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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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第七章 やり過ぎの後始末

「ユリフィアス・ハーシュエスくん。それにしてもこれはやりすぎですよ」


 転生後から始まった相手階級の駆け上がり。そいつはついに王族にまで到達してしまった。

 眼の前の相手には王立学院に入る前からのアレコレまで指摘されてしまっている。さらにたった今、隣に座るフレイアの報告で混沌のことについても加えられた。最後の顛末についても大まかには察されているだろう。

 第二王子、リーデライト・リブラキシオム。隣に座るフレイアの話によると魔法士団を率いているらしい。対して、第一王子は騎士団のトップなのだとか。騎士学院との関係はこの辺りに端を発しているのかもしれないな。


「特に今回のことですね。気持ちはわかりますけど、下手すると騎士学院が潰れますよ? とは言え、魔法を使える騎士という立場を選ばなかったことについては僕たち魔法士にとっては幸運だったのでしょうけど」


 なるほど。そういう道もあるのか。

 だがオレはおそらく、「誰かに仕えて正義を預ける」騎士には永遠になれない。

 どこまで行っても、「自分の世界を捨てない」魔法使いでしかいられない。


「ついでです。このまま騎士団とも手合わせしていきますか? それで名実共にこの国最強の一翼だと証明できるはずですけど」

「勘弁してください」


 当然、お断りだ。いつかそういう時も来るのかもしれないが、先送りだとしてもしばらくは御免被りたい。


「そうですか。騎士団長初めどうにか手合わせをと言っていたんですけどね。僕としては受けてほしかったところです」

「同感です。いい加減上下関係とか面倒ですし、彼に一掃してほしかったところですね。そうすればうちの副隊長くらいには問題なく収まれるでしょうし」


 十二歳の子供に何を期待してるんだ、この国の騎士団も魔法士団も。フレイアのは冗談だろうが。

 冗談、だよな? 殿下ともども一瞬悪そうな顔をしていたが。


「さて。相手の実力や仔細はどうあれ、決闘形式で魔法士を破ったのであれば法士爵ウィザードを与えなければならないのですが」


 法士爵は騎士爵ナイトと共に最下級の貴族位に相当する。それぞれの近衛に入れば貰えるものでもあるとは聞いていたが、実力を示すだけでもいいのか。

 貰えるものは貰っておくべきだろうか? 貰ってどうにかなるものでもないと思うが。


「一つの面としては、爵位は個人を国に縛る意図があります。でもユリフィアスくんには意味を為さないでしょうね」

「だと思います」


 ちなみに。即答したのはオレじゃなくてフレイアだ。間違ってはいないが。


「あえて聞きましょう、ユリフィアス・ハーシュエス。貴方が我が国の敵となることはありますか?」

「信念を違えればその可能性はあるでしょう」

「いやあ、正直ですね。たしかにきみなら躊躇わずその道を選びそうです。その力も遠くない将来得そうでもあります。あるいは既に持っているか。どちらにせよ、受け取っておいてもらえますか」

「わかりました」

「ありがとうございます」


 殿下は徹頭徹尾笑顔を崩さない。その奥で値踏みされているのだろうか。

 それでも、オレが言ったのは不敬なわけではなく真意だ。傷つけられる者のためならたとえ相手が誰であっても戦う。それが個人だろうが、集団だろうが、国だろうが、世界だろうが。そのために転生したのだから。

 ユーリ・クアドリからユリフィアス・ハーシュエスになってもオレは無限色の翼プリズムグラデーション・エールの一羽根だ。大義なき者の手を取ることはない。


「ところで、これは個人的な疑問なんですけど」


 ん? いまさら勿体ぶって何を聞こうと?


「きみ、ホントに十二歳ですか?」


 おっと、重大な核心が来たぞ。さすが為政者。勘がいい。


「見た目通りですよ。ただ、殿下の目に留まったようなくだらない諍いの経験は何故か豊富なだけです」

「なるほど」


 殿下は納得したように笑ってくれた。フレイアは誤魔化しと当惑がない混ぜになったような笑顔になっているが、そのうちこの筋からバレないだろうな。


「では、最略式ですがユリフィアス・ハーシュエスに法士爵を与えます。わざわざ宣言する必要もないと思いますが魔法士団施設への立ち入りも認めます。顔も覚えられたでしょうからね。ついでに徽章と士団のマントも持っていってください。特別待遇で魔法士と同等の権限だけつけましょうかね。義務の方はきみには枷でしょうから」


 それはそれで袋叩きに遭いそうで嫌な権利と事実と取り扱いなのだが。

 法士爵については、当面の後ろ盾を得たということにしておこう。


「有り難く拝命致します」


 こちらも胸に手を当てる略礼で返す。

 返ってきたのは苦笑だった。


「やっぱりきみは年相応だとは思えないですね」



「というわけで、法士爵と魔法士の権限を貰った」

「いや、『というわけで』じゃないから」



 セラから思いっきりツッコミを貰ってしまった。

 でもなぁ、今更といえば今更なんだよな。


「これでお揃いだね、ユーくん」

「褒章じゃないんだから『お揃い』っていうのもおかしい気がするけど」


 姉さんも法士爵は持ってるわけだし。


「え、ちょ。衝撃の事実なんですけど。そんな話聞いたこともないし」

「わ、わたしも初耳です」


 各士団に入れば肩書として貰える騎士爵と法士爵はそこまで珍しいものじゃないんだけどな。当代だけとは言え返上の義務は無いし。

 だからこそというか、両学院の推薦と同じく「金で買える」とか言われたりもするみたいだが。


「ユーくんと同じだよ。交流戦で目に留められて模擬試合で勝って、って感じ」

「二人も魔法士団に目を付けられてるだろうし、すぐに貰えるだろ」

「嬉しいような嬉しくないような……」

「いい情報なのか悪い情報なのかわかりません……」


 実力を証明するという理由なら持っていて損はない。徽章を使えば緊急時に一定の権利も示せるらしいからな。

 そういえば二人の身分について気にしたことはない。その辺りはマナー違反だし、「秘すれば花」の領域だろうから追求する気はないが。

 そもそも、アレだけ誰彼構わず斬り倒してきていまさら周りの身分に気を遣うほうがおかしい気もする。


「ともかく、お父さんとお母さんに報告に帰らないとね」

「そうだなあ」


 報告するほどのことでもないというか、当然のこととして受け入れられそうだけどな。ハーシュエス家にとっては二回目だし。その上散々やらかしてきたオレだし。


「そ、それ! わたしもご一緒してもいいですか!?」

「うおっ」


 びっくりした。レアが叫ぶなんて珍しい。酸欠なのか顔が真っ赤になっている。


「ほほーん、踏み込んだねぇレア」


 セラはセラで謎の笑みを浮かべている。楽しそうで何よりだ。


「言っちゃ悪いが何もないぞ、うちの周辺」

「そんなことありません!」


 なにがそんなにレアを駆り立てるのだろうか。実際、高ランクモンスターもいないしダンジョンもないのに。

 いや、平和なことはそれはそれで得難い価値はあるか。


「でも、私もユーリ君の生まれ故郷って興味があるかなー」

「よくわからないが。そういうものなのか?」


 なんだろうな。友達を家に呼ぶくらいの感覚でいいってことだろうか。



 ハーシュエス家のあるザレクスト領までは、駅馬車をいくつか乗り継いで三日ほどかかる。つまり、その間ほぼずっと馬車に揺られ、座り続けなければならない。

 木組みの馬車にはサスペンションのような振動軽減装置がない。街道の整備が行き届いていなければかなり疲弊することになる。馬車を使った長旅の最大の敵はそれと言ってもいい。

 が。


「うーん、思ったより上手く行ったし快適だった」

「そうですね」


 振動とは見方を変えれば断続的な衝撃だ。なら、物理防壁で対応することができる。今回はその特訓も兼ねたというわけだ。

 セラの属性については、オレと姉さんが馬車自体に強化をかければそれで問題ない。暴発しない限り単純な防壁では火は吹かないけどさ。


「これができれば馬車に乗るのも苦労しないねー」


 そうだな。

 でも、オレがこれを使ったのは前世で思いついた後の数回だったと思う。


「走った方が、というか飛んだ方が速いからなぁ」

「身体強化がうまく使えるようになれば短距離走より速い速度をずっと出し続けられるからね」


 加えて、高速で移動すれば魔物や盗賊の襲撃も防げる。もちろん相応に魔力を消費するのでそこは考えないといけないけどな。


「ああ、そう言えばヴェノム・サーペントの時……」

「アレをやればたしかに一日もかからないかもねぇ……」


 アレだって限度を考えなければもっと速度は出せたからな。いや、空気抵抗をゼロにするホロウバレルを併用すれば更に速度が出せるのか。今度試そう。


「なんかまたとんでもないこと考えてそう」

「ユーくんはいつでもブレないよね」

「そうですね」


 話しながら家路を歩く。

 さて、最後の憂慮はどうなったかな?


「ああ、アイリスさんにユーリくん。お帰りなさい」

「どうも」

「あれ? アカネさん?」

「はい。セラさんとレアさんも、こんにちは」


 いつもよりやや明るい笑顔のアカネさんは、うちの庭にいるのはいいとして何故か洗濯かごを抱えていた。

 ワーカホリックだなあ。ちょっとでも休暇を取ってもらうために今回の提案をしたのに。アカネさんらしくはあるけれど。

 その声を聞きつけたのか、家の中から父さんが出てきて、


「おう、アイリス、ユーリ。帰ってき、たの……か?」


 父さんは笑顔で手を上げてそのまま固まった。しばらくフリーズしたままでいたが、その後真顔になって、


「なあ、ユーリ。お前の人生がちょっと心配になってきたんだが」


 そんなことを言われた。

 いきなり意味不明だ。なにか心配する要素があったか?



 飛び上がって驚かれなくとも慶事は慶事。その日の晩は姉さんの時と同じくパーティーになった。懸念だったアカネさんもしっかり盛り上がっていたし、いいリフレッシュになったのではないだろうか。

 父さんはガッツリ、母さんもちょっぴり酒は入れていたが、どんちゃん騒ぎをするほどでもなく日付が変わる前には全員静かに就寝していた。

 そして翌日。朝っぱらからわめき声で叩き起こされることになった。

 ハーシュエス家ではこれについてはもう誰もまともに相手はしないし逆に手を出すのを待っている状況ですらあるので、のんびり準備をして表に出る。


「戻ってくるのは明日だったはずじゃないのか!?」


 やはり釣れたな。名前を聞く気もしない領主の息子。あとは謎の頭数。いつものごとく魔力探知をかけているが、どこかで似たようなのを見た気がする。

 杞憂で済めばよかったとは思う。しかしハマればそれはそれで達成感があるのも事実だ。


「し、しかもお前、こんな女ばっかり侍らせて!」


 ん? 女ばっかり?

 言われてみればそうだな。父さんの懸念もそれだったのか。男友達がいないって。確かに間違っていない。

 そういえば、“翼”も男はオレ一人だったから前世からなのか? 男の知り合いがいないわけじゃないんだけどな。


「うちの息子が本気で心配なんだが……」

「そうねえ……」

「……いえ、侍らされているわけではないですから、お父様もお母様も」

「私は別にそういう感情はないけど、モテない僻み丸出しだよねぇ?」

「でもそこがユーくんのいいところだし」

「ユーリくん? うーん、ヤンチャな弟みたいなものというかなんというか。そんな感じですかねぇ」


 後ろは後ろで何やら好き放題言われているようだが、意味はイマイチよくわからない。


「そんなことより、どうしてアンタはここにいるんだ?」


 後ろからまた異口同音十色に「そんなことより……」と聞こえたが、今回の主題とは関係ないので聞き流しておく。


「二年前から不思議だったんだよなぁ。どうしてうちの情報が漏れてるのかって。どういう理由で『帰ってくるのが明日』だってわかったんだ?」

「それは、ッ!」


 理由は言えないだろうな。

 なら代わりに言ってやろう。


「うちへの手紙を勝手に見たからだろ? そうじゃなきゃこっちの予定なんて把握してるはずがない。帰るのが明日になるってのは嘘なんだし。今日来たのは誰かから報告が行ったからだろ?」


 今回の計画はかなり面倒なものだ。

 まず、同文面の手紙を二通用意した。

 一通はギルド名義で外側を整える。これについては売った気のない恩でギルドマスターの協力を得ている。

 二通目は普通にオレの名義で用意した。

 ここからが実に面倒な工程を踏んでいる。

 オレ名義のものに少し特殊な加工を施し、王都で差し出し。同日、アカネさんと二人でここの隣の領まで移動。ギルド名義なだけのただの手紙を差し出し、アカネさんにうちの両親への伝言を託してオレだけ王都に戻る。あとは普通に皆で王都を出発する。

 当然、二通目の手紙は遅れて届く。それが一昨日のはず。

 首だけで振り返って、アカネさんに尋ねる。


「一昨日ボヤ騒ぎがあった家は?」

「ええ、ありましたよ。ちゃんとね」


 答える声には戸惑いがない。そうなることを彼女は知っているからだ。


「たしかにちょっとした火事騒ぎはあったけどな。なにか関係あるのか?」

「昨日届くはずのオレの手紙だけど、開けると燃えるように魔法を付加してもらったんだ。当然そうなる」


 この手紙は自動的に消去される、ってヤツだな。こっちは読む前にだが。

 そのまま母さんが開けたらどうなるかという問題はあるが、それも考慮してアカネさんに先に滞在してもらったわけだ。


「でも、ただ燃えるくらいならすぐ消せるんじゃないの?」

「仕掛けの基部は国内最高峰の火系統魔法使いお手製だからな。出力が違う」


 フレイアとツテが戻ったおかげでこの辺は楽に済んだ。というか、オレだけなら魔石に魔力を込めて小型爆弾代わりにでもしていたかもしれない。逆にソッチのほうが被害が大きそうだ。


「身近に目や耳がいるのは別に気にしないし悪くない領地支配の手法だとは思うけどな。信書を覗き見られるのは流石に黙ってはいられないだろう」

「煩い! 俺様を誰だと」

「だーかーらー。身分がどうとかと別問題なんだよこれは。それに悪いが法士爵を貰った。オレ個人としてある程度の信頼と権利は保証されてる。あとこれも勘違いしているようだが、彼女はギルド職員だぞ」

「どうもはじめまして。お噂はハーシュエス姉弟からよーく伺っておりますよ?」


 アカネさんはニッコリと笑う。まあオレがした説明は事前の打ち合わせでくらいだが、姉さんからはそれは事細かに聞いているだろう。人生の転換点なわけだし。

 そういえばコイツって名乗ったことあったか? ないな。なら呼ぶ名前がわかるはずもない。


「そもそも魔法学院からの通知だってそうなんだが、ギルドからの手紙も明確な公文書だ。それを勝手に開けたとなれば次元の違う問題になるだろう。ですよね?」

「ええ。個人情報はもちろん機密が関わることもありますから、手紙の内容如何問わずかなり重い罪になりますね」


 だからこそ、二通目の手紙をブービートラップにしたのだ。誰が敵なのかを手っ取り早く知るために。

 さらに、例の一件から考えるとアカネさんはおそらく法務にも精通していると踏んでいた。やはり来てもらってよかった。

 さて、ここまではほぼ当初のシナリオ。

 しかしこの一件はオレが考えていたよりさらにとんでもないことになってしまったのだ。


「ついでに、この中ではオレしか知らない最悪な情報があってだな」

「あれ? 計画はこれだけだったはずでは?」


 そう。オレと姉さんとアカネさんとギルドマスターの四人で話していたときはそこまでだった。問題はその後起きた。


「いえ。ある人に話したら、それを聞いて面白がった第二王子のお墨付きをもらったんですよ、幸運なことに」


 懐から取り出した書状をアカネさんに手渡すと、速読したあと二度見をされた上「ヒエッ本物……」という悲鳴が聞こえた。しまった。また心労を与えてしまった。

 そこに書いてあることを要約するなら「任せるので好きにやってください」というところだ。


「こっちの手札はこれで全部だな。それじゃあ最大の勘違いを一つ訂正しておこうか。オレが帰ってきたのは報告のためじゃない」


 ここまで回りくどいことをしたんだからいい加減わかっていると思いたいところだけどな。

 やる事はいつもどおり。剣を抜き、魔力を込めるだけ。


「後顧の憂いを断つためだ」


 これだけ大挙して押しかけたんだ。正当防衛も追加されるだろう。


「……いやたぶんどう考えても過剰防衛になると思う」


 そんなセラの声が後ろから聞こえた気がしたが、気のせいだろうきっと。



 さあ、掃除と頭の挿げ替えを始めようか。

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