Material その名の下に
聞いておきたいことかぁ。
そういえば、前は忘れてたんだっけ。
「ねぇねぇ、レイン。レインはレーヴァテインって剣のこと知ってる? ユーリやレインの世界にあった剣の名前なんだよね?」
「有り体に言えば炎の剣ですね。原義だと害なす魔の杖、じゃなくて枝だっけ。出典は北欧神話です」
わたしの言葉を受けて、レインの口からすらすらと言葉が出てくる。そこまではユーリとあんまり変わらないかな。
けど、レインの場合は続きがあった。
「たしか、他の神話のと混同されて神と人の最終戦争を引き起こす剣とかにされてたような……」
「え」
神と人の戦争。
やっぱりわたし、良くない存在なの?
「だーかーら。レヴはレヴ。レーヴァテインはレーヴァテイン。それとこれとは別だって」
「そうですね。レヴさんはドラゴンですけど、どっちかって言うと恋する女の子ですから? 破滅の剣って感じはこれっぽっちもしないですよ」
ユーリとレインがそう言ってくれる。慰めてくれるだけじゃなくて、本心からだっていうのも伝わってきた。みんなもうなずいてくれてる。
でも、心が全部晴れたってわけじゃない。二人から聞いた話がどれも悪い話だからだと思う。
「名前がかぶってる善人と悪人なんていくらでもいるだろうし、それ言ったら物語によってドラゴンは敵だったり味方だったりしたぞ」
「だよね。そういえば、『フェンリルってなんで神狼なんだ』って話もあったなぁ。本来は魔狼の方なのにって。ケルベロスも神話だと地獄の門が開かないように守ってくれてるわけだから神様寄りなんだろうけど、この世界だと三ツ首の魔犬でしかないんだよね。フェニックスも似た名前の悪魔がいたりしたし話によっては敵で、吸血鬼とか夢魔も悪魔寄りだったりとか狼男だってモンスター、ってあんまりいい話ではないんですが」
「モンスターですかぁ。『狼になって食べちゃうぞー』みたいなのはこどもを脅かすのに使ったりするみたいですけどね」
「私たちのような吸血鬼と夢魔についても……まあそのあたりは」
「ユーリさんの記憶の端っこで見てはいるから平気よ。その二種族の特に女性がどういうものかとか。ねぇ、両方のミア」
「……ソモソモそんなコトしないし」
ミアだけちょっと赤くなってるのはなんでだろ? ユーリは無表情でレインは薄っすらと笑ってる?
「誰しも生まれてから歩ける道は無限とは言えない。けれど、歩く道を好きに選ぶこともできるし見えないそれを切り拓くこともできる。人生とはそういうものだよ」
「ええ。それに悪い偶然ばかりではなくいい偶然もあるのだから、レヴさんがなりたくないものになる必要はないはずよ」
わたしがなりたくないもの。世界を滅ぼすようなユーリの敵。
そんなものにだけは、絶対にならない。
「ありがとう、ヴォルラットさん、リーナさん」
素直にお礼を言ったら、ふたりとも笑ってくれた。
そうだ。「わたしも一緒に戦う」ってユーリに言ったんだから、もしもそんな運命が前に立ちふさがるのなら戦わないとね。そのときはきっとみんなも一緒に戦ってくれるよね。
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「そうそう。余談だけど、もう一本ありましたよ『なんとかティーン』。こっちはちゃんと剣でした」
え、そうなの?
「ガラティーン。たしかアーサー王伝説に出てくる剣だったかな。誰が持ってたかとか能力とか名前の由来は忘れちゃいました」
「わたしの名前、そっちのほうが近いね?」
「物語的には違う言語体系だったと思いますし、案外そういういろいろの混ざりかもしれませんね」
そうなんだ。
そういえばユーリも二つの世界で似た言葉が結構あるって言ってたっけ。前の世界でのたくさんの種類の言葉にも。そう思い出してユーリを見たら、レインのほうをなんとも言えない目で見てた。
「レインさんってやっぱりそっち系の……いえそれが悪いなんて言う気はまったくもって無いですけど」
「ウッ、引かないでよ」
そっち系?
「別に引いてませんって。単純に知識に感心してました」
「……しゃーないでしょ。高校大学割とそういう友達いたし、ゲームするにも予備知識は必要だし。通勤は死にかけてても寝るわけにはいかないからごまかすためにも昔の知識欲求を呼び起こしたりさホント大変なんだよ乗り過ごしたらどこまで行くことやら帰ってこれなければそれも地獄の入り口で給料が減ったり余計な仕事以外の余計な仕事が増えたり」
レインは話しながらどんどんうつむいていって、最後にはうっすらと笑いながら息継ぎもなく言葉を続けてた。ちょっとだけ怖い。
「……レインノーティア」
「はっ!? 前世の記憶がわたしを殺しに来た!?」
アイルードさんが名前を呼んだら、レインは頭を抱えたまま飛び上がった。
「それはまたジャンルが違いませんかね」
「あれは……あれは絶対に繰り返してはいけないんだよユーリくん」
「でしょうけど」
「親としてもそうならないようには気をつけよう」
シャチクってやつの話かな。きっとすごく嫌なことなんだろうね。
でも、レインの知識にはすごく感心する。美味しい料理も作れるし。
わたしもがんばるから、レインもちゃんとこの世界で幸せになれますように。




