Interlude 水魔法で氷のようなものを出したりしてみる
ユーリが魔法使いだということを聞いたときも驚いたし、別の世界や生まれ変わったことを聞いたときももっと驚いたけれど、今はなんとも言えない気分ね。いつかこれも理解することができるのかしら。
それにしても属性とその力、ね。
「火と炎。私は熱だったけど、水と氷かあ。どうすれば進化できるんだろうね?」
セラちゃんの言葉でわたしも考えてしまう。
アイリスもだけれど、そういう気配はなかったものね。特異な属性を持たないのは今のところのハーシュエス家全員に共通することではあるけれど。例外のように見えても、ユーリも風ではあるわけだし。一応は。
「セラもそうだけど、フレイアやユメさんにしてみても生まれたときからそういう可能性を秘めてたのかあるとき突然に芽みたいなのが生まれたのかよくわからないからなぁ」
「うーん、どうなんだろうね」
「それについてだと、私はユーリ君と出会ったときにはもう可能性はあったんだよね?」
「わたくしは、レヴさんからいただいた力が大きいでしょうか」
ユーリのそばで三人も新しい力を手に入れているわけだし、それに。
「ララさんとリーズさんとリーナさんは。生まれつき聖や邪の力を持っていたんですか?」
そうよね。生まれつきのものもあるわよね。
ティアさんが呼んだ三人は質問に少々考えたみたいだけれど、
「おそらくはそうですね。聖女見習いに抜擢されるには基準があるようですし」
「わたしも……お母様から受け継いだ力として……最初からです」
「わたしの場合は最初は無自覚だったからわからないけれど、邪属性はそういうものだと言われているわね」
もともと力を持っている人もいるわけだから、これからも起こるのかしらね、そういうことは。
さしあたってはセラちゃんの言ったとおり氷かしら。これだけ水魔法使いがいるのだもの。
「あ、そうだ。似非でも氷を作る方法に関しては一つ試したんだった」
そう考えていたら、レインさんが手を打った。
カップがどけられ、ソーサーの上にさっきみたいに水の玉が作り出される。同時に周囲の温度がやや下がったような?
「こうして、ほいっとな」
レインさんが浮かんでいた水の玉をティースプーンで叩くと、その形のままゆっくりと凍っていく。全体が凍ると操れなくなったのか、ソーサーに落ちて高い音を響かせた。
なんなの、これ?
「え、お姉様これ」
「氷魔法? じゃないですよね?」
「これは……不思議な光景です」
「水が。叩いただけで氷に。なぜ」
「ン、ンー?」
「どうなってるの?」
水魔法使いみんなで唸る。ユーリ、こういうのは教えてくれなかったわよね。
いえ、ユーリにだって知らないことくらい、
「そうか、こういう実験みたいなのありましたね。ペットボトルに入ったのを高いところから注ぐとシャーベットみたいになったり」
「なによユーリ。知ってたなら教えてくれても良かったじゃないの」
「え。忘れてたことも今思い出したんだけど、うん。ごめん」
思わず責めちゃったけど、裏表なく真面目に謝られちゃった。
「これができればいろんなできることがあったように思ったのよ。夏場とか。でも忘れてたなら仕方ないわね、ごめんねユーリ」
「あはは。ユーくんだってなんでもちゃんと覚えていられるわけじゃないってことだよね」
「ユーリも人間ってことか」
「……だから。オレをなんだと思ってるんだよ」
さあ、なにかしらね? 顔を見るとみんな同じことを思ったみたいよ?
「あはは。“過冷却水”って言います。しっかし、圧力鍋の話で逆も思い出したからやってみたけどこれはできるんだよね。一〇〇度より上の水もできたし。温度計で計測したから間違いないよ」
「ふむ。ユリフィアス解説」
「……承りまして。水が液体である温度は摂氏で〇度から一〇〇度。これはあくまで標準的な気圧と重力諸々の環境下の基本であって絶対じゃないんです。水の温度をゆっくり静かに下げていくと氷にならずに凍る温度より下まで下げられるんですね。それを過冷却水って言って、レインさんがやったみたいに衝撃を与えると一気に凍っていくわけです」
なるほど、水の温度をゆっくりと下げるのね。今度試してみましょう。一度やればレインさんのようにすぐにできるんでしょうし。
「しっかし考えが浅かったな。お湯が出せるなら、当然〇度未満の冷水もそれよりはるかに熱い湯も出せるわけか……ああ、そういえば紅茶を出す温度の理想は一〇〇度以上なんだっけか?」
最後のほうだけど、ユーリがぽそりと言った瞬間にリーズさんとティリーナさんがかすかに、けれど強く反応したように見えた。リーズさんはお茶が趣味で、お母さんのティリーナさんはそのお師匠さまらしいからそのせいかしらね。
わたしもお茶は飲むわけだし、知っておいて損はないわよね。覚えておきましょうか。
「そこについては種類と好みもあるけどね。でも、魔力探知ができるようになっていろいろやり比べてみたけど、氷や水蒸気そのものは出せなかったんだよね。ユーリくん見たことあった? 蒸気で火がつくやつ」
「ありますあります」
蒸気で火? そんなのもあるの?
でも、
「もしそうならあちこちで火事になっていませんか?」
アカネちゃんの言うとおりね。お湯を沸かしてなにかしちゃっても、火傷はするけど火が点いたりはしないわよね。
「んや。湯気って、湿気を含む空気がそれよりずっと温度の低い空気に触れた時に過剰な水分が一気に細かい水に戻って目に見えるようになるんだけどさ。一〇〇度かやや下だから、物を燃やすのには低すぎるから火事にはならないよ。で、それとは違ってお湯を沸かしてガラスの細い管で誘導するってちょっと特殊な実験をすると、湯気が微妙に吹き出し口とは離れてるのが見えてさ。その隙間に紙を突っ込むと燃えるんだ。水蒸気の状態だと水は数百度まで上昇するんだけど、その温度は紙が燃え始める温度を超えてるんだよ」
「へー」
「そうなのですね」
「それは。おもしろい」
「だネ」
「アレができたらまた一つ便利になると思ったんだけどなぁ」
そうなの。それができるなら、火魔法に頼らなくても水魔法で火をおこすことも不可能じゃないのね。
「防壁を使って……同様状況を作ることは……できないでしょうか?」
「あ、そうですね。さすがリーズさん。あとでやってみようかな」
あら、案外簡単にできるかもしれないのね。
ウォーターカッターもそうだけど、水を水として使うだけじゃないのね。いろんなことについても。
「うん。科学ってすごいね。精霊のみんなも言ってるけど」
「そもそもの世界の仕組みですからね。詳細な説明をするならミアちゃんやメーレリアさんの力で夢の中に連れてってもらったほうがいいのかな」
「科学知識に期待してるわね、レインちゃん」
「お母さんは科学知識よりもじゃないかって気はするけどネー」
夢の中なら制約はいくらか超越できるのよね。外見だけになるけどあのとき見せてもらった世界みたいに理屈抜きで科学技術も再現可能みたいだし。
記憶の底に眠ったものも、二人分を二人の力でならもっと引き出せるのかもしれないわね。




