Interlude ネレさんのお母さんとエルさんの話とお母さんとヴァフラトルさんの話
「いまさらですけど、ネレさんのお母さんってドワーフさんだったんですよね?」
「はい、そうですよセラさん」
あ。そういえば忘れそうになりますけど、ネレさんもハーフなんでしたっけ、私と同じで。いえ、ユーリさんが言うところの“遺伝”の部分は大きく違うのでしょうけど。
「ドワーフの話ですか?」
「あーいえ、それ以前にドワーフって会ったことないなぁって」
え?
思わず首を傾げてしまいましたけど、
「面と向かって話したり指摘したりしたことないだけで、王都にも普通にいたぞ」
ユーリさんが言ってくれました。
「へ? そうなの?」
「はい。ギルドにもよく出入りされていましたね」
「アエテルナにもいるよ?」
「エ、ソーなんですカ?」
「いる、というかいてくれるねぇ」
「ええ。あなたのお祖父さんの代に付き合いがあった方もいるわよ」
一般的にも「ドワーフと言えば鍛冶」みたいな印象はありますけど、多くの人と同じように冒険者として活動している方も結構います。ギルドにいたのは主にそういう方たちです。
セラさんがわからなかったのは、ドワーフの方々はそれとひと目でわかる特徴を持っていないからでしょうかね。私だって直接資料を見なければわからなかったかもしれませんし。
「じゃあドワーフって、エルフみたいに自分の国みたいなのを持ってるわけじゃないんですね」
「まず鉄が採れなければ鍛冶は成り立ちませんからね。そのあたりで現実的だったのではないでしょうか」
そこは重要ですよね。
輸送すれば問題は解決しますけど、こだわるなら自分の目で厳選したくなるものでしょう。魔道具師にもそういう方が多いそうですから。
「昨日ふと思ったんだけどな。ドワーフって魔族寄りの種族特質じゃないかな」
「ああ、それは私も思いました」
ユーリさんとララさんがそう言うと、ネレさんとリーズさんはお互いに顔を見合わせました。
「金という属性がドワーフにしか発現しないのであれば、それは進化属性というより魔族の方の種族特性そのものですよね」
「ヴァフラトルさんやメーレリアさんみたいに特異な魔質構造を遺伝的に受け継いでるって考えるとな。そういう意味だとエルフもそっちになり得るけど」
「なるほど……そういう括りであれば……たしかに……ララさんとユーリさんの推測は……通ります」
「そうですね。そういう話は聞きませんでしたけど、かつてどこかで区分が分かれたのかもしれませんね」
「そっかー。エルフもかー」
「言われてみると。ワタシはレリミアに近く思える」
「ティアちゃんとネェ……? って冗談はともかくそうカモ」
霊力操作を種族特性と見れば、たしかにそうですね。
「そういえば、『エルフとドワーフは仲が悪い』ってしてる物語も結構あったっけ」
「そうなんですか?」
「別に私とネレって仲悪くないよね?」
そうですね。本来だと違う理由で仲が悪かった可能性はあるかもしれませんけど、そういう理由なら紅狼族にもありえたでしょう。そうでなくて本当に良かった。
「自然を愛するエルフと創造物を愛するドワーフみたいな。その上で『エルフだって道具使ってんじゃん』みたいなツッコミもあったかなあ」
「そのツッコミ。的確すぎて笑える」
はい、それはそれでおもしろい話ですね。自己言及のところまで含めて。
「ソウいうの、ユーリさんも言ってましたよネ。アタシとアカネさんが敵同士だったみたいナ」
「え? 私とミアさんが?」
そんな。
そこはさっき考えたような争いは。いえ、先のことはわかりませんから、そういう機会もあるのかもしれませんけど。
ではなくて。この話だと種族の方ですよね。
「正しく言うとベニヒさんとヴァフラトルさんかな。吸血鬼の天敵が狼男みたいな」
「あー、あったあった。っていうか相互関係じゃなかったっけ。互いが互いの天敵みたいな」
へえ。ユーリさんたちの世界ではそういう感じだったんですか。
「興味深いねぇ。私としては狼人族の方々とも仲がいいつもりなんだけど」
「ミアもアカネちゃんには良くしてもらってるわよね」
「って言っても、吸血鬼も狼男もいませんでしたからお話の中でのことです。じゃなかったら今この場で戦争ですよ。いやほんと戦争にならなくてよかったねぇユーリくん?」
「なんとなく言いたいことはわかるのでノーコメントで」
お話の中のことですか。だったらよかったです。
それにしても、ユーリさんたちがいた世界にはいろいろと逸話があったんですね。そのすべてが物語の中のことで、この世界だといくらかが現実だというのは不思議な感じです。




