Interlude エクスプロズの湯
ユーリさんに通信魔道具を届けてもらってリーズちゃんと話す中で、ずっと気になっていたものがあったのよね。
いえ、リーズちゃん自身のことももちろん気にはなっていたわよ? でもそこはユーリさんたちがいるから心配はなかったから。
「素晴らしいわねぇ……」
自然と言葉が出てしまうわ。
「解放感があるわぁ……」
「これがあるだけでもここに住みたくもなりますね……」
でもそれはメイやフィリスさんも同じようね。
「ユーリくんまじ最高だわ……」
レインさんも。
温泉。ユーリさんやレインさんのいた世界の文化。魔物のいるこの世界で根付くのは難しいでしょうね。残念。
「お母様と……お風呂に入るなんて……いつ以来でしょうか」
「アタシはそういうの無かったよね?」
「うちはユーくんがお風呂作ったの最近だし、こういう機会はなかったかな」
「わたしもお姉様とお風呂は初めてでしょうか」
お風呂があるのは貴族か都市部の家持ちくらいだものね。それにお城にいると、お風呂は大きくてもこうして大人数で入ることもないし。遠慮はいらないとはいえ限度はあるから。
だからこそ、こうしてみると大きなお風呂で気の知れた間柄みんなで入るというのは本当にいいわね。しかも外でなんて。身分のある身としてはあまり褒められたことではなくても、これを知らないなんて損をしてるわ。
「こんなに大きくする必要があるのかとは思いましたけど、こういう状況になると悠理の判断は正しかったですね」
「そうだね。うん。フィーの言うとおりユーリたちが入ってもまだ余裕がありそう」
「明日はみんなで入る?」
「それはさすがに……家族とでならいいのでしょうけど」
「家族になる予定とはいえ、まだそれは心の余裕が……」
そうねぇ。レヴさんの提案もいいけれど、ネレちゃんやレアさんの気持ちもわかるわね。わたしはユーリさんとならそんなに嫌ではないけれどね。
「……次はお母さんとお父さんも呼びたいです、けど。どうなんでしょうか」
トールさんとベニヒさんは、ユーリさんのことをまだすべて知っているわけではないのよね。でもきっとそのうちそうなるでしょう。
「お父さんとお母さんは。うん。無理かな」
「ハウライト家も難しいでしょうかね」
「それを言うならフリュエットもですが……そう言い出すとこうしていることに罪悪感があります」
誰も彼もに秘密を明かすわけには行かないのだけれど、そうするとわたしたちは幸運なのかずるいのかという話になってしまうわね。
リーズちゃんのこの結界を使えればここと同じような場所はいくらでも作れるとしても、それがいいことだとはあまり思えないし。
今日と明日。ここに滞在できるうちに満喫しておきましょうか。それでも足りなければ一人で来てもいいのだし。ヴォルには仕事があるけれど、ね。
「……姉上は絶対にダメだね」
「そう? まあここに呼べはしないか」
「いえまあそれもそうなのですがそうではなくてですね」
セラさんはフレイアさんを見て言う。それも顔じゃなくてそれより下? どういうことなのかしらね。
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「それにしてもフレイアさんだけでなく……」
セラさんが周囲をチラチラ見ながらポロリとこぼす。なんでしょうね?
と思ったら、レインさんがどこか達観したような顔で笑う、というよりちょっとだけ悪戯心みたいなものもありそうかしら。
「胸囲の格差社会ってヤツかな?」
胸囲?
ふと自分のそれを見てしまったけれど、視界の端ではネレちゃんやリーズちゃんがすごい顔をしていたような。
「……ユーリさんがそれを知ってるっていうのはいいコトなのカナー」
「男の子だもの、しょうがないわね」
ミアちゃんとメイはそれがなにか知っているのね。ユーリさんも。
「ユーくんがフレイアさんから聞かれたやつ?」
「私? 胸囲……格差社会。ああ、そういうことねー」
「そ、そういう表現をするんですか、お姉様?」
「……ねえアイリス、あれの後ってまだ話続いてたの?」
「このことについては続かなかったよ?」
えーと。わたしだけわかってないのかしら。
リーズちゃんに聞くというのもなにか違うような。いいえ、やめておいたほうがいいような。
「……メイ、どういうこと?」
「……体型の話ですね。ここの」
小声で聞くと、小さく笑いながら自分の胸に手を当てて揺らすように。なるほどそういうこと。
男の人から見ればそこも魅力だものね。そこで人を選ぶようなことはしないとしても、ユーリさんにとってもそうでしょうし。格差社会というのはなんとも言えない言い回しね。
「人の魅力は。そこだけではない」
「とか言いツツ、ユメちゃんにアコガレはあるでしょティアちゃん」
「……それは。否定はしない」
「わたくしですか……ええと」
ユメさん、もしかするとこの中で一番大きいかもしれないものねぇ。ティアさんの言うようにそこだけが魅力だとは言わないけれど、目を引くのは事実だもの。
「本当に悠理は罪深いですね」
「私はユメさんほどは……でもユーリさんなら」
「ユーリはどっちも好きみたいなこと言ってたけど、どうなのかなぁ」
「あー、フィーはねぇ。私たちと同じくらいの大きさになれば普通以上なんだけど。それにそこはディーネとウンディーネの違うところかなぁ」
この場合の普通はどのあたりなのかしらね。フィーさんやディーネさんとウンディーネさんの容姿もわからないし。
わたしはどちらかと言えば大きい方かしら。メイもよね。組分けするならユメちゃんとかしら。
その次がフレイアさんとララちゃんとエルさんとフィリスさん。アカネさんとレインさんとアイリスさんとミアちゃん。レアさんとネレちゃんとリーズちゃん。セラさんにレヴさんにティアちゃんかしら。同性でもそうやって比べるのはよくないのでしょうけどね。
「半年で変わらなかったし、成長するのであろうか……」
「セラ、あまり不吉なことは……」
「次は必ず……」
「はい……きっと……」
「うーん」
「ふ。知るか」
セラさんのつぶやきにレアさんが青くなって、ネレちゃんとリーズちゃんが肩を寄せあって気合を入れ、レヴさんは難しい顔で首を傾げ、ティアさんはこの世のすべてを呪うような顔を。
そこは魔法ではちょっとね。




