」
「はあ。今の魔法学院、凄いんですね。交流戦で新入生が大勝したし、最後の生徒は大暴れしたと聞きましたが」
「「アハハハ……」」
魔法使いさんの発言にセラとレアが空笑いをしている。まあ、その噂の三人がオレたちだとは思っていないから出てくる発言なのだろうし。
「ですから戦い方の問題ですよ。魔法使いが足場を崩せば剣もそれなりに通用したでしょうし」
「なるほどね。そういう援護の仕方もあるんだ」
「ああいう手合いの一番迷惑なところは既存の連携を完全に無にしてしまうところですからね。おそらく、普段どおりならクエストもこなせていたと思いますよ」
「そう言ってもらえると自信が付くな。ありがとう」
差し出される手。拒む理由もないので握り返す。
「これからのパーティーの健闘を祈ります」
「こちらも。本当にありがとう」
今後ランクが上がるかはわからないが、おそらく当面あのパーティーはうまくいくだろう。
「まあ、これで一件落着?」
「だといいですけどね」
もうパターン化してるから二人とも冷静、というか呆れ気味だな。魔力探知である程度の予測がついているのもあるのだろうが。
頭の中で王都の地図を思い描く。行き止まりの路地はどこがあったかな。
しばらく歩いて、目的通り壁に行き当たる。引き返さずにそのままボケーっと立ち尽くす。
「あ、やっと来たね」
「ええ」
二人の言葉通り、見事に釣れた。こういう期待だけは裏切られないんだよなほんとに。
「運がなかったなあ。こんなところに追い込まれるハメになるなんて」
誘い込まれたって発想はないんだな、やっぱり。こういう精神構造って見習うべきなんだろうか。真剣な話。
「いや、運が良かったぞ? 向こうに行ったらどうしようかと思っていたところだ」
「どうも立場がわかってないようだな?」
立場? どの立場だ?
ペナルティで済んだのに除名処分ですら足りなくなりそうな立場のことか?
「うーん、立場とか知らないけど、絶対に喧嘩売っちゃいけない相手に喧嘩売ってるってことはわかる」
「そっちのお嬢ちゃんはわかってるじゃないか。後悔させてやるよ、クソガキ」
「何故でしょうね。最近、勘違いできるってすごく幸せなことなんだなってつくづく思います」
「同感だねえ。バカにつける薬はないってやつ?」
オレも同感だな。
相手はすでに剣を抜いている。防衛動作を行う分にはいいだろう。
二人の間をすり抜けて、前に出る。
「せっかくだからこれでいいか」
使うのは剣……ではなく大杖。
杖術に使うのはステッキなんだが、これもそれの一種になるんだろうか?
「剣士が大杖とか、なめられたもんだなぁ」
「剣を預かっててくれるか? ついでに魔法付加の練習でもしててくれていいし」
「そうだねー。ヒマそうだし」
「せっかくですし、そうしてますね」
二人はそれぞれ剣を抜き、刀身に火と水をまとわせて遊んでいる。背を向け、オレたちのことは眼中にないと示しながら。
「随分余裕だなあ。一人でどうにかできるつもりか」
「たかだか五人程度だろ」
その五倍片付けた身からするとな。力量差があったところで別に。
しかもこの状況じゃ囲ませてもやれないしな。誘い込んだ身で言うのも何だが。
「やれ!」
いや自分から来ないのか。
突っ込んでこられるのは結構だが、剣のリーチは刀身七十五センチと腕の長さ。対して大杖は一メートルと七十くらい。武器として使うなら槍や棍とリーチは変わらない。
横薙ぎに振り回すには狭いが、振り下ろしも突きも払いも十分使える。なんでこんなところに来たかと言えば、左右から抜かれて二人に危害が及ばないようにするためと後ろからの奇襲を防ぐためだ。
とか色々考えることはあったが。やることなんて、武器強化と付加と身体強化を併用して武器ごとぶん殴るか突き飛ばすかのどちらかでいいだけだったな。瞬殺だ。
「な、なんで剣士のガキがこんな……」
「ギルドの時から思ってたんだが、おまえ魔法学院の制服知らないのか?」
常識のないやつなんていくらでもいるが、ここまで世間知らずだとたとえ一族郎党の仇でも心配するレベルじゃないだろうか。
それ以上に、オレたちの名前と顔は売れていないみたいだな。有名人かと言われればそうでもないし、どれだけ有名でも顔や名前を知られていない人もいくらでもいるとしても。
それはそれで釣り餌になっていいのだろうか。第二王子殿下はそこまで考えていたりしたのか?
ともかく。踏み込んで、鳩尾に一撃。それで終了。
「すまない。待たせたな」
「あ、終わった?」
「大丈夫ですよ」
二人ともいい感じに魔法付加ができている。時間を有効活用できたようで何よりだ。
あとはコイツらをギルドまで引き摺っていくだけなんだが、どうしようか。
めんどくさいし、比喩表現でなく引き摺っていくか。