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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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Material 魔物・魔石・魔力結晶

「じゃあ次、わたし行っていい?」

「ふむ、レインノーティアの疑問か……」

「お姉様の疑問、気になります」

「さっきのからだと怖い……」


 発言通りセラちゃんが戦々恐々としてるけど、さもありなん。お父様も同じだろうね。レアだけはなぜか期待?

 でも大丈夫。ユーリくんの話題はちょっとトンデモでも、同じ異世界人として現実的なのも出してみせるから。


「この世界って、魔物がいるわけじゃない? もちろん、動物と似てるっていうかさほど変わらない家畜化された魔物とも言えないのもいるわけだけど。そういうのって本質的になにがどうなってるのかな?」


 こういう疑問なら許容範囲でしょ?

 でも。


「魔物……本質的に……なにがどうなっているのか……というと?」


 リーズさんが首を傾げる。

 えーとでございますね。その心はですね。

 当然のように魔物がいる世界で、種類はともかくそれがなにかっていうのは詳細に教えてもらった覚えがないんだよ。日本にいたときもニュースになってた熊とか猪とか猿とかのことを詳細に語ってもらった覚えはないし、そういうものの強力なバージョンなんだろうとはわかってるけど、


「差、かな? 線引き? 魔物とそうでない生き物をどこで分けるのかとかかな、まずは」


 明らかに、魔物と害獣は同じジャンルに入れちゃいけない気がする。ジビエとかの使い道は共通だけどね。そういえばハイファンタジー小説でも食べられるのと食べられないのがあったなぁ。この世界のは食べられてよかったのかな。美味しいし。

 ちなみに。水牛や猪や……鶏がなにから家畜化されたのかはわからないけど元となる動物がいたように、この世界でも動物性タンパク質は冒険者や狩人が魔物を狩らないと手に入れられないわけじゃない。テイマーって職業はないけど畜産家はいて各種お肉や乳製品はあったりする。馬車があるから地球とほぼ変わらない馬もいるし。そのあたりがずっと不思議だった。


「概ねであれば、魔石の有無と生活する上で害があるかでしょうか。もちろん、害のない動物や飼育されている動物も暴れたり逃げ出したりします。ほとんどは変異する前に魔物の餌になりますけど、まれに魔物化することもあります。それに関連するクエストもあったりしますね」


 答えてくれたアカネちゃんはギルド員。だからそういうのは一番精通してるのかな。

 クエストに関してはペット探しと野犬化みたいなものかな。つまり、地球の生活様態とこれっぽっちも似通ったところが無いわけじゃないってことか。害獣が強力になって魔石がくっついたり野生化したのが魔物、みたいな。

 魔石か。


「魔石と魔力結晶の違いとかは? あ、魔力結晶は文字通り魔力が結晶化したものだっていうのはわかってるんだけど、魔石ってどういうものなの? 魔力が宿ってないわけじゃないよね?」

「魔石はそれこそ魔物の核のようなものですね。一種ごとに特徴があって討伐証明にも使われます。あとの使い道としては魔道具の材料が主ですね。使用法は魔道具師の秘密であることが多いので、私はそこまでは」

「基本的には……魔物自体の特性をいくらか受け継ぐので……そこを上手く組み合わせて指向性を持たせるのが……一般的ですね……魔力結晶は端的に……科学で言うところの……電池です」


 またアカネちゃんが答えてくれる。魔道具師であるリーズさんも。

 でも、魔石を持ってない魔物もいるんだよね。と、そういうのもあるけど。


「うん、理解した。んだけど、魔石から魔物が生まれるのか、元となる動物みたいなのがいてそれに魔石がくっついて魔物になるのか、それとも切っても切り離せないで最初から魔石の付いた生き物として生まれてくるものなのか、育つと魔石って部分が生まれて魔物になるのかって感じ? 魔石を見ればどの魔物のなのかわかるってことはちゃんと識別できる要素があるんだろうけど、魔物自体は決して一律同じサイズでもなくて成長もするんでしょ? なんかこう、そのへんちぐはぐだっていうか」

「なるほど。たしかにそれは考えたことがなかったでしょうか」

「そうだね。そもそも魔物がいることに疑問を抱くこと自体がない。そういう世界で過ごしていた経験のあるレインノーティアだからこその疑問か」


 レアとお父様が感心したように頷いてくれる。良かった、変なこと言ってないみたいで。


「ああ、そういう話か」


 そしてそこはそれというか、ユーリくんが真っ先に腑に落ちた感じみたい。


「えーと、ギルド員としての答えになりますけど、魔物についてはおっしゃるとおり成長もありますし個体差もあります。けれど、魔石についてはほぼ個体差はないですね。そこを見極められるようになるのが職員としてのまず第一歩です」

「そうなんだ。アカネさんすごいなぁ」


 たしかにセラちゃんの言うとおりすごい。この世界にどれだけの種類の魔物がいるのかはわからないもんね。さすがに絵付きのマニュアルみたいなのはあるだろうから、初心にも最終的にもそれを頼ればいいんだろうけどさ。


「魔石自体は、生まれたばかりであっても大抵の魔物の場合胸の中央あたりにあって、生物系はぶっこ抜くと位置的なものもあるのか出血多量で死にますね。無機的な魔物だとゴーレムなんかが居ますけど、それも機能停止を起こしますし、構造崩壊とは行かないまでも脆くもなります。魔石から魔物が生まれるのかについては、魔石だけの状態から生まれることはありませんでした。捕食することによって特性を得たり進化することがあるくらいです。そっちは周知の情報としてもありますよね」


 実験じみた話はユーリくんから。そうなんだ。魔石から魔物が生まれるかに関しては試したのね。さすが? いやそんなの試した人はいっぱいいるか。そもそもそうなら魔石を使った魔道具が魔物化してるわ。

 えーとつまり魔石っていうのは、生まれながらにある魔物を魔物足らしめてる主要部分で、切り離してもその魔物の性質を持ち続ける……ってことかな? ペットにしようとしてそれだけもぎ取っても無理ってことか。やる気はないけどね。


「家畜に関しては、比較的温厚な個体を必死に飼い慣らしてきた先人の努力かな。人の生活領域で生まれて育った生物は魔物としての習性や特性が抑えられるというのもあるようだ。だから彼らには魔石は無いね」


 さすが魔王であるヴォルラットさん。生き字引きみたいな情報を。なるほど、その辺もどの世界でも変わらないってことね。

 人間の生活領域で魔物が生まれないってことは、どうにかすれば普通っぽい生物として存在することもできると。動物園とかサファリパークだってむやみやたらに来場者に襲いかかったりしないもんね。ってあれは飼いならされてるわけではなかったっけ?


「……ああ、そうか。ダンジョンの魔力が人にも悪影響を及ぼすのなら、人間が魔物みたいな思考になることもあるのか」

「ん、そっか。それならそうだね」

「あー、低ランクでダンジョンに突っ込むなって話のこと」

「してもらいましたね。たしかに話は合います」


 ユーリくんもユーリくんでなにかがなにやら腑に落ちたみたい。アイリスちゃんセラちゃんレアもか。

 ダンジョンの魔力の話はレアたちが料理修行しに来たときに聞いたな。統合すると、「悪い魔力が魔物を生む」ってことかな。それが人間にも適用されるかもしれないとそういうこと?


「ところで……これは聞いていいのかわからないけど、レヴさんは魔石を持ってたりするの?」

「わたし?」


 不躾な質問にも、レヴさんは気を悪くすることなく不思議そうに首を傾げるだけだった。単に質問の意図がわかってないのかなこれ。それはそれでいいけど。


「レヴは持ってないですね。そこもまた魔物との大きな違いです」

「レヴさん……ドラゴンは神霊種ですから……たしかに魔石は持っていません……そういうくくりで言うなら……わたしたち魔族も……ですね」

「うん、そうなんだ。ごめんなさい、ありがとう」


 魔物と魔族の関係か。よく言われることだね。

 でもあれれ? それならむしろ魔族の人たちはレヴさんの方に近いんじゃ?

 そういうのって解剖とかでわかるんじゃないのかな。倫理面での問題が大きいとか、臨床医学とか法医学がそこまで発達してないから無理なのかな。そもそも言ったところで信じるかの話もあるか。

 魔力探知が一般化すればそういうのも詳らかになるんだろうけど、そうでなくても……ん? それもそれで透視が一般的みたいな感じだから良くない?

 よし、この方向については考えるのをやめましょう。人力でCTとかX線をやる場合のみってことで。


「魔物と魔石かぁ。そういうの考えたことなかったなぁ、新鮮。あれ? じゃあ魔人の魔石は?」


 セラちゃんがポツリとつぶやく。

 あ、そっか。魔人は魔物化した人間。それもかなりの強さ。だったら魔石を持っててもおかしくないのか。


「そう言えば、回収とかした覚えがないね」

「そこまでの余裕はありませんでしたし……」

「正直。解体とかは御免被る。おそらくもう人ではないと言え」

「マァ、そうだネ」


 アイリスちゃんユメちゃんティアちゃんミアちゃんが反応する。

 あれが人かどうかか。それこそ見る人によるのかな。身内がああなったらどう思うかとか。今のところわたしたちの周りではそうはなってないけど。

 なりたくないなぁ、魔人。お父様とレアともどもハッピーでいよう。


「私は今回が初めてと言っていいですから、気にしている余裕はありませんでした。斬った感触はなかったですかね」

「私たちは戦ったこと自体ないから……だよねディーネ」

「わたしも気にしてる余裕なかったや」

「レヴは今回一番忙しかったですから仕方ないですよ。それを抜けばなんだかんだ戦闘経験が多いのはあなたですよね、悠理。どうなのですか?」

「そういえば気にしたことも見たこともないなぁ。ましてや斬ったことも」

「探知にも……掛からない……ですね」

「わたしはちょっとやりすぎちゃったからよくわからないわ」

「……そうだな。俺もそれなりには必死だったし、気にしてる余裕は」


 ふむ?

 魔人の強さって、個体によるけどBとかそれ以上だよねきっと。魔石があってもおかしくないような。イレギュラーだから別にいいの?


「本筋からは逸れるけれど、それについては幸運なことに専門家がここにいるよ」


 ヴォルラットさんが言う専門家って誰? と思ったけど、聞き返す前に当人が口を開く。


「メイを通した又聞きに近いけれど、私も拙いながら魔力探知が使えるようになってね。あの騒動の最中にティトリーズさんやミアに倒された魔人を探知したのだけど、血液の中に不純物があったよ。その後それが魔石の成分と似ていることがわかったんだ」


 ほほう。

 ヴァフラトルさんは吸血鬼ヴァンパイアなんだっけ。なら血のことについては専門家だよね。だとしても科学分析を人力でできるってすごい。魔力探知自体がそれっぽい要素はあるにしても。


「結晶化前ってことでしょうか。魔石のない魔物も実は血液中に成分があるとか……そうですよね、進化や変異時に突然魔石が生えてくるのもおかしな話かもしれない。血は唯一と言っていい身体全体を循環する存在ですから、そこに魔石の元になるものがあるのは道理とも言えるのか」

「なるほど、ユーリ君の言うとおりかもしれないね。機会があれば調べてみるよ」

「よろしくお願いします。となれば、魔石というのは逆に生物の形質に影響を与える物でもあるのか? 変異のキーにもなるらしいし、魔道具の材料としての使い道もそれに似ているよな」

「可能性は……ありますね……特殊な魔物の魔石は変質しているわけですし……確率は高いと思います」


 おお、思いがけない形で何かが進みそうな感じ? やったね。


「ウムムムム……」

「年の功もあるのよ。まだまだこれから。気にしない気にしない」


 一方、ミアちゃんが無念の表情をしてメーレリアさんがフォローしていた。そうだね、ミアちゃんにもできた可能性はあったもんね。

 血かぁ。わたしが医療系に詳しかったら無限の可能性があるんだろうけどね、ほんとに。わたしも口惜しや。

 まあ、夢魔の力を心理学として使うことはできるだろうからそっちの話は折を見てしてみようかな。向いてそうだよね。


「こんなところでしょうか。レインさんの疑問は解決できましたか?」

「うん、オッケー。思いつく限り未解決なところはないね」


 よし、これで一勝だね。

 って、勝ち負けじゃないか。

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