Offstage 女子会はうまくいかなかった
さて。
ユーリ君が大立ち回りを演じたことで最後の嵐は過ぎ去った。嵐という表現で済ませていいのかはわかんないけど。嵐の上ってなんだっけ?
そのユーリ君と父親のアレックスさんはこの場にいない。外で細々としたことを片付けつつやることもあるらしく、二人だけで何やら画策している。
残った女性陣は特にすることもないわけで、家の中でお茶をすることになった次第です。
というわけで、“女子会”ですよ。メンバーは言い出しっぺのわたくし、セラディア・アルセエット。それにレア、アイリスさん、アカネさん。最後にハーシュエス姉弟の母親であるフィリスさんの総勢五人となっております。
「うーん、私は女子っていう歳じゃないと思うけど」
「女の子は永遠に女の子ですから」
「そうかしら。ありがとう、セラちゃん」
実際、フィリスさんが何歳なのかアイリスさん以外にはわからない。それでも私の言葉は真実であるし、歳の離れた姉妹と言っても通じそう。すごっ。
「でも、アカネさんが先着していたのは驚きました」
「色々と計画がありましたからね。もっとも、ユーリくんの本当の目的は私に休暇を取らせることだったようですけど」
「やる事は無茶苦茶だけど何気にすごい気が回るんだよねぇ、ユーリ君って」
それぞれ話すことがないわけではないんだけどね。共通の話題となるとユーリ君のことくらいしかないんだよねえ。
まあ、この家のメンツの中に父親を除けば男一人なんだから、恋バナ気味になるのは仕方ないんだけどさ。
「安心するような不安になるような話だわ。アイリスはちゃんとしてるけれどユーリはやりすぎることが多いから」
「ユーリくん、悪いことをしているわけじゃないんですよね。それで助かっていることもいっぱいありますし」
「あはは。ユーリくんはとんでもない驚きとすごい迷惑と完全な解決を同時に持ってくる感じですからね。ギルドでもいい意味で問題児扱いですよ」
いい意味の問題児って何かな、とみんなが笑う。いや、問題児だよねユーリ君。アカネさんの言うとおり、その問題も自分で解決しちゃうけど。
ただまあ、レアの言うとおりユーリ君が悪いわけじゃないんだよねぇ全部。そういう意味でも「強い」っていうのは一番の解決手段なんだなぁと思うわけで。私ももっと強くならないと。
「なんだかんだすごいのに威張ってもないもんなぁ、ユーリ君。人間できてる。同い年なのか疑うことばっかり」
「そうですね。横柄な相手には横柄ですけど、基本的に礼節は弁えていますよね。その辺りはギルドとしての評定もいいです。もちろんみなさんもね」
ホント不思議だよねユーリ君。強いのもそうだけど、下手な貴族より貴族らしいというか。さすがに嫉妬や畏怖が多いのかあんまり人が近づいてこないからその辺が知れ渡っていかないのが残念なくらい。
というか、優良物件だよねユーリ君。これだ爵位家だったら普通に引く手数多なんだろうなあ。そのうちマジものの叙爵されそうだけど。
「まあ、今後は味方も増えそうだし? レアはもっと頑張らなきゃだめだよねー」
「え? あ。な、何をですかっ!?」
「いやそこはここには女子しかいないわけだからさ。誤魔化さなくっていいと思うけど?」
誤魔化す必要もなく、誰でも気づいてると思うんだけどなあ。アレックスさんでさえ気づいてたっぽいし。何もリアクションが無いのは当のユーリ君だけじゃない?
だからこそ思うこともあるんですけども。
「わ、わたしのことはともかくですね。そもそも、ユーリくんって恋愛とか興味あるんでしょうか?」
「それは私も少し気になりましたね。達観しているというか、欲求がなさそうというか」
いやいや話題逸れてないから。
でもそうなんだよねえ。パーティー名決めるときも冗談で「両手に花」とは言ったけど、それをどう思っているでもなかったし。却下されたのもたぶん、今後メンバーが増えるかもしれないからとかそういう意図だったんだろうし。
鈍感ってわけでもなくて人のこともちゃんと見て聞いてるのに、あの精神性はちょっと謎だ。
「そうだよねえ。誰かが言い寄ってるわけでもないけど、なんの反応もないっていうのはちょっと不思議に思うことはあるかも」
「そういう意味だとアイリスは最近何も言わないわね」
「何をですか?」
首をかしげた私にフィリスさんは苦笑する。
「この子、ずっと『ユーリのお嫁さんになるんだ』って言ってたの」
「あはは。いいお姉ちゃんだ」
レアもアカネさんも、フィリスさんや私と同じく子供の時の冗談だと苦笑した。
でもアイリスさんだけは微笑んでる。
「今でもそのつもりだよ?」
「えっ?」
「ええっ!?」
「は、はい!?」
「……うーん。やっぱり変わらないのねぇ、そこは」
全員が驚きの声を上げたら、アイリスさんは不思議そうに首を傾げた。
「だって、いまさら言う必要のあることでもないよね?」
「う、うーん。アイリスさんがユーリくんのことを大好きなのはこの二年ずっと聞いていましたが、まさかそういう意味とは……」
「というか、キョウダイってそういうこと考えないと思うんだけどなあ……」
ほんとに。たまーに聞く「王族間の殺し殺され」みたいなのも特殊なんだろうけどね。こういうのはもっと特殊な部類では。ドロドロしてないのがさらに特殊。
まあ、違和感があるか無いかって言うと無いのが不思議だけどね、この姉弟の場合。
「というか、どういった理由でそういう思考に至るのかが知りたいんですが」
「んー、そういえばそっちは話したことなかったっけ」
お。私の疑問から長年の謎が明るみになるらしい。やったね。
「今からすっごく変なこと言うけど、怒らないでねお母さん」
「それは内容にもよるけど……」
そりゃそうだ。でもフィリスさんは特に止めなかった。みんなでアイリスさんの言葉を待つ。
「ん。ユーくんってたしかに弟なんだけどね。時々、そうじゃないんじゃないかって感じることがあるんだよね。昔から」
「えっ」
「アイリスさん。それはちょっと……言ってはいけないことなのでは」
いや、うん。それって、血の繋がりの否定というか、そういうアレだよね。
でも、アカネさんの当然の非難にそれでもアイリスさんはゆっくりと首を横に振った。その目にはどこか確信に似た色すらある?
え、どゆこと?
「みんなが想像してることじゃないの。えっとね。もちろん、わたしたち二人ともお父さんとお母さんの子供だし、ちゃんと血はつながってるよ? でもなんていうのかな。なんか違う気がするの。うまく言葉にできないんだけど」
この場の全員が、アイリスさんが何を言いたいのか理解していないはず。それなのに、なんとなくユーリ君はそれに答えを返してくれそうな気がする。ほんと、なんとなくで全然確信はないんだけど。
まあ一つだけ確かなのは、全然怒る素振りを見せないフィリスさんがすごいなってことかな。それだけ家族間の信頼があるんだろうけど。羨ましい。
で、この死んだ空気どうしようか?
「え、えーと。なんか変な話になっちゃったね。いや、変な話ではないんだけど。アッハッハ」
もう笑ってごまかすしかないんじゃない、これ。笑ってごまかせるかはわかんないけど。
「ていうか、この状態だとユーリ君ほんとに『両手に花』だよねー、なんて。ワッハッハ……」
ヤバい。口を開けば開くほどドツボになってる気がする。だれかたすけて。
「息子が好かれるのは悪い気はしないんだけどねえ。お父さんも同じみたいだけど、なんか心配なのよねえ。アイリスとレアちゃんの本気具合がわかるだけに」
「え? えっとあの、わたしは」
よしたすかった。
いやー、しどろもどろになるレアはほんとかわいいね。
って、あれ?
今まで考えてなかったけどさ。アイリスさんがこういう感じなのはともかくとして、レアだけじゃない可能性とかあるんじゃないの?
これまではどうも何もなさそうな感じだけどさ。これからだってあるんだし?
やばいよこれ。なんかいきなりとんでもない展開とかありえるよ。
「……レア、がんばってね」
「だからなにをですかっ!?」
こうして、第一回女子会はグダグダに終わったのだった。
途中のドロドロを考えたら良かったとは思うけどね。