Interlude 十字属性魔法使いは風魔法使いになれるか?
「そういやユーリ。転生する前は四属性全部使ってたんだよな?」
「ああ」
転生した理由は純粋な風魔法使いになるためもあったんだったよな。
俺からすれば、それを話してもらったあの夜にミアちゃんの夢で見させてもらったのも充分すごいと思ったんだけどな。全部の属性を使えたほうがいいだろうに、戦うことや最強の力みたいなのを考えないといけないから無理だってのは、負わなくてもいい責任を負ってる気もする。ってのも責任放棄だと感じるのかユーリは。
「風魔法使いとしてのおまえが強いのはよくわかるんだが、今でも他の属性を使おうと思ったりしないのか? っていうかこう、無意識に使おうとしちまったりとか」
「ああそれなー」
意外と軽い。思わないものなのか?
いや、俺やフィリスだってユーリを見た今でも風魔法を使おうと思わないんだからそういうものなのか?
「そりゃ転生当初は無意識に使おうとしたさ」
「アノ……転生当初ッテ、赤ん坊のトキですよネ?」
「ええもちろん」
ホントかよ……と、疑う要素はないか。これっぽっちも。
そう言えば周りから「手のかからない子だな」って言われてたなユーリは。アイリスもそういう感じだったが、それ以上だった。フィリスの血かと思ったけど、今思えば転生したからって理由もあったわけか。今とそれほど変わらない精神だったってことだ。
……生まれたときから自意識があるのってどんな感じなんだろうな。
「明確に意識があったからこそ意識的に使わないようにしつつ、風魔法だけを密かに延々と使って無意識に使わないよう叩き込んでたわけで……あーそうか。詠唱無しにイメージだけで魔法使えたら大変なことになるな。話せる年齢にならなくても魔法使い放題だ。火と土はヤバい」
「そういえばそうだね。そういう意味じゃ詠唱が必要な世界もちゃんとできてるわけだ。ユーリくんに意識があってよかったよね逆に」
そいつは。
「レインノーティアさんの言うとおりだけれど、さすがにユーリさんでも生まれてすぐはそんなに魔力量はないでしょう? ねえ、リーズちゃん」
「はい……そこは……転生後に引き継がれないものの一つでしたから……そうでなければ危険だったのも……ありますけど」
「はは。ユーリ君なら例外として転生できそうだけれどね」
生まれてすぐに魔法を使いまくる子どもはちょっと怖いな。話を聞くにここにいたわけなんだが。
と言っても、属性のことを抜きにしても火事と生き埋めになるようなことはなかっただろう。生まれてすぐの赤ん坊が魔法を使ったなんて話は聞いたことがないものな。
「それはそれとして話を戻すけどさ。案外とそう決めたら早い段階で他の属性を使おうと思わなくなったし使えなくなったよ」
「え、使えなくなるものなの?」
セラちゃんがこれ以上なく驚いているが、俺もそうだ。
この世界の常識では、魔法は属性問わず呪文を覚えたり考えたりして使える数を増やしていくものだったからな……ユーリのおかげでそれは崩れたわけだが。
それはそれとして。魔法については、アイリスのことがあって以降ももちろん、使えるようになる感覚ならわかっても使えなくなる感覚はよくわからない。歳を取るとそうなるって話もあるが、俺は今のところまだまだだ。逆に言えば、そうならない限りはいくらでも使える魔法は増やせることにならないか? 詠唱の有る無しに限らず。
「じゃあやってみればいいだろ? と言ってやってもらっても困るか。そもそも、使おう使おうと思っても使えないことはあるからな。四属性以外なんかもちろんだし、転生前にフレイアも見てるし」
「そうだねー。炎魔法しか使えなくなったもんね。いえ、魔力探知が使えるようになったので、ユーリの魔法をトレースしたりして火はもちろん他の属性も使えないか試したんですよ。でも無理だったわけで。逆にユーリもでしたからね」
そういう例もあるのか。
炎魔法についても、そんなことは前に夢の中で言ってたけどいいことだけじゃないわけだ。便利に使っていればいるほど支障が出る、か。
「その後リーズと出会ったわけだけど、リーズの性格なら他の属性も使おうとするだろうなって。で、聞いたら駄目だったっていうから別におかしかないんだなって」
「はい……昔……魔法陣を研究したのも……そのためでした……魔力はもちろん……描画速度で安定しなかったそれを……疑似精霊魔法として昇華できたのは……ユーリさんのおかげですね」
なるほど、そういう経緯があったわけだ。その上で風だけでどうにかできると考えたわけだな。
それと、ユーリの自己謙遜が過剰だと思うことも多々あるが、リーズさんに支えられている部分が多いからか。ならそう思うのもわからないでもない。確実にそこもユーリの努力だから卑下することはないとも思うんだが。
「魔力の属性固定の影響っていうのはそのときに大枠を考えたんだ。ちょうど魔力構造も明確におかしくなり始めてた頃だったし。まあなんて言うかさ。魔力枯渇が精神とか心身バランスへの影響だってことを考えても、魔力って気力とかそういうのと繋がってるのはたしかだ。だからいくらかの部分は気の持ちようでどうにかなりうるし、気の持ちように左右される。転生後のオレの場合はそういう自己暗示的なことや魔力の動かしかたの癖だった可能性もあるとしても、特定の属性魔法使いとして自分を固定するのは難しくない」
「なるほどねー。ユーリ君が私の可能性を見つけたのも感情の変化からだもんね。気持ちは大事なわけだ」
「私が炎に目覚めたときもそうだったかな。明確な気持ちの切り替わりみたいなのはあったよ。霧が晴れるみたいな、心の中の火のあり方が変わるみたいな。それ以前にも嫌なことがあって暴発じみたことをしたりはしたし、あのころにユーリに見てもらってたらそれも兆候が見えたのかな?」
「あれ以前は個人差とかそのへんの範囲がそこまでよくわからなかったからな。リーズが一緒にいたら別だったろうけど」
「いえ……わたしも魔質進化の場に立ち会ったことは……ありませんから」
「私が金属性に目覚められていればなにかわかったかもしれませんね」
「同じこと。ワタシたちもできない?」
「やってみる価値はあるカナー」
魔力と感情か。
進化するほどじゃないが俺もそうだったな。ガキっぽい考えで突き進もうとしてたところをフィリスに引っ叩かれて諭されて覚悟して、それで魔法使いとは言えないまでも安定して魔法を使えるようになった気がする。あれは気の持ちようからか。なるほど。
そう思いながら隣に座る奥さんを見ると、不思議そうな顔をされた。
「なに? どうかした?」
「誰にでもそういう経験はあるんだなって、な」
ユーリが好かれてるのも結局はそういうことなのか。魔法から魔力を経て感情の安定に寄与してきたから。
人に好かれてるといえばなんだかんだフィリスもモテてたみたいだからなぁ。ユーリはそういうのも受け継いだのか……いやいや。
思わずユーリに目を向けてしまう。
「たしかに、オレもある意味属性変化したと言えなくもないかもな。十字から風へ」
息子さんのほうはよくわかってなさそうだったが。
そういやこの世界に来てからのこともあるから本人のものか、それは。




