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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
(18・19)
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第六十三章 レヴの日

 アカネちゃんの一件の解決というか配慮というかなんというかの話はオレは立ち会せて貰えなかったのだが、これから一人ずつ順番に“なんでも言うことを聞く日を作る”ということに落ち着いたらしい。それでみんなもいいんだとか。

 ただし、「どうしても無理なら拒否してもいいけど?」というセラの笑顔には凄まじい威圧が含まれていた。拒否するなってことですねわかりました。

 クジによる一番手……いや二番手はレヴだった。まずはアカネちゃんとはできなかったリーフェットでのデート、というか。


「昔と比べると店の種類が増えた感じがするな」

「ユーリの教えてくれた料理をリーズが作ってたら、それを見た街のみんなが真似たからかな」

「それでか、なんか既視感があるの」


 屋台の食べ歩き。

 懐かしいな。転生前はよくやったものだ。

 これはこれで懐かしいしこれがレヴのやりたいことだというのも否定も疑いもしないが、本来やっているはずのことも忘れてはいけない。


「ゴメンな、レヴ。『旅をして世界を見に行く』って約束、当面は叶えられなさそうで」


 そのあたりはエルも同じか。

 どこかの黄門様じゃないにしても、諸国漫遊と洒落込むことは考えても「どうやって」とか『どういう状況』だとかは全然考えなかった。ほんとに、転生のことだけ考えて他は考えなしだったことばっかりだ。

 いつか世界が平和になれば気兼ねなくとも思うが、現実的にそんな日が来るかどうか。


「そうだね。でも、みんなでいるのも楽しいよ? それにこの前みたいに思いがけないものが見られることもあるもんね」

「ああ。あれは綺麗だったな」


 空から見た輝く世界。あの光景は心に焼き付いている。転生してもどこかまだ浮世離れていた感覚がしっかり地に足をついた瞬間でもある。

 ……飛んでたけど、とか言ったら台無しなんだが。


「あとね、ララが言ってた。人生も旅みたいなものだって」

「人生は旅か。昔の人もよく言ってたな」


 山道だとか、未知を既知に変えるだとか。喩えはいろいろあったしそれで正しかったかは定かじゃないが。

 加えて、この世界だと「生きてること自体が冒険」みたいな面もあるな。どこで魔物と出会うかわからないし。


「でもわたしは諦めてないよ。それに、ユーリと二人とかエルや精霊たちとも一緒なだけじゃなくてさ。みんなでどこかに行くのもいいよね、きっと」

「そうだな」


 仲間外れだとかそういうわけじゃないけど、みんな旅するのが嫌いってわけでもないだろうからそれもいいのか。結局、無色の羽根(カラーレス・フェザー)で夜営なんかもしてなかったもんな。むしろエルとリーズとそれぞれやったくらいか。

 キャンプみたいにはなりえないだろうけど、安全確保できるなら結構楽しいものになるかもな。


「いろんなところに行きたいね。でも、ユーリが言ってた“うちゅう”とかは難しいのかな?」

「あー、そこはなぁ。予想してたとおり魔法が使えないみたいだから、かなり難しそうだな」

「そっかー、残念」


 離陸や着陸はできたけど、大気圏離脱や再突入がどうなるかわからないからな。そこで事故を起こした事例も結構あったって記憶してる。

 この星もきっと青いんだろうけど、それを観測できるのはだいぶ先になるんだろう。あるいはリーズの魔道具ならそれを可能にしてくれるのかもしれないが。


「でも、限界高度へはもう一度行ってみてもいいかもな。レヴも迎えに来てくれたときにはそこまで行かなかったよな?」

「うん。けど、すごく昔に一度行ったような気はするかなぁ」


 マジか。オレが最初だと思ってたけど先駆者がいたのか。

 魔力も生命力も段違いのレヴなら、あのときのオレよりずっと高いところに行けただろうな。


「行った覚えはあるけど、あの頃はそういう感じじゃなかったからね。すごく苦しかったような記憶だけがあるし、下も見なかったから。今度は違うものが見られるかもね」

「そうか。ならもう一度行ってみようか」


 出会ったころのレヴの心理状態を考えるに、この星を出ていこうとしていたかあるいは自殺に近い心境だった可能性もある。その記憶を塗り替えられるのなら、やる価値は十二分にあるな。


「あ、ユーリ」


 何かを思いついたような声とともに手が伸びてきた。口の横を撫でられる感触がしたと思ったら、すぐに引っ込められた指をちろりと赤い舌がなめる。


「付いてたよ」

「ありがとう」


 初めてこうしたときも同じようなことがあったっけ。あのときは逆だったしハンカチで拭ったんだったか。


「恋人同士とかだとこうするんだよね。ちょっと恥ずかしいね」


 はにかむレヴを見ると、こっちも微笑ましい気持ちになる。

 今こうして笑ってくれているのなら、過去の自分のやったことが間違いじゃなかったんだって、そう思わせてももらえた。



 ところで。

 オレがユーリ・クアドリだった頃は、レヴってそんなに恋愛関係に明るかった感じはなかった。本来はドラゴンなので当然といえば当然だとは思うので、何気なく聞いてみたのだが、


「ユーリが転生してから、ネレとリーズが読んでた恋愛小説なんかを読ませてもらってたからね。最初は主人公の気持ちなんてよくわからなかったけど今は楽しく読めるよ」


 まさかの事実が判明した。

 いやまあ、「二人がそういう小説を読んで空想を膨らませるのが変だ」なんて脅されて命令されても言わないけど。そっか。あんまり印象ないけど二人ともそういうの読むのか。


「でも、わたしとユーリで子供ってできるのかな?」

「ん、ぐふっ」


 ジュースが気道に入るところだった。コントじゃないんだから狙ったようなタイミングはやめてほしい。成年指定の話は意識的に外してたのに。

 でも、この先にはそういうのもあるんだよな当然。母さんのこともそれを考えるに十分だし、「この世界の人間になる」なら血を繋いでいくこともその一つだ。

 なにより、茶化したりごまかしたりしちゃいけない話題だな。過程についてはやっぱりちょっと意識の外にぶん投げておくとして。


「リーズは『わからない』って言ってたけど、ユーリはどう思う?」

「どうなんだろうな。人と獣人と魔族とでいわゆる“人類”同士なら子供は生まれるわけだけど、こうしてる分にはレヴだってオレたちと変わらないわけだし、できるんじゃないか」


 夢もへったくれもない話としてだと胎生なのか卵生なのかってのもあるけど、それはほんとに夢の無い現実の思考すぎるので置いておこう。人化したレヴは生理現象も人と同じっぽいしそこも人と同じかな。あとは、産まれた子供が人になるのかドラゴンになるのか竜人になるのかか。どうなったとしてもそれがオレとレヴの子供……オレとレヴの子供かぁ。


「なのかな? 子供を産むってあんまり想像できないなぁ」

「産める側じゃないが、まあそこはオレもだ。その為ってわけじゃないけど、母さんのことがその助けになってくれるだろうな」

「そっか。そうだね」


 弟か妹かはわからないが、ある意味すごい環境に生まれてくるわけだな。ほぼ完全にオレのせいだけど。

 でも、みんな可愛がってくれるだろうから最高の環境か。魔法使い嫌いになったら最低最悪の環境ですけども。いやその時はネレがいるか。


「さてと、食べ歩きはもういいかな」

「了解」


 一日デートの定番だとテーマパークが主流だった。経験はないですけどね。

 テーマパークと言えば、遊園地水族館動物園。でもそのどれもこの世界にないんだよな。植物園は作れるだろうけど無い。事業としては採算が取れないのかな。

 図書館も首都くらいにしかないんだよな。そもそも性質や目的からするとデートするには人を選ぶけど。

 あとは映画とかか。観劇も割と高尚な趣味になるんだよなこの世界。舞台チケットやオーケストラとかライブは前の世界でも結構値が張るものではあったし、不思議でもないのか。


「他になにかやりたいことはあるか?」

「そうだなあ」


 レヴは少しだけ考え込むように空を見て顎に指を当てる。どんな無意識かたまにこういう“あざとポーズ”みたいなのが出るけど、妙に似合ってるしかわいいんだよな。レヴの特権って気がする。


「とりあえず、周りに人のいないところに行きたいかな」

「人のいな……どこか静かなところか?」

「そうじゃなくて、ユーリたちがクエストで行ってるところとか」


 頭お花畑が過ぎたか。でも、街の外とか行ってどうしようっていうんだろう?


「家に戻る途中のどこかでいいか?」

「あ、そうだね」


 街の外に出て、レヴを背負って走る。行きと同じだ。

 エクスプロズに向かう人はさほどいないので、人のいない場所はすぐに見つかる。念の為に結界領域に近づいておく。魔物もいないし、何かあれば身を隠せるように。


「ドラゴンの姿に戻るのか?」

「うーん、それもありかも」


 ふむ。さっそく空の上からこの星を眺めようっていうのかな。だとすると魔力結晶を用意しておいたほうがいいか。高空でも使えたから魔力ソースになるかもしれない。

 などと考えていたのだが。


「今回はいっか。ユーリ、あの木の破山剣出してくれない? ララ、近くにいるんだけどちょっと来てくれないかな?」


 うん? 破山剣とララ?


「そうだ。せっかくだからみんなも来てよ」


 みんなも?

 そりゃみんなで旅をって話はしたけど、それなら武器はいらないよな。

 まあともかく、言われたとおりに破山木剣は出すか。ほんとに何するんだろう?


「どうしたんですか、レヴ」

「まだ一日が終わるにはだいぶありますよ?」


 とりあえず来たのは最初に呼んだララと、言葉の割にどこかウキウキしたセラ。続けて残りのみんなも不思議そうな顔で追いついてくる。


「破山剣……木製の方ですけど、なにをするんですか?」

 レアが首を傾げているが、オレにもわからない。

 レヴはトコトコとオレに、というか破山木剣に歩み寄って掴む。軽く振り振り具合を確かめ、少々離れて、


「ユーリ。わたしと戦って」


 は?



「行くよー」


 破山木剣が掲げられ、勢いよく振り降ろされる。例によってというか、魔力破斬じみたものが容赦なく放たれた。

 反射的に空間圧縮を解除。取り出したのは木刀。頭上に振り被り魔法展開、刹薙。飛閃を剣閃で相殺する。


「いきなりなんだ!? 状況がわからん!」

「腕試しかな」


 答えと同時に突撃。斬りかかってくる。


「ぐっ……!」


 受け太刀した木刀が折れるかと思った。それ以上にオレの腕が。

 体格差から言って確実にレヴのほうが体重は軽いだろう。剣の重量を加味して同等か逆転するくらいか。だがそれ以上にドラゴンとしての膂力がはるかに勝る。武器強化と身体強化と防壁を重ねてなんとか耐えるが、膝下まで地面に埋まるのを幻視してしまう。実際、斬撃の余波もあるのだろうが地面にはクモの巣状にヒビが入っている。

 シムラクルムでのスタンピードのときに見たレヴの力。加減されてるだろうとはいえ受けてみるとこうなるのか。

 このやり取りに価値がないとは言わない。しかし、意義を見いだせきれてはいない。それでも、レヴがそれを望むのならオレは応えなきゃいけないんだろう。今日という日のことを除いても。


「わかった、やるか……本気にはなりきれないけどな」

「うん。ユーリならそうだってわかってる」


 鍔迫り合いから後ろ跳び。疑似精霊魔法エクスターナル・エレメントマジック土属性放射アースブラスト。向こうも本気でないとはいえ戦闘モードのレヴが放出している魔力のせいで制御は難しいし、制御できても出力が無駄に上がる。が、相手はドラゴン。防御を抜くには足りないどころの話じゃない。さらに破山木剣が一振りされるだけで土砂は彼方へ飛ばされる。

 まだだ。もう一発。今度は風で加速させる。風土混合放射アースストームブラスト


「ていっ!」


 破山木剣が勢いよく地面に突き立てられ、爆風を巻き起こしながら盾になる。それで放射ブラストを受け止めたと思ったら、柱を回るように影からレヴが飛び出してくる。ジャンプしながら強引に剣を引き抜き、近づかれてそのまま斬撃。

 エルブレイズ殿下もそうだが、このサイズの武器を軽々振り回されるとそれだけで脅威だ。それ以上に羨望や呆れも大きいが。ていうか殿下の膂力はどうなってんだ?

 防壁では足りない。なら完全停滞エアロフリーズ。しかし受け止められず、停滞した空気を叩き壊しながら剣が動く。レヴから放たれている魔力の干渉もあるな。破山木剣自体も周囲の魔力を蓄積するようにリーズが改良してくれているのもある。

 ここからできることは少ない。使うのはエルブレイズ殿下との剣戟で使い、ネレやセラやフレイアとの打ち合いで洗練を試みてきた受け流しの技法。強化はもちろん刀身に風を纏わせ防壁で軌跡を微妙にずらし完全停滞エアロフリーズで勢いを殺し、すべてを駆使して無理やりモノにする。同時に疑似精霊魔法エクスターナル・エレメントマジック土の玉(アースボール)を連射して牽制しつつ意識を散らさせる。


「さすがユーリ。でも」


 否定接続詞のとおり、打ち込まれても受け流されても気にせず剣を振ってくる。どころか魔法の吹き飛ばしと受け流されることを想定した大振りで、逸らすのも難しくなってきた。


「っ、てーい!」


 さらにそのまま遠心力でブン回しながらスピン。魔力斬を纏っているような竜巻に変わる。ならこっちは同威力の竜巻をぶつけるだけだ。

 期待通り、ぶつかった二つの竜巻は相殺される。


「はらひれほれ……」


 レヴが目を回しながら出てきたが、それも一瞬。ふらつく足を止めるためにまた破山木剣で地面を叩き、


「これが最後」


 レヴが大きく息を吸い込む。同時に魔力の収束。

 ブレス。その予備動作だ。こいつを受けるか、あるいは躱すか。いや、どちらにせよ受けるのは変わらないか。それにたぶん避けるべきじゃない。

 おそらくはこの世界で最強の火力であるドラゴン・ブレス。見せてもらったのは数度。手法からすれば収束した魔力の放出……のはずだが、魔力探知によれば放射ブラスト系統の魔法とは全く違う。コイツについてもどうやれば再現できるかずっと考えていた。アエテルナで使った大規模魔法もその一つだ。もっとも、あれで再現できたのは結果だけだが。

 木刀は投げ捨てるか空間収納に戻すか一瞬悩んだが、意識集中のために顔の横に突きの構えで固定する。


「……風の玉(ウィンドボール)


 身体の前に手のひら大の魔法を形成。さらに重ね合わせ、圧縮していく。

 足りない。この程度では届くはずがない。そんなこと不可能だとしても、物理的な制約を脱せるくらいでなければ。

 圧縮から連想され、魔力結晶の生成が頭に浮かぶ。即、術式転嫁。ただし結晶化してしまっては意味がない。あるいは砲弾として撃ち出すのならそれもいいのかもしれないが、今回はそういうのが目的じゃないし万が一にもレヴを傷つけたくない。

 目標限界まで圧縮しつつ、隠蔽解除、魔力放出。放出魔力をブーストで収束。

 バースト。

 射出のためのすべての魔法にバースト、バースト、バースト。

 ここまで来るとすべてまとめて単純な魔力の塊になりそうだが、それでも魔法として破綻させないように。


「行くよ、ユーリ!」

「来い、レヴ!」


 レヴが魔力を解放するのに一瞬遅れて、こっちも魔法を撃ち出す。


「う、ぐぅぅっ!」


 威力は同等まで高めたつもりだったが、それこそまさか。圧倒されるまでは行かないものの押し戻される。

 だがここで諦めてはレヴの思いを汲み取れない。いや正直その端っこでも触れられているとは思えないが、逃げるつもりもない。

 風属性回転放射トルネードブラスト。当然そんなもので足りるわけがない。必要なのは突風、竜巻、嵐。いっそのこと魔質進化してやる覚悟で魔力を込めて後押しする!



「あああああ!」

「おおおおお!」



 世界が世界であれば、これが次元の歪みでも作り出して新しい転移者を呼び込んでいたのかもしれない。しかしこの世界はそう不可思議な空間でもない。純粋に力押しで勝ったレヴのブレスがオレのもとに届き、


「ツッ!」


 反射的に防壁から完全停滞エアロフリーズから魔力放射までぶっ放して減衰することで、なんとか飛ばされるだけで済んだ。余力もほとんどなく、中途半端な受け身を取りながら地面をゴロゴロと転がる。

 最終的にうつ伏せに落ち着いたが、そこから最後に残った腕の力で仰向けになる。

 空が高い。ブレスと似非ブレスの余波で雲が吹き散らされでもしたか。


「……負けた負けた。ハハハハハ」


 笑ってしまった。

 何を思えばいいのかはわからないが、やりきった感だけはある。制約はあったにしてもここまで力を出したのはそれこそあのドラゴンモドキの一件以来かな。


「お疲れ様、ユーリ」


 近づいてきたレヴには一切疲れた様子はない。さすがだな。

 破山木剣が地面に突き立てられ、倒れ込むように抱きつかれる。


「ユーリはわたし一人に押し付けないようにって考えてくれてるけど、ユーリだって一人で抱え込まなくていいんだよ? わたしが解決できることならいくらでも力になるから」

「……うん」


 たった一人で眠るように在り続けていたレヴ。オレがそこから引きずり出して、感情を蘇らせた。たとえドラゴンが守護者や代理神の役目を持っていたのだとしても、今のレヴは一人の女の子だ。他のみんなと扱いを変えていいわけじゃない。そもそもそんな役割があるって言ってもないしな。


「ありがとな、レヴ」


 それと、ごめん。寂しさや悲しさを感じていただろうに、何も言わないでいてくれた。

 胸の上のレヴを抱きしめると、温かさが返ってくる。強い鼓動も。

 目を閉じてそれを噛み締めていたが、そばに気配を感じて目を開く。

 灰色の般若が二体いた。


「今日はレヴの日ですから笑って済まそうと思いましたが無理です! 二人ともいい加減にしなさい!」

「やりすぎだから! 地形変わってるから!」


 比喩表現ではなく泥をかぶって土色になったララとセラに怒られた。このあたりの手綱を握ってくれるのはありがたいな。


「精霊もみんな逃げちゃったよ」

「正直。逃げたかった。これがこの世の見納めかと。ゆりふぃあすこわい」


 エルは辺りを見回しつつ。ティアさんはビクビクした様子でやってくる。


「やっぱりユーくんはすごいね」

「はい。さすがユーリくんです……ね。あはは、は」


 姉さんとレアも。レアは最後のほうは困ったような笑顔になっていたが。


「ユーリさんらしいといえばらしいんですけど……らしいんでしょうか、これ」

「間違いなくユーリさんですね。もっとも、確実に転生前よりひどくなっていますけど」


 アカネちゃんは苦笑い。ネレは呆れの表情。


「やっぱり絶対ユーリには敵わないよねぇ。いや、本気出せばいける?」

「レヴさんのブレスと……同規模の魔法行使……ですか……それもふたりとも……本気ではないでしょうし……」


 フレイアとリーズはうんうんと唸っている。

 そして、全員が泥だらけ。なんでだ? と考えて答えはすぐに出た。

 泥は土と水。オレたちがばらまいた粉塵を水の盾(ウォーターウォール)多めで受けたからこうなってるのか。火系統だと焼成してとんでもないことになるから。オレ一人だとふっとばされたけど、みんなで協力すれば耐えられたってことかな。


「ユーリ君。責任取るの大好きなんだから取ってもらえるんだよね?」


 セラが詰め寄ってくる。大好きと言った覚えはないが、なんの責任を取れっていうんだろう。

 わからないが、言ったことの責任も取らなければならない。それができなくなったら終わりだし。


「言ったことは違えない。やれることはやる」

「だったら今すぐ温泉掘り当てて来いゃァァァ!」

「わぁっ!?」


 オレなりに真面目に答えたつもりだが、ブチギレたセラの魔力放射でレヴ諸共に盛大にふっ飛ばされたのだった。当たり前か。



「ユーリ。今日一日楽しかった?」


 昨日のアカネちゃんのように腕枕をしていたら、レヴが少し不安そうに聞いてきた。


「もちろん。レヴは?」

「わたしも。でも、ユーリを独り占めするのは少しみんなに悪い感じがしたかな」

「そっか。レヴは優しいな」


 独占欲が無いっていうのもあるんだろうけど、レヴにとってはみんなで一緒にいることが幸せなんだろう。頭を撫でると嬉しそうに微笑んでくれる。


「わたし、ララもエルもネレもリーズも好きだよ。フレイアもアカネもアイリスもレアもセラもユメもティアもミアも、ユーリやリーズのお父さんとお母さんもみんないい人だから好き。だから、みんなで幸せな方がいいな」

「うん」

「それでみんなが幸せなら、ユーリも幸せになれるよね」

「そうだな」


 人は己の為にのみ生きるにあらず、だったか。誰しも誰かに支えられているし、想われている。それは逆もまた言えることだ。


「だからわたしも……ユーリをいっぱい幸せに……するからね」


 微笑みがトロンとしていき、ややもたず規則的な呼吸が聞こえてきた。それに合わせて呼吸していると、いつの間にかオレも眠りについていた。



 ちなみに、温泉は掘り当てられませんでした。一発試しただけなんだけど。

 セラの怒りとは別でさっさと作りたくはあるんだけどな。環境はあるんだし。

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